東方覚深記   作:大豆御飯

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もう少しで連載開始から半年。
のんびりやってますが、今後ものんびり書いていきます。


第三章十話 華人小娘の覚悟

 裏が擦り減り、地面の固さが直接足の裏に伝わる様な靴を履き続けている美鈴は、独り長い廊下を歩いていた。

 小悪魔は咲夜の指示を守ってフランドールの護衛をしてくれることだろう。そして、その咲夜は自らの手で安全な所に寝かして来た故に、今の彼女に共に戦ってくれる者は居ない。

 不安が心に暗い影を落とすが、直ぐに首を振ってその不安を払拭する。考えるまでも無い。今まで自分は、門番として主も知らない場所で独り戦ってきたではないか。この戦いがどんなものであろうと、その延長でしかない。

 そう何とか自分に信じ込ませることで精一杯な事実も、確かに感じてはいるけれど。

 

「さて……お嬢様の気配はどこから感じるかしら……」

 

 歩きながら、美鈴は目を細める。出来る限りの視覚情報を抑え、気配を探ることに集中する為だ。

 窓の外から聞こえる妖精メイドの声も段々と意識から遠退いていき、その気配が次第に鮮明になっていく。あくまでも感覚的なその気配に、段々と輪郭が付き始める。

 そして、

 今、自分の向いている方向、その右斜め前方に、戦うべき相手の気配を察知した。

 

「よし……!!」

 

 目を大きく開いた美鈴は拳を握り、一直線にそこへと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

(とんと誰も居なくなったわね……咲夜や美鈴、それにフランは何処に行ったのかしら?)

 

 相も変わらず操れない体の中で、レミリアはずっと考えていた。

 戦いの最中では焦ったものの、それをいつまでも続けることは彼女の中のプライドが許さない。先の焦りは既にその面影を無くし、いつもの様なカリスマ性を戻していた。

 とは言っても、体に現れない故に、客観的には何も分からないのだが。

 

(さて……これからどうなるのかしら。恐らく咲夜辺りがもう一度戦いに来ると思うけど……フランをどうしているかも考えるべきところかもしれないわね)

 

 考えた所で何の進展も無いのは承知しているのだが、考えないとやっていけない。自覚はしたくないが、内心かなり参ってきているのだ。

 

(誰が動くのか、それとも私の体が動くのか……どうやら、その結論は早々に下された様だけど)

 

 思考を行うことしか出来ないレミリアが意識の端に、何者かの影を感じた。

 ゆっくりとレミリアの体はその影に正面を向ける。余裕の混ざったその挙動は、敵意を持って対峙するその影に対して威圧感を与えるだろう。

 けれど、正面に見据えたその影は後ずさることもせず、ただただレミリアを見詰めていた。

 

(美鈴……)

 

 覚悟を決めたと言わんばかりに口を結び、紅魔の門番がそこには仁王立ちしている。

 周りに誰かが居る訳ではない。この圧倒的な相手を前に、美鈴はたった独りで挑もうとでも言うのだろうか。

 

「改めてですが、主に拳を向けること、ここに深くお詫び申し上げます。この戦いが終わった暁には、私のことを罰していただいて構いません」

 

 少し肩に掛かっていた後ろ髪を背中側に払いながら、美鈴は言葉を続ける。

 

「ですが、私とて門番。紅魔館を守る為ならば、この命を捧げる所存です。それ故に、例え相手が主であろうとも決して譲ることが出来ない戦いが有ります」

 

 握られていた二つの拳を、ゆったりと開き、腰を下ろしていく。

 心なしか、美鈴の瞳にナイフの様な鋭さが浮かんだ。

 

「この世界において最も近い位置で、私の最期の晴れ舞台を篤とご覧ください。願わくば、後の誉れにならんことを思って」

 

 音を感じさせない、流れる様な挙動で両の手を構える。

 死線に立ったその全身全霊の覚悟。果たして、その思いは届くのか。

 

(美鈴……どうやら、貴方はまだ分かっていないことがあるみたいね)

 

 体は何も発さない。美鈴には何も伝えられない。

 けれど、思いが伝わることを信じて、レミリアは心の中で命令する。

 

(だから、まずは私を倒しなさい。そして、何よりも無事でいること)

 

 レミリアの体が不敵に笑う。

 絶対的強者と有力な弱者の激突が、今ここに始まる。

 

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