あまりに唐突な告白は、その場を更なる静寂で支配することは容易だった。疑問と驚愕が混ざった表情を浮かべる妖夢と、相変わらず自嘲気味に笑う紫を交互に見ながら、美鈴は慎重に口を開く。
「それはつまり……白玉楼の主である、西行寺幽々子様も……」
「そう。私と一緒に主犯の一人と戦って、そして敗れた。私は何とか逃げてきたけれど、ね」
その事実を受け入れようとしても、どうしても認めたくない。妖夢は何か言おうとするが、言葉が何も浮かんでこない。
「恐らく、幽々子は既にレミリアと同じ暴走状態にあるわ。冥界と幻想郷の境界を半ば強引に閉じたから、こちらに来る心配はないけれど、いつまでもそうしていられない」
「なら……誰かが幽々子様を元に戻しに行かなければならない、と?」
「そうなの。ただし、一つ重大な問題が有る」
人差し指を立てて紫がそれを言おうとした時、妖夢がポツリと呟いた。紫と同じ位、若しくはそれ以上に幽々子を知るからこそ、その脅威が一瞬で理解出来た。
「死を……操る程度の能力……仮に、近付いたとしても、その者には問答無用の死が与えられる……そう言うことですよね?」
「そう、その通りよ。だから、何とかしようとしても出来ないの」
どうしようもない現実を突きつけられた。何よりも、暴走した存在の恐ろしさを妖夢と美鈴はよく分かっている。
だからこそ、能力の理不尽と単純な脅威が一層どうしようもないものに感じられた。
重く、暗い何かが場を満たす。
「……要は、能力の影響で死ななければ良いんだろう?」
「……え?」
「そんなこと、息をするよりも簡単じゃないか」
その声は、その暗く重い何かに光を齎した。それでも、僅かな光だが、有と無ではまるで違う。
声の主である妹紅は、いつになく真面目な表情で三人の所に歩いてくる。
「要するに、私がそいつをぶっ飛ばせば良い訳だ」
「それで良いんですか……?」
「確かに、可能性があるのは妹紅、貴方位しか居ないものね。だけど……」
「だけど?」
「逆に言うと、協力者は居ないと言うことよ? それで、本当に大丈夫なの?」
「紫らしくないな。何もかもを理解している様な普段のお前らしくない。まぁ、私自身お前のことをよく知っている訳じゃないが」
組んだ腕を解き、胸の前に右手を置いて妹紅は微笑んだ。
「死なないってつまり、負けないってことだ。何回傷付こうが、何万回死にかけようが、最後に勝つのが私なんだよ」
「……そう。それ程の自信があるなら、任せるわ」
「私からも……幽々子様のこと、どうかお願いします」
「分かってるさ。その代わり……人里のことは任せる。失敗したけじめを自分で付けられないんだ。だから、せめて私の分まで戦ってくれ」
「……分かった。その拳、私達に預けなさい」
「すまないな……」
美鈴が右拳を差し出し、妹紅がそれに右拳を当てる。
特に面識が無かった両者は目を合わせると、静かに頷き合った。
「それじゃあ、実行は橙も言ったと思うけど明日。今日はもう休みなさい。明日に響くと冗談抜きで不味いから」
「分かりました。紫様は今からどうされるんですか?」
「私は、少し色んな所に行ってくる。少しでも協力者を募ってくるわ」
そう言って紫はスキマの奥に消えていった。残された三人は暫く無言でいたが、やがて妖夢がぽつりと呟く。
「……本当に、大丈夫なのでしょうか」
「何とかするしかないだろうな。大丈夫だとかじゃなくて」
「そうね。逃げている場合でも無い訳だし」
「そう、ですよね……」
不安ばかりが募る様で、僅かな光も霞む。
せめて、出来る最大限の仕事をしなければならない。
ちっぽけな決意は、果して原動力となるのか。
これにて第五章は終了となります。
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