荒れ果てた紅魔館。それを、妖精メイド達は門の外から眺めていた。
つい先ほど、咲夜を抱えて出てきた小悪魔は『永遠亭に行く』と妖精メイド達に伝えたまま、逃げる様に消えてしまった。
そして、館内に残っているのは、レミリアと美鈴、そしてフランドールだけ。
少し前の紅魔館を貫いた紅い槍の衝撃で、紅魔館は外見からも壊れていることが分かる。
「ね、ねぇ……あの中で生き埋めになっていたり、しないよね……?」
「し、しないって。大丈夫、だと思うよ……」
不安の声があちらこちらから上がり、全体の雰囲気が暗くなっていく。
(どうしよう……)
紅い槍が貫いてから、紅魔館から聞こえる音が全て消えてしまった。これが、何を意味するか、妖精メイド達には分からない。
咲夜や美鈴から伝言を受けた妖精メイドもそれは同じ。無機質な門を挟んで、傍観することしか出来なかった。
(じっとしてちゃ、ダメなのかな……)
門に歩み寄り、そっと手を掛ける。
この仕切りを外すことは簡単だ。ただ、押せば良い。
問題はその勇気の有無だ。この先に入り込んで、仮に暴走したレミリアに遭遇したらどうなるか。その結果等言うまでもない。
(だからって、じっとしてちゃ分からないもん……)
心の底から浮かんでくる葛藤。門に掛けた手が自然に震える。
その様子を心配した他の妖精メイドが彼女に声を掛けた。
「どうかしたの?」
「どうかしたって……こんな状況だもん」
振り返り、声を絞り出す。
「このまま……このまま、あの時間が無くなっちゃうんじゃないかって、どこか思ってしまうの」
「……うん」
その一言が聞こえた妖精は、皆同様に下を向いた。
嫌な想像はしたくはない。けれど、幼過ぎる思考は、そんな想像を無理に誘ってくる。
「だから、言われたことを破ってでも、中に、入らないといけないのかなぁって」
「ダメだよ!!」
「何で!?」
「ダメだよ……そんなの、良くないよ……」
きっと、誰もがそうしたい。だけど、中に入るのは危険すぎる。
美鈴も、妖精メイド達を被害に遭わさない為に外に出る様に言ったのだから。
「……そうだよね」
「うん……ごめんね」
謝るその声に覇気は無い。
ただ、変化は唐突に訪れた。
「あ」
ずっと紅魔館の玄関を見詰めていた妖精メイドがぽつりと声を上げた。その声に反応して、他の妖精メイドが一斉に玄関の方を向く。
遠くに見えるそれは、目を凝らして初めて僅かに様子が見える程度。それでも、ゆっくりと開いているのが見て取れる。
「あれ……」
それは、不幸の前兆ではなかった。
開いた扉から出てきた影は、紛れも無い味方。
レミリアを抱える美鈴と、その傍らに立つフランドールだった。
日光を浴びない様に美鈴とフランドールは日傘を差し、一歩ずつ門へと歩いてくる。その最中、双方がこちらに気付き、そしてフランドールが手を振っていた。
何かの堰が壊れる。入ってくるなと言われた庭の中へと、門を開けて飛び出していく。
そして、それを制す声は聞こえなかった。
一直線に、その元へと駆けていく妖精メイド達。距離が近くなるにつれて、鮮明になるその笑顔。
「……入ってくるなと言いましたのに」
「申し訳ありません。我慢、出来なかったんです……!!」
「全く……」
沢山の妖精メイドに囲まれ、呆れた様な声を漏らす美鈴。
それでも、そこには笑顔しか無かった。
「その……よく、御無事で……!!」
「当然です。私は門番なんですから」
「兎に角、今はここを離れた方が良いかもね。お姉様をこんなにした奴が近くに居てもおかしくないし」
「そうですね。喜ぶのは暫く後に回して、今はここを離れましょう」
笑顔しか無いからと言って、安心できる訳じゃない。その表情に真剣さを戻した美鈴は、先導して門の外へと向かう。妖精メイドやフランドール達もそれに続き、やがて紅魔館の敷地内に残っているのは、ただ二人になっていた。
そう、一部始終を見ていた撫子と棗だ。
二人は、互いに微笑みながら呟く。
「ま、結果は上々じゃないかな? ここでも同じ様に、勧善懲悪は証明された訳なんだからさ」
「そうね。ターゲットに選んだ甲斐があったわ」
傍から聞けば、その真意は分からない。
けれど、二人は、笑っていた。
「リミットは近いわ」
「分かってる。急いで次のターゲットに向かわないとね。多分、向こうも動いてるだろうし」
虚空に穴が開く。縦横無尽な移動を可能とする正体不明のその穴。二人は、やはり躊躇うことなくその穴の先へと進んで行った。
「正義は勝つ。本当にそうだって、教えて頂戴ね」
そんな言葉を残して。
これにて第三章は終了となります!!
ここまで読んでください、本当にありがとうございます!!