東方覚深記   作:大豆御飯

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第一章九話 夏場の寒冷は終わりゆく

 咆哮が響く。喉の奥から叫んだ氷精は、周囲を更に残虐な空間へと変えてしまう。体を叩く風は強烈な冷気と氷によって殺人性が宿り、容赦無く妖夢と大妖精に襲いかかって来る。逃げ場等無い圧倒的理不尽。それは、不可能弾幕(インポッシブルスペルカード)と言っても何の過言も無い。

 だからどうした。もはや、二人はその程度で止まることを知らない。

 

「向風『アポジションカーレント』!!」

 

 大妖精を中心に新たな風の流れが生まれる。単純な風力だけでな、霊力の籠ったその風は、襲い掛かる無数の破壊を的確に退けていく。傘で雨を遮るように、二人への被害は極限まで減らされていく。

 大妖精は直接戦を行いはしない。だが、主に戦う妖夢の為に、安全な位置から最高にして最大の補助を行うと決めている。いくら相手が狂気的な力を振るっていたとしても、根底にはあの友人の影がある。どんな攻撃であっても、大妖精になら分かる友人のクセが混ざっているはずだ。そこを突けば、かなりの力量差を埋めることは不可能ではないはずだ。

 それを理解したのかは分からないが、氷精の目が細くなる。

 

「跳んでください!! 攻撃パターンが変わりますよ!!」

 

 その小さな変化に気付いたのは妖夢。叫んで知らせた妖夢もまた、一瞬の隙を突いて前に大きく跳び出す。慌てた様に飛んできた氷槍を白楼剣で弾き飛ばし、氷精への距離を一気に詰める。

 変わりかけたパターンは再度大きく変わる。分かりにくい猛吹雪なんてものではなくなり、もっと単純化され最適化され、それでかつ分かりやすい破壊を生み出す槍の乱打へと。

 

「天星剣『涅槃寂静の如し』」

 

 小さく妖夢は呟く。それだけで辺り一帯の空気に緊張が走る。大妖精や氷精が知覚した時には時の流れが変わっていた。妖夢の眼光が鋭くなるにつれ、周囲から音が、色が消えていく。

 緩やかに流れる時の中で、妖夢は全ての攻撃を見切った。

 空を一閃が薙いだ瞬間に、破壊の乱打が正確に放たれた弾幕によって次々に撃墜していく。攻撃を放ち終わった瞬間に全ての変化が元に戻り、大量の破砕音がする。砕かれて宙を舞う破片は光を反射して幻想的な光景を生み出す。それはオアシスの様に、張り詰めた心をほんの少しだけ溶かした。

 しかし、安心はしていられない。景色に見惚れることのない氷精は第二波の展開を開始している。

 

「追風『無色軟強な壁』!!」

 

 攻撃を妖夢に裁かせていてはことを進めることは出来ない。その判断から大妖精は最大の支援を行う。この場の全ての風が妖夢の背中を押すと同時に、風に逆らう氷槍は失速し地に墜ちる。重量ある氷槍は氷の大地と共に遠くへと音を響かせていった。

 その音は合図。全ての障害を乗り越えて、絶対勝利の間合いに詰め寄った合図だ。

 

「貴女には多くのことを学ばされましたね」

 

 低く重心を落とし二刀に全体重を乗せる準備を進めながら、妖夢は静かに語り掛ける。

 

「私達が学んだこと、改めて友達から聞いてください。きっと、貴女の光になる」

 

 下手な美辞麗句なんて要らない。綺麗事なんて無くて良い。

 

 妖夢は決着のスペルカードを叫ぶ。

 

「空観剣『六根清浄斬』ッ!!」

 

 轟音が炸裂した。

 あれだけ苦しめられた、氷精の小さな体がいとも簡単に宙に刎ね飛ばされる。その体が地に臥し、聞こえてきたのは安らかな寝息だった。

 それだけで、二人が理解するには十分だった。

 

 のだが、

 

「わ、わっ!? 地面溶けて……!?」

「能力が強引に解除された影響でしょう!! チルノさんを!!」

「は、はいぃ!!」

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