東方覚深記   作:大豆御飯

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タイトルが一章終話に被ってたので変えました。


第二章終話 ある戦いは過ぎ去り

「う、ん……」

 

 いつの間にか気を失っていたらしい。魔理沙に抱えられた時は覚えているのだが、それからの記憶がサッパリ無い。敵を前にして気を失うとは我ながら情けないが、終わったことは仕方がない。意識が少しずつ回復してくる中、何とか体を起こそうと小町は自分が横たわっている柔らかい地面に手を突いた。

 

「……ん?」

 

 少し落ち着いて考えてみると、柔らかいっておかしくないだろうか。地面がどれだけ湿っていようと、こんな柔らかさは有り得ないだろう。というか湿っていない。かつ布地の様な、と言うか布地そのものの温かさがある。

 記憶が無い故に現状が一切分からない。何故かしら不安に駆られた小町は意識を強引に鮮明にして横になっていた体を跳ね起こした。

 

「あら、起きた?」

「……ここは?」

「私の家。気絶した貴女も居たんだから、いつまでも外に居る訳にはいかないでしょう?」

 

 小町が起きた時、傍ではアリスが本を読んでいた。ベッドに寝かせられていた小町はほんの一瞬状況が掴み切れなかったが、特に考えようとしなかった。どう考えてもアリスは敵ではないからだ。よく思い出してみると、文が囚われる直前まで文を抱えていたはずである。

 仮に、あの戦いで文とパチュリー以上の犠牲が無かったなら、恐らくこの家に霊夢と魔理沙も居ることだろう。念のために聞いてみると、まさしくその通りなので、小町は安心の微笑みを浮かべた。

 

「そうだ、魔理沙がありがとうって伝えておいて欲しいって」

「本人が伝えてくれば良いのに」

「アイツは軽いお礼ならサラッと言うのに、こういう心からのお礼は面と向かって言うのが苦手なのよ」

「へぇ、意外だったねそれは。覚えておこう」

「覚えるまでのことじゃないでしょう」

 

 何気ない会話で何気ない笑顔が生まれた。ほんの数刻前まで生死を分ける戦いをしていたことを考えると、こんな些細なことが夢の様なものに思えた。

 

「後、私からもありがとう」

「あたいはアンタには感謝される様なことしていないけど」

「いやその……貴女が、魔理沙を助けてくれたから……」

「何だって?」

「な、何でもないわ。やっぱり忘れてちょうだい」

 

 本当はしっかり聞こえていたのだが、アリスの顔が紅くなっていたのでからかっただけである。悪意は無い。

 

「ま、お礼の気持ちはアンタの秘密の思いと一緒に心に留めておくよ」

「秘密の思い……って、やっぱり聞こえてたのね!?」

「何、あたいが魔理沙を助けたことに感謝しているとしか聞いていないさ。アンタの反応から恋心を推測なんてしてないさ」

「うぅ……言うんじゃなかった……」

 

 拗ねた様に頬を膨らませるアリスを見て少し気分を良くする小町。しかし、ニヤニヤしていたら少し睨まれたので反省することにした。

 

「……そうだ、どうやって魔理沙を助けたの?」

「ん? あぁ、方法か。まずヒントなんだが、映姫様に『霧雨魔理沙という存在が世界から消えた』と言われてね。単純に考えて、この世界じゃない世界があると見た訳さ」

「だから、その先のことよ」

「それなら簡単だ。その別の世界の魔理沙とこの世界のあたいの距離を定めて短くしたら良いだけだ。そう思い付いて魔法の森に来てみたら、偶然アンタ達とあからさまな悪者が戦っているじゃないか。魔理沙のことを知っている風だったから少し観察させてもらった。……ただ、そのせいで二人も奪われたのはあたいの失敗だった。これは、いくら謝っても許されはしないと思う」

 

 申し訳なさそうにした小町だったが、アリスに先を催促されたので話を続ける。

 

「で、だ。どうやら、向こうの世界とこの世界じゃ何やら法則が違うようでね。それに、その棗とやらは戦いの中で世界を繋げることをしようとしなかった。いざ戦ってみても、どうしたものか迷ったものだ」

「でも、上手くいったのよね」

「そう。だからあたいは挑発して追い詰めて、強引にそれを使わせたのさ。そして、そこからはわざと劣勢に立つ。案の定ボロボロにされてね、あたいも向こうの世界に引きずり込まれかけた……が、そこまであたいの計算通りさ」

「……わざと向こうの世界に半身入ることで、向こうの法則とかを実感したってこと?」

「御名答! 半ば賭けだったけど上手くいって良かったよ。結果は既知の通りで、あたいは魔理沙とこの世界の距離を定めて救出に成功した。……ただ、時間も無く、あたいの限界がきたこともあって、あの二人を助けるには至らなかった。ま、これが全部だ」

 

 話し終え、それでも申し訳そうにしている小町。先のアリスの様に、一人で罪の意識に捕らわれるのは誰でも同じなのかもしれない。

 

「ありがとう」

「あたいはそれだけしか出来なかった。褒められたことじゃないさ」

「そう思うのは貴女だけよ。実際、貴女を責めているのは貴女しかいない」

 

 魔理沙が帰ってきたことで、少しばかり心に変化があったのだろう。

 アリスは笑いながら言った。

 

「だから、一緒に頑張りましょう? そして、全てが終わった時に皆であの二人に謝ればいいの。今、下を向く時ではないわ」

 

 それを聞いた小町は一瞬アリスを見て、そして微笑んだ。

 部屋の外では呑気な会話が広がっていた。




これにて『東方覚深記』の第二章は終了となります。読んでくださいありがとうございました!!
感想等お待ちしております!!
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