東方覚深記   作:大豆御飯

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第十章二話 激突

 幽香とメディスンが立っていたのは異形と萃香達の殆ど中間。萃香達の方へと進んでいた異形は標的を変え、幽香達を狙おうとその触手を持ち上げた。

 

「あら、出会ってそうそう争い事かしら。疲れるから苦手なのだけど……言葉が通じる程頭が良い訳でもなさそうね。所詮はでくの坊でしょうから」

 

 メディスンを庇う様に前に出た幽香は軽く拳を握る。直後、その太い触手が感情も伴わずに振り下ろされた。マズいと顔を強張らせる文を尻目に、幽香は微笑みすら浮かべている。

 

 避けることすらしなかった。ただ、真正面から拳を触手に打ち付けただけ。

 それだけで、その攻撃を受け止めたのだ。

 

「柔らかいのね。中身は全部油か何か?」

 

 ぽかんと口を開けるメディスンを見ることもなく、幽香はその触手を両手で掴んだ。そのまま声を上げながら触手を引き千切る。ブチブチィッ!! と音が鳴り、異形が他の腕を暴れさせる。幽香は笑みを歪めながら、痙攣する触手をぞんざいに投げ捨てた。

 当然、それに対して異形が何もしない訳がなかった。更に無数の触手を唸らる。確実に幽香を潰そうと暴れ狂う。

 

「あーもう、うるさいなぁ」

 

 そう呟いたのはメディスンだった。そのまま暴れる触手を器用に避けて飛び出す。異形の顔らしき場所まで近付くと、彼女は両手を前に突き出した。異形はそんな彼女など眼中に無いのか、何ら反応を示さない。

 

「うるさいとスーさんが悲しんじゃうじゃない!!」

 

 メディスンの体から紫色の霧が出て来る。それが偉業の頭部を包み込んだ時、暴れるその激しさがより一層増した。

 それは毒。彼女にだけ抽出できる、極めて殺傷能力が高い毒だ。人間が浴びればまず助からない。それは異形を苦しめ、激しく暴れさせる。

 

 だが、相手は異形だけではなかった。

 

「メディスン!!」

 

 下から幽香が叫ぶ。のんびりと振り返った彼女へと、文が一気に接近する。

 

「少々失礼」

 

 優しくメディスンを抱いた文。左手で鼻をつまみ、目と口を固く閉じて毒の霧を突き抜ける。

 

 その一瞬前までメディスンが居た場所を、紅い閃光が貫いた。それは衝撃だけで毒を浴びた文を吹き飛ばす。

 

(キッツい、ですねこれ……)

 

 目を開いた瞬間襲ってくる激しい痛み。手を離れたメディスンの不思議そうな顔が映る。

 

 その先の空。禍々しい黒い空に不自然な空が形成されていく。

 

「よ、けて……」

 

 掠れた声はメディスンに届かなかった。手を伸ばしても届かない。突き飛ばそうにも体が動かない。

 

 誰かの呼び掛ける声が聞こえた。

 

 その直後、何かが光った

 

 その前後の感覚がすべて焼失する。それでも息絶えないのは妖怪故か。二人はそのまま地面に叩き付けられ、ピクンピクンと痙攣する。それが爆発的な雷だと気付いたが、直ぐ真上には別の脅威が迫っていた。

 比那名居天子。

 緋想の剣を両手に、串刺しにしようと突進してくる。

 

 声を上げる余裕すらなかった。痙攣する体は言うことを聞かない。

 

「天狗!! 大丈夫か!?」

 

 刺さる直前に萃香が割り込む。全力で天子を殴り飛ばした。だが、真後ろでは異形が触手を振り上げる。

 

「う、し……」

「分かっているよ」

 

 呟いた萃香は巨大化した。異形が触手を振り下ろすと同時、握り拳を打ち付ける。先に聞いた引き千切れる音が響き、異形の体が石の様に吹き飛んだ。巻き込まれそうになった幽香が顔を顰める。萃香は思わずはにかんでしまった。

 

 瞬間、背中に感じた冷たさ。それは直ぐに激痛に変わる。耐えられずに巨大化を戻してしまった萃香の右胸から赤く染まった刃が突き抜けた。

 

「あ、が……?」

 

 からくり人形の様に振り返る。その途中で刃が引き抜かれた。小さな体は糸が切れたように倒れ込み、地面に赤い水溜まりを作る。

 

「すい、か、さん……」

 

 文は見ていた。

 比那名居天子が、萃香の背中を突き刺す瞬間を。

 

 天子が剣を振り、血を飛ばす。その先、倒れる文達には目もくれず、顔を顰めたままの幽香を見据えた。

 

「天人ともあろうお方が、一妖怪を背中から刺すなんてね」

「……」

「安いわよ」

 

 天子が一気に駆け抜ける。突き出した剣を回避した幽香は前のめりの天子の顎に膝蹴りを見舞う。けれど何事も無かった様に無表情のまま、天子は強引に剣を振り上げた。だがそれも回避した幽香は天子の腕を掴むと、華奢な体を地面に叩き付ける。

 

 ズン……!! と衝撃が地面を走る。

 

 加勢しなければと歯を食いしばる文の耳に、また別の声が聞こえた。

 

「なーんかおもしろくないの。つまんない」

 

 視線を向けると、立っていた。エリカの姿があった。

 

「みんなもっとあばれちゃえ」

 

 パンパンと手を叩く。それだけで、後ろに控えていた異形たちの動きが変わった。

 天子と幽香の元へと地面を叩きながら突進していく。巨体に隠れて戦いが見えなくなることが、文の中から光を奪う。

 

(メディスンさんが、動けたら……)

 

 だが、少女は完全に目を回している。助ける術が無い。

 

「だからって……諦めては……!!」

 

 歯が砕けそうな程食い縛った。余力は殆ど無いけれど、まだ何かできる筈だと奮い立たせる。立つことさえままならない中、スカートの中から一枚の紙を取り出した。

 

「竜巻『天孫降臨の道しるべ』……ッ!!」

 

 扇を振るった。

 それは異形の群れの中心から強大な竜巻を生み出す。瓦礫を巻き込み、異形の巨体でさえも薙ぎ払って暴れ狂う竜巻。近くに居なかった文達の体でさえも意図も簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

「……はぁ、もう、むりです、ね……」

 

 上下左右も遠のき、文から意識が途絶えていく。結果を見ることなんて叶わない。

 白濁する視界、それでもメディスンを守ろうと手を伸ばした。

 

 だが、何かを掴むこともなく。

 そしれ誰かに抱き留められた。

 

「……え?」

「……マミゾウさん、化かしたことを恨みますよ」

 

 辛うじて見えたのは、綺麗な赤い髪と緑色の帽子。

 

「め……りさ、ん……」

 

 文の意識は闇に墜ちる。

 

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