東方覚深記   作:大豆御飯

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ぼちぼちと書いてきたこの『東方覚深記』ですが、遂にUA数が1000を超えました!!
読んでくれた皆様、本当にありがとうございます!!
そして、まだまだ続くこの物語を、これからも応援していただけると幸いです。
本当にありがとううございました!!


第二章十話 人間の魔法使い

 それはまるで隕石の落下だった。圧倒的な衝撃が空気そのものを叩き、棗を吹き飛ばす。それだけに留まらない破壊は、地面にクレーターを作り上げ、棗に大量の泥を浴びせてくる。

 しかし、それは一回で終わらなかった。立て続けに二発三発と投下された衝撃に、棗は抵抗できずに地面を転がされてしまう。

 

「何よ……!?」

「どうした? 一度勝った相手の攻撃を受けることが、そんなに疑問を浮かべることなのか?」

 

 言いながら、その影はゆっくりと同高度まで降りてくる。

 そして、そのシルエットが明確になっていくにつれて、棗の顔が驚愕に染まっていった。その理由は言うまでもない。

 シルエットの張本人が、もうこの世界に居ないはずの存在だったからだ。

 元に戻る力も持っていなかったはずなのに、どの様な手段でもってこの世界に戻って来たのか。激しい疑問が棗の頭の中に駆け巡った。

 

「どうやって……戻って来たの!?」

「私に聞くな。聞くなら小町に聞いてくれ。まぁこのぐちゃぐちゃの地面を見るに、相当暴れたんだろう? 大方、私の時みたいに欲を張って折角狂わせたアリスを素の状態に戻されたのと同じように、無駄な深入り戦闘でもしたんじゃないか?」

「……」

「何にせよ、私はお前の御陰で違う世界を見て、感じて、そして理解することが出来た。もうお前が特別であるとは言えないぜ。だから、今からはお前のステージじゃない。私、霧雨魔理沙様の晴れ舞台さ」

 

 絶対に二度と対峙することは無いと思い込んでいた存在、霧雨魔理沙の口角が上がる。ギリギリで救い出した小町を木に凭れさせた彼女は、ポケットから新たなミニ八卦炉を取り出す。それは、魔理沙が最も愛用するマジックアイテム。彼女の代名詞を中心とした、その小ささからは想像出来ない、圧倒的な火力を生み出す。

 

「どうする? 別にお前が逃げる意志を見せるならば追い打ちはしない。何せ、対等な条件になれば私の方が有利なんだ。私は弱い奴を執拗に狙う姑息なことはしない主義でね」

「そうやって有利って決めつけてると、足元を掬われるよ……って言いたいけど、お姉さんの言うことは事実だよねぇ」

「分かってるならさっさと撤退してくれるとありがたいぜ」

「でもね、私にも意地があるの。ここまで荒らしたんだもん。負けると分かっていても、一二手位は抗ってやるわよ」

 

 微笑みを浮かべて棗は世界を結ぶ穴を開く。同時に魔理沙が身構えたのが見えたが、もう棗は気にしない。魔理沙にこの戦法を使うのも二回目、小町と同じ様に出現先は読まれるだろう。

 それでも、魔理沙に向けられる最大の攻撃手段はこの不完全な奇襲しか無い。真正面から突撃したが最後、その火力の前に焼き払われるのが目に見えている。

 棗の居る世界が二転する。明と暗、表と裏、そんな対比的な世界間の移動の先に、ただ一人の標的を見据えて飛び出す。その標的がミニ八卦炉を構えている方向とは正反対の方向を狙って、死角から攻撃しようとする。

 それなのに、

 

「やっぱりな、読めてたぜ」

 

 見え見えの不意打ちなど相手からすればただの動く的でしかなかった。

 

「『ブレイジングスター』」

 

 スペルカードが宣言される。それと同時にミニ八卦炉が火を噴いた。爆発的に光が広がり、空気すらも焼かれていく。しかし、その反動は凄まじく魔理沙自身も飛ばされる。

 真っ直ぐ、棗の居る方向に。

 咄嗟に腕で防御しようとするが、果してその陳腐な盾は何の役に立つだろうか。違う世界の物理法則の混ざった相手の攻撃を、完全に対等な条件で防御しようと言うのなら、力の強いものが勝つに決まっているのだから。

 激突まで時間は無かった。棗自身が魔理沙の至近距離に出現してしまったが故に、一瞬にしてトップスピードに達した攻撃をもろに受けてしまった。そして、ぶつかったことにより移動力を受け取った棗は砲弾の様に吹き飛ばされる。木の枝を派手に巻き込みながら、何メートルも飛ばされた後に木に叩き付けられ、その衝撃で喉の底から赤黒い液体が溢れた。

 それでも、まだ立てる。肉体が悲鳴を上げようとも、棗の意地は潰えない。

 そんな彼女の瞳が、魔理沙が上空へ向けてはなった『マスタースパーク』を捉えた。

 

「何して……」

「これは狼煙だ。お前の戦意をさっさと失わせるには、何よりも戦力が手っ取り早い」

「……増援は皆、私達の力は理解出来ていないとしても?」

「それで良いんだよ。必要なのは、質じゃなくて量。ただ、今のボロボロのお前なら来た増援にすら勝てないと思うがな」

 

 中途半端に打つのを止めたミニ八卦炉を、今度は棗へと向けながら魔理沙は告げる。

 

「そして、お前が私を極限の孤独に誘ったからこそ私は習得したものがある」

「孤独から学ぶものが戦いで使えるとは思えないけど」

「いや、孤独故に騒がしさが無かったからな。ただ、脱出することに限りない集中を注ぐことが出来た。……これは余談なんだが、私の知り合いにはスペルカードを使う際に集中し過ぎて周囲から色や音を奪う奴が居るんだ」

 

 再び魔理沙の口角が上がる。今度は絶対的な勝利を確信した笑みだった。

 

「もし私がスペルカードを使う際に周囲の景色や音に注いでいた集中を、ただスペルカードだけに注いで魔法を打てば、一体どれ程の威力になると思う?」

 

 言い終わるよりも少し、世界は白黒に変わり始めていた。その言葉すらも少しずつ遠いものになっていく。

 魔法は基本的に使用者の霊力等に依存する。つまり、それは精神的なものであり、本人の調子によって大きく左右されるだろう。

 もし本当に威力が上がるのなら、一体どれ程の破壊を生み出すのだろうか。

 純粋な恐怖が芽生えてきた棗の瞳が、滑らかに動く魔理沙の唇を捉えた。もし音が明確に聞こえていたら、ハッキリと聞こえていたであろう彼女の新しいスペルカードの名前。

 それは、こう告げられていた。

 

「純符『サイレントマスタースパーク』」

 

 色も音も消えた世界が爆ぜた。想像を絶する光量を、熱量を、威力を極限まで細く圧縮した一撃が棗だけを狙って飛んで来る。

 そして、これを避けられたとしてもまだ増援がやって来るかもしれない。

 ここまでされて、初めて棗はプライドを捨てた。一瞬も迷うことなく穴の先に広がる世界へと逃げたのだ。

 

 色と音の戻った世界、そこにはもう棗の面影は無かった。

 

「ま、増援が来るなんて私自身思ってないんだけどな」

 

 残された魔理沙はポツリと呟いて小町へと向き直る。何かの線が切れたかの様に意識を戻さない小町。

 礼も込めて介抱してやるか。そう思った魔理沙は小町を家に運ぼうと腰を屈めた。

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