精算
case1
「また命落としかけたってね…あなた馬鹿?馬鹿なの?馬鹿なのね」
「人を馬鹿って言うんじゃねぇ…」
例の体質で傷は癒えたが服はボロボロになってしまった。下着はあるが上着は新調する必要があるためジャージで過ごすシゲルにジュンコは呆れたようにため息をついた。
「今までならともかく、これからは響ちゃんのこともあるのよ。少しは自分を大切にしなさいよ」
「……善処する」
「改善する気はないのね」
また大きなため息をつくジュンコ、その息がシゲルの顔にかかった。
ちなみにここは学園の屋上、いい陽気にシゲルは昼寝をしようとしたらそこにジュンコがやってきたのだ。そしていつの間にかシゲルの頭はジュンコの膝の上にある――言わば、膝枕状態なのだ。
「ところで、なんで俺はこんな格好に?」
「ツバキを探すのに私を置いていく代わりに言う事を聞くって言ったじゃない」
敵の正体はその時は知らなかったが手回りの良さと記憶を奪うなんて真似ができるから一般人であるジュンコを捜索メンバーから外すことにしたのだ。その際説得で戻ってきた時に何かをする約束をしたのだ。
「わかってる。けどなんでこんな状態なんだ?」
「なによ、戦いで疲れてると思って労ってるだけじゃない」
「……顔を赤くして何を言ってるんだよ…」
確かにジュンコの顔が真っ赤に染まっている。明らかに恥ずかしいのだが我慢してるようにしか見えなかった。
「だって、積極的に行かないと振り向かないって言われたから…」
「誰に?」
「…………レイちゃんに」
あらゆる面でアタックする方法を間違えた恋する乙女の間違った言葉に今度はシゲルが大きなため息をついた。
心のどこかで間違ってると思ったのかジュンコは赤い顔を両手で隠した。
「…なあ、今度入学試験の予備日で休みだろ?どこかに遊びに行かないか?」
「えっ?でもツバキは補助員でユウも手伝いに行くんでしょ?釼都もいないって言ってたし…」
ユウは今回の一件で両親の墓参りをしようと思い立ち、そのついでにツバキの手伝いをするために本島へ。釼都はアイオーンこと山本と話し合うためにAW社へと。
ほかのメンバーも何かと用事があったりなどで揃わなさそうだった。
「いや、2人きりで」
「………ほぇ?そ、それって…」
「まだやったことがないからエスコートできるかわからんが…行くか?デート」
付け足されたその言葉に膝枕をしているということよりも顔を真っ赤になったジュンコ。しかし顔を隠さず、目を逸らしながら「行く」と合意した。
case2
「じゃあ、記憶喪失じゃなくて記憶を封印してたのか?」
「うん、出来る限り誤差が出ないようにするためには『アリエル・セラフィ』の情報を持ち込まないようにする必要があったから。お父様…ダークも私のサポートに自らの記憶を消してエンディミオンで別人として生活してやってきたみたいだから」
「だからダークはアンゲロスのことを覚えてなかったんだ」
埠頭で詳しく聞けなかったことを聞く釼都とユウ。ツバキの本来の性格は人見知りではなくアリエルのようで、どこか儚げな雰囲気があった。
「じゃあさ、いつからアリエルとしての記憶が?」
「全部思い出したのは修学旅行の時…私が風姫に負けた時だね。VS施設に捕まってる時にガギエルとサリエルが助けに来てくれて全てを思い出したんだ」
「あの2人があの時VSにいたのか………ところでガギエルってアンゲロスじゃないのか?」
釼都が疑問に思うのはガギエルのカードはあったのだ。しかし彼は戦力の一人としては数えられていなかったのだ。
「アンゲロスはそれぞれ自分の力がある、サリエルなら炎、アラエルとルヒエなら風、ザフキなら大地というように、私は『忘却』の祈り、だけどガギエルは自分の水の力をまだコントロールできてないの」
「ああ…だからか」
ガギエルと戦った時に試練が発動しなかったことをユウは不思議に思っていたがそれが原因のようだ。
ただデュエルをするだけなら時間稼ぎにしかならないし、相手は同じく戦力として数えられていない響やレイでもいいわけだ。
「…なあ、あのガギエルって…」
「?」
「(あ、これ気づいてないな)」
どう考えてもガギエルはツバキのことを好きなはずだった。しかしその当のツバキはそのことに気づいていなさそうだった。アリエルの時は巫女の使命を全うしてツバキになってユウと恋人になったということはガギエルに振り向く可能性は限りなく0だった。
「ガギエルと仲がいいのか?」
「仲がいいっていうか…手のかかる弟みたいな感じかな?昔から私の後についてくる子で何かをしようとして「ひとりでできる!」って言って失敗するの」
「(明らかにツバキにいい所を見せようとして失敗したんだろうな…)」
ひとりの少年の恋が実らない事実に釼都は静かに哀れんだ。
case3
「融合召喚、マイフェイバリットHERO!フレイム・ウィングマン!!」
「うっ…」
デュエルスペースでは十代と響がデュエルをしていた。来年から入学するということで入試の際に取るデータ代わりに誰かとデュエルすることになったのだが、その話を偶然聞いた十代が単純にデュエルできると思い立候補したのだ。
ちなみにレイは一度入学したということで免除されていた。
「バトルフェイズ、フレイム・ウィングマンで孤高のシルバー・ウィンドに攻撃!!スカイスクレーパー・シュート!!」
「きゃああああああ!!!」
響/LP3100→2800
「さらにフレイム・ウィングマンの効果、破壊した…あれ?」
「孤高のシルバー・ウィンドの効果で私のBFは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されません!」
「な、なに!?これで決まったと思ったのに…」
「はぁ…勉強不足ですよ、十代」
観客席ではデータの測定員としてこういう作業が得意な紫苑がパッド型の機材を持ちながら大きなため息をついた。
「うっ…BFのデュエルって初めて使ったときと決勝でしか見たことがないからよく知らなかったぜ…」
「はぁ…あなたはもう一度一年からやり直したらどうなんですか。無駄にデュエルの腕が一流になったのに知識がないのなら意味がないですよ」
「ぐっ…」
恋人の言葉が十代の心にグサリと刺さった。だが彼は勉強が苦手のためその知識を深める日が来るのはほぼないだろう。
「それと、あなたも何をしてるんですか…」
「あ、いや…あはは…」
こっそりと隠れていた如月だが紫苑には丸見えだったようで持っていたデジカメを没収されていた。
その間にも十代と響のデュエルは続いていた。
「とほほですぅ…」
「シゲルからあなたが妙なことをするならカメラを奪えと言われてるので」
「うぅ…今週のネタがぁ…」
「自業自得です。そもそもなんで隠れて撮影する必要があるんですか?面と向かって頼めばよっぽどのことじゃない限りシゲルも止めないと思いますが」
如月の新聞は内容がアレだが情報の発布としてはこの上のない手段だ。まだ人との繋がりを持つのが苦手な響にいい影響を与える方法としても有用なのだが如月がそれを面白く書く可能性があるためあまり頼りたくないのだ。
「ふっふっふ…紫苑先輩はわかってないですねぇ、面と向かって頼むなんて一流の記者がやることじゃないですよぉ、常日頃の姿を撮影して2割ほどのデマを盛り込んだ記事を作るのが一流というものですぅ!」
「……………………」
「途轍もなく目線が痛いですぅ」
熱弁する如月だが紫苑の絶対零度の瞳にあえなく退散した。ついでに紫苑も以前十代との中を勝手に取り上げようとしたことを許したわけではないのだが。
「はぁ…」
本日何度目になるのかわからないため息をついて紫苑は没収したデジカメのデータを見た。
以前撮ったものだろうか、ジェネックスでの予選の時の写真がいくつかあった。
ユウやツバキが楽しそうにデュエルをして、シゲルとジュードの戦いに決着がついた時に盛り上がった休憩所、いつものように無表情ながらも相手を圧倒してる紫苑自身、多くの後輩からの挑戦を受ける釼都、雪乃と荒木がタッグでデュエルをしてる場面など。
「…………(あれ、そういえば…)」
聞いた話ではツバキの忘却を免れたのはコスモスの加護を受けてたユウと紫苑を見た記憶を共有する星光だけだった。ツバキの写真はアカデミアにないため間接的にツバキを覚えているのが星光だけだったというのだが――
「(これ、如月さんが写真を撮ってることに気づいたらもっと簡単にことが進んだんじゃ…)」
隠し取りとは言えツバキの写真がいくつかあった。そのときは写真もビデオもないため検証できなかったと言ってたが、あった。
「……………」
【ピッ、ピッ、ピッ ピッー】
なんか、途轍もない遠回りをしてたような気がした紫苑は腹いせにデジカメのデータを消した事実を如月が知るのはだいぶ後だった。
case4
「こんなところかな」
吹雪、ジュード、万丈目、雪乃、レイ、荒木、明日香の7人は来月復学する優介のためにブルー寮の一室を掃除して家具などの運んでいた。
「そういえば、吹雪さんって僕らの2つ上ですよね?なんで留年してるんですか?」
「ああ、僕も優介と同じでダークネスに囚われて1年間出席してなかったからね。今は明日香達と同学年なんだ」
詳しいことを知らなかったレイはカイザーと同い年の吹雪がなぜまだ在学生でいるのか不思議そうだったがその話を聞いた荒木は「ん?」と気づいた。
「…それ以上に出席してない優介さんは俺らと同学年ってことか?」
「あ、それは鮫島校長が兄さんの行方不明になる前の成績もあって吹雪さんと同じになったのよ」
「だから優介も来年は3年になる」
元々廃寮となったのは成績優秀者が入寮できるブルーの特別寮だ。その中でも優介はトップをとっていたということもあり、一年間の停学は免除されたのだ。
「そういえば、レイはレッドに入るんだっけ?」
「はい、前に入った時に気に入っちゃって…」
本来なら女子は全員ブルーとなるのだがレイは希望でレッドとなった。個人的にブルーの高級感は馴染めずイエローかレッドかになり、身分を偽って入学したときに入ったレッドにしたのだ。
「翔君もブルーになったし、ユウ君たちはチーム寮トップ、みんな成長してレッドから離れたね」
「唯一残った十代や万丈目も実質学園トップの実力者だからねぇ」
落ちこぼれと呼ばれていたレッド寮からの実力者の排出に教員会議ではそういった寮差別に対しての改善が議題に上がってきたのだ。
「そういえば、来年他校交流の生徒が来るってね」
掃除を終えて部屋を出たジュードが思い出したように口にした。
アークティック校、ウェスト校、サウス校、イース校、そしてノース校の5校からの1年間の交換留学生がやってくるというのだ。
しかし、唯一異世界でこの世界のことを知っていた荒木は一つの不安があった。
「(ヨハン・アンデルセン、オースチン、オブライエン、ジム・クロコダイル、アモン・ガラム…あと一人…誰なんだ?)」
本来の世界ではありえない5人目の交換留学生。ノースからの交換留学生は本来なら存在してない。それが誰なのか。
不安だが、余計なことを言わないほうがいいと思い誰にも伝えていないのだ。
そもそも自分たちがいるのが原因で本来と違い、ただの一般生徒がやってくる可能性もある。
下手に警戒をさせたくもないので確認するまでは黙っていることにしたのだ
「(敵か…味方か…まずはそれからだな)」
caseEX
「…………」
夜も更けた深夜、チーム寮の近くの丘の上に座って空を見上げているツバキ。その近くにはダークもいた。
『眠れないのか?』
「…うん、色々と考えちゃってね」
10年前に自分が決めた覚悟、それをユウ達は揺るがしてしまった。本当ならあのままターンエンドで世界を崩壊させればそこで終わりだったのだ。
だが、揺らいでしまった。みんなと一緒にいる未来に、ユウと共に過ごす未来に。
この世界だけの問題で終わらすはずだった戦いに他の世界を巻き込むかも知れない。その危険を孕ませて自分の幸せを願ったことが間違いじゃないのかと。
もしかしたら明日にはほかの世界が襲われてるかもしれない。ジュード達転生者たちの生まれ故郷のように滅ぼされるかもしれない。
「…お父さん、これで正しかったのかな…私の選択…世界か、自分の幸せか…」
『正直に言うと、私はこの世界がどうなってもいいと思っている』
バッサリと切ったダークにツバキは驚いて顔を上げた。しかし、ダークは諦めたりしたような表情ではなく、しっかりとした意思で言っていた。
『世界の平和と娘の幸せ…天秤にかけるまでもなくその答えは決まっている。エルが…ツバキがユウとともに歩むことが幸せなのなら、その選択は間違っていないと断言できる』
「……けど、私は…」
世界を滅ぼしかけた。幸いにも記憶を奪い、存在を消そうとした今回の一件はその記憶を戻すことで被害はなかった。
しかし、その罪は大きい。
「ツバキ!!」
「!」
呼びかけられて振り返ればそこには心配そうな顔をしたユウがいた。いつの間にかダークはカードに戻っており、傍から見ればツバキがただひとりそこにいるようにしか見えなかった。
「よかった…」
「ユウ…?」
いろんな場所を探し回ったのか、息を切らして、小枝で切ったのか頬からは血がにじみ出ていた。
「またどこか行っちゃうのかと思ったよ…」
「…………」
一度味わったトラウマはそう簡単には払拭できない。大切な人を失うというトラウマがあるユウはツバキを失うという2度目のトラウマからまたいなくなったのかと探し回っていたようだった。
「…ねぇ、ユウ」
「ん?なに?」
横に座って同じように空を見上げたユウを見つめて心配な顔をしてツバキが声をかけた。
「私…どうしたら良かったのかな。記憶が戻ったとき、悩んだの。ツバキとして生きるか、エルとして生きるか…」
そう言われてみれば心当たりがいくつかあった。どこか日頃の中になにか考えてまともに反応できないときなどがあった。
「響ちゃんが奴らの手に渡っていたって知って…もうそんなお母様とルーラーの戦いで被害者を出さないためにも皆の中から私を消して、世界を崩壊させようと決心したはずだった。だけど…」
「……だけど、君はすべてを吐き出した」
最後のディープ・カオス・ドラゴンが行ったのは攻撃ではない、ツバキがエルとして抱えていたものをすべて精算する一撃だった。
「もう、わからないの…私が何をしたいのか、何をすべきだったのか、これからどうするのか…私はツバキなのかエルなのかも…」
「…………」
どうやら、目的であった人間界の崩壊を成就させる決意がなくなってしまい、失意の中で自分のことがわからなくなっていたようだ。
「僕も、精霊界に行く前には迷ってた」
ポツリとつぶやいたユウはデッキケースから一枚のカードを取り出した。
『コスモ・クロス・ドラゴン』
白紙となったそれは元々はツバキ――いや、エルの母親であるコスモスそのものだった。だが戦いの最中でユウの力とコスモスが融合して新たな姿となったのだ。
「皆がツバキを忘れて、ツバキが過ごたことがなかったことになって…ツバキはどこにもいないとわかって何も考えられなくなった」
「…なら、どうして…私を探そうと思ったの…?」
ユウは少し微笑みながらコスモ・クロス・ドラゴンのカードを見つめた。そう、あの時もこんなふうに――
「えっ!?」
「きゃっ!?」
光り輝くカードを見てユウがギョッとした。気づいていなかったが光が徐々に強くなってユウとツバキを飲み込んでしまった。
―世界の狭間―
「ここって…」
「世界の狭間…ほかの世界との接触点のはずだよ。だけどなんで…」
かつてここで異世界のデュエリストとデュエルしたことがあるユウは驚いていた。そういえばあの時もカードが光って、それで――
「なんでここにまた…って、え!?」
ユウとツバキ以外の存在に2人が振り返るとそこにいたのは――
「「連斗!?」」
「ユウ!?ツバキも!?」
そこに佇んでいたのは連斗だった。あの時とは違い右腕に赤い布が巻きつけられて別れた時よりも若干やつれているような気がしたが間違いなかった。
「れ、連斗、なんでここに!?」
「なんでって……色々あって気を失ったらここに…。お前たちは?」
「私たちはカードに飛ばされて…」
そう言ってるツバキの横でユウが取り出したカードを見て連斗は納得したようだった。
「なるほど…律儀な人だな」
「えっ?」
「俺とお前たちをここに連れてきたのはコスモスだ」
そう言って連斗が取り出したのはあの時召喚したカード――『サイレント・コスモ・マギア』だった。
「そのカード…そっか!」
「ああ…ユウ、もう気づいてるんだろ?」
「うん、コスモスからも聞いた。ツバキを探す後押しをするために連斗に依頼したって」
「えっ!?」
あの時の心の世界でコスモスが語りかけた『奇跡の出会い』。それを初めて聞いたツバキは驚いていた。
「ああ…ツバキのために助けを求めてる奴が居るって言われてな、手伝ってくれる報酬でこのカードをもらったんだ」
そう、サイレント・コスモ・マギアもコスモ・クロス・ドラゴンと同じでコスモスの力が込められているのだった。
「連斗…」
「ツバキ、全部コスモスから聞いてる。俺たちの世界を含めたほかの世界を守ろうとしたって」
そう言うと優しそうに笑いながらツバキに近づく連斗はガシッと彼女の頭を鷲掴みにした。
「えっ?」
「正直がっかりだ。なぁ…アリエル・バラスティアよォ!!」
「きゃああああああああああああ!!!!」
ミシミシと、シゲルと謙遜がないほどのアイアンクローをかけ始めた連斗にツバキはトラウマをえぐられたのか大粒の涙を流しながら解こうともがいていた。
「俺たちがいつそんなことを頼んだ!!いつ自分の世界を犠牲にしてくれって言った!!」
「だ、だって!!そうじゃないと!!どんな影響が起こるのかわからないもの!!もしかしたらゴーレムがさらに力を付けるかも知れないしルーラーと手を組むかも知れないのに!!」
痛がりながらもなんとか反論するツバキだがシゲルの場合は反論できないほどの痛みがあるのに対して連斗のはそこまでの威力ではないのか、口答えしてしまう。
「そんなの余計なお世話だ!!」
「ひぃぃ!!」
さらに強くなったアイアンクロー。ちなみにユウは連斗がツバキに近づいた時点でこうなることが予想できたのか見守っていた。
「俺たちの世界は俺たちで守る!!自分の世界ぐらい自分で何とかしてやる!!」
「で、でも!!」
「第一、そんな辛そうな顔するな!!」
「!」
パッと手を離した連斗。ツバキは痛みが残っているが呆然としたような顔で連斗を見ていた。
「大方、アリエルとしてかツバキとしてか生きることを悩んでるんだろ?」
「なん…で…」
「…この空間に来てから、お前…笑ってないぞ」
あの時、連斗の世界にやってきたときは不安がありながらもサレンと会話して笑顔を見せていた。だが今はそんな様相は全くない。
「答えが見つからない、それで悩んで…苦しんでる。だからコスモスはまた俺たちを逢わせたんだ」
そういうと、連斗は自分の右腕を見つめた。彼自身、迷ってるのかもしれない。
大賢者から知らされた『制限時間』の間に自分ができること、自分がすべきことを。
「……俺は、サレンとずっと一緒にいることを決めた。何があろうとも、どんな結末が待っていても――」
「結末…」
そう、過程はどうあれ、それが生み出される『エンドロール』は誰にもわからないのだ。今ここでその出来事を心配して、すべてを終わりにすることができてもその結果何が起こるのか分からない。
「何をするのか、どうするのかの答えを出すのはまだ早いんじゃないのか?ツバキとして、エルとしての思いを決めるのはまだ先でもいい。ユウや他の仲間と一緒に見つけてからでも遅くないと思うぜ」
「みんなと…」
この悩みをツバキは誰かに打ち明けてはいない。もともとは自分が蒔いた種だ、自分で処理をするのが当たり前だと思っていた。
だが、悩みを聞いてユウはほほ笑みかけて、連斗はアドバイスをくれる。少し、気持ちがそれで楽になった。そのおかげでグチャグチャになっていた考えがある程度整理することもできた。
「……ユウ…」
「ん、なに?」
「釼都やみんなに…相談しても…いいのかな?」
エルとしての記憶の混同があったせいなのか、頼ることも億劫になっているのだろう。
おかげでアンゲロスのメンバーともどこか壁ができてしまったのだ。
「うん、みんなちゃんとツバキの悩みを聞いて、一緒に考えて、答えを出してくれるよ。話すきっかけが難しいなら僕も手伝うし…ね?」
「……うん」
「ちょっとすっきりした?」
ユウの言葉にツバキは「少しね」と笑った。だがダークと話している時よりも明るくなってるという子は残念ながらユウは知らない。
「――っと、そろそろ時間か」
あたりの空間が徐々に霞が掛かってきた。なんとなく連斗の声も聞こえにくくなってると思ったユウとツバキは繋がっている空間が離れているのだと理解した。
「もともとはコスモスの力で出会えたんだ、二度と会えないわけじゃない」
「うん、また今度、連斗」
「ちょっとまって!」
連斗とユウが別れの挨拶替わりに握り締めた拳をコツンとぶつけているとツバキがその別れを惜しんだ。
すると、ツバキは祈るようにして手を合わせた。
「ツバキ?」
「……『祈祷の巫女』としての祈りができないけど、【祈らせて】…連斗のこれからの無事を――」
「!」
【その身に災悪が降り注がんことを祈っています】
世界の狭間でコスモスからの言葉。もう連斗に分け与えるほどの力がないコスモスからの最後の【祈り】。
おそらくアンゲロスでの言葉なのだろう。連斗も聞き覚えがない言葉をかけて目を閉じるツバキがあの時に別れを惜しむ彼女に被っていた。
まるで――いいや、実際にそうなのだ。
「やっぱ親子だな…コスモスそっくりだよ…」
「…え?」
「いや、なんでもない。ありがとうな、ツバキ」
そう言うと連斗は赤い布の上からツバキの頭を撫でた。もしかすると、これが最後なのかもしれない。しかし、連斗はそれでもツバキと出会えたことに感謝していた。
「ユウ、今度は手放すなよ。絶対にな!」
「うん、もう二度とツバキひとりに抱え込まさないよ!!」
そして2つの世界をつなげていた狭間は完全に分離した。
ユウとツバキは気づいたら元の場所にいた。夢だったのかも、幻覚だったのかもしれない。だが、間違いなく連斗のおかげでツバキを束縛していたモノは解消された。
「みんな、ツバキを心配してるよ、帰ろうっか」
「うん…それで、みんなに聞いてもらいたいんだ、悩み」
ユウとツバキは手をつなぎながらチーム寮へと歩き出した。
ちなみに、一人で抱え込んで悩んでいたことに対してシゲルのアイアンクローが飛んでくるのは割愛しておこう。
シゲル「久しぶりにのんびりした感じだな…」
『光の結社編』からずっと戦い続けてたからね。
ユウ「光の結社編、12日後の戦争編、ジェネックス編、アンゲロス編…」
その間に日常編はほぼ皆無だったからね、ジェネックス編も。
紫苑「今回の話は各々のアンゲロス編を終えてのその後みたいですね」
そう。まずシゲルの話だけど一緒に調べていたジュンコがいなくなったことについて明記しなかったから後づけになった。
ちなみに前書きで書いている『前後』ってのはこの話と予定してる「チーム・ノーバディ」の話と日常話を1話以外にシゲルのデートの話や釼都とアイオーンの話などのアザー・レコードの話が早く出来たら本編に載せようと思ってるので。
ツバキ「ところで、シゲルの体は大丈夫なの?」
髪が短く焼き切れた以外は精霊界に行く前とほぼ同じ。それもバンダナをしてるから気づかれないし
釼都「2つ目は俺とユウとツバキでアリエルについて話を聞いてる感じか」
細かいところを前の話で出せなかったから。ダークのことについてやガギエルについてとか。
シゲル「ガギエルのことについては…」
それはツバキというよりアリエルは恋愛について無頓着だったので。ツバキになってユウと恋仲になった今では理解してますが当時はガギエルのことを恋愛対象としては見てなかったです。
ユウ「3つ目は十代と響と紫苑、あと如月なんだね」
これは単純に死闘を演じた十代が相変わらずデュエル好きという話を出したかったのと如月のカメラに実は真実が写っていたという話です。
ツバキ「確かに彼女だと私の写真を撮っても無理はないですね」
ちなみにほかの証明写真や集合写真とかは消したり意図的に映らないようにしたりしてたので釼都とシゲルも見つけれなかったので。
紫苑「4つ目はその他のメンバーの話ですか?」
前話で全員出してこの話でほかのメンバーを出したんだけどこの7人は流れが思いつかなかったのでひとまとめにしました
シゲル「でも不穏なセリフがあるんだが、5人目っていうのは…」
それは七章でのお楽しみですね。
ちなみにヨハンはアークティック校です。
釼都「どういうことだ?」
原作だと初期設定だとヨハンはノース出身だったけど途中で変わったんだ。なぜかは知らないけど。
ユウ「そして最後…」
第六章は連斗との出会いから始まったので。このまま連斗と再会せずに六章を終わらせるのはどうかと思って。
それに聖和の塔でユウが止めたのはアリエルの人間界の崩壊だから、その後ツバキが進む道はまだ明確になってなかったし
ツバキ「連斗のほうも大変そうだね…」
ユウ「そういえば、サイレント・コスモ・マギアって…」
そう、ユウのコスモ・クロス・ドラゴンと同じコスモスの力が宿ってる。といってもコスモ・クロスはコスモス自身だけどね。
紫苑「…もしかして、サイレント・コスモ・マギアの名前の意味って…」
前にも言ったと思うよ。『コスモは「世界」というラテン語や「美しい」という意味のあるギリシャ語の「コスモス」』だって
シゲル「…まさかその時にフラグが隠されてたのかよ…」
さて次回もお楽しみに!