第六章一話 崩壊した
少女は見失っていた。
大切なものを、自分の居場所を、そして自分そのものでもあり、世界でもある何かを、ただ見失っていた。
ただ、覚醒した自分の中を駆け巡るのは、単純で且つ難解な命令。
『漠然としたもの、それを壊せ』
何もかも、目に入る物が全て漠然としたこの世界で、一体何を壊せと言うのか。
様々な英知の結晶たる頭脳を持つその少女にも、その命令は難解だった。全てを壊せとでも言うのか。そうでなければ、漠然とした世界の中で、更に輪郭の不確かなものを壊せと言うのか。
「……何でも、良いわよね、そんなこと」
知識に無いことを考えることを、彼女は放棄した。
自分の中の本能のまま、命じられたことを淡々と熟せばいいのだ。
結論に至った少女は、またゆっくりと歩き始める。
そして、見付けた。
彼女の本能を騒がせる、四人の少女を。
瞬間、彼女は無意識のままに攻撃した。あらゆるものを焦がす、灼熱の炎でもって。
「危ないっ!!」
炎で遮られた奥、聞き慣れた様な、初めて聞く様な曖昧な声が聞こえた。続いて何かにあたった様に炎が大きく拡散し、そして散る。
その先に見える、紅白の服に身を包んだ少女はお払い棒を構え、こちらを真っ直ぐに見詰めていた。
「……今の炎、まさかとは思うけど、アンタの仕業じゃないでしょうね」
「そうだとして、何なの?」
自分でも驚く程冷たく発したその言葉。その残響が消える頃、少女は漸く目の前の四人を理解出来た。
そうだ、きっとあの四人は知り合いだったはずだ。少なくとも、こうして敵対する相手ではなかった筈だ。では、何故今攻撃したのか。本能は、何故体を攻撃に移行させたのか。
疑問は解消されず、絡まり、自我が更に染まっていく。
どこまでも黒い、決してこの世界ではない何かに、染まっていく。
一体何を強いられているのか。どうしてもこうあらねばならないのか。
「兎に角、アンタも邪魔するってなら、容赦はしないわよ」
お払い棒で自分の肩を叩きながら、紅白の少女は言う。
そして、少女は命令に支配された。
自我を失った訳ではない。ただ、明確に何かが壊れた。
「そう……なら、仕方ないのかしらね」
懐から魔導書を取り出した少女は、ゆっくりと戦いに移行する。
「何故かと言われれば分からない。それでも、私は貴方達をここで地に帰す」
本来の自分なら、絶対にこんなことは言わないと自覚しながら、もはや流れ出る言葉を止めることが出来なくなっていた。
そんな少女を見て。紅白の少女の傍らに立つ、黒い服の魔法使いが呆然と呟いた。
「……パチュリー、どうしたんだよ……」
分からない。
分かるのなら、今ここに立っていない。
その少女、パチュリーは誰にも聞こえない悲鳴を上げた。