東方覚深記   作:大豆御飯

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初めまして、大豆御飯と申します。
全編シリアスだけです。日常要素とか本当にありません。
後、流血描写があります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
なんでもよろし、という方はどうかよろしくお願いします。
書いててなんですが、結構難しいというか。
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 幻想郷。
 日本の中に存在しながら、しかし世の中から離反され、現代に生けるものの意識から消えていった幻の郷。それでも、その郷は確かに存在し、忘れられた今でも生を紡ぐ者達はそこに存在する。
 だが、その中枢を担うのは人ではない。
 それを担うのは数多もの魑魅魍魎、すなわち妖怪なのだ。小さな郷の中、古今東西の様々な妖怪が、己の生を何十年何百年と紡いでいる。
 また、妖怪を基準にした社会は、人を基準にした社会とは、鏡を置いたように表裏一体である。常識と非常識は入れ替わり、それでなお統率された社会構造。何人たりとも異を唱えず、それなりに許容して生きている。
 ある妖怪の賢者は、この幻想郷をこう言った。

「この幻想郷は全てを受け入れる」

 それは、幻想郷を形容するには最も端的でありながら、実に的確であった。パワーバランスは均等に保たれ、互いに攻めることも無く、ただただ平和が広がっている。
 そこは、万人が現実に甘んずることが出来る、正真正銘の理想郷なのだ。
 それは同時に、絶対的な安心を齎す場所、という残酷な思い込みを抱かせてしまう。
 時として、その思い込みは、生きてきた道をも壊しかねない、無慈悲なものとなる。



序章 ある初夏の変わり事
第一話 その訪問は突然で


 外の世界と、陸続きの幻想郷の間には、二つの世界を分かつ結界が存在する。とは言うものの、結局は陸続きであることに変わりはなく、その間には境界がある。そして、その境界に建っているのが博麗神社である。この博麗神社だけは幻想郷の外と中の両方に存在するのだ。

 しかし、神社と言っているものの、一体どんな神様を祀っているのかを知っている者は居らず、山奥に建っており、更には何故か妖怪が毎日のように訪れている為に、人間の参拝客は殆どと言って良い程居ない。そんな訳で、ある問題が起こってしまう。

 

「……今日も……入っていない、か……」

 

 博麗神社に住む巫女、博麗霊夢は、身に纏う服とは正反対の、暗くどんよりとしたテンションで賽銭箱の中を見ている。

 月が始まって今日で四日。その四日間連続で一銭たりとも賽銭が入っていないのだ。とは言え、こんなことは割と日常的に起こることなので、あまり違和は感じないのだが、無という単純かつ直線的な情報は、何度経験しても切ないものがある。そして、切ないだけならまだしも、賽銭が生活費の一端である以上、死活問題にも発展するのだ。幸い、霊夢は博麗の巫女と言う幻想郷に必要な役職を担っているので、妖怪の賢者が彼女の健康を案じて援助をおこなったりしているのだが、いつまでもそれに委ねるのは気が引ける。

 そもそも、どうして神社にやって来る妖怪は賽銭を入れてくれないのか。

 

「はぁ……」

 

 恐らく、傍に誰かが居たとしても聞き取られない程か細い溜め息が漏れた。

 真夏の夕刻の空は雲が掛かり、今にも雨が落ちそうであった。そのことが、更に彼女の心を落ち込ませる。賽銭を得るために何かするべきなのだろうが、そもそもそんなものが成就するとは思えない。そんな思考が頭を過る。

 

「気を取り直して、晩御飯にでもしましょうかしらね」

 

 いくら現状に不満を漏らしたところで、何一つとして変わらないのが現実。文句を言わずに受け入れるしかないのだろう。つまり、いつも通りの生活をいつものように営むのが最も良いのだ。霊夢は、特にこれ以上の生活を望んでいる訳でもないので、ある程度満足できることを誇るべきなのだ、と霊夢は肯定的に考えることにした。

 ある程度心持ちも回復し、晩御飯の内容を考え始めた時のことだった。ちょっとした変わり事があった。そよ風を作りながら、ごく普通の魔法使いが飛来してきたのだ。

 その金髪黒色の魔法使いは箒から静かに境内に降り立つと、親近感ある笑顔で片手をあげてくる。

 

「珍しいじゃない魔理沙。こんな時間に何かあったのかしら?」

「いんや、特に何でもないさ。何となく来ただけだぜ。」

 

 その魔法使い、霧雨魔理沙は笑いながら、あくまでも気軽に答えた。しかし、霊夢は、その明るさがどこかぎこちないものに思えてしまう。そう感じてから、霊夢は魔理沙の服が汚れていることに気付く。心なしか、魔理沙は疲れているようにも見えた。

 

「ねぇ、魔理沙……何かあったの?何かいつもの感じと違うわよ?」

「あー、アレだ。ちょっとばかしアリスと喧嘩しちまってさ。」

 

 そう言って苦笑いしながら頭を掻く魔理沙は、目に見えて寂しげだった。

 

「ほんの些細な切掛けだったんだが、今じゃ会いに行くのも怖く思えてしまうぜ……」

「喧嘩、ねぇ。私はアンタ等の内輪の話まで解決する気はさらさらないわよ?」

「ん~…少しは期待してたんだが……ま、最初から中立とかを頼みに来た訳じゃない。何となく霊夢に会いたくなっただけだぜ」

 

 いつもと違い、勢いが無く弱弱しい魔理沙の声は、夕刻の風の中に流れていった。その目には誰に向けられているかは分からない哀れみが浮かび、ただただ儚げでしかない。

 二人の間に、思った訳でもない沈黙が流れる。しかしそれは心地悪い訳ではなく、少なくとも魔理沙にとって、終わること無いままにずっと続いてほしい、そんな叶わぬ願いを生み出す。

 甘えることは簡単で、委ねることに苦も無くて。

 だからこそ、その少女は安息を断ち切る。

 

「さて、と。いつまでも小さくなってる暇は無いからな。私はそろそろ失礼するぜ。」

「はいよ~。ま、喧嘩くらいさっさと終わらせなさい。」

「あぁ、魔理沙様に任せとけって。ここに来て気持ちの整理もできたからな。」

 

 そうして、魔理沙は箒を持って背を向けた。

 夕日は殆どと言って良い程沈んでいるようで、魔理沙の目前には漆黒が広がる。空は雲に包まれたまま、間もなく夜を迎える。果たして、この雲は明日の朝には晴れているのか、それを今知る方法は持ち合わせていない。

 

「じゃあ、霊夢……またな」

 

 そう言い残した少女は、薄暗い郷に消えていく。

 一人残された霊夢は、その背中に向けて、届くかも分からない声で呟いた。

 

「結果、ちゃんと教えなさいよ」

 

 今も魔理沙は遠く、遠くへと飛んでいく。

 もう会えなくなるかもしれない。

 そう思える程に果て無く、彼方へと。

 

 

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