比企谷八幡
在籍校/仙泉学園
学年/2年
ポジション/投手
利き腕/右投げ右打ち
・仙泉学園2年エース
・アンダースローから繰り出される120キロ半ばの速球と、
カーブ、シンカーが持ち球
・戸塚と材木座とはリトルリーグからの付き合い
・ひねくれながらも高い分析力とちょっと屑なところを
鵜飼監督に「投手向き」と評される
・シニアリーグ時代、同学年のとあるピッチャーの控えで、
チームの中で浮かび上がるためにアンダーに転向
・戸塚のことになると周りが見えなくなり、キモくなる
・小学校の夢は「プロ野球選手」
※高校入学直後の事故は野球やる都合で無しにします。
愛の鞭。それは人の為を思って叱るための鞭にも関わらず、いつだって誤った使い方をされる不憫な鞭のことである。時に「あなたを思ってやっているのよ」と前置きされ、何をやっても許される為の免罪符になり、時に「アンタの為にやってる訳じゃないんだからねっ!」とラノベの主人公に振るわれる理不尽な暴力を「ご褒美」と好意的に解釈するための言い訳となる。昨今暴力ヒロインに対する風当たりが強くなっているが、暴力ヒロインが悪であるかといえばそうではないだろう。一昔前までは確かに流行っていたからだ。今では昔ほど流行らなくなったが、それを嫌われていることと同じにするべきではない。多様性を認めるべきだ。暴力ヒロインにも、非暴力ヒロインにも、主人公にそっぽを向かれて曇る暴力ヒロインにも良さはあるのだ。みんな違って、みんないい。
つまり何が言いたいかというと、愛の鞭に込められる愛は美少女のものであって欲しいということだ。
「比企谷、球は走ってたがボールが高いで。いつものように体を動かせば勝手にボールはストライクになるんや、小手先で制球しようとしても上手くイカンで?甘く入ったら持って行かれるんや。もっと注意払って投げんかい」
「…うす」
「八木、お前もストレート放らせすぎや。相手がストレート狙ってたの見え見えだったやないか。なのにポンポン放らせるから粘られとるんや、もっとうまいことやらなアカンで。それに……」
「はい!」
1番打者を打ち取り、そのまま2番打者をレフトフライ、3番打者をセカンドフライに抑えると、審判のコールとともにベンチに守備側の選手が戻っていく。
初回を三者凡退に抑えた俺がベンチに戻って最初に出迎えたのは、顎に手をやり、いつもの姿で立つ監督のボヤきだった。どうして監督は美少女ではないのだろう。監督が可愛い女の子、もしくは美女だったら良かったのに。生搾り(物理)のオレンジジュースをご馳走してくれればなお良し。ふと思ったが、平塚先生がユニフォーム着たら似合いそうだなあ。野球が好きな誰かが早く貰ってくれたらいいのに。
一方の薬師高校側のベンチでは一人の男の雄叫び・・・もとい野良犬の鳴き声が、周りを賑やかにさせていた。
「スゲェ・・・スゲェ、スゲェ!下から浮き上がってくるみたいに!打ってみたい、あの球ぶっ飛ばしたい!え~っと、比・・・比・・・?、・・・ひ?」
薬師高校、サードの轟雷市は野球に飢えていた。小、中とリトルリーグ、シニアリーグにも野球部にも在籍していなかった。そんな彼は今日の試合のスタメンを望んでいたのだが──、
「おい雷市・・・、今日はお前の出番は無いっていっただろうが!ガッツくな!それに敵さんのPの名前も読めねぇのか、あいつは比・・・、なんだっけ?」
「テメェも読めてねぇじゃねーか!」
「うるせ!読めねえもんは読めねえんだからしょーがねえだろ!?ミッシーマぁ、コレなんて読むんだ?」
「自分に振らないでくださいよ!」
「“ヒキタニ”じゃないですか?多分」
「ヒキタニ・・・、ヒキタニか!覚えた!さすがアッキー!」
「頭いいなぁ秋葉!ミッシーマも見習っとけよ!」
「その呼び方やめr・・・やめてください!」
今現在ベンチの肥やしとなっている野良球児、轟雷市とミッシーマこと三島優太、アッキーこと秋葉一真。この3人とも一年でありながら、非凡な実力を持った薬師高校の打線の核なのだが、今日の試合に出る予定はなかった。なにせ今日の練習試合の相手は、今年の夏の予選で順当に勝ち上がってくると予想されるベスト8常連の強豪、仙泉学園だからだ。
薬師高校監督の轟雷蔵は同じ西東京地区のライバルの一校に情報を見せるつもりはなく、そのために3人をベンチに置いたのだが彼ら、特に雷蔵の愛する息子である雷市が何かとやかましく、ついには親子で掴み合いながら、言いたいことを言い合っていた。
「俺も試合に出せクソ親父ー!!」
「うるせぇ!お前はベンチ!ベンチと言ったらベンチだ!」
「出せ!」
「ベンチ!」
「出せ!!」
「ベンチ!!」
カオスと化した薬師ベンチ。そこには比企谷八幡の名前の正しい読みを言い当てられるものは居なかったのである・・・。
──1回オモテ ノーアウト 仙泉学園の攻撃 一番セカンド 戸塚
「お願いします!」
左のバッターボックスに入る前に一礼する姿はまるで球場に降り立った天使のようであるが、戸塚の目は天使に似つかわしくない確かな闘志が秘められており、やはり戸塚は一人の男子なのだと改めて思わされる。そんな戸塚に胸がキュンとなる。この心から湧き上がる感情や胸の高鳴りも全部乾巧ってやつの仕業なんだ。
向こうのピッチャーは真田と言うらしい。その風貌は球児らしいワイルドさと球児らしからぬさわやかさが共存している、イケメン的なアトモスフィアを感じる選手である。
ワインドアップからフォームに入り、真田が天使・・・もとい戸塚に向かって第1球、真ん中低めのストレート。それを戸塚が弾き返すも右に切れてファール。これには驚いた。1番に抜擢されるほどのミート力を持つ戸塚だが、それよりも球威の方が勝るようだ。球速も目測で140キロ出てるのではと思うほど速い。そして続く第2球。そのボールはインコース厳しめ、体に当たりそうになるボールを身をよじってかわす戸塚。その反応を上回ってボールが手元でスライド方向に動き、エルボーガードの上に当たった。
「デッドボール!」
「戸塚っ!」
いきなりのデッドボールである。戸塚にデッドボールである。カットボールが戸塚にデッドボールである。そこはせめて材木座に当てるべきだろう(屑)。なぜよりにもよって戸塚に当てるんだ!ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎ーッ!
「だいじょーぶだよ、八幡!」
そんな俺の心の叫びなど露知らず、エルボーガードを付けてるから平気だという表情でで戸塚は1塁に向かい、2番ショートの大沼先輩が送りバント。得点圏に進めたものの、後が続かず。無得点でこの回の攻撃を終えた。
──2回オモテ 1アウト 薬師高校の攻撃 5番ピッチャー 真田
先頭打者を打ち取り対するは、よりにもよってラブリーマイエンジェルである戸塚に死球をかましたこの男、打ち取る以外の選択肢を俺は持たなかった。1球目にインハイのボールでのけ反らせ、2球目も同じコースでのけ反らせる。そして3球目は外にカーブのサインが出る。が、これに首を振る。外の直球にも首を振る。
(さっき打ち取る以外の選択肢はないといったな。あれは嘘だ。3球目も4球目もインハイだ。このイケメンは最悪フォアボールでもデッドボールでも構わん!構えろ八木!)
(フハハハハ!やってしまえ八幡!我は全力でお前を支持する!)
(あぁ、こいつら戸塚のことになるとすぐコレだ・・・。)
キャッチャーの八木はチラッとベンチの監督の表情を伺う。監督は首を振りノーのサイン。戸塚が絡むと暴走する。そんな俺のブレーキ役を任されて1年の苦労人メガネは俺の独断を許してくれないらしい。しぶしぶとサインに従いストレートを投じる。
「ッ!」
アウトロー一杯の会心のボール。それを真田は逆らわずに打ち返す。カキィン!と金属バットが鳴り、右中間を深々と破っていき、2ベース。
得点圏にランナーを許したものの、次の打者、6番三野はファーストゴロ。の、はずだったのだが──、
「ぬおおっ!──ノオオオオオオオオオオオ!!」
スルッという音が聞こえた気がした。そんなお手本のような材木座の股を抜くタイムリーエラーで先制を許す。
(嫌あああああああああああ!!!)
仙0─1薬
そのあと後続を断ったが先制点は薬師高校。戸塚の死球で我を忘れてツーベースを打たれ、当てるなら材木座にしろと呪えばタイムリーエラー。野球の神様はよく見てるなぁ(白目)。
ベンチに帰れば待っているのはいつもの監督の愛の鞭という名のボヤキ。
「お前はいつになったら戸塚絡みもことで冷静になれるんや?だいたいデッドボールなんてよくあることなんやからいちいち気にすることあらへんで。2ベース打たれたボール思い出してみい、コースはともかく腕振れとらんかったで・・・なんやねんホンマ」
「うす……」
「お前もよくもまああんな絵にかいたようなエラーができるなあ、お前も戸塚が絡むと周りが見えなくなるのいつ治るんや。打撃は買ってるのに守備がド下手糞だと使えるもんも使えんわ!だいたい……」
「ぶぶ……、ぶふひ……」
この回の攻撃が終わるまで、いつまでも続きそうなボヤキを聞きながら俺は思う。
やはり愛の鞭に込められる愛は美少女のものであって欲しい、と。
仙泉 薬師
4 戸塚 4 福田
6 大沼 9 山内
5 先輩A 6 小林
7 先輩B 8 大田
9 先輩C 1 真田
8 先輩D 3 三野
3 材木座 2 渡辺
2 八木 7 平畠
1 比企谷 5 米原
オーダーはこんな感じ。名前は分かる人だけ書きました。
雷市たちはベンチ。
ポジションを埋めるために平畠と米原は無理やりコンバート。