東方覚深記   作:大豆御飯

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この小説の第一話投稿から、めでたく半年がたちました。
とは言っても、半年たってもこれだけしか話が進んでいませんが……
おれからも、どうぞよろしくお願いします!!


第三章十四話 もう一度

 何かが横から直撃した。

 一直線に標的の命を刈り取る筈だった体は、いとも簡単に跳ね飛ばされた。

 そして、衝撃が一瞬遅れて体を突き抜ける。具体的で確かな痛みを感じる。

 

「もう、何もさせない……」

 

 そんな、重い声が響いた。床に散らばった瓦礫を踏み潰す音が、段々と近付いて来ている。

 

(……美鈴……?)

 

 ズタボロにやられ、腐っていたはずの存在。もう敵性は無いと判断し、排除を後回しにした筈の存在が、またこちらを鋭く睨んでいる。

 その目は、殺意に満ちていた。先の戦いとは違う、無力化しようとか、そんな生温い感情ではない。紅く変色したその瞳は、彼女の優しさや温かさを完全に殺している。

 

「決めました……この体朽ち果てて、もう原形も留めなくなったとしても、貴方だけは潰してやる」

 

 何かが爆ぜた。枷が外れた猛犬が、その牙を見せる。

 

(……面白いじゃない。なら、その覚悟、この私に見せてみなさい)

 

 飼い犬に牙を向けられる、それはまさにこんな感覚だろうか。

 実感し、楽しみ、その上でレミリアは笑みを消した。

 鎖の付いていない猛犬など、飼い犬としては必要ない。ならば、排除してしまえば良い。そんな狂い、壊れ果てた思いが心を満たしている。

 もはや、何が狂っていて、何が壊れていて、何が正義で、何が本心かも分からなくなった混沌の空間。人ならぬ両者は、もはや何を目的としているのかも忘れているのかもしれない。

 

 レミリアがその体を美鈴に向ける。今までよりも冷酷な雰囲気を纏い、ただ美鈴を見ている。隙を見せれば猶予は無い。

 ふと動かした足元に何かが当たった。

 

(……銀の、ナイフ……)

 

 つい先ほどまで咲夜が使っていた、綺麗に研がれたナイフ。

 どこかで聞いたことがある。吸血鬼の退治には銀の弾丸が有効だと。

 詳しいことは分からない。けれど、材質が同じならば、代用出来る筈だ。

 

(……これしかないか)

 

 そう、決め付けた。

 拾う隙は見せてはならない。だから、美鈴は壁に向けてそのナイフを蹴り上げた。回転しながら飛んでいったナイフは壁に鋭角に反射する。その軽やかな衝突音が、引き金となる。

 両者が同時に床を蹴った。

 空中を漂うナイフを右手で掴んだ美鈴は、そのまま真っ直ぐにレミリアに突き出す。

 神速のその突きは、寸分の狂いも無くレミリアの左胸を狙う。

 けれど、レミリアもまた冷静だった。瞬き一つせず、ただ左腕を出して美鈴の右手を掴む。純粋な腕力が美鈴の右腕の骨を歪ませ、その直接的な痛みに表情を歪ませる。

 レミリアは無表情のまま右手に深紅の光弾を浮かべる。

 言うまでも無く、それはグングニルの前触れ。このゼロ距離で投げられれば、回避は不可能に等しい。

 故に、美鈴は躊躇わなかった。

 迷わずに、レミリアのその小さな右手を左手で包む様に握った。

 レミリアの表情に一瞬焦りが浮かんだ。そう見えたその瞬間、レミリアの右手の中で、行き場を失った光弾が爆ぜた。至近距離で対面していた両者をその爆風は吹き飛ばし、ある程度の距離を置かせる。ただ、暴走した力を爆発させたその代償は少し大き過ぎた。

 

(……左手が、もう使えそうにないわね)

 

 痛みは感じない。それを通り越して、感覚が無い。

 肘から下、力無く垂れ下がる人形のような腕を見ながら、美鈴は少し笑った。

 それは、レミリアも同じこと。それだけでも十分な結果だ。

 

(さて……これからどうしようか。もう同じ手は使えないだろうし……)

 

 ナイフを持った右手を構えながら、ふっと息を吐く。

 目の前のレミリアは、動かなくなった右手を見詰める。つまらなそうな顔を浮かべたレミリアは、顔を逸らした。とても面倒臭そうに、今度は別のものを見詰める。

 

 それは、起き上がろうとする咲夜だ。

 

 美鈴の表情が変わる。

 まさか、咲夜をさっさと殺してしまおうとでも考えを変えたとでも言うのか。

 不味い、そう確信した美鈴は、一気にレミリアに駆ける。一瞬でもレミリアの注目を戻さなければ、今度こそ咲夜は止めを刺される。近接攻撃は、それでも間に合いそうにない。

 思考を切り替える。ナイフを持つ右手を一気に振りかぶる。

 それを、そのまま投げた。鋭く縦に回転するナイフは、レミリアの側頭部へと吸い込まれる様に飛んでいく。

 その刹那、レミリアの横顔が嗜虐的な笑みに満ちた。

 美鈴の背中を悪寒が走ったが、決定的に遅かった。

 軽やかに、優雅にそのナイフをレミリアは掴む。そのまま体をくるりと一回転させると、その遠心力を乗せて一気に投げつける。

 真っ直ぐ、美鈴の心臓を狙って。

 視界の奥、咲夜が何か言おうとしていた。

 けれど、美鈴はその迫ってくるナイフを、ただ傍観している。

 もう避けられない。

 驚愕と残虐性が交差する。それは、たった一瞬の出来事。

 

 昼間の屋敷の中、何かが壊れた。

 

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