東方覚深記   作:大豆御飯

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第三章二話 悪魔の契約

 レミリアは雨が苦手である。そもそも吸血鬼自体流水が苦手ということもあるのだが、それよりもジメジメするからレミリアは雨が苦手である。

 

「雨が止んだ後のこのジメジメ、本当に何とかならないものかしら」

 

 自室にて一人紅茶を飲みながら、彼女は憂鬱になっていた。咲夜は色々と忙しいし、パチュリーは朝から出掛けているし、美鈴は門番中だし、フランは籠っているしで遊び相手も特に居ない。雨上がりだし暇だしでとにかく憂鬱なレミリアであった。

 

「何かないかしら……勝手に本を読むって言うのも気が引けるわね……」

 

 どれだけ優雅なカリスマとして振舞っていようとも、根本的な部分で彼女は外見通り幼いのだ。好奇心の塊みたいな彼女は何かすることを求めているのだった。

 

「紅茶を飲み終わったら、私からフランのところに行ってみようかしら」

 

 適当に考え、適当に納得したレミリアは紅茶を口に含む。芳醇な紅茶で幸福感を満たして、レミリアは大きく頷いた。予定が決まって上機嫌なのだろう。

 喉を通った紅茶の喉を抜ける薫りで更に満足度を高めたレミリアは唐突に呟いた。

 

「……それで、貴女は何の用かしら?」

「あら、分かっちゃったのね」

「生憎と、気配なら大方理解できるのよね」

 

 ほんの一瞬で真後ろに現れた人影。隠れる素振りも見せずにただ立っているのを気配で察したレミリアは、振り向くことなくその姿勢のままで相手へと話しかける。

 

「貴女、名前は?」

「撫子よ、浅茅撫子。二つ名とかは別に無い」

「そう。分かってると思うけど、私がレミリア=スカーレットよ。何の騒ぎも無かったってことは、門を通って入ってきた訳ではないのでしょう?」

「その通りよ。私にとって壁はあって無い様なものだから」

「中々面白そうな力を持ってるのね、貴女」

「そうね、私自身気に入ってるわ」

 

 見かけは普通の談笑だけれど、二人の間には明確な壁があった。互いに必要以上に相手を内側に入れようとせず、一定の距離を保って会話を広げている。

 恐らく、レミリアは最初の気配を察した時点で相手がどれほど脅威かを理解したのだろう。明らかにレミリアは警戒していた。

 

「それで、貴女の要件は何かしら?」

「知りたい? 私は特に嘘はつかない主義なのよ」

「遠慮しなくて良いわよ。予想は出来てるから」

「そう、ならお言葉に甘えるわ」

 

 未だに二人は顔を合せない。レミリアの背中を物理的な壁にして二人の会話は続く。

 

「私の目的は貴女そのもの。貴女の存在であり、その実力よ」

「成る程ね」

「理解していただけたかしら? それなら、なるべく抵抗しないで欲しいのだけれど」

「それは出来ない相談よね。かと言って、貴女がそう簡単に引く様な人ではないことも見えてるし。どうしたものかしら」

 

 撫子はレミリアが楽しんでいるなと感じる。その言葉の節々に好奇心が溢れているからだ。

 これが強者故の余裕か、改めて撫子はレミリアという存在を感じ取っている。

 

「そうだ、一つ契約を交わしましょう」

「あら、私と? 言っておくけど、悪魔との契約は絶対よ?」

「分かって言ったのよ」

「内容は?」

「貴女が一枚のスペルカードを宣言して、それによって決するの。私がそれに敗北したならもう貴女に干渉しない。けれど、私はスペルカードの発動中に要件を達成する」

「分かりにくいのだけど、つまりスペルカードで私が押し切るか貴女が実力で押し切るかってこと?」

「そういうこと」

「分かったわ」

 

 契約は成立した。絶対の元に定められる契約は、即座に行動へと変わっていく。

 

「いくわよ」

「いつでもどうぞ」

「紅符『不夜城レッド』」

 

 スペルカードが宣言された。それと同時に撫子はレミリアの背中へと飛び掛かる。背後とは言え気配は確実に知られている故に、どれは不意打ちとしての意味を成さない。それは撫子も理解していた。

 ただ、レミリア程理解は出来ていなかったのは結果の話ではあるが。

 

 レミリアへと伸ばした右手に強烈な痛みを感じた。咄嗟に右手を引くが、既にボロ雑巾の様になっていた。

 

「不意打ちが決まらない。つまりそれは、相手に次の手を読まれていることでしょう?」

「……その通りね」

 

 紅い十字架に包まれたレミリアの姿はしっかりと確認できない。ただ、声だけが聞こえる。

 

「私のスペルカードはもう少し続くわよ」

「見れば分かるわ」

「だから、早く見せなさい、貴女の逆転を。結末はもう私には見えてるから」

「……分かったわよ」

 

 傷だらけの撫子の右手に謎の物質が纏わりついていく。一体どこから現れたのかその物質は、瞬く間に腕を包み込み完全に防御する。

 撫子は迷わない。紅の十字架へとその右手を突き込んでいく。

 痛みは守れても、流動する弾の数々に腕が攫われる。それを力技で強引に抑え込んだ。

 

「チェックメイト、ね」

「そのようね」

 

 撫子の右手がレミリアの首筋を掴んだ瞬間に紅の十字架が消し飛ぶ。

 勝敗はここに決した。

 

「覚悟は良い?」

「その前に一つ助言を」

「何よ」

 

 それでもレミリアは余裕の態度を崩さなかった。笑みを浮かべて、それでも撫子に顔を見せることなく告げる。

 

「貴女が思う程、咲夜達は脆くないわ」

「そう」

 

 それが、二人の交わした最後の会話。

 ここに、レミリアの意識は深淵より突き落とされた。

 

(咲夜、そして他の皆。後のことは任せるわ。不甲斐ない当主で申し訳ないけどね)

 

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