東方覚深記   作:大豆御飯

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第三章十五話 戦地に舞い戻る

 固く目を閉じ、終わりの瞬間を待っていた。けれど、幾ら待ってもそれは訪れず、砕ける様な音が響いただけ。

 何か、細かいものが地面に落ちる音が聞こえる。

 そっと、目を開けてみた。光が目に入り、目の前の光景を鮮明に描き出す。それは、忌々しそうな表情を浮かべるレミリアで、その視線は美鈴にも咲夜にも向いていなかった。

 

「本当、めーりんは直ぐに油断するんだから。そういうの危ないよ」

 

 そして響いてきたのは、幼い少女の声。それは、握った右手を真っ直ぐ前に突き出す、紅い少女。

 

「妹、様……?」

「どうしたのさ、そんな顔して」

「何で……何でここに……?」

 

 吸血鬼、フランドール=スカーレット。

 そう、あらゆる物を破壊する能力を持つ少女は、ゆっくりと美鈴に歩み寄る。

 

「何でって……そんなの薄々分かってるでしょ」

 

 握り拳を開いたフランドールは笑った。

 

「逃げるべき場所を教えてくれたのは貴方ですよ。その結果として今この状況になっているだけです」

「そういうことだよ」

 

 新たな声は、丁度咲夜が居る方向から聞こえてきた。紛れも無く、そこに居たのは小悪魔だ。傷だらけで真面に動けない咲夜を両手で抱え、その服が地で汚れることも気にせずに微笑を浮かべている。

 本来なら、ここに立つことなく、紅魔館の外に抜け出せていた筈の二名。

 その二名が、現実としてここに立っている。

 

「めーりん」

「な、何でしょう……?」

「戦おう。私と一緒に。お姉様と、戦おう」

 

 明確に、強い意志の籠った言葉。フランドールから美鈴に贈られた言葉は、確実に何かを変えた。

 

「ご安心を。咲夜さんはこの私が責任をもって安全な所まで遠ざけます」

「小悪魔さん……」

「だからね、美鈴。これは、守る為の戦いじゃない」

 

 美鈴の正面に立ったフランドールは、美鈴の右手を両手で包み込み、そして宣言した。

 

「私達が、私達である為の戦いなんだ」

 

 紅魔館は内側から崩れかけている。

 主は暴走し、その従者は深い傷を負い、門番も既に傷だらけ。

 それでも、きっと元に戻れる。今この時を無かったことには出来ないけれど、以前の様な生活をきっと取り戻せる。

 だから、フランドールはそう宣言した。

 

「行こう、一緒に」

 

 その声がこの空間の中に響いたその瞬間、止まっていた地獄が再び顔を覗かせた。

 圧迫する様な気配が周囲を満たし、レミリアがその口角を吊り上げる。

 今のレミリアに小悪魔と咲夜は眼中になく、ただ、明確な敵意を見せる美鈴とフランドールをその視界の中心に据えている。

 所詮、潰す相手が増えただけ。そう判断したレミリアは、躊躇しなかった。

 

 深紅の、飛び散る鮮血の様な弾幕が展開される。

 

 刹那、フランドールは再び一振りの大剣を生み出す。

 禁忌『レーヴァテイン』

 あまりにも長大過ぎる大剣は、もはや傷を与える程度の威力ではない。一方的な破壊を生み出す大剣を両手に握るフランドールは、そのままレミリアの弾幕に真正面から立ち向かっていく。

 フランドールはちらとレミリアの立つその先を見る。先程までそこに居た小悪魔は、無事に部屋を抜けた様だ。

 ならば遠慮はしない。両手に力を込めたまま、レーヴァテインを全力で左に薙いだ。

 衝撃が辺りを貫く。弾幕を切り崩し、己の衝撃によって更なる弾幕を生み出した破壊の一振り。

 その火力を前に、レミリアは笑い、そして美鈴は圧倒された。

 もはや、その火力は美鈴の持つ力の限度を遥かに超えている。技量だけで追いつくことが出来ない、そう思えてしまう。

 けれど、そんな美鈴にフランドールは叫んだ。

 

「行くよ、めーりん!!」

 

 その言葉は、凍った足を溶かすには十分過ぎる。

 拳を握ると、美鈴は躊躇をしなかった。その戦場、地獄の中心へと覚悟を持って突撃する。

 

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