東方覚深記   作:大豆御飯

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第五章 果てかける郷
第五章一話 あれから


 結局、その日霊夢達はアリスの家から外に出ることはしなかった。何か、根本的解決に走らなければならないと自覚しながら、それでも先の出来事が頭を離れず、未体験の感覚に封印されてしまったからだ。

 無慈悲にも地上を照らす太陽は西の空へと沈んでいく。朱く、炎の様に染まる大空は、そんな彼女等をどう見るのか。ただ見上げるしか出来ない彼女等に、知る由もない。

 

「皮肉なもんだな」

「本当にね」

 

 交わしていた呑気な会話もいつの間にか失せ、残ったのは矛盾した焦燥。呟きながら魔理沙が触れた窓の硝子は固く外の世界と隔離する。

 

「なぁ、霊夢」

「何よ」

「これから、どうなると思う?」

「……どうかしらね」

「だって、私一人を救うのに文とパチュリーが犠牲になったんだろ?」

「……そうね」

「なら、これから何かをするのに、一体どれ程犠牲が付いて来るんだ?」

「……さぁ、どうかしらね」

 

 覇気を感じられない、その焦燥と憂鬱に支配された言葉。ただただ淡々と流れ出て来る言葉は、一層の虚しさを掻き立てるだけだ。

 

「……浮かない様子ね」

「……あぁ、アリスか。まぁ、現実が頭に入ってくるとなぁ」

「それも仕方ないわよね……」

 

 小町の治療の為に寝室に居たアリスも同様で、その瞳は僅かに沈んでいる。

 

「……今日は、どうするの? 泊まっていくって言うなら、準備と言うか色々あるもの」

「私は、そうさせてもらうぜ。恥ずかしい話、今は外に出たくない」

「……そうね。お邪魔でなければ、私も泊めてもらおうかしら」

「了解したわ」

 

 頷いたアリスはそのまま台所へと消えていく。そろそろ夕食の時間だからだろう。

 

「小町はどれ位回復したのかしら」

「どうだかな。人じゃないから、ある程度回復速度は速いと思うが……」

「後で様子を見に行ってみましょうか」

「そうだな」

 

 会話は長く続かない。断続して訪れる静寂は、果してこれで何度目か。無限に続く様なループを断ち切る方法を、まだ彼女達は分からない。

 故に、それは外から訪れた。

 一回だけ鳴った呼び鈴に、二人はピクリと反応する。来訪してきた者が居るのは分かるが、それが誰なのかが分からない。いつもなら特に何かを思うことはなかっただろうが、今この瞬間、玄関のドアからは何やら威圧の様なものが感じられる。

 

「あ、アリス!! ど、どうする?」

「そうね……代わりに出てもらっても良いかしら。大丈夫、ドアに付いている覗き穴で外を見てみれば良いから」

「わ、分かったぜ……」

「一応私も着いて行く。敵が立っている可能性だってあるから」

 

 一度、二人で頷き合ってからゆっくりと玄関に向かう。近い様でその距離が遠く感じられてしまう。やがて、そのドアの前に立った時も、それは押しても引いても開かないもののように感じられる。

 慎重に、ドアに付いている覗き穴から外を見る。歪な形に見える小さな硝子の先の景色に、何者かが佇んでいるのが見える。それは、九本の優美な尻尾を持つ妖獣であり、妖怪の賢者の式神である八雲藍だ。

 その姿に二人は安堵し、ゆっくりとドアのノブに手を掛ける。ギィ……と重く音を漏らしながら扉が開き、先に立っていた藍は今度こそ明確になり、その彼女は先ず一礼した。

 

「わざわざこんな時間に申し訳ない」

「問題無いわよ。まぁ、ここはアリスの家だけど」

「取り敢えず入った方が良いだろ。今、外は何かと物騒だからな」

「なら、その言葉に甘えさせてもらうことにしよう」

「おう」

 

 合わせた両手を袖の中に隠すいつもの態勢のまま藍は中に入ってくる。それを誘導する様に霊夢と魔理沙もリビングへと戻る。

 その中途、何気なく霊夢は藍に聞いた。

 

「それで……藍はどうしてここに来たの?」

「理由はただ一つだけ」

 

 その藍の返答は、極めて単純だった。

 

「この幻想郷を襲う危機、それについての紫様の伝言を伝えに来たのさ」




藍の口調ちょっと直しました
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