東方覚深記   作:大豆御飯

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第六章六話 魔法使いの争い

「……まだ続けるの? もう差は歴然だと分かった筈よ」

「うる、さいわね……」

 

 アリスはミニ八卦炉を握り締める右手で額の脂汗を拭う。

 全力を出したけれど、結局パチュリーには一歩及ばなかった。示された答えはそれであり、否定も出来ない。段々と、外側から削れていく様に減っていく魔力は、戦闘継続のリミットを知らせてくる。その危険信号が発せられるのも、決して遠くはない筈だ。

 

「正直、貴方との戦いは少しだけ面白かった。今なら命までは取らない。逃げるならさっさとしなさい」

「うるさいって……言ってるでしょ。狂って音まで聞こえなくなったのかしら……?」

「戯言ね。安い挑発」

「知ってるわよ……!!」

 

 パチュリーとしても、ただ面白かっただけの戦闘を長々と続ける気はしない。仕留める敵がまだ居る以上、さっさと片付けた方が手っ取り早い。

 だからこそ、逃げる道を諭した。それが一番楽だったから。

 

「もう一度言うわ。逃げるなら今の内よ」

「逃げると思う?」

「真っ当な生き物なら」

「そう……生憎、私は魔法使いなものでね。既に真っ当な生き物とは言えないわ」

 

 パチュリーは目を細めた。

 最後の通告は、しかし無視された。

 ならば、容赦はしない。目前の半端者はここで終わらせる。

 ……何か、大切なものを失うと思いながら、それでもパチュリーは決めた。

 

「なら、さよならね」

「それはどうかしらね。幻想ばかり作り続けてきたこの腕も、漸く守りたい現実を見付けたのだから」

 

 ミニ八卦炉を握る手に力が籠る。片方は魔導書のページを捲り、もう片方はそのミニ八卦炉を半ば力任せに相手に向ける。

 

「日符『ロイヤルフレア』」

「魔性『シャルルヴィルの魔砲』」

 

 パチュリーが生み出したその炎は、先程のものとは比べ物にならない火力へと変貌していた。けれど、アリスは怯まない。

 周りの木々から大量の人形を呼び、その全てと同時に自らもミニ八卦炉でもって光線の乱舞を生み出す。それは彼女の限界を殆ど超えた攻撃。それを自覚していながら、それでも止めない。止めることはつまり死であり、そして全てを消失することだから。

 二つの力が激突する。熱を伴う風が吹き荒れ、更には森の湿気を巻き上げて不快感を与えてくる。

 

 そして、突然停止した。

 

「…………え?」

 

 一瞬前まで使っていたミニ八卦炉が突然動きを止めた。アリスの思考が半ば停止しかけ、同時にパチュリーは不敵な笑みを浮かべる。

 火力が決定的に足りなくなる。咄嗟に新たな人形を展開してロイヤルフレアに対する防御態勢に移ろうとするが、遅い。そして、脆い。

 その業火を前に、人形は一瞬で灰に変わっていき、それはこれからの自らの運命をも物語る。

 けれど、まだ諦めきれない。何か、この状況を打開できる策はないか、自身の頭に記憶した魔法を総動員して、この状況を切り抜ける方法はあるのか。迫りくる業火を睨みながら、アリスは必死に思考を巡らせる。

 それでも、一度停止しかけた思考は直ぐには回らない。何かを言う暇も与えず、業火はその華奢な体を包み込む。

 

 その直前に、

 それでも、彼女を守る者が居た。

 

 一瞬にして形成された氷のドームが業火からアリスを守る。

 

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