東方覚深記   作:大豆御飯

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第四章四話 知識から生まれる答

「……外が騒がしいわね」

 

 鈴奈庵から借りている本を読んでいた阿求はポツリと呟いた。

 確かに、たまに外から人の大声が聞こえてくることはある。ただ、それは商売の呼び込みが多く、今この嫌な雰囲気を纏う騒がしさを今までに感じたことが無い。

 

「外で何か起こっているのかしら。変なことじゃなければ良いのだけど……」

 

 少しだけ外に向いた注目も直ぐ本へと戻る。

 けれど、その注目は再び本を外れる。部屋を仕切る襖が静かに開かれ、使用人が一礼して入ってくる。

 

「阿求様、お客様がいらっしゃりました」

「客? 呼んだりした覚えはないけど……」

「如何いたしますか?」

「まぁ良いわ。通しなさい」

「かしこまりました」

 

 また一礼し、使用人は静かに退室していった。

 再び部屋には彼女一人が残された。客が来るからと読んでいた本にしおりを挟み、棚に戻す。

 

「さて、誰が来るのかしら……小鈴、じゃないわよね。今はお店開いている時間だし。となると、きっと里の人間よね。妖怪の被害でも起こったのかしら……」

 

 それを想像し、表情を曇らせる。彼女が書く幻想郷縁起は歴史書であると同時、あらゆる妖怪への対処法を纏めたもの。被害があったと言うことは、その知識が十分に広まっていないと言うことでもある。極論と言えばその通りだが、どうしても彼女は責任を感じてしまう。

 

「……そうでないことを、願いましょうか」

 

 さて、来客は誰だろうか。悪い話が伴わなければ良いのだが。

 

『阿求様、お客様をお連れ致しました』

「良いわ、こちらに入れなさい」

『かしこまりました』

 

 静かに襖が開き、先程の使用人と客人が入ってくる。二人の客人は両方とも彼女が知る人物、他でも無い幻想郷縁起に纏めた者だ。

 

「では、失礼いたします」

「ありがとう。そして、いらっしゃい」

「はい、お邪魔しています」

「同じく、お邪魔してます」

「それで……何かあったのかしら?」

 

 訪ねてきたのは妖夢と鈴仙。ボロボロだったり薬売りの格好をしていたりと、特に妖夢の風貌が怪しいが、特に阿求は気にしなかった。

 

「簡単に言いますと、山から大量の妖怪が降りてきているんです」

「え?」

「それで、慧音さんも含めて色々考えてみた結果、貴方が標的かもしれないって考えてね。こうして、方向及び護衛に来たって訳」

「ちょ、ちょっと待って……!! 山から、妖怪が降りてきた? で、私を、狙っている……?」

 

 ずっと籠っていたからだろうか、外で起こっていたことに気付かなかった。もしや、先程の騒がしさはその所為か。

 

「はい。あくまで仮説の話ですが、妖怪が降りてきているのは事実です」

「ちょ、ちょっと確認してみても良いかしら!? その、私の記憶にはそんな光景が無いから、一応見ておきたいの」

「それなら、着いて行くわよ」

「お願いするわ」

 

 

 

 

 

「うわぁ、本当ね。これは人通りも無くなる訳だ」

「見ての通りの現状ですよ。裏で誰かが操っているみたいな」

「わざわざ伝えに来ていただいてありがとう。もしかしたら、何も知らずにうっかり出歩いてしまっていたかもしれないわ」

「ね、ねぇ……」

「あ、すいません。確認したから、もう下ろしてもらって大丈夫よ」

「ひぃ……」

 

 稗田家の屋敷を囲う塀の上から顔を出して外の様子を見る。その時に阿求は鈴仙に肩車をしてもらっていた。

 

「はぁ……意外と疲れる……」

「お疲れ様です」

「ごめんなさいね」

「いえいえ……私が言い出したことだから……ま、状況は解ったでしょ?」

「えぇ、確かに。何と言うか、機械的ね……」

「本当ですよ」

「それで、あの狙いが私かもしれないと」

「そういうこと」

「それは……ちょっと違うんじゃないかしら」

 

 頬に片手を置き、考える様な仕草をしながら、阿求は言う。意外だという表情を浮かべる妖夢と鈴仙だが、口を挟んだりはしない。

 

「だって、仮に私を狙うのなら、こんな大仕掛けをする必要があるかしら? 個人を狙うには無駄が多過ぎないかしら?」

「でも、多い方が確実性が増すと思いますが」

「違うのよ。確かにそうとも言えるけど、少人数で里の人間に化けて、貴方達みたいに客人を装ってここに侵入したらもっと簡単よ。その分、その少数にはリスクが掛かるけど、確実性は大きい」

「スパイ作戦の方が良いってことかぁ……」

「それによ。私の寿命は大体あと十年程。私を狙うってことは、幻想郷縁起に関係してくるんでしょうけど、ハッキリ言って私を狙うのはおかしいわよ」

 

 今度は両手を組み、当然と言った表情で阿求は続けた。

 

「私は死んでもいつか転生する。その時に今この歴史は纏められるし、そう考えると私を狙う意味は無い。意味があるなら、人質としてこの上ないって位よ。でも、この妖怪の量は何をするにしても人質なんて要らない。量で圧倒できる」

「で、でも……歴史の編纂に支障が出たり……」

「それは、上白沢先生にも言える話よ」

 

 二人の虚を衝いた様な言葉。その驚きの表情を見た阿求は締め括った。

 

「今ちょっと考えただけのことだけど言うわよ。この大量の妖怪は全員フェイク。貴方はさっき、『裏で誰かが操っているみたいな』って言ったわよね」

「は、はい。まぁ……」

「きっと、本命はその人よ。木の葉は森の中に何とやら、大量のフェイクの中に自分を隠して忍び寄っているんじゃないかしら」

「まさか……」

「そう。貴方達と別れた、上白沢先生のところにね」

 

 

 

 

 

 同じ頃、慧音は阿求の家の近くで避難を呼びかけていた。戦闘になれば、この辺りの住民は巻き込まれる可能性も出て来る。

 

「大方移動したかしら……まだ残っていないか、改めて確認しましょうかね」

 

 その避難も終わったと言える頃、慧音は少し足を止めた。

 違和感に気付くべきだった。違う場所へと移動していった人と一緒に、妖怪の影も消えていったということに。

 そして、新たな影が近付いていたことに。

 

「さて、漸く一人になったわね」

「む?」

「失礼。挨拶をしないのはいけないわね。すみません」

「いや……その、誰だ?」

「名前は聞いたことあるんじゃないかしら。昔じゃない、ついさっき」

 

 現れた女性は、僅かに口角を吊り上げた。

 

「確か、貴方はこの世界でも有数の知識人よね?」

「奢りたくはないけれど、まぁ、そうなるわ」

「そんな貴方に教えてあげる。虚無の桃源郷に生まれた未知の形をね!!」

 

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