東方覚深記   作:大豆御飯

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第三章四話 紅魔の門番

 今日ものんびり立って寝る練習、否、門番である。とは言え、紅魔館までわざわざやって来る様な者は中々居ないので、やっぱり立って寝る練習をしてしまう紅美鈴であった。

 本人は知る由も無いが美鈴が門番をしている御陰で、里の人々の紅魔館への親近感を沸かせているのだ。実に人の様な妖怪である彼女は、自ら人を襲うことはない。話しかけられれば気ままに世間話をしてくれる彼女なので、わざわざ彼女と話をする為に紅魔館の門に来る者も居たり居なかったりする。

 

「ふぁ……」

 

 腕を組み、壁に凭れ掛かって大きな欠伸をする。とても仕事中とは思えない様な態度だが、美鈴故に仕方ないのだ。普段は咲夜がわざわざ起こしに来る始末である。

 

「相も変わらず暇ですね……本当、咲夜さんも暇潰し用の道具か何かくれれば良いのに」

 

 ぼんやりと曇り空を眺めながら、適当に愚痴を漏らす。咲夜が聞いていたらナイフの一本でも投げてくるだろう。

 この門を強行突破して来ようとする不埒な輩が居れば良いのだが、残念なことにそんな輩は片端から負かしてきた。今では痛い目に遭いに来る輩も居なくなってしまい、もはや門番が要るのかと思う程には誰も来ない。それでも、たまに来る美鈴との会話目当ての人は多少の楽しみなので、門番を止める訳にもいかない。と言うか、門番を止めると言ったら咲夜さんに怒られてしまう。

 等とどうでも良い思考に耽る位には美鈴は暇だった。

 

「……庭の手入れでもしよっと」

 

 門番はやっぱり暇である。もう別の役目を果たさんと、美鈴は凭れていた背中を離した。一度に住人は軽く潜れるだろう大きな門を両手で押し開け、紅魔館敷地内に入ってみると、美鈴は意外な光景を目の当たりにする。

 妖精メイドを中心とした紅魔館の住人がほぼ全員庭に出ていたのだ。

 

「何かあったのかな?」

 

 何があったのか分からない美鈴は特に反応を示すこともなく庭園へと急ぐ。が、そうそう無視出来る訳も無く、近くに居た妖精メイドに呼び止められた。

 

「美鈴さん!!」

「はい、何でしょうか?」

 

 暇潰しに洗練させたにこやかスマイルで応答すると、怪訝な顔をされた。どうやら場面的に合ってなかったらしい。二人の間に微妙な空気が流れる。

 コホン、と一度咳払いした美鈴はどうせなので聞いてみることにした。

 

「ところで、中で何かあったんですか? 皆庭に居るので気になったんですが」

「そうです! そのことを知らせようと呼び止めたんです!!」

「あ、そうでしたか。それで、本当に何があったんですか?」

 

 相変わらず気楽な美鈴だが、妖精メイドの方はそうではない。この上なく切羽詰まった様子なのだ。流石にその雰囲気を異様に感じた美鈴は、その表情を険しくさせた。

 

「あの、紅魔館の館内で、その、お嬢様が暴れてるんです!!」

「お嬢様が? 日常茶飯事じゃないですか?」

「そうじゃなくて、言葉も何も通じなくなって、ただ無差別に色んなものを壊したりしてるんです!! 襲われて大怪我をした妖精メイドも居て……」

「それで、安全を確保するために皆で外に出てきたという訳ですね。吸血鬼は日光が苦手だから」

「そのことです。私が咲夜さんを見付けて、このことを伝えたらこうする様に言われて……」

 

 言われてから美鈴は改めて辺りを見回してみると、咲夜が居ない。嫌な予感が脳裏を過ったが、それを無視して美鈴は聞く。

 

「では、咲夜さんは何処に? まさか、まだ中に居るんですか?」

 

 その質問に対する妖精メイドの反応を見て、美鈴は答えを察した。なので、質問に答えようとした妖精メイドを手で制した。にわかには信じ難いが、この年中忙しい紅魔館でわざわざ自分の為にこんな大掛かりなドッキリを仕掛けるとは思えない。

 そんな思考の途中だった。

 今美鈴達が居る直ぐ近くの紅魔館の外壁が突然爆発したのだ。

 美鈴達より近くに居た妖精メイド達から甲高い悲鳴が上がった。突然の出来事に庭は軽いパニック状態になってしまう。

 美鈴と話していた妖精メイドもオロオロしていたが、美鈴に急に両肩を掴まれて我に返った。

 

「一つ、私からも頼んでも良いでしょうか」

「は、はい、何でしょうか!?」

「今この庭に居る全員を門の外に退避させてください。この庭だと戦闘の余波を受ける可能性があります」

「戦闘って……そんな大規模になるんですか?」

「恐らくですが、中で咲夜さんは戦っているのでしょう。時間稼ぎとか何とか理由を付けて」

「そうですけど……」

「門の外に居た私が気付かなかったってことは、まだ騒ぎが起こって間もない。時間が長引けば、流石に私でも気付きますし。つまり、まだ戦いが始まって間もないということ。裏を返せば、今の爆発は所謂前座になります」

「……戦いはこれから激化するということですか?」

「正解。庭に居ても被害無しとはいかないでしょう」

 

 妖精メイドの顔が青褪める。これからのことを思ってか、将又咲夜の身を案じたのかは分からないが、状況が芳しくないことを理解したのは感じ取れた。

 

「分かりました! さっきみたいに皆に呼びかけます!」

「お願いしますね」

「それで、美鈴さんはどうするんですか?」

「紅魔館の中に行きます」

 

 その答えに妖精メイドの顔は更に青褪めた。制止を促そうと開きかけた妖精メイドの口に人差し指を当てて発言を止めさせた美鈴は笑顔で言った。

 

「だって私は、紅魔の門番ですからね。内であろうと外であろうと、私には紅魔館を守る義務があるのです」

「だからって……」

「紅魔館を守ると言うことは、何もこの館を守ると言うことではありません。ここの住民全てを守ることなのです」

 

 決意を固めた美鈴はその妖精メイドに背中を向ける。それは、最後の逃げ道を自ら断つ意味を込めていたのだろう。

 

「だから、相手が誰であれ、住民を脅かす者に容赦をしてはいけない。それが例え、暴走したお嬢様でもね」

 

 言うと、美鈴は玄関へと向かって一直線に走り出しす。

 妖精メイドが最後に見た美鈴は、右手を横に突き出して親指を立てていた。

 

「非力な私達を許してください。そしてどうか御無事で……!!」

 

 両手を握り締め、精一杯の願いを込めた妖精メイドはお腹から声を出して叫んだ。

 全員、門外へ退避。美鈴が告げた頼みを。

 




次の投稿からこの章の投稿時間は午後十時となります。
時間こそ遅いですが、どうか読んでください。

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