東方覚深記   作:大豆御飯

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ジャンケンって難しいですよね。


第二章七話 より上位のもの

「まぁ、所詮こんなものよね。この次元の力だと、あの魔法使いはよく粘ったんじゃないかな?」

 

 もうその場所にパチュリーの姿は無かった。ただ、激しい戦闘の跡を残し、何処とも知れぬ場所へと消えていた。

 果たして、文とパチュリーは何処に消えたのか。その答えを知るのは張本人の棗のみ。

 

「さて、と。この二人は思わぬ収穫だったかも。後は、誰から当たろうか。花の妖怪が恐ろしく強いとは聞いてるんだけど……」

 

 立ち止まって考える棗の様子は、何も深刻な様子ではなく、むしろ朝御飯のメニューを考えている位の気軽さだった。相手側にとって、どれほどの辛さを伴わせることであろうとも、棗にとっては無関係でしかない。

 

「じゃ、さっさと行こうかな。面倒なのは早く終わらせるのが一番だし」

 

 戦いの跡には目もくれず、棗は森の出口へと体を向ける。今棗に大切なのは、次の標的を狙うこと。それ以外のことに興味を向ける程、暇な存在ではない。

 

 けれど、必ずしも全てのことを無視出来ないのもまた事実だった。例え、自分のやっていることが悪だとは言え、まだこの悪性に気付いていない者も居る。故に、無駄に怪しまれる行為は極力避けていくのが最善だからだ。

 だから、こんな些細なことの相手はしなければならない。

 

「少し良いかい?」

「何かしら? 言っておくけど、私はこの辺の地理については詳しくないよ」

「いや、道を聞くつもりじゃないさ。もっと単純なことだ」

「へぇ、時間が許す限り協力してあげるけど」

「ありがたいね。ちょっとばかし人探しをしていてね」

 

 赤い髪をツインテールに纏める、何故か大きな鎌を担いだその女性は笑顔で聞いてきた。

 

「この辺に住んでいる『霧雨魔理沙』って言う女の子なんだけど、昨日の夜に見かけたりしなかった? 特徴は、常日頃から黒い服に身を包んで大きな帽子を被っているから、そうそう忘れる程インパクトが無い訳でもない」

 

 悪意の無い質問をされた棗は、少し思い出す様な仕草を挟んでからキッパリと言い切った。

 

「ごめんね、悪いけど見たことない。他を当たった方が早いと思うよ?」

「そうかい? そりゃ残念だ。言われた通り他を当たるよ」

 

 見たか見てないか。そんな質問に答えれば更に時間を持って行かれる。相手には悪いが、棗はそれ以上取り合わず、自分のするべきことへと向かおうとした」

 

「そうだ、アンタにもう一つ用事がある」

「今度は何? 多分、お姉さんと共通の知人なんて居ないと思うよ」

「違う、今度はそんな間接的な用事じゃないんだ」

 

 その女性は、笑みに少しの真面目さを含ませて言った。

 

「先の戦いを少しばかり影から眺めさせてもらった。アンタがあの二人を攫う時に出したあの謎の穴は何なんだ?」

 

 空気が固まった。

 その女性は最初から分かっていたのだ。分かっていたからこそ、何も知らぬ顔をして油断を誘ったのだろう。そして、自分はまんまと騙された。最善の行動は、自分にあの魔理沙のことを聞いてきた時点で相手を無理にでも無力化して逃げるべきだったのだ。これ以上の尻尾を掴ませない為に。

 

「……お姉さん、少し知りすぎたね」

「自覚しているよ」

「別に、お姉さんはターゲットじゃなかったんだけど……仕方ないよね」

「何が仕方ないのかは聞かないよ。ただ、こう見えてある程度の実力はあると自負しているさ」

「いいわ、誘ってあげる。さっきの二人と魔理沙とか言う魔法使いと同じ場所にね」

「この小野塚小町、アンタに死神の実力とやらを見せてやろう」

 

 次の瞬間の棗の行動は実にシンプルだった。

 固く握った拳を真っ直ぐ小町の顔面に突き出すだけ。それだけで、彼女の力でなら鼻を粉砕することは難しいことではない。弾丸の様に正拳が飛ぶ。

 それは、小町の顔の真ん中に命中し、容赦無くその顔を破壊し小町の体を簡単に宙に浮かせる。

 はずだった。

 

「ん、なっ!?」

「当たらないだろう? その拳、届かないだろう?」

 

 得意げな声が聞こえる。笑みを浮かべた小町がその大鎌を振り上げたところだった。

 頭が混乱する。何故なら、小町は足を一歩も動かしていなかったからだ。自分が距離を誤った訳でもないのに、棒立ちだった小町に拳が届かなかったことが、理解出来なかった。

 その一瞬の思考が、明らかに棗の行動を遅らせる。

 横薙ぎに振るわれる鎌への反応が決定的に遅れてしまった。何とか体を折り曲げて直撃は回避出来たものの、背中側の服に鎌の先端が引っ掛かり汚れた地面を転がされる。

 受け身をとって距離を開けたうえで立ち上がり、反撃に入ろうとした棗の動きが固まった。

 離れたはずの小町が、自分の目の前に鎌の柄の先端を向けていたのだ。

 

「何でッ!?」

「教えて欲しいか?」

 

 先端が一気に突き出される。鈍い音が炸裂し、眉間を中心に頭全体に衝撃が走る。脳を揺さぶられる様に、ほんの一瞬全ての感覚が分からなくなった。

 今度こそ受け身をとれずに、棗は無様にも地面に転がった。

 

「く、そ……厄介ね……」

「慣れてしまえばいくらでも対処が出来る力なんだけどね。この世界に生きる以上の基準をずらされたら、確かに慣れるのは難しいだろう」

 

 汚れを払う様に鎌を振るった小町は、そのままの勢いで鎌を肩に担いだ。

 

「ただ、それはアンタも同じじゃないかい? 冷静に見てみれば、アンタの振るう力はどこかこの世界とは違う。この世界に当てはまらない故に、あの二人を強引に無力化させることが容易だった」

「……鬱陶しい位の観察眼ね。あながち間違いじゃないのが余計に腹が立つ」

「褒めてくれたと受け取るよ。しかし、幾ら違うと言えど、力は力でしかない。他のものに強引な干渉が出来ないのが弱点だ」

「何が言いたいのよ」

「そう急かさなくても言ってやる。幾らアンタの『中』の力が特別でも、アンタを包む『外』の世界までは特別にはならないってことだ」

 

 小町はもう一度鎌を構えた。挑発する様な、煽る様な笑みを浮かべて最後に付け足した。

 

「つまり、アンタを包む外を操るあたいにとって、今のアンタは敵ではないということさ」

 

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