第六話、お届けします。
「「氷の精霊、1001頭。集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手!連弾!氷の1001矢!!」」
二人の呪文詠唱とともに放たれる1001本の氷の光線の軌道をそれぞれが頭の中で思い描く。一人は上空で動く光線に意識を向けながら向かってくる矢を避け続け、もう一人はひたすらに相手を狙う軌道を思い描いていく。
これはいつもの修行風景である。エヴァさんの決めた無茶苦茶な修行のひとつ。
俺は1001本の矢を使いさまざまなものを描く。高速で移動する矢をひたすらに操っていく。集中力のいるこの作業にエヴァさんの魔法を避け続けるという行為が合わさると、とんでもない難易度になる。
最初は氷の矢が出せなかった。
次に維持ができなかった。
今度は軌道が描けなかった。
最後に攻撃が避けれなかった。
簡単に四つに分けた関門を一つ一つ突破していく。
矢を出すイメージを反復し、
その形を記憶して、
思いのままにそれを動かし、
無意識に、意識的に攻撃を避ける。
気づけばこの日課が楽しくなり、時間を気にすることなくハマっていった。
その結果がこれである。
「よし、こんなものだろう。ノックス、今日は終わりだ。」
「わかった。」
エヴァさんの終了宣言とともにエヴァさんの氷の矢に自分の氷の矢をぶつけて相殺していく。
全ての矢がぶつかりハラハラと氷の結晶が舞い散る中、エヴァさんは満足そうに笑った。
いつもいつも思わされるが、今回の頭の片隅で考える。
魔法使いってこんなに厳しいの?
第六話【試験はとても厳しい。】
「よくやったじゃないか、初成功だ。」
「生まれてからずっとやっての初成功だがな。それでもうれしいよ、ありがとう。」
実はあの終了宣言が一番難しい。俺のは普通サイズの矢で行ってるが、エヴァさんの矢はまるで暗器の千本のように細いのだ。
そのせいで最近は何度か終了宣言までこぎつけることはできたが、最後の相殺ができなくてひどい思いをした。
「さて、私はもう出るぞ。また学校なんぞにいかんといけんからな。」
「どうせ屋上でサボるんだろう?高畑さんが困ってたぞ。」
「フン、タカミチなぞ困らしておけばいい。全く、この呪いさえなければ・・・。」
そんなことをつぶやきながらテーブルに頭を乗せるエヴァさん。そんな光景ももう慣れたものだ。そんなエヴァさんの目の前にトーストとハムエッグが乗った皿が置かれる。
「食事の用意ができました、マスター、ノックスさん。」
「茶々丸、ご苦労。」
「ありがとう、茶々丸。」
そこにいたのは緑のロングの髪に耳のアンテナがチャームポイントの割烹着姿の少女・・・型のロボットだ。
「さて、時間もないしいただくとしよう。」
「「「いただきます」」」
三人で手を合わせて合唱。これが最近の我が家の始まりである。
茶々丸が来てから料理のレパートリーが増えて本当に感謝している。
エヴァさんはともかく俺は焼くしか出来ないからな。
「ところでノックス。試験勉強はどうなっている?」
「ぐっ・・・つ、次は問題なくいけるはずだ・・・たぶん。」
いったい何の話かというと、これは俺の教員免許の話である。
今年で25歳になる俺は、今回で三度目の受験である。
といってもすでに一次試験は終わっており、現在二次試験の勉強中である。
一次試験は前回もどうにかなったが、二次試験でミスが多く不採用だった。
あの絶望感は何とも言えないな。
「今までのノックスさんの能力であれば、一次試験は難しいものではないでしょう。問題は二次試験です。能力的に問題はなくとも、前回のように慌ててしまえば結果は不合格になってしまうかと・・・。」
「つまり、また一年ヒモ生活になるわけだな。」
「うぐぅ・・・!!た、頼む。それ以上はやめてくれ。」
恥ずかしいやら悔しいやらで悶えている俺をニヤニヤしながら見ているエヴァさんと瞳の奥がカシャカシャいってる茶々丸。あぁ、初めて会った頃はまだ純粋だったのにエヴァさんのせいで茶々丸がドSだ。
「それじゃあそろそろ行くぞ。勉強頑張れ。」
「いってきます、ノックスさん。」
「あぁ、気を付けて行ってきてくれ。」
学校に行く二人を見送って部屋で勉強を始める。積み重ねこそが大事だということは昔から知っているのでこういう作業は苦ではない。試験の過去問を解き明かしていく。
そんなことをして3時間ぐらいたっただろうか。机に置いていた携帯電話が鳴り出す。相手は・・・高畑さんだ。
「はいもしもし、ノックスです。」
『やぁ、久しぶりだねノックス。元気にしているかい?』
「まぁなんとか。今は二次試験に向けて勉強してるよ。」
『それはすまない。タイミングが悪かったかな。』
「いや、ちょうど休憩しようと思ってたところだ。」
高畑さんは教師をしながら悠久の風という魔法使いの組織で働いている。麻帆良に帰って来ているときは勉強を教わっているのだが、いつ戻るかわからないことが多いため戻るときは電話をもらえないかとお願いしていた。つまり・・・。
「もう麻帆良についたのか?」
『いや、明日の夕方には着く予定かな。試験、明日だろう?応援してるよ。』
「ありがとう、次こそは成功させてみせるよ。」
そのあと他愛のない話をして電話を切り勉強に戻る。
時折昔のクラスメイトからメールが届き、さまざまな激昂をいただいた。
応援してくれている人のためにも次で必ず合格しよう。
そんな意気込みを胸に、明日に向けての準備を始めた。
「忘れ物はないな、ペンは?消しゴムはもったか?財布、ハンカチ、受験票も忘れてないな?」
「大丈夫だよエヴァさん。そんなに心配しなくても、今回は受かる自信があるから。」
「マタ落チテモ気ニスンナヨ。俺ガ慰メテヤッカラ。」
「うるさい茶々ゼロ。呪い人形は俺の合格で祝う準備でもしててくれ。」
「あぁ、お気をつけてくださいノックスさん。占いでは最下位でしたので。」
「今日に限って階段から落ちたり、塩と砂糖を間違えたり、水をこぼして濡れた床で滑った茶々丸の運勢のほうが心配だよ。」
なぜかオロオロと慌てるエヴァさん。
すでにバッドな結末を思い描く茶々ゼロ。
ロボットなのに軸がぶれている茶々丸
受験者よりも慌てている家族の姿を見て緊張感がなくなっていく。
それとともに、この心配性たちを見返してやりたいと思う気持ちが高ぶってきた。
「それじゃ、そろそろ行ってくる。」
「あぁ、頑張ってこい。」
エヴァさんたちの応援を背に俺は戦場へと向かう。
今度こそ受かるんだ、絶対に!
待ってるがいい、教員免許よ!!
終わりました。第六話でした。
次が終わった辺りから原作へと突入していきます。
そうすれば子供先生の登場です。あぁ、楽しみですね。
それでは、ご意見、ご指摘、ご感想、お待ちしております。
1000本の矢→1001本の矢
変更しました。
ご指摘いただいた方、ありがとうございます。
ノックス
24歳、自由業(学校の警備など)ここ数年でガラスハートが粉々になった。
エヴァ
みんなのお姉さん。弟のことが心配。内心で一番ノックスを応援している。
茶々ゼロ
祝い人形。正直面白ければいいのでノックスの結果はどうでもいい。
茶々丸
今回初登場。なぜか自然と無意識ドSキャラになったロボ娘。
高畑さん
すでにおじ様。ノックスの家庭教師。よく二人で勉強している。でもヒロインにはなれない。