固く目を閉じ、終わりの瞬間を待っていた。けれど、幾ら待ってもそれは訪れず、砕ける様な音が響いただけ。
何か、細かいものが地面に落ちる音が聞こえる。
そっと、目を開けてみた。光が目に入り、目の前の光景を鮮明に描き出す。それは、忌々しそうな表情を浮かべるレミリアで、その視線は美鈴にも咲夜にも向いていなかった。
「本当、めーりんは直ぐに油断するんだから。そういうの危ないよ」
そして響いてきたのは、幼い少女の声。それは、握った右手を真っ直ぐ前に突き出す、紅い少女。
「妹、様……?」
「どうしたのさ、そんな顔して」
「何で……何でここに……?」
吸血鬼、フランドール=スカーレット。
そう、あらゆる物を破壊する能力を持つ少女は、ゆっくりと美鈴に歩み寄る。
「何でって……そんなの薄々分かってるでしょ」
握り拳を開いたフランドールは笑った。
「逃げるべき場所を教えてくれたのは貴方ですよ。その結果として今この状況になっているだけです」
「そういうことだよ」
新たな声は、丁度咲夜が居る方向から聞こえてきた。紛れも無く、そこに居たのは小悪魔だ。傷だらけで真面に動けない咲夜を両手で抱え、その服が地で汚れることも気にせずに微笑を浮かべている。
本来なら、ここに立つことなく、紅魔館の外に抜け出せていた筈の二名。
その二名が、現実としてここに立っている。
「めーりん」
「な、何でしょう……?」
「戦おう。私と一緒に。お姉様と、戦おう」
明確に、強い意志の籠った言葉。フランドールから美鈴に贈られた言葉は、確実に何かを変えた。
「ご安心を。咲夜さんはこの私が責任をもって安全な所まで遠ざけます」
「小悪魔さん……」
「だからね、美鈴。これは、守る為の戦いじゃない」
美鈴の正面に立ったフランドールは、美鈴の右手を両手で包み込み、そして宣言した。
「私達が、私達である為の戦いなんだ」
紅魔館は内側から崩れかけている。
主は暴走し、その従者は深い傷を負い、門番も既に傷だらけ。
それでも、きっと元に戻れる。今この時を無かったことには出来ないけれど、以前の様な生活をきっと取り戻せる。
だから、フランドールはそう宣言した。
「行こう、一緒に」
その声がこの空間の中に響いたその瞬間、止まっていた地獄が再び顔を覗かせた。
圧迫する様な気配が周囲を満たし、レミリアがその口角を吊り上げる。
今のレミリアに小悪魔と咲夜は眼中になく、ただ、明確な敵意を見せる美鈴とフランドールをその視界の中心に据えている。
所詮、潰す相手が増えただけ。そう判断したレミリアは、躊躇しなかった。
深紅の、飛び散る鮮血の様な弾幕が展開される。
刹那、フランドールは再び一振りの大剣を生み出す。
禁忌『レーヴァテイン』
あまりにも長大過ぎる大剣は、もはや傷を与える程度の威力ではない。一方的な破壊を生み出す大剣を両手に握るフランドールは、そのままレミリアの弾幕に真正面から立ち向かっていく。
フランドールはちらとレミリアの立つその先を見る。先程までそこに居た小悪魔は、無事に部屋を抜けた様だ。
ならば遠慮はしない。両手に力を込めたまま、レーヴァテインを全力で左に薙いだ。
衝撃が辺りを貫く。弾幕を切り崩し、己の衝撃によって更なる弾幕を生み出した破壊の一振り。
その火力を前に、レミリアは笑い、そして美鈴は圧倒された。
もはや、その火力は美鈴の持つ力の限度を遥かに超えている。技量だけで追いつくことが出来ない、そう思えてしまう。
けれど、そんな美鈴にフランドールは叫んだ。
「行くよ、めーりん!!」
その言葉は、凍った足を溶かすには十分過ぎる。
拳を握ると、美鈴は躊躇をしなかった。その戦場、地獄の中心へと覚悟を持って突撃する。