「魔理沙さんがどうかしたんですか?」
しばし熟考している霊夢を見かねた文は、自ら聞き出すことにした。しかし、その声のトーンは真剣で、どこにも浮足立った雰囲気は感じられない。むしろ、霊夢の顔から、一種の『異変』の影を感じている。
「まぁ、もう察していると思うけど、昨晩に私の所にも来たのよ」
「はい、それは察しましたが……何故あそこまでの反応を?」
「私の所に来た時、魔理沙は何だか疲れていたの。そして、どこかぎこちなかった。それが、いつもの魔理沙を思うとどうしても変に思えて仕方ないのよ」
「そう、ですか…? 疲労位なら普通に起こりうることだと思いますが……」
「そう言われたらそこまでなんだけど、やっぱり腑に落ちなかったのよ。それで、何だか敏感になっちゃって、あそこまで過剰な反応しちゃったの」
そう説明されて納得した文。その表情を確認した霊夢は、今度は自分の本題に入る。
「それで、私からも良い?」
「構いませんよ」
「どうして魔理沙は私と文に全く違うことを言ったのかしら? 何故、私には『アリスと喧嘩した』と言って、文には『新しい魔法の開発に失敗した』と言ったのかしら?」
「両方事実だったのでは? そう考えるのが最も妥当だと思いますし。」
「私も少しはそう思ったわ。でも、魔理沙があなたに頼んだ内容を考えたら少しおかしいと思うのよ」
そこで霊夢は一息置いた。次に紡ぐ言葉を確実なものにするために。
「誰かと喧嘩したって状況で、それでも別の人に魔法開発を悠長に頼めるかしら?」
「それは……」
「もう、アンタみたいな妖怪にはとうに忘れちゃった感覚かもしれないけど、私たち人間にとって、人との関係は思ってる何十倍も重いもの。まして、あの二人は外野が見た以上に関係が深い。その関係が崩れかけている時に、悠長に魔法の開発なんて、少なくとも私にはできないわ。」
「成る程……まして魔理沙さんはよく人間と妖怪の違いを話のタネにしてますからね。そう考えると、魔理沙さんは人一倍人間関係を気にしててもおかしくありませんね」
「そう。ただ、その理屈だとどちらかに嘘をついたことになるのよ」
「その二つの事象が同時に起こらないと仮定した場合、確かに片方は偽りとなりますが……それはどちらなんですか?」
そこで、霊夢の顔が少し弱弱しくなった。今までの発言に自信があったのに対し、今から言うことに自信が無いことの表れかもしれない。
「それは……私にはまだ分からない。ただ、勘だけど、アリスの名前が出たってことはアリスと何かあったって考えてるの。多分それは、良くないことだと思う」
「そう、ですか。なら、確かめに行ってみましょう。私も嫌な予感がしてきましたから」
文の顔に、いつもと違う深刻さが浮かぶ。