「……沢山居ますね……」
「百鬼夜行ってこんなのを言うのかな? 今昼だけど」
物陰に隠れ、山から降りてくる大量の妖怪達を観察する妖夢と鈴仙。意志が無く、何かに操られている様に動く妖怪達はまるでマリオネットの様だ。
何か破壊活動をする訳でもない。人を襲う訳でもない。
地上に降り立った妖怪達は、ただ何処かへと歩いて行くだけ。最初こそ危険なものに見えたが、それほどのものではないのだろうか。
「どうする? このまま暫く様子を見てみる?」
「あまり刺激をするのも良くなさそうですからね。ただ……何か目的があって何処かに向かっていたとしたら、最悪それを確かめないといけないですが……」
「そうか……兎に角、慎重さが大切なのには変わりないわよね」
「はい」
奇妙な光景を前に、二人は息を潜めていた。
「先ずは何処から主に入ってくるか確かめるか。大体の見当は付くが、知ったつもりになるのは良くないから」
妖怪が闊歩する中を歩いて行く慧音。初めは攻撃を受けることも考慮していたが、妖怪達はただ移動しているだけで何もしてこない。脅威があることに変わりないが、何かしてくるよりはまだ良い。
「里の人は皆隠れたのか。先程の女性が皆に知らせてくれたのかな? だとしても、対応が早いのは良いことね」
人気が無い分だけ不気味さが増す。出来るならなるべく早く切り上げよう。そう決めてからまた暫く歩いていると、里の入り口付近に到着した。
慧音が思った通り、妖怪達はその入り口から入ってきている様だ。今はもう殆ど入ってきていないが、慢心は出来ない。
侵入場所の確認は出来た。これからどうしようか、等とゆっくり考えながら、今度は妖怪が向かう先を調べようと視線を動かす。
その視線の端、慧音は怪しげな人影を捉えた。
「……? 何をしているのかしら?」
その人影は、慧音の見知らぬ人ではない。服がボロボロだったり、髪が異様に長かったりと、不審な風貌ではあるが、あれは妖夢と鈴仙ではないだろうか。物陰に隠れて何やらぶつぶつ話し合っている。
もしかしたら、そんな考えが一瞬頭を過り、慧音は二人に接触する。
「どうかしたのか?」
「きゃっ!?」
「だ、誰!? って……慧音さんかぁ……」
「すいませんね。少し驚かせてしまったかしら」
余程二人の世界に集中していたのか、返って来たのはそんな大きなリアクションだった。
「それで、二人は何をしているんだ?」
「妖怪達のことですよ。恐らくですが、貴方もこの突然のことを調べているのでしょう?」
「まぁ、そうなるな。私は今、何処から里入ってきたのか確認しに来たわけ」
「来たってことは……寺子屋からここに?」
「あぁ。幸い、この妖怪達は攻撃してこなかった。不気味ではあったけれど、安全に来られたよ」
「そうなんですか……? な、なら、隠れていた意味って……」
「少々慎重になり過ぎていたみたいだね」
安全と分かったが、それでも二人は辺りを警戒しながら出て来る。改めて、妖夢のボロボロの風貌を不審に思う慧音だったが、特に何も聞かなかった。
「それで……何か掴めたりしたの?」
「まだ、何も分からないまま。ただ、誰かが後ろで操っていそうな雰囲気だと思っただけ」
「誰かが……」
「そちらは何かあったりする?」
「大体一緒です。ここから眺めていただけですから」
「そう、か……まぁ、仕方ないわね。まだ起こって間もないみたいだし」
三人で妖怪が進んで行く方向を眺める。
「あの……」
「どうかしたの?」
「関係があるかは分かりませんが……心当たりのある人が居るんです」
「それは、私達の知り合いかしら?」
「いえ、私が先程対峙していた人です。多分、鈴仙さんとも慧音さんとも面識はありません」
控えめに妖夢は口を開いた。何か、嫌な思い出なのか、その顔には雲が掛かっている様に見える。
「名前は確か……浅茅撫子と言いましたか。先程、霧の湖の湖畔でちょっとしたことをした人です」
「何をしたのよ」
「何と言いましょうか、簡単に言えば力を暴走させたと言ったところです。ターゲットは氷の妖精だったのですが、理性を失って無尽蔵な破壊行為に走っていました」
「なるほど、その時に戦って出来たのがその全身の怪我ね」
「まぁ、そういうことです。で、何とか倒した後にその撫子さんと対峙したんですが……」
一度間を置き、そしてしっかりと声に出す。
「その時言ってたんです。『私達が起こす異変を解決しろ』って」
「つまり、これもその異変の中の一つだと」
「はい。それも、幻想郷のあらゆる存在から悪として見られる様な、決して優しくないものかと」
「一見訳が分からないこの光景も、実は幻想郷の害になることか。まぁ、妖怪がこれだけ入ってくるだけでも十分危ないことなんだけど」
「この光景と撫子さんに接点があるならば、妖怪達が向かっている先には、必ず何かあると思うんです。私は人里に詳しくないので分からないのですが、この先に何かありますか?」
私達が起こす異変。その言葉に覚えた引っ掛かりを流しながら、慧音は道の先を見据える。
何があっただろうか。人里にある、幻想郷にもそのものに影響を与えそうなもの。
物に心当たりはない。ならば、者ならばどうだろうか。人里に住む、幻想郷での重要な役割を担う者。
それならば心当たりがある。
まず一人は自分自身、上白沢慧音だ。幻想郷の歴史を絶えず生み出し、博麗の巫女の代わりとして人間と妖怪の間に立っている。
そしてもう一人。
生と死を繰り返し、受け継がれる記憶から歴史を生み出す少女。稗田阿礼の生まれ変わり。
稗田阿求だ。
「まさか……」
稗田家の屋敷は人里の奥にある。
丁度、妖怪達が向かう道の先に無かっただろうか。
仮に、この二人の何方かが狙いだとしたら。慧音に何も被害も無い以上、狙われているのは阿求の方ではないだろうか。
「どうかしたのかしら?」
「稗田家だ……」
「え?」
「狙いは、きっと……阿礼の生まれ変わり、阿求……」
「じゃあ……」
「えぇ、急いだ方が良い。これだけの妖怪があそこに殺到したら、霊夢ですら守り切るのは難しくなるわ……!!」