東方覚深記   作:大豆御飯

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第三章六話 独りの妹

 紅魔館には窓の無い地下室が有る。そこは物置等ではなく、その地下室を自室として生活している吸血鬼が居る。

 その吸血鬼はフランドール=スカーレット。当主であるレミリアの妹だ。

 かつてこの地下室に幽閉されていた名残から、今でもここを自室として使っているのだ。

 そんな彼女は今、

 

「暇だなぁ……」

 

 言葉の通り、暇だった。と言うのも、部屋に有る遊び道具は片端から壊してしまったのだ。人形も何もかも、全て壊して残骸となった。

 それは衝動的なものによるのではなく、日常的に壊れていく。どれだけ新品でも頑丈でも、問答無用で全て壊れていく。

 

「咲夜に頼んで何か作ってもらおうっと。ついでにお腹も減ったし、おやつ頼もうかな」

 

 紅魔館の中でも割と孤立している彼女の生活は、実に気ままである。昼間は紅茶を飲んだり寝たりしているレミリアと違い、昼間も何かしら見付けて遊び、夜になれば外に出て遊ぶ。流石に三食の食事は他の住人と取る様だが、それ以外は基本一人だ。

 

「何作ってもらおうかなぁ……お人形は直ぐ壊れちゃうし……まぁ、何作ってもらっても一緒ではあるけどさ」

 

 重い扉を開けて部屋の外へと出て行く。不自然に人気を感じられなかったが、フランドールは特に気にしなかった。皆忙しくて地下室の近くに居ないだけだと決め付け、それが事実ならば、結局誰も自分に注目をしてはいないと言うことに寂しさを覚えた。

 風通しが悪く蒸し暑い階段をぼちぼちと登っていけば、他の皆との感覚的な距離が縮まる。そう自分に言い聞かせると、重い足取りも段々と軽くなる気がした。

 

「咲夜は今どこに居るんだろう……たぶん、掃除中だと思うけど……」

 

 階段を登り切ったフランドールはそのまま人気の無い廊下を歩いていく。時折窓から僅かに差す日光を避けたりしながらどれだけ歩いて行っても何の気配も感じないことに少し不安を感じながらも、深く気にすることはなかった。

 

「さーくやー! どこー?」

 

 呼びかけても帰ってくる返事は無い。寂しさを通り越して苛立ちを自覚し始めるフランドールは、足音を大きくする。ズカズカと暫く廊下を進んで行けども、やはり誰とも出会うことが無い。しかし、苛立ってきたフランドールにとってそれは段々とどうでも良くなってきてしまい、寧ろ咲夜を見つけ出すことに集中し始めた。

 

「全く……意地でも見付けてやるわ。手当たり次第に部屋を漁る勢いでね!!」

 

 テンションも段々と上がってきたフランドールは足を速め、廊下を駆けて行く。咲夜が居そうな部屋を全て確認すると言う、迷惑極まりない行為に移ろうとする彼女だったが、不意にその行動が全て止まった。

 棒立ちになり、辺りを見回す。

 

「何か、変な感じがする」

 

 ポツリと呟いて、改めて周囲を見回す。未だに何者かの気配は感じられないけれど、何か妙な予感が彼女を包んでいる。

 そしてそれは唐突に訪れた。

 何処で起こったかは分からないけれど、体感出来る爆発の余波が地面を駆け抜けたのだ。

 足先から伝わり、頭の先まで揺れを感じたフランドールは、キョトンとした表情を一変させ、悪魔的な笑みを浮かべた。

 

「これは、どこかで戦いが起こってるって言うことかな?」

 

 戦いは彼女にとって、唯一壊れない遊び。場所は分からないが、紅魔館の中を駆けまわれば必ずや戦場に辿り着けるだろう。

 彼女は再び走り始めた。己の欲求に駆られ、走り始めた。

 

「多分向こうだよね。足に伝わってきた振動から考えると向こうなはず」

 

 感覚的に得た情報を頼りに大体の場所を考える。そして、場所が掴めれば迷うことは無い。

 彼女は戦いを求め、その足を速めていく。

 

 

 

 

 

「吸血鬼の特性として流水の中では行動出来ないの。だから、キッチンにある大きな鍋に出来る限り水を溜めるわよ」

「大きな鍋って……ここにあるの全部ですか!?」

「当たり前でしょ。兎に角、お嬢様が来るまでに対抗できる手段を一つでも増やしておくの。これは時間との勝負よ」

 

 フランドールが廊下を駆けまわっている頃、咲夜と美鈴の二人はキッチンに居た。先程稼いだ時間にものを言わせて、圧倒的な相手に一泡吹かせるに足る準備をしていた。

 吸血鬼は他の妖怪と比べて力が強い代わりに、特徴的でかつ単純な弱点が多い。咲夜の言った通り、流水もその一つ。他の弱点と違い完全な無力化は出来ないが、隙ならば作ることが出来るだろう。

 

「で、この鍋の水を掛けた後はどうするんですか?」

「分からないわ。時の判断に委ねるしかない」

「え」

「吸血鬼は弱点が多い代わりに、その弱点の一つ一つが致命傷になりかねないの。お嬢様の弱点を突く手段は大量にあるけれど、不用意に使うと命に関わりかねないのよ」

 

 そう、この戦いは相手を殺すことが目的ではない。兎に角、無力化させることが第一なのだ。故に、過剰な行為を行うことが出来ない。

 

「それ、だいぶ不味くないですか?」

「ハッキリ言うと、かなり不味いわ。何とかしないといけないけど、手段は限界まで限られているんだから」

 

 水でいっぱいになった鍋を流し台から出し、別の鍋に水を入れ始めながら咲夜は続ける。

 

「最悪、空に頼る」

「空……日光ですか!?」

「極めて一瞬だけ当てるのなら、恐らく無力化するに止まるから」

「失敗したら終わりじゃないですか!」

「だから、最悪と言ったの。最終手段に決まってるでしょ」

 

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