とある姉愛の結界防御   作:我輩は猫ではない

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Opening

学園都市の夜は明るい。

 

とある学区の路地裏にて、一人の小太りの男が暗闇に紛れ込みガクガクと隅で震えていた。男の肌からは泉から湧き上がる水の様に大量の汗がドバッと溢れている。

 

 

「くっ…!はっ…!!畜生ッ!!!」

 

 

男は喉元に手を当てながら、途切れ途切れにぶつぶつと悪態を吐く

 

 

「くっそっ…!俺がっ…俺たちが一体なにをしたってんだよっ…!!畜生がっ…!!!」

 

 

男が吐く悪態は止まらない。今、男がずっと悪態を吐けといわれたら男は喜んで!と言いながらずっと悪態を吐き続けるだろう。そのくらい、男の瞳は増悪で染まっていた。

 

その時だった。男の耳にカツーンカツーンと足音が響き渡る。男はその足音を聞いた瞬間、ひっ!と小さな悲鳴を漏らし更に縮こまる。その足音は段々と男に迫って来ていた。後、少し…後、少し…後、少し…あと…

 

 

「よぉ。こんばんわ」

 

 

物陰から、足音の主がスッと姿を現した。現れた男はこの場に似合わない軽い陽気な声で縮こまっている男に片手を上げ、にっこりと微笑み挨拶をした。

 

男は恐る恐る顔を上げた。足音の主を見て男は目を見開き、更に恐怖した。

エンジ色のジャケットに赤色のベスト、肩口まで伸ばしたサラサラとした茶髪。にっこりと笑う整った顔は普通の女性が一目みたら即興ものだろう。まるで天使の様に美しい彼は、にっこりと笑いながら口を開けた

 

 

「ったく、豚みたいな体してる癖にちょこまか動きまわりやがって。豚は豚らしく黙って俺に家畜されとけっての」

 

 

 

彼は容姿のから想像出来ない言葉が言い放たれる。男はガタガタと震えている膝を無理矢立たせ、自分に残酷な言葉を言い放った天使に向き合う。このままでは自分は死んでしまう。男はそう悟ると懐から小型ナイフを取り出し、ふー!ふー!と顔を真っ赤にさせながら覚悟を決めた様にこの天使に向かって走り出した。

 

 

「ゔぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「へぇ、この俺にナイフを持って立ち向かう奴がいるとはねぇ」

 

 

男はぱちくりと瞬きをしながら、感心した様に呟いた。どんどんとナイフを持った男が近づく中、男はその場から動く気配すら感じられない。あと、数ミリで男にナイフが突き刺さろうとしていた

 

 

「アガッ…!!」

 

 

男は一瞬理解が出来なかった。あと少しで男のナイフはあの男の体を貫く筈だった。しかし、今の自分は男にナイフを突き刺すどころか視界が真っ赤に染まっている。

違う、視界が赤く染まっているのではない。自分の瞳から血が溢れ出て視界が真っ赤に染まっているのだ。ソレに気がついたと同時に、男の右目から今まで感じた事のない激しい痛みが男を襲う

 

 

「あ"ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「ちっ、うっせぇなぁ。デケェ声出すんじゃねぇよ。俺の耳が潰れるだろ。」

 

 

その場に動かなかった男は、鬱陶しそうにソレを見た。男はジタバタとその場で転げ回る。あまりの痛みに手でなにか掴もうとするもその手は空を切る

 

 

「あっ…!かっ…!!」

 

「おーおーおー、本当に豚みてぇに転げ回ってやがる」

 

 

男は愉快そうに転げ回っている男に近寄り、苦しそうに悶えている男の首元を容赦なく鷲掴む。

 

 

「あっ…!あっ…!!」

 

「さっきはよくもこの俺にナイフを突き出しやがったな。えぇ?生憎俺は優しくないんでねぇ…」

 

 

言葉を区切ると男はにっこりと笑った

 

 

「元の形も残らねぇくらいグチャグチャの愉快で最高な肉のオブジェにしてやるよっ!」

 

「あっ…!あぁっ!!ま、」

 

「死ね」

 

 

冷たく重い言葉が男にのしかかる。ソレは一瞬の出来事だった。男の体を六枚羽の美しい羽が貫く。男はくぐもった声を漏らした後、人形の様にぴくりとも動かなくなった。それでも男は止まらない。動かなくなった人形に向かって何度も何度もその美しい羽で男を潰す。ぐちゃぐちゃっと肉を潰す音が路地裏に響き渡る。男の頭の中は今や動かなくなったソレをひき肉にする事しかなかった。男は口を三日月の形にすると愉快に楽しそうに笑い声を上げながらソレを潰している

 

そして、その悲惨な光景を眺めていた少年がいた。

 

 

「…えげつな」

 

 

ビルの屋上からソレを眺めていた少年はボソッと呟く。

 

白い半袖カッターシャツ、黒のネクタイ。細いおかっぱの黒髪。白い花の髪飾り。一見、少女のような顔立ちをした少年だった。しかし、黒く輝くライフル銃が少年から異質は雰囲気を漂わせている

 

少年はしばらくあの惨劇を見ていたが、興味を失ったのか視線を下に戻しポッケから一つの写真を取り出した

 

 

「姉さん…」

 

 

さっきまでの無表情から一変、少年は写真の人物を見た瞬間、少年の白い頬が赤く染まりうっとりとまるで恋い焦がれるかのようにその写真の人物を眺めた。

 

 

「姉さん…姉さん…姉さん………」

 

 

少年は何度も何度も自分の最愛の人を呼び続けた。名前を呼ぶ度、少年の中のなにかが満たされる。まるで、水を求めている枯れた植物のように。少年は何度も呼び続けた

 

 

「…い。おいっ!」

 

 

キーーーンッ!!と少年の端末からノイズの交じった音が聞こえる。一瞬不快そうに眉を潜めたが、少年は写真を大事に大事にしまうと腰につけていた発信機に出た

 

 

「…はい、なんですか」

 

「はいなんですかじゃねぇ。遅せぇんだよ、おかっぱ。俺のコールには三回までに出ろっていつも言ってんだろ」

 

「ちっ…すいませんでした。イケメルヘン」

 

「お前、俺がいま最高に気分がよくって助かったな。数分前の俺だったらミンチにしてやったぞおい」

 

 

少年は屋上から男の様子を眺める。男の周りは肉と血が入り混じっており、もはやさっき自分が目を撃ち抜いた男はどこにもいなかった。男はじっとこちらを見つめながら発信機に向かって話している

 

 

「…終わったんですか」

 

「まぁな。そんな事よりもお前、俺がナイフで刺されそうになるギリギリに打ちやがって。俺に傷でもついたらどう責任とってくれんだ。あぁ?」

 

「…あんたが刺されるなんて、あり得ないだろ。学園都市第二位の超能力者の癖に」

 

 

男…学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』ーー垣根帝督はふっと微笑んだ

 

 

「煩せぇ、大体お前の任務はあのクソ豚を無力化する事だったろ。任務サボってんじゃねぇぞ」

 

「サボってない…結果的には無力化してあんたが殺した。別になんの問題もないだろ」

 

「……次はねぇぞ。滴」

 

 

滴…そう言われた少年は不快そうに眉を潜める

 

 

「名前で呼ばないで下さい。不快です。僕の名前を呼んでいいのは…」

 

「姉さんだけ、だろ。へいへい、相変わらずウチのスナイパーは気持ち悪いくらい重度なシスコンだな」

 

「シスコンじゃない…僕はただ姉さんが好き過ぎるだけです」

 

「それをシスコンっつーだよ。滴」

 

 

むっと少女のような綺麗な顔が歪む。垣根はそんな滴の反応を楽しんでいるかのように滴に向かってにっこりと笑う

 

 

「そんな事よりもさっさと降りてこい。帰んぞ」

 

「…了解」

 

「今の俺は特別気分がいいから、帰りにメシでも奢ってやんよ」

 

「じゃあ、地下に最近出来たハンバーグ屋で」

 

「半分払うのはお前だからな。言っとくが俺は男に貢ぐ趣味はねぇ」

 

「ケチか。ケチメルヘン」

 

「奢ってやんねぇぞ。おかっぱ」

 

 

 

垣根と滴はさっきまで起こっていた惨劇が嘘のように話し、その場を去って行った。

 

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