東方覚深記   作:大豆御飯

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第六章八話 希望的な属性

 世界を貫いた閃光。極限まで意識を研ぎ澄ますことでその威力を限界まで高めた閃光。

 パチュリーはその瞬間、初めて本格的な防御に移る。その閃光の属性は即ち火、故に水の属性を持つ魔法で打ち消そうとしたのだ。

 詠唱の時間は極めて短い。それでも閃光が直撃するまでの時間で詠唱できる最大威力の魔法を構築し、即座に発動する。

 

 けれど、それは限界を超えた火力だった。

 

(……人間の……何処にこんな力が有ると言うの……!?)

 

 パチュリーは目前で自身の発動した魔法が相性を無視して破壊される瞬間を見た。

 疑問が頭を過るけれど、迷っている時間ではない。相殺が不可能ならば、受け流す。詠唱もせず、己の身長と同程度の火球を生み出したパチュリーはそれを閃光に叩き込む。

 

 二つの破壊が衝突し、空気が爆ぜた。

 

 全方位が閃光で覆われる中、パチュリーはそれに逆らう様に連続して発動していく。その度にまた空気が震え、彼女の華奢な体を空中に放り出そうとしてくる。

 

 それでも、パチュリーは凌ぎ切った。

 

 時間にしてみたらさして長くは無い。けれど、その攻防はパチュリーを確かに追い詰めた。

 けれど、パチュリーは凌ぎ切った。

 

「マジかよ……」

「……残念だったわね」

「そうみたいだな」

「最も、今のは少し危なかったわ。それだけは褒めてあげる」

 

 傷だらけにもかかわらずその体に負担を掛け過ぎた所為なのか、魔理沙は至る所から鮮血を溢れさせ、その足は震えている。指先で少し力を加えれば、それだけで地面に臥してしまう様な、それほど魔理沙の体は悲鳴を上げている。

 

 せめて、そこまで戦った雄姿を湛える様に、

 パチュリーは止めの魔法を宣言する。

 

 けれど、彼女は確かに忘れている。

 先の閃光自体には、アリスは何も関与していないと言うことを。

 

「試験中対人外用兵器『ゴリアテ人形Mk-Ⅱ』」

 

 それは奇怪な名前のスペルカード。その言葉にパチュリーが反応したその時にはアリスの隣に彼女の倍はあろうかと言う巨大な人形が立っていた。

 その手には巨大な剣が握られ、その柄には一冊の小さな魔導書が収まっている。

 

「悪かったわね魔理沙。時間稼ぎしてもらって」

「気にすんな。安い買い物だ」

 

 その会話にパチュリーの思考が一瞬明らかに止まった。

 つまり、二人はいつか、何処かのタイミングでこの作戦を練っていたと言うことだろうか。パチュリーの襲撃は予想できたものではなかった筈だから、きっとこれはこの場で作戦を練った筈。無論、その作戦は決して精巧なものではないけれど、明らかに連携が取れすぎていないだろうか。アリスがこの兵器を持ってくることを確信した上で魔理沙も切り札を切った様にしか思えない。

 

(落ち着きなさい……これはほんの些細なこと。まだこの場を掌握された訳じゃない。あの兵器だって試験中なのだから。そう、まだ勝機は私の方が多い)

「動揺しているな。魔法使いに動揺は明確な欠点になるぜ」

 

 アリスに肩を借りた魔理沙が笑った。その一言がパチュリーを更に現実に戻す。

 

「これは全て結果論だ。最初から作戦を練っていた訳じゃない。でも、何となく分かっていたんだよ」

 

 兵器が動く。その時に剣が揺れ、魔導書のページが少しだけ見えた。

 記されているのは五大元素。その最も基本的なこと。

 対人外用兵器。その名は魔法使いだって標的とする筈だ。その剣は何を意味するか、それが何となく想像出来る。操るのは人間から魔法使いになったアリスなのだから。

 

「パチュリー、私はお前に紅魔館の図書館で言ったよな」

「……?」

「『アリスがどうやって人形を動かしているのか調べに行こう』って。その意味……もう分かるよな」

 

 思い出していた。そして、魔理沙がどうして居なくなっていたのかも思い出していた。

 少なくとも、魔理沙はこの兵器と戦ったんじゃないだろうか。

 

 少しずつ、パチュリーを包む外殻が剥がれていく様な気がした。

 魔理沙とアリスは一瞬顔を見合わせて、そして兵器に命令する。

 

「突撃……!!」

「……火水木金土符『賢者の石』」

 

 兵器が動く。

 もはや火力が低くても良い。その兵器の腕を壊すことが出来るなら、それだけでも形成を逆転させることが出来る筈だ。五つの属性、その全てを選択し、応用し、操り、何としてでも戦力を削る。これだけの兵器なのだ、破壊した暁にはもう二人に魔力は残っている筈がない。

 耐えきって、耐え抜けば、きっと勝てる。その思考は、もはや意志ある者として当たり前に持つそれと何も変わらなくなっていた。

 

 先ずパチュリーは炎でもって破壊に移る。

 けれど、その兵器は水を纏った剣でもってその魔法を両断する。

 

 その属性を見て、パチュリーは地面に干渉した。即ち、地面より泥を使い、兵器の足を絡めとる。

 けれど、兵器は止まらない。その剣を今度は地面に突き刺すと、そこを中心として植物が急成長し、足に絡まっていた泥は忽ち干上がる。

 

(確実に、有利な属性で対処してくる……)

 

 それでも、パチュリーは諦めなかった。

 即座に大量の金属を錬金し、兵器に向けて射出する。

 それは、灼熱の炎を纏う剣の一振りで全て溶け落ちる。

 

 ならば、パチュリーは大量の水を生み出し、その物理的圧力で人形を直接破壊しようとする。

 けれど、その兵器は再び地面に剣を突き刺し、先の攻防で乾いた土を跳ね上げて水を吸収して防ぐ。

 

(まだ、まだ何か……!!)

「諦めなさい」

 

 その声は、氷の様にパチュリーの思考を止めた。

 

「もう結末は分かっているのでしょう?」

 

 しかし、その得意気な声を聞いてもう一度パチュリーの思考が蘇る。

 属性での対処は不可能。ならば、その属性をも無視出来る程の圧倒的火力で吹き飛ばせば良いだけだ。

 

「日符『ソル・エールプティオー』」

 

 唱えた直後、空間そのものを巨大な爆発が包み込んだ。莫大な光を放つ太陽、それが爆発するというもしものことをそのまま形にしたような、そんな一撃だった。

 嵐のような風が吹き、地獄の様な炎が暴れるその空間。パチュリーが立つその周囲だけは何かに守られたように平穏そのもの。

 

 けれど、

 それでも、その兵器は空間に入り込んできた。

 

「う、そ……?」

 

 妙に遅くなったように時間が流れる。

 金の属性で強化した剣での力技。それが、最大の魔法を突破した手段だと悟るのに時間は掛からなかった。

 

 目の前に見えた、剣の側面。

 一体どれ程の衝撃だったかは分からない。

 ただ、パチュリーの意識は一瞬で途絶えた。

 

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