東方覚深記   作:大豆御飯

23 / 122
地の分を一人称視点にするとか何とか言って書いていましたが、前回の話で無理だと悟ったので、この話から通常営業します。


第二章五話 最初の戦い

 タタン、と軽やかな音が辺りに響く。アリスの張った弾幕を棗がステップで回避している音だ。立体的に構成される弾幕を、飛ぶこと無くステップだけで回避し、接近されたアリスは少し驚いた様な表情を浮かべたものの、直ぐ緻密に人形を操り狙いを定め直す。

 集中的に地面を狙い、ステップの為の足場を崩していく。湿った地面に弾が着弾する度に泥が跳ねていった。

 

「生身相手に遠距離なんて、中々姑息なんじゃない?」

「うるさいわね。殺し合いに姑息も何も無いわよ」

 

 僅かな会話が交わされる。

 直後、何かが弾かれる様な音がしたと思った瞬間にアリスの視界が潰れた。突然刺さるような痛みが走り、反射的に閉じた目が開かなくなる。人形への命令を継続状態に変えたアリスは素早く状況を整理していく。

 

(目潰し……跳ねた泥を正確に叩いて当ててきたってこと!?)

「お姉さんは無理をしない方が良いよ。消費された力を強引に使うと、まともに立つことも出来なくなるからね」

 

 掌に付いた泥を振って落としながら、弾幕の単純化したアリスへと一直線に走っていく。アリスが泥を拭って目を開くには、時間が決定的に足りない。

 それでも諦めず、音を頼りに棗に攻撃するように人形に命令を送る。ヤケクソ気味な一撃は当たるはずも無く、体を折り曲げた棗は更に距離を詰める。

 

「失礼しますね」

「えっ」

 

 一陣の風が頬を薙いだと思った時には意識を刈り取られていた。

 

 状況を判断しアリスを手早く無力化した文は、宣言したスペルを展開する。崩れる様に倒れるアリスを支る文は、大量の木の葉の中に紛れて姿が見えなくなった。

 例え木の葉と言えど、高速で動くそれが体を掠めれば皮膚が避ける可能性がある。走る足を強引に止めた棗は、誰にも分からない程度に舌打ちをした。

 

「逃げの戦いですいませんね」

「謝るなら止めてよね。打開策とか幾らでも出来るんだし」

「御もっともで」

 

 言いながら、巨大な防御網から木の葉を射出していく。文の知るところではないが、魔理沙はこの弾幕を『外側で飛んで来る鋭い葉をちまちまかわすしかない』と言っていた。つまり、現状で遠距離攻撃を持っていないように窺える棗に対しては非常に有効なのだ。

 

(アリスさんはなんとしてでも守らないと。少しでも、確信に迫る手掛かりを残しておかないと、後で詰む可能性が出てくる……!!)

 

 攻めなくていい。守り抜けばそれでいい。

 文はそう改めて己に教え込みながら、弾幕を張り続ける。

 ただ、大きすぎる防御網は棗に無駄な時間を経たせるだけの役割しかないけれど。

 

「横がガラ空きなのよね」

「文に夢中になってる暇はないんじゃないの?」

 

 棗の耳に、別方向から声が響いた。振り向いた彼女の目には、新たな弾幕が目に入る。大量の札で動きを大幅に制限された中、業火が周囲を包み込む。

 木の葉や木の幹の焦げる嫌な匂いが鼻に刺さり、地面の水分が飛んでいく。更には、文や霊夢の弾幕に引火し、爆発的に攻撃範囲を広げる炎は、一瞬にして棗を拘束していく。

 

(ったく……本当に厄介ね……!!)

 

 心の中で悪態を吐きながら、棗は地面に落ちていた小石を拾う。躊躇している時間は無い。

 まだ乾き切っていない小石を、とにかく文の居るであろう方向に投げた。生身の人間が投げたとは到底思えない程の速度で飛ぶ小石は、防御網に大きな風穴を抉じ開けた。

 

「う、そッ!?」

「慢心してんじゃないの?」

 

 乾きかけの大地を蹴って、躊躇なく風穴に飛び込む。奇襲を受けた、それでも攻撃方法を変えようと後ろに下がる。

 しかし、防御網を突破されてしまえば、残ったのは中途半端に動けなくなった文が居るだけ。もはや、それは戦力でなく的でしかない。

 外からどちらかの声が聞こえたが、弾幕の雑音に掻き消されて上手く聞き取れない。

 少しだけ覚悟を決めた文は、抱えていたアリスを遠ざけようと、意識の無い体を投げ飛ばした。

 

「いい判断だと思うよ」

「どうやら、私はチェックメイトの様ですからね」

 

 二人が交差する。

 少し遅れた文が右手に持つ扇を振るう。しかし、決定的に時間が足りない。完全にその扇を振り切るより早く、棗の拳が振り切られた。

 贓物が潰される様な衝撃が腹を貫いた。宣言していたスペルを維持する力が一瞬で抜け、防御網が霧散する。殴り飛ばされた体は地面を転がり、泥と乾いた砂で全身を汚された。

 喉の辺りに何かが詰まっている。強引に吐き出してみると、それは血塊だった。

 

「お疲れ様」

 

 聞こえた声に、文は何の反応も示さない。ただ、残る意識と力を使って何とか立ち上がろうとしていた。

 だから。

 這う様な格好の文の背中を、棗は容赦せずに踏み潰した。

 断末魔は響かない。ただ、意識が闇の中へと吸い込まれていった。

 

「お姉さんは使えそうだね。少しばかりその体、預からせてもらうよ」

 

 そんな声が聞こえた直後、文の全てが闇に墜ちた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。