東方覚深記   作:大豆御飯

7 / 122
第七話 真実

 歩いて数分。

言葉にしたら、たったそれだけの移動でも、時に無限を感じることもある。一歩一歩が重い、そんなことを感じることは生きているならば一度や二度はあるだろう。行きたくない、そんな思いは想像以上の影響力を持つ。そのことを頭に置きながら、文はアリスの気を窺う。

 

「足取りが重いですよ。大丈夫ですか、アリスさん?」

「……大丈夫、心配しないで。大丈夫だから、ね……」

 

 ぎこちない笑みを浮かべ、返答した後もアリスは俯いている。確かに、迷いは無い。けれど、その心に体が追い付いていないのは明白であった。

 

「アリス、着いたわよ。目的の場所」

「えっ……? 魔理沙の家じゃない」

 

 霊夢に声をかけられて顔を上げたアリスは、まずキョトンとした声をだした。目の前にあるのは幾度となく訪れたことのある建物で、思ったような所でなく拍子抜けしたからだ。

 何故ここなのか、素朴な疑問を浮かべる彼女は無意識に声を出していた。

 

「何で、魔理沙の家なのよ?」

「ちょっとした訳があってね。ま、その辺も中で話すから、とりあえず入るわよ」

「どうやって?」

「パチュリーが鍵を持ってるのよ」

 

 色々なことが理解出来ない。

 

 

 

 散らかっている、けれどどこか殺風景な、家主の居ない部屋だった。魔理沙のたくさんの私物で足の踏み場もほとんど無い。そんな部屋を、どうしようもなく切なく思ってしまう。

 

「やっぱり、魔理沙は居なかったわね」

 

 あくまで落ち着いた声でパチュリーが発する。適当に部屋を見回しながら、部屋の奥へと進んでいく。そんな彼女に続いて霊夢達三人も進む。四人が入った部屋は途端に窮屈に感じさせ、移動することさえも僅かながら抑制しているような。そんな錯覚が、この部屋にある『何か』から逃げる選択を消した気がした。

 そして、そう広くない部屋の中、その『何か』を見付けるのも容易であった。

 

「これは……置手紙でしょうか?」

「そうみたいね。読んでみる?」

 

 文の見付けた手紙を受け取った霊夢は、それを丁寧に開き、皆が見えるようにテーブルに広げる。

そこには、こう記してあった。

 

 

 

 

 

 

親愛なる仲間へ

私が居なくなって、どれ程経ってからこの手紙が読まれているのかな。きっとこの手紙を読む人は、私が最後に会った誰かだと思う。別れらしい別れを告げられなかったこと、ここに謝らせてもらうぜ。悪かった。

 さて、私は今からアリスの暴走を止めに行くから時間が無い。だから、手短に伝えたいことを伝えようと思うぜ。

 まぁ何だ。お前達に会えて良かったぜ。決して悪くない、有意義な人生の中心には確かにお前達の姿があった。こんな話、全然私らしくないだろうけど、それくらい感謝してる。と言うより、言葉じゃ足りなくて、体じゃ表わせられない程の感謝をしている。

ありがとな!!

お前達の土産話は向こうで聞く。だから、私の知らないことを、どうか体験してくれ。

もう一度、ありがとな!!そして、またな!!

PS:涙拭けよ。笑っちゃうだろ

                         魔理沙

 

 

 

 

 

 その手紙の全ての文字に目を通し終えてから流れ出る感情に気付くまで、霊夢は少しの時を要した。そして、気付いた時にはもう止めることが出来なくなっていた。悲しげに目を伏せる文とパチュリー。手紙の内容に動揺を隠せないアリス。その周りのことなど、今の霊夢には見えていなかった。何よりも二つの目から溢れ出る透明な雫が、彼女の世界を染めていく。

 

「ちょ、ちょっと! 一体どういうことなのよ!? この手紙は何なの……?」

「そのままよ。そして、これが私達の知りたかった真実」

「だから、それはどういう……」

「なら、今から少し説明しましょう。霊夢さんが落ち着くまで」

 

 疑問を浮かべるアリスにそう言った文とパチュリーは、家の外で説明することにした。それは、霊夢に対する優しさの表れか。扉が明確に閉じる音を聞いて、その少女は遂にその場に泣き崩れた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。