東方覚深記   作:大豆御飯

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第四話 残されたメッセージ

 そんな訳で、アリス及び魔理沙のもとに何かあったのか聞きに行くことにした霊夢と文の二人。不可思議な力で宙に浮かぶことが出来る二人は、歩く速度の何倍もの速度で進んでいく。幸い、その二人は同じ魔法の森に住んでいるので、そこに行けば二人に会えるだろう。

 

「先にどっちから行く?」

「魔理沙さんの方が良いかと。一度霊夢さんに打ち明けてますから、気分を害する確率もそう高くありません」

「じゃあ、魔理沙の所に行くわよ! ……悪いわね、証拠も何もない、もしかしたら何でもないような出来事にムキになる私に手伝わせちゃって」

 

「構いませんよ。こちらこそ普段からお世話になってます。その借りとでも考えてください」

 

 微笑みながら言われた言葉に、霊夢は助けられたような感覚になった。自分の言った通り、嫌な予感も、もしかしたらただの杞憂で、魔理沙には何もないのかもしれない。そんな程度のことに、共に真剣に向き合ってくれる存在を、霊夢は初めて大切なものに感じた。そして、その姿に記憶の中の魔理沙が重なり、僅かな安堵の中に焦燥を生み出す。

 

「少し、急ぐわよ」

「了解です。そちらの速度に合わせますよ」

 

 耳元を大きな空気の塊が流れた感覚と共に、景色がより激しく流れる。普段なら生じる爽快感も、今は薄れていた。

 一瞬ごとに速度を増していく二人。と、そんな二人の視界の端に、何者かが映った。紫を基調とした服装のその人影は、二人とは正反対の方向に進んでいる。そして、その人影は二人にとって見覚えあるものだった。

 

「あら、パチュリーじゃない。」

「んっ……? あ、丁度良かったわ。私も貴女に用事があったの。」

 

 パチュリー=ノーレッジ。霧の屋敷の畔に建つ広大な屋敷、その地下にある巨大な図書館の主たる妖怪の魔法使いである。生まれながらの喘息持ちで、魔法を上手く唱えられないことがあるが、魔法使いとしての実力は非常に高い。また、普段はその図書館に籠っているために、滅多に外に出ることはない。

 

「して、用事と言うのはいったい何なんですか?」

「単刀直入に言うわね。まずは見てほしい物があるんだけど…」

 

 そこでパチュリーは徐に一本の鍵を取り出した。その鍵に繋がっている紐はどこか汚れてはいるものの、鍵自体にはまだ光が残り、使われている時間を感じさせる。恐らくは十年より短い。それは、妖怪にとっては刹那に等しい時間であるが、人間の霊夢には、それが永遠のように長いものに感じられた。

 

「これ、恐らく霧雨魔法店の鍵だけど、昨晩に魔理沙が図書館に置いていったものなのよ」

「置いていった……?」

「えぇ、突然訪問してきたと思ったら、ちょっと話をした後に、机の上にこの鍵を置いて帰っていったのよ。それも、わざわざ私の見えやすい位置に」

「その時、どんな感じだったの?」

「日が沈んだころに、いつもと違って咲夜に案内されて図書館に来たのよ。それで、しばらく他愛も無い話をしたところで、突然『今からアリスがどうやって人形を動かしてるか調べに行こう』って言い出したの。前後の脈絡も考えてないし興味もない発言だったから、勢いで断ったんだけど。で、その後すぐに魔理沙は帰っていったわ。机の上にこれを置いていったから呼び止めたのだけど、無視して帰っていったわ」

 

 そう説明されても、霊夢にはその光景があまり想像出来なかった。日頃の魔理沙を考えたら、パチュリーに自分の家の鍵を渡すということが有り得ないからだ。周知のことであるが、魔理沙はよく他人のものを盗る。パチュリーの蔵書もまた例外ではなく、頻繁に図書館に盗りに行っていることは、一部では有名な話だ。逆に言えば、鍵を渡すということは、相手に本を取り返す方法を与えているということになる。

 

「まさか……!」

 

 その声を上げたのは文。何か、悪い予感がしたのだ。

 以前、文々。新聞にて、魔理沙の盗難について触れたことがある。その時に間接的に聞いた彼女の言葉が、その悪い予感を作っていた。そして、その言葉の通りなら、すでに手遅れである可能性も非常に高い。その言葉を端的に表すとどうなるか。

 

「『私が死んだら、本を回収しろ』。確か、以前魔理沙さんはそのようなことを言ってたんですよね……?」

「そう。つまり、魔理沙は私に『私は死ぬ』と伝えてるとしても過言ではないの」

 

 抑揚の少ない声でいわれて、確実に霊夢の息が詰まった。今まで、どんな状況であろうと感じたことのなかった死と言う感覚が、一瞬で身近なものに変貌し、平和ボケな心を蝕んでくる。それでかつ、つい昨日まで話していた相手が、もう永久に話をすることが出来ないかもしれない事実は、とても許容出来るものではなかった。

 

「じ、じゃあ、昨日私達の所に来たのも……」

「もし、本当に死ぬ気だったなら、別れを告げに来たことに間違い無いでしょう」

 

 認めたくないもの。『もう会えない可能性』がある現実。そして何よりも、最後の時間になっているかもしれないあのやり取りが、全て後悔へと変化していく。そして、その負の感情の奔流に抗えず、心の中心に立つ弱い柱がゆっくりと削られていく。

 

「私は今からアリスのところに行く。魔理沙があの状況でアリスの名を出したことには、きっと意味があるから」

 

 そう言ったのは、言うまでもなくパチュリーだった。彼女は、いつもと変わらない、気だるげな顔のままだった。別に、霊夢達二人に強要する様子はなく、あくまでも自分の予定を言っただけのようだった。それでも、

 

「なら、私達も一緒に行くわ。文もそれで構わないでしょ?」

「えぇ、問題ありませんよ」

 

 表ではいつも通りに見せかけた。しかし、裏では不安で仕方なかったのだ。一人でも多く、誰かの傍に居なければ、自らの中から襲いくる後悔と罪悪感に、精神が押し潰されてしまうような、どうしようもない不安が心を満たしているのだ。

 決して、誰にも見せられない。水面下で霊夢は一人、自らに苦しめられ、もがいていた。

 

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