材木座義輝
在籍校/仙泉学園
学年/2年
ポジション/一塁手
利き腕/右投げ右打ち
・仙泉学園の一塁手
・長打力がウリ
・守備が下手でレギュラーと控えの間を
行ったり来たりしている。
・バッティングや守備の際に技名を叫ぶ。うるさい
・八幡らとはリトルリーグからの付き合い
・苦手なものは鵜飼監督と守備と得点圏でのバッティング
(ウソだろ……、逆方向のライナーで!?)
(我よりも飛ばしただとぅ……!?)
ここまで八幡をリードしてきた八木、後ろを守る材木座らを含め、仙泉学園ナインはその打球に、スタンドまで打球を飛ばした轟に驚愕していた。打球を逆方向に、ライナーの低い弾道ででスタンドまで届かせる。それはプロの打者でも至難の業であり、ましてや高校野球においてそれができる打者がどれだけ少ないか──。
「雷市ぃ~!ナイバッチ!」
「やりやがったなコノヤロォ!」
「カハハハハ!続けよアッキー!」
「しゃあ!」
「今の見たか?スゲエ距離飛んだぜ!?あれウチの息子なんだよ、自慢の息子~♪」
「一番うれしそうですね……」
そんなバッティングを轟雷市は見せたのだ。まさに怪物。モノが違う。次元が違う。
そして打たれた投手は動揺する。心の揺らぎが、そのあとの投球に響く。ズルズルいくか、踏みとどまるか、ここが正念場だ。
(さーて、今のでポッキリ折れてたらもうけもんだが。──ん?)
轟雷蔵は打たれた投手、比企谷八幡の顔色を伺う。焦りか、苛立ちか。表情から心の変化を確認する。
「ふー……」
マウンド上の比企谷八幡は目を細め、深く呼吸をするだけ。動揺しているのかしていないのか、判断材料が足りない。表情が読み取れないのは雷蔵だけではない。八幡の後ろを守る仙泉の選手達にも読み取れない。
彼が何を考えているか分からない。そう思っている選手は少なくない。ただ黙ってひたすらに練習する姿勢や実力は知っていても、それだけ。周りと積極的にコミュニケーションをとらなければ、自然とそうなってしまう。特に学年の違う3年生にその傾向がみられた。彼らは比企谷八幡という自チームの大黒柱エースを心のどこかで信頼しきれていない。そこが仙泉というチームの最大の課題である。
(アクシデントで止む無く出した秘密兵器……。逆方向へホームラン、珍しいもんをみせてもらったわ。普通なら心折られるやろうが、比企谷はいい意味でも悪い意味でも、普通とは程遠いで?)
(ホームランは打たれたけど1点リードしてるし、所詮練習試合。……まあ、問題ないだろ)
(八幡なら大丈夫。大事なのは僕ら野手が八幡を盛り立てること……)
(ムフフフフ、いざというときは戸塚氏の所へ打たせれば問題なぁし!……だからこっちに打たすでないぞ八幡んんんんん!!)
そんな彼にも理解者はいる。彼を見出した鵜飼、1年間この捻くれた投手と組み続けた八木、昔からのチームメイトの戸塚は、彼の心配をしていなかった。……約1名、自分のことで一杯で、他に余裕が回らないのがいるが。
──7回オモテ 2アウト 薬師高校の攻撃 5番レフト 秋葉
「プレイ!」
「しゃあ、来い!」
「……」
轟に打たれたホームラン。あんな完璧に打たれて動揺しないピッチャーなんているわけがない。俺もその例に漏れず、結構引きずっていた。
しかし、今は目の前の打者を打ち取ることが先である。八木のサインに頷き、インコース低めにストレートを投じ、ストライクを取る。続けて2球目にシンカー、大きく外に外れボール。3球目もシンカー、2球目よりはゾーンに寄ったがボール。これで2ボール1ストライク。バッティングカウントである。5回から途中出場した3人は警戒しなければならない打者と見ていいだろう。甘く入ったら持って行かれる。次に八木が要求したのはインコースの直球。インコースでカウントを稼いで外で打ち取りたい。そんな八木のリードに頷き4球目を投げる。それに打者が対応して振ってくる。
バットから放たれた打球は、俺の体目掛けて1直線に向かってくる。とっさに出したグラブに当たり、ボールが前に転がる。俺はそのボールを右手で掴んで投げ、打ち取る。
「アウト!3アウト、チェンジ!」
「しゃああ!3アウト!」
「比企谷、ナイス反応!」
「モ、モハハハハ!褒めて遣わすぞ八幡!!」
「八幡、手は大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。後ろにいる戸塚を守るためなら例え折れても全回復するまである」
「ブレないな……。比企谷」
仙泉の選手がベンチに引き揚げ、4番から始まる7回ウラの攻撃。先頭打者のセンター前ヒットと送りバント、レフト前ヒットで1アウト1塁3塁のチャンスを作る。しかし、続く材木座がピッチャーゴロの併殺打で攻撃を終える。相変わらずチャンスに弱いな……。パワプロならチャンス2が間違いなく付く。ついでにエラー持ちである。よわい(確信)。
8回オモテは6番三野を三振。7番渡辺にショートのグラブを弾く内野安打を打たれるも8番平畠をカーブで三振、9番米原を内角の直球で見逃し三振に打ち取り、攻撃を終える。
8回ウラ攻撃では、2アウトから戸塚がライトへヒットを放つが、後続を打ち取られ、1点リードのまま最終回を迎える。
9回オモテの守備。先頭打者の福田がセカンド頭上を越えるヒット。2番山内をセンターフライに打ち取り1アウト。次は、前の打席2ベースを打った3番の三島の打席。ここで薬師が仕掛けてきたのはヒットエンドラン。打球は1,2塁間。材木座が反応して横っ飛びするもボールを弾くが、戸塚が素早くバックアップして1塁はアウト。得点圏にランナーを置き、再び轟を迎えることになる。
──9回オモテ 2アウト 薬師高校の攻撃 4番サード 轟
「カハハハハハハハ!ぶっ飛ばーす!!」
「いったれ雷市ー!」
「八幡、2アウト!」
「バッター集中な、比企谷!」
前の打席を全く同じ状況で轟がバッターボックスに入る。2アウト2塁と、1塁は空いている。しかし、練習試合ということもあって監督は勝負にいっていいと指示を出した。有難かった。まだ俺の頭には、さっき打たれたホームランがちらついているが、この打者をどう打ち取ればいいのかを試したい、とも思っていた。
轟はさっきのように大声で笑いながら、スイングの軌道を確認する。
逆方向のホームランはそうそう打てるものじゃない。あのホームランをを実現させるために必要なのは、両脇をあけず、体にまきつけたままスイングするインサイドアウト・スイング。そしてボールをギリギリまで引き付けて打てるほどの驚異的なスイングスピード。それらを身に着けるために奴はバットを振り続けたのだろう。
さっきの対戦だけでも、ハッキリと分かったこと。それは、轟雷市がプロの器を持っているということである。──では、比企谷八幡は?
「プレイ!」
「カハハハ!」
「……」
審判のコールの後、俺は八木の出したサインに首を振る。1度、2度と首を振った後に出されたサインに頷き、セットポジションに入る。そして──、
「カハ……、?」
プレートを外し、2塁に牽制した。
──俺にはプロの器は無い。そうハッキリと否定されたのはシニアリーグ時代。チームに入って数日後に行った紅白戦だ。俺と材木座は控え組、戸塚はレギュラー組に分かれて、結果は惨敗。敗因は俺が滅多打ちを食らったことだ。その試合後に言われた言葉は、昨日のように思い出せる。
『どんな気分?自分がボコボコに打たれてチームが負けるのって。死にたくなる?みっともなくて』
そう言ったのはシニア時代のエース投手。どんな意図があったのかなんて今となっては分からないが、あの時は彼我の才能の差を見せつけられて、子供の頃から『プロ野球選手になること』を夢見ていた自分が滑稽に見えた。本気で野球を止めようと思った。
それでも、励ましてくれる家族がいた。見てくれる人がいた。支えてくれる存在があった。
『何があったかしんないけどさ、いまさら野球を止めるなんてひねくれた性格が直るのと同じぐらいありえないじゃん。でも、小町はそういうお兄ちゃん結構好きだよ。あっ、これ小町的にポイント高い!』
『ワシは仙泉学園で監督しとる鵜飼いうんやが……。お前、ウチに来る気ないか?』
『あんたの妹から聞いたけど、推薦とれたんだって?……あのさ、応援……してる、から。いや、あんたが本気だったのは知ってるから。──ずっと見てたし。あっ、いやっ、い、今のナシ!忘れて!そんな、あんたのことなんて、み、見てないから!』
だから俺は、夢を本物にするために──、
「ボール!」
牽制を1回2回、3回と続けて、クイックモーションからようやく投じた1球目は外に外れてボール。セットポジションに入ってからまた牽制を挟み、投げると思えばサインが合わずプレートを外す。
「早く投げろー!」
「ピッチャーびびってんぞ!」
「八幡、2アウト!」
「ぬぅぅぅん……、まだ投げぬのか八幡……」
投球の間が極端に空くようになり、向こうのベンチから野次が飛び始める。だが戸塚のエンジェルボイスで耳が幸せな俺にとってこれぐらいは余裕で聞き流すことができる。材木座の集中がなんだか切れかかっている気がするが、今は置いておく。
正直、姑息で陰険な手である。審判の心象だって悪くなるし、これで負けたら最高に情けない。それでも牽制、また牽制、と打者を焦らしていく。
「カハ……」
「いつまでやってんだ!早く投げろー!」
いつまでって言われたら、そりゃあれだ、
人間はいつまでも集中が続くようには出来ていない。何もしなくても、もって1,2時間が限界である。さらに、邪魔をしたり、誘惑したり、外的要因で集中を乱すこともできる。
「ファール!」
審判から注意されるかされないか、ギリギリのタイミングで投じた2球目はボール1個外したボール球。轟がそれに食いついてファール。さらに牽制を挟んで、3球目。投げたのはインコースの厳しいボール。それに反応してバットを振り、ファール。
「……」
轟雷市は高校に入って野球を始めたばかりである。そんな彼が超高校級のスイングを手に入れたのは、160キロのストレートや様々な変化球など、自分の頭の中で作り上げた想像の大投手相手に毎日休むことなくバットを振り続けてきた結果である。
そんな彼は、ボール攻めや執拗に牽制繰り返す、捻くれに捻くれた投手相手に戸惑っていた。実戦経験の無さからか、早く打ちたいと打ち気に逸り、カウントを悪くして、追い込まれてしまっていた。
マウンドの投手は相変わらずランナーを警戒して、ボールを長く持つ。まだかまだか、と待ってもなかなか来ない。ようやくサインに頷いてセットポジションに入る。雷市はようやく来るのか、とバットを構えた。そう、いつだって野球を楽しんでいた彼が、初めて余計な感情を挟んでしまった。だから──、
「ットライーク、バッターアウト!試合終了!」
一瞬だけ反応が遅れ、内角のストレートを見逃してしまった。そして、試合は終わり──、
──練習試合の後、俺はアイシングをして、昼食をとった後に2試合目の試合を見学していた。2試合目に投げるのは控えの日野先輩。試合を見学している俺に監督はボヤいてくる。
「比企谷、お前は天才やな。人をイラつかせる天才。向こうのチーム完全に敵に回して……、あれで打たれたら最高にカッコ悪いで!結果抑えたけど……、最後のボールも速くクイックしようと意識行き過ぎてボール浮いてたで?」
「うす……」
勝ってもボヤキ、負けてもボヤキ、この人がボヤかない所を俺が見たことはない。けどこのボヤキが結構的を得ていて、考えさせられることが多い。だけど長い、長いのである。第2試合も最終回に入っているのにずっとこの調子だ。
しばらくして、ようやく第2試合が終わり、ボヤキから解放された八幡を見て、鵜飼はため息をつき──、
(……さっきはああ言うたが、人の嫌がる投球ができるってのも投手に必要な資質や。そういった投球のあれこれを考える頭を持っとる奴だからワシはこいつをスカウトしたんやけどな……)
誰にも聞こえないような小さい声で、彼を評価するのであった。
あっさりダイジェストで9回まで終わり。
唐突に回想。
シニア時代のエース……、一体誰久光聖なんだ……
回想にチラッと女キャラを挟みお茶を濁す。
雷市は犠牲になったのだ……八幡TUEEEの犠牲にな……
終わってみれば9回完投失点3自責点2。つよい(確信)
読み返して思ったこと→あれ、これヒロイン監督じゃね…?
やっと川なんとかさんの話に入れる……。