―童実野港―
「うぷっ…」
「相変わらず辛そうね」
短期休日となったアカデミアからのフェリー。生徒に混じってシゲルとジュンコ、それとツバキとユウの4人も降りてきた。シゲルとジュンコはちょっとした休暇、ツバキはジェネックスと学園生活での規律違反による奉仕活動、ユウはそのサポートだ。
「酔い止めは?いる?」
「既に飲んだ…うぇ」
ユウの言葉に出発前では新品だったはずの酔い止めの空箱を見せた。
「こっちは大丈夫だから、あんたたちはもう時間ないでしょ?」
「じゃあ、ジュンコさん、お願いします」
ツバキとユウは翌日の入試での打ち合わせのために会場へと向かった。ほどなくして立ち上がったシゲルはまだ青い顔をしながらボストンバックを担いだ。
「船なんか二度と乗るか…」
「帰りはどうするのよ…。はぁ、怪我の治りは早いのに相変わらずの乗り物酔いの弱さね」
そう言ってジュンコもデュエルディスクを入れたナップサックを背負った。
この2人の荷物の差には理由があった。別にシゲルの荷物の中にジュンコの荷物が混ざってるわけではない。
「んで…お前の家はどこだったっけ?」
「西側のニュータウンよ」
―数日前―
「シゲル、あの…今度本島に行って遊ぶ約束したじゃない」
「ああ、行き先はまだ決めてなかったけど…何かあったのか?」
どこか申し訳ないようなジュンコにシゲルは別の用事でも入ったのかと思っていた。
「実は、私の家族に紹介したの…」
「………………どっちの意味で?」
「………多分、後者」
シゲルの脳内で「友人」か「恋人」かで聞いたのだが、それを察したのか顔を赤く逸らしながら答えたジュンコ。どうやらあっているようだった。
「別にいいけど、いきなり知らねぇ男が来てもびっくりするだけなんじゃね?」
「あ、違うのよ。実は父さんに進路についての相談で手紙を送った時にシゲルのことを書いたらぜひ会いたいって…」
「…ちなみに聞くが、なんて書いた?」
そう言うとジュンコはおそらく下書きなのだろう、手紙の一部を渡した。
『PS.前に言ってたお見合いだけどお断りします。私には好きな人がいるので』
「……で、親父さんの返答って?正確には?」
「……試してやる、って」
どうやら挨拶というよりもシゲルがジュンコに相応しいのか確かめるために連れて来いというのだろう。
「ご、ごめん!迷惑だったら断るからさ…」
「いや、いい…こういうのは早々にケリを付けねぇと後に伸ばしたらめんどい事になるからな…けど試してやるって…」
「父さん、イーストの実技教師でもあるから…」
実技教師というとクロノスと同じだ。つまりデュエルの腕に自信があってシゲルを叩きのめしたいのが本音だろう。
「なあジュンコ」
シゲルは手紙をジュンコに返して調整のために広げていたデッキをケースに戻すとディスクの横に置いた。
「本気出していいのか?」
―童実野町:西側―
「ところで、シゲル。デッキはどのタイプにしたの?」
「ブラッディ・ソウルは抜いた。やっぱり両立は難しいみたいだ」
アクセルシンクロはベースとなるソウルとチューナーのフリ、アクセルシンクロのブラッディ・ソウルとエクストラデッキが圧迫される。それに召喚方法がエクストラデッキに戻すかゲームから除外するしかないのだ。
「着いたわ」
「…ここか?」
普通の一軒家、ナショナルスクール時代に友人の家に行ったことはあるが彼でも女子の家にお邪魔することはなかった。
「あら、ジュンコじゃない」
「あ…」
買い物袋を下げた女性がやってきた。見た目やジュンコの反応からするとおそらく――
「お母さん…」
やはりというべきか、ジュンコの母親のようだ。家庭的で、ジュンコの時よりレイや響に見せる母性を醸し出している。すると母親はシゲルに気づいたようで驚いた。
「あら、その子は?まさか…ジュンコの彼氏さん?」
「っ…………」
顔を真っ赤にしているジュンコだが、静かに頷いた。シゲルもペコリと頭を下げて挨拶をした。
「アカデミアチーム科の獣斬繁です。娘さんとは入学の当時からよくさせてもらってます」
「まあ、なんて礼儀正しい子なのかしら?ケイタにも見習って欲しいわ」
「ケイタ?」
聞き覚えのない名前だが母親は「どうぞ、ゆっくりしてね」と扉を開けて向かい入れてくれた。シゲルは未だに赤くなってるジュンコの手を掴むと引きずるようにして家の中に入った。
「前々から思ってたんだけど、あんたのその時より見せる礼儀の良さって何…」
宛てがわれた客間に荷物を置いて出てきたシゲルにジュンコは総口にした。
「ペガサスから引き取られた時から世渡りの方法を学んだ。フレンドリーかつ、礼儀の良さ、それと話し方までな。バラスティアに関する情報を得るためには一つでもできることが多い方が良かったから」
「なるほどねぇ」
I2社のトップであるペガサスのことだ。彼なりの人との付き合い方もあるが根本を聞くのは無駄ではないだろう。
「ここがリビング、向かいがトイレよ」
「あの部屋は?」
「ああ、ケイタ…弟の部屋よ」
そういうシゲルは「ふーん」と言って扉を一瞥してジュンコとともにリビングへとはいった。
「やだぁ、ジュンコったら。シゲル君のために弁当を?」
「ええ、美味しかったですよ」
「もう母さんもシゲルもやめてぇ!!」
リビングではお茶を入れた母親から「ジュンコは学園ではどう?」「ふたりの馴れ初めは?」という質問攻めに会っていた。管理局などの非日常的な出来事には触れずに説明をするのだが、そのせいもあるのかジュンコとの出会いが「不良から守った」という美談となったのだった。
「そういえば、ジュンコ。あなたはシゲル君のご両親には挨拶に行ったの?」
「あ、母さん…それは…」
「…俺の両親は幼い頃に亡くなりました」
できる限り暗い雰囲気にならないようにシゲルはそういった。それに母親は失言だったということに気づいて「あらやらだ、私は」と慌てていた。
「気にしないでください。そのあとは…楽じゃないけど親切な人に引き取られましたし、親代わりの人のようなのもいます」
『儂は人じゃないがな』
ウリィの言葉にジュンコも無言で同意した。まあ、マリアの方は人だが。
「そうなの…若いのに大変ねぇ…」
「仲間にはもっと大変な目にあったやつもいますし、これぐらいで弱音は言ってられないので…」
「…あんたらの場合は大変を通り越してるけどね…」
シゲルに似た境遇でありながら数年をゴーストシティでストリートチルドレンで過ごしたユウに管理局の人体実験となった紫苑と洗脳されて兵士となった響。
そして自分の運命に翻弄され続けたツバキ。
それに比べたらシゲルはまだマシなほうと言えなくもない。
「あらやだ、明日の朝ご飯のパンを買うのを忘れてたわ。ジュンコ、留守番をお願いね」
母親はそう言い残して買い物袋と財布を持つと家を出た。
「気、使わせたかな」
「昔からそうなのよ」
するとシゲルは「さてと」と立ち上がるとリビングを出た。ジュンコは怪訝そうに首を傾けると後をついていった。
シゲルが手にかけたのは先ほど荷物を置いて出て行った客間だった。
「ジュンコ、少し黙ってろな」
「えっ?」
勢いよく扉を開けると、その中で何かが飛び跳ねるようにして動いた。
「あっ、あっ…!!」
そこにいたのは小学生ぐらいの少年だった。彼はシゲルのボストンバックの中を漁っていたようで着替えやデュエルディスクが散らばっていた。
「ケイタ…?あんた、なにを…」
「ね、姉ちゃん…」
どうやらこの子はジュンコの弟のようだ。するとシゲルは腰のデッキホルダーからデッキを取り出した。
「あいにく、俺はデッキは常に身に持ってるからな。その中にカードはないぞ」
『龍安寺で置いて行かれたからのぉ』
以前カリーヌ教会に滞在した際、腕の骨折でデュエルをすることはないと思いデッキとデュエルディスクを置いてきたことがあり、人間界に戻ってきたウリィ達が寂しい思いをしたことがあるためデッキを常に持ち歩くようにしていたのだ。
「っ…!!」
「ケイタ、アンタなんで…シゲルのカードを盗もうとしたの!なんで!!」
「…いじめ、か?」
シゲルの言葉に無言だがビクッとケイタは反応した。
「どういうこと?」
「俺たちは入試予備日で休みだ…が、小学校ならまだ授業があるだろ?それなのに昼間から家にいるってことは不登校ってことだ。そうなれば考えられる原因は予想がつく」
「……ねえ、ちゃん…」
ビクビクしながらケイタは泣き始めてしまった。そして彼からポロポロと要領を得ない言葉での謝罪と説明があった。
ケイタ曰く、彼の学校のガキ大将がケイタのデッキをアンティルールで持っていったというのだ。もともとケイタのデッキはジュンコが作ったもので、デッキセンスとしては小学生の中ではトップだった。
しかし、ガキ大将は代理を立ててアンティを持ち掛けてきたのだ。その相手に負け、デッキがとられてしまったらしい。
それから自分でデッキを作って挑もうにも負け続けてしまい、それが原因でいじめられて不登校になったと。
「――で、俺がジュンコとともに滞在すると聞いてアカデミアの生徒のデッキならと思って探ってたというわけか?」
「…うん…」
リビングに場所を移して事情を聴いてジュンコは何も言えなかった。彼女とケイタの中はよく、近所からも評判だったのだ。しかし、その弟がそんないじめにあってるというのには言葉を失ったようだ。
「最低だな」
「! だ、だったらデッキを貸して!必ず勝って――」
シゲルの言葉にケイタは必死にシゲルに頼み込もうとするが、その言葉はさえぎられてしまった――
「馬鹿野郎」
シゲルの罵倒とビンタによって。叩かれたことにより、頬に痛みが走った。しかしそれ以上になぜ叩かれたかわからないというようにケイタは目を見開いた。
「俺が言ったのは、お前が最低だってことだ。相手はアンティを持ち掛け、そしてお前は受け入れた。終わった後で四の五の言うのはルール違反だ」
「で、でも…」
ゴモゴモと口ごもるケイタにシゲルは大きなため息をついた。彼はこのようなはっきりとしない受け答えは大嫌いなのだ。YesかNoか、そのどちらかしかいらないのだ。
「第一…そのデッキ、ジュンコがお前のために組んだものだろ?それをはいそれと賭けに使うなんていうのが気に入らねぇ。自分なりのアレンジしたりどうするかはお前の勝手だ。だがそれをアンティに使うっていうのなら話は違う」
そう言ってシゲルは腰のデッキケースから無作為にカードを取り出してテーブルの上に置いた。
「このカード…お前にとってはどう思う?」
それは『剣闘獣ミラード』だった。
攻撃力守備力共に0、レベルが1、強力とも言い難いモンスターだ。
「弱い…かな…」
「ああ、弱い。効果も攻守もな。けどこいつのおかげで負けられないデュエルにも勝った」
そう言われてジュンコはそれがリンディのデュエルのことだとわかった。始めてブラッディ・リゾネーターを召喚した素材でもある。
「このカード1枚とっても俺にとってはかけがえのないものだ。コイツだけじゃねぇ。俺はたとえ世界に一枚しかないカードを出されてもデッキのカードをアンティに出すことだけは絶対にしない」
去年のカードショップでの駆け引きでシゲルは吹雪から譲り受けた真紅眼の黒竜をアンティにした。
シゲルのデッキには合わないし、万が一負けてもいいというカードだったので賭けたのだ。
「け、けど…」
「お前が賭けたのはお前のデッキでもお前のカードでもない。ジュンコの思い、ジュンコとの絆だ」
「うっ…」
シゲルの言葉が響いたのか、ケイタは両手を膝の上で握り締めて屈辱に耐えるように肩を震わせた。
「シゲル…」
「手を貸せ、か?我が儘で姉の気持ちを理解してなかったやつのか?」
「私が留守番するときの条件、まだ有効でしょ?ケイタ、もう次からは安易にアンティをしないって約束する?」
ジュンコの言葉にケイタは涙を流しながら頷いた。
その様子を見てシゲルはもう二度と間違いを起こすことはないだろうと判断した。
「わかった。だが俺がやるのはお前のリベンジの手伝いだけだ。デッキがなくてもカードはあるんだろ?それを持って来い」
「でも…効果も弱いし、攻撃力も…」
「全部そこから作るわけじゃねぇ。それにそのカードにお前は思い入れがないのか?」
シゲルの言葉に渋々という感じだがケイタは従った。ジュンコもハーピィデッキを作るにあたって余ったカードを持ってきた。
―30分後:カードショップ―
「ま、まいど~…」
「…あんた、なかなか鬼畜ね」
必要なカードをカードショップで揃えに来た3人。しかし、シゲルを見た店主がどこか怯えたようにしており、その理由はすぐに分かった。
真紅眼の黒竜をアンティとしてデュエルを行い、結果シゲルの勝利で終わった。ハンデとしてライフ差を設けていたがそれすらも苦にならず終わった。
「け、けどこのデッキで…勝てるの…?」
ケイタの心配も無理もない。ジュンコもそのデッキで戦えと言われたら無謀だと思うからだ。しかし、シゲルは立ち止まるとポケットの中から1枚のカードを取り出した。
「ケイタ、ひとつだけ教えておく」
振り返って、腰ほどの背丈のケイタと同じ目線に屈んだシゲルはまっすぐその目を見た。
「勝てるのか、負けるのかじゃない。勝つんだ。最初から疑ってたのならそこでお前は負けだ。諦めるのは負けたときだ」
―時計広場―
あらかじめケイタがガキ大将を呼び出したはずなのだが予定時間の20分程経過していた。
「ケイタ、お前大丈夫なのか?」
「う、うん。勝つ、絶対に」
その間にケイタと比較的友好な学友たちが話を聞いてやってきていた。
シゲルとジュンコは離れたベンチに座って見守っている。
「ひょーっひょひょ、いやー、遅れた」
「ったく、ケイタ。なんだよ、俺様を呼び出して、何様だ?」
ほどなくして問題のガキ大将とその後ろ盾がやってきた。どこか気分を害するような笑いを浮かべるおかっぱ頭の年上と【Theガキ大将】というポッチャリ系の少年。
「デュエルして…欲しいんだ。アンティで、僕のデッキを賭けて欲しい」
「あぁ?はっ、ふざけてるのか?お前のデッキに見合うカードなんかあるのか?あんなレアカードを見合うものがな」
「レアカードって何を入れてたんだ?」
「始祖神鳥シムグルよ、もともとハーピィズペットと合わせていたんだけどあの子の誕生日に贈ったの」
始祖神鳥シムグルといえばパックは絶版となり、プレミアが付いて数万ほどの値段となっているカードだ。
するとケイタはチラッとシゲルの方を見た、シゲルは何も言わずに頷いただけだ。
「僕は…これを賭けるよ」
「…は…ふ、ふざけてるのか…そ、そんなレアカードを持ってるのかよ!?」
ケイタが出したカード――それは真紅眼の黒竜だった。シゲルのカードだが彼から「アンティにはこれを使え」と渡されていたのだ。
吹雪が所持している真紅眼の黒竜はもともと存在していた絵面のカードのレプリカとして制作したものだった。しかしそのパックは数量限定で販売されていないためそれでも数万円の価値があるのだ。
ちなみになぜ吹雪が自分のデッキとカイザー、シゲルに渡すほど持っているのかというとアカデミアでパックが販売されたときにカイザーや優介といった友人が使わず、吹雪がドラゴンデッキだったため譲り受けたのだ。
「ひょーっひょっひょ、いいぜ。そのレアカード貰えるのならやってやるよ!」
「カードは上げない…僕が勝つから…!!」
「勝つ?無理無理!この全国大会優勝者であるインセクター羽蛾様に勝つなんて百年早いんだよ!!」
それを聞いてシゲルはその少年がまだデュエルモンスターズのルールがエキスパートルールに移行する前の大会で優勝したがその後全く話を聞かなくなったデュエリストだということを思い出した。
―ケイタのターン―
「僕のターン!未来の戦士ネモを召喚!」
ネモ/ATK0
幼い子供が小さい剣を持って登場した。しかしネモはただ魔法剣士ネオや魔法剣士トランスの幼い頃という設定だけのレベル1モンスターだ。
「ひょ?攻撃力0?」
「ゼロゼロックを発動、カードを伏せてターンエンド」
ケイタ
LP/4000 手札3枚
ネモ/ATK0
ゼロゼロック 伏せカード1枚
―羽蛾のターン―
「ひょーっひょひょ、アルティメット・インセクトLv3を召喚!!」
アルティメット・インセクトLv3/ATK1400
羽蛾のフィールドに芋虫のような姿の虫が登場した。その姿にジュンコがゾワリと体を震わせてみていた。
「Lvモンスター…」
「アームドドラゴンであれだ。レベルが上がる前に潰したいが…」
友人である万城目のアームドドラゴンは低レベルなら効果はほぼない、しかしLvが上がると十代を追い詰めるほどの威力を秘めるのだ。
「バトルフェイズ!!」
「残念だけどゼロゼロックは攻撃表示の攻撃力0のモンスターは攻撃対象にできない!」
見えないバリアがネモを守るかのようにして覆われている。それに羽蛾は舌打ちをした。
「雑魚モンスターの壁なんてすぐに壊してやる。ターンエンド」
羽蛾
LP4000 手札5枚
アルティメット・インセクトLv3/ATK1400
伏せカード無し
―ケイタのターン―
「僕のターン!!ワンショット・ロケットを通常召喚、さらにワンショット・ブースターを特殊召喚、このモンスターは通常召喚を行ったターンに特殊召喚することができる!!」
ワンショット・ロケット/ATK0
ワンショット・ブースター/ATK0
フィールドにおもちゃのようなロケットが2体登場した。しかし両方とも攻撃力は0。
「レベル1のワンショット・ブースターにレベル2のワンショット・ロケットをチューニング!!小さい破壊が一つになるとき、大きな砲弾となる!!」
☆1 + ☆2 =☆3
「シンクロ召喚、ワンショット・キャノン!!」
ワンショット・キャノン/ATK0
2つの機械が組み合わさると大きな兵器に変わった。それでも攻撃力は0。
「ひょひょひょ、攻撃力0のシンクロモンスターなんて怖くないね」
「ワンショット・キャノンの効果!!アルティメット・インセクトを破壊してその攻撃力の半分のダメージを相手に与える!!」
この効果とゼロゼロックが組み合わさったら文字通り固定砲台となり一気に優位に進めることができる。
「無駄無駄!罠カード、ブレイクスルー・スキル!!ワンショット・キャノンの効果を無効!!」
ワンショット・キャノンの砲撃がアルティメット・インセクトに直撃する前に出現した鏡に直撃して、砕けた欠片によってワンショット・キャノンがショートした。
「っ…ターンエンド」
ケイタ
LP4000 手札2枚
ネモ/ATK0 ワンショット・キャノン/ATK0
ゼロゼロック 伏せカード1枚
―羽蛾のターン―
「俺のターン!!スタンバイフェイズ、アルティメット・インセクトはレベルアップ!!」
アルティメット・インセクトLv3→Lv5/ATK1400→2300
今度は蛹に足が生えたような奇妙な姿へと変わった。さらに攻撃力も2300と十分に高い数値へとなった。
「まずはその邪魔な永続魔法からだ、静寂虫を召喚!!」
静寂虫/DEF300
今度はまるで忍者のように気配がなく、羽音を立てずに這って虫が出現した。
「静寂虫がフィールドに存在する限り、永続魔法・罠の効果を無効にする!!」
「ゼロゼロックが…!!」
静寂虫が音もたてずに羽を動かした振動でバリアが音もたてずに消えてしまった。
「バトルフェイズ、アルティメット・インセクトでワンショット・キャノンに攻撃!!」
「くっ、あああああ!!!」
ケイタ/LP4000→1700
ワンショット・キャノンは攻撃表示だった、そのまま2300の大ダメージを食らってしまった。仮にも元全日本優勝者、実力は高いようだった。
「ひょひょひょ!!ターンエンド!!」
羽蛾
LP4000 手札5枚
アルティメット・インセクトLv5/ATK2300 静寂虫/DEF300
伏せカード無し
―ケイタのターン―
「っ…ドロー!!(手札が悪い…なら、)凡骨の施しを発動!!カードを2枚ドローして手札の通常モンスター、砦を守る翼竜を除外する!!」
「通常モンスターばかり…そんなので俺に勝てるわけないじゃねぇか!」
羽蛾がバカにしたように言うが、ケイタは引いたカードを見て内心でガッツポーズした。
「魔法カード置換融合を発動!!手札の悪魔の知恵と魔天老を融合!!スカルビショップを融合召喚!!」
スカルビショップ/ATK2650
フィールドに出現したのは効果も持たない融合モンスターだ。しかし攻撃力的にはアルティメット・インセクトを超えることができる――が。
「残念だったな、アルティメット・インセクトの効果を発動!!レベルアップしたこのモンスターが存在する限り相手のモンスターは攻撃力を500ポイントダウン!!」
「なっ…!!」
スカルビショップ/ATK2650→2150
これまでケイタが召喚したのは攻撃力0のモンスターだけ、そのためにアルティメット・インセクトの本当の効果に気づくことができなかった。
これではわずかにアルティメット・インセクトを下回ってしまった。
「っ…なら、バトルフェイズ、静寂虫に攻撃!!」
羽音の元凶である静寂虫が破壊されたことにより再びゼロゼロックの効果が復活した。
「カードを伏せてターンエンド」
ケイタ
LP1700 手0枚
ネモ/ATK0 スカルビショップ/ATK2150
ゼロゼロック 伏せカード1枚
―羽蛾のターン―
「俺のターン!!このスタンバイフェイズに、さらにアルティメット・インセクトのレベルがアップする!!」
アルティメット・インセクトLv5→7/ATK2300→2600
成虫となったアルティメット・インセクトは蛾と蠅を組み合わせたような姿となり、男勝りとはいえ女子であるジュンコや見守っていた学友たちは気分が悪そうだった。
「さらにアルティメット・インセクトの毒のレベルもアップ、攻撃力を700ポイントダウンだ!!」
スカルビショップ/ATK2150→1950
「このままバトルだ、アルティメット・インセクトでスカルビショップに攻撃!!アルティメット・ポイズン!!」
「攻撃宣言時に捨て身の宝札を発動!!攻撃力の合計が1950でアルティメット・インセクトよりも低いためカードを2枚ドローする!!」
しかし引いたカードではスカルビショップを守ることができなかった。
ケイタ/LP1700→1050
「ひょひょひょ、メインフェイズ2、プチモスを召喚!!」
プチモス/DEF200
今度はアルティメット・インセクトLv3よりも可愛らしい幼虫が出現した。だがこのモンスターはある意味では有名だ、ただの通常モンスターなのだが――
「手札から進化の繭を装備!!これによりプチモスは成長する!!」
プチモス/DEF200→2000
繭となったプチモス。ここから経過ターンによってラーバモス、グレート・モスと進化していく。だがアルティメット・インセクトがいるため攻撃力2750以上のモンスターでないと攻撃で破壊できなくなってしまった。
「さらに、魔法カード封印の黄金櫃を発動、究極完全体・グレート・モスを除外して2ターン後に手札に加える!!」
羽蛾
LP4000 手札3枚
アルティメット・インセクトLv7/ATK2600 プチモス/DEF2000(1ターン経過)
進化の繭
―ケイタのターン―
「僕のターン、ドロー!!墓地の置換融合の効果で自身を除外してスカルビショップを戻し、カードをドロー!!」
これで手札は4枚。だが先ほどの静寂虫があった以上、ゼロゼロックで守り切るのは危険すぎる。幸いに手札にはほかの守る手段もあるし――あのカードをそろえるためには戦術を切り替える必要がある。
「光の裁定を発動、ゼロゼロックを破壊してデッキから閃光の宝札を発動!!さらにもう一枚閃光の宝札発動!!他の魔法・罠ゾーンを使用不能にして同名カードがある場合、ドローフェイズのドローを2枚にする!」
しかしこれでケイタが使えるゾーンは一つだけに。ドローブーストのためとはいえリスクが高すぎる。
「カードを伏せてネモを守備表示、ターンエンド!!」
ネモ/ATK→DEF0
ケイタ
LP1050 手札1枚
ネモ/DEF0
閃光の宝札×2 伏せカード1枚 2箇所使用不能
―羽蛾のターン―
「俺のターン、スタンバイフェイズに黄金櫃のカウンターが一つ進むぜ」
封印の黄金櫃/C0→1
今の手札に羽蛾が召喚できるモンスターはない、彼のデッキはパワーで攻める重量級デッキだ。展開力が乏しい代わりに一撃が重いのだ。
「バトルフェイズアルティメット・インセクトでネモに攻撃、アルティメット・ポイズン!!」
「速攻魔法ハーフ・シャットを発動!!ネモの破壊を無効!!」
攻撃力を半分にして破壊を無効にする速攻魔法だ、と言ってもネモはもともと攻撃力を持たない。そのうえ、守備表示のために最強の防御札となった。
「ちっ…ターンエンド」
羽蛾
LP4000 手札4枚
アルティメット・インセクトLv7/ATK2600 プチモス/DEF2000(2ターン経過)
進化の繭
―ケイタのターン―
「僕のターン、2枚ドロー!!(まず1枚…)カードを伏せてターンエンド!!」
ケイタ
LP1050 手札2枚
ネモ/DEF0
閃光の宝札×2 伏せカード1枚 2箇所使用不能
主力であったスカルビショップがやられてしまい、防戦一方となったケイタ。ひとまずはネモを中心に守りを固めて逆転の手を求めるしかできない。
―羽蛾のターン―
「俺のターン、ドロー!!そしてスタンバイフェイズに2ターン目となった封印の黄金櫃の効果で究極完全体・グレート・モスを手札に加える!!」
封印の黄金櫃/C1→2
手札にモンスターがそろい始めて羽蛾は今が攻め時だと判断した。
「墓地のLv5とLv3を除外してデビルドーザーを特殊召喚!!」
デビルドーザー/ATK2800
まずは墓地の昆虫族を2体除外することで召喚することができる上級モンスターだ。攻撃力がアルティメット・インセクトよりも高い上にデッキ破壊の効果も備えている。
「さらに甲虫装甲騎士を召喚!!」
甲虫装甲騎士/ATK1900
次に出たのはレベル4の通常召喚可能名モンスターではジェネティックワーウルフなどの2000ラインにあと一歩という数値のモンスターだ。
「バトルフェイズ、甲虫装甲騎士でネモに攻撃!!インセクト・スラッシュ!!」
「速攻魔法ドローマッスル!!攻撃力1000以下の守備表示モンスターを対象に、カードをドローして破壊を無効にする!!」
これでこのターンも凌げる。そう思った――
「残念だひょー!!速攻魔法、時の跳躍を発動。3ターン後のバトルフェイズに以降する!!」
一瞬場面がぶれたかと思えば攻撃を終えた甲虫装甲騎士が再び攻撃の体制をとっていた。
「さらに、お互いのターンが3ターン経過したため進化の繭もさらなる成長を遂げる!!」
プチモス/5ターン経過
究極完全体・グレート・モスは6ターン経過、つまりこのターンを終えたら6ターンとなる。次のターンには昆虫族では最高攻撃力のモンスターが登場するのだ。
「だがこのターンで終わらせてやる、再び甲虫装甲騎士で攻撃!!」
「手札のガードヘッジの効果!!このカードを捨てて破壊を無効にする!!」
先ほどのドロー・マッスルで引いた九死に一生のカード。地面から無数の蔦がネモを守るようにして壁となった。
ちなみにどうでもいいことだがこのカードはシゲルのカードだった。剣闘獣と相性がいいため入れていたのだが一度も手札に来たことがないためこの際抜いたのである。
「しぶとい奴め…ターンエンド!!」
羽蛾
LP4000 手札2枚
アルティメット・インセクトLv7/ATK2600 プチモス/DEF2000(6ターン経過) デビルドーザー/ATK2800 甲虫装甲騎士/ATK1900
進化の繭
―ケイタのターン―
「僕のターン、カードを2枚ドロー!!(違う…なら)千眼の邪教神を召喚!!」
千眼の邪教神/ATK0
千の目を持つ禍々しいモンスターが出現した。しかしこのモンスターは現在禁止カードとなったサウザンド・アイズ・サクリファイスの融合素材となるモンスターだ。それ以上にこのカードに価値はない。
「馬の骨の対価を発動、通常モンスターである千眼の邪教神をリリースしてカードを2枚ドロー!!」
登場して早々に千眼の邪教神がリリースされたため、再びフィールドにはネモが1体のみ。
「カードを伏せてターンエンド!!」
ケイタ
LP1050 手札3枚
ネモ/DEF0
閃光の宝札×2 伏せカード1枚 2箇所使用不能
―羽蛾のターン―
「俺のターン!!ひょひょひょ!!さあ、6ターン経過した繭が今孵るぞ!!」
羽蛾の言うとおり、進化の繭が鼓動するとヒビが入り、巨大な虫が生まれた。
「これが俺の究極完全体・グレート・モスだ!!」
究極完全体・グレート・モス/ATK3500
「うわぁ…」
「初めて見た…」
「さすがです、羽蛾さん!!」
出すにも難しいモンスターの登場に学友やギャラリーは驚き、感激しているガキ大将。ジュンコは圧倒的に分が悪い状況にケイタを心配そうに見ていてシゲルはその展開に落胆したかのようにため息をついた。
「バトルフェイズ、甲虫装甲騎士で攻撃!!インセクト・スラッシュ!!」
「リバース罠、ソウル・シールドを発動!!!ライフを半分にしてネモの破壊を無効にしてバトルフェイズを終了させる!」
ケイタ/LP1050→525
破壊ができなかったがライフを大きく削れたことに羽蛾は満足して笑っていた。
「ひょひょひょ!!ターンエンド!!」
羽蛾
LP4000 手札2枚
アルティメット・インセクトLv7/ATK2600 究極完全体・グレート・モス/ATK3500 デビルドーザー/ATK2800 甲虫装甲騎士/ATK1900
伏せカード無し
―ケイタのターン―
「僕のターン、2枚ドロー!!(違う、けど…これなら…!)速攻魔法手札断殺を発動、お互いに手札を2枚捨てて2枚ドロー!!」
「(手札交換…そうか、そういうことか!!)」
「(よし、あと1枚…揃えば…!!)僕は、このままターンエンド!!」
伏せカードもモンスターも出さずに終わった。先ほどのグレート・モスの召喚とは打って変わって観客たちはそれに呆れていた。
「おいおい、また攻撃しないのかよ」
「あいつ勝つ気があるのかぁ?」
「本当に大丈夫なのかよ」
「ケイタ…」
ガキ大将や見守っていた級友たちはケイタの戦術にヤジを飛ばす。一方ジュンコもハラハラしたようにケイタを見守っていた。
「あと…1ターン…」
ケイタ
LP525 手札4枚
ネモ/DEF0
閃光の宝札×2 2箇所使用不能
―羽蛾のターン―
「俺のターン!!いやいや、焦ったよ。まさかお前のデッキにそれが入ってるとはな」
「!!」
「気づかれた…!!」
羽蛾の言葉にビクッと反応したケイタ。ジュンコも苦虫をかんだかのように悔しがっていた。
「それ?」
「なんのことですか、羽蛾さん」
ガキ大将の言葉に羽蛾は「ひょひょひょ」と笑うと手札のカードを発動させた。
「魔法カード、手札抹殺を発動!!お互いに手札を全て捨てる、俺の手札は2枚。このまま鉄鋼装甲虫とアルティメット・インセクトLv1を捨てさせてもらうぜ。さあ、そっちの捨てるカードを見せてもらおうか!」
「ッ…」
ケイタ Drop Hand
・封印されし者の右腕
・封印されし者の左腕
・封印されし者の右足
・封印されし者の左足
「なっ!?」
「エクゾディア!?」
特殊勝利の元祖と言われ、公式記録では海馬瀬人との戦いで武藤遊戯が揃えた1度しかない伝説のカードだ。
「おー、怖い怖い。ひょっひょっひょ。手札増強と手札交換、思ったとおりだ。だが残念だったな、全てのパーツを捨ててもらおう!!」
ケイタは手札のカードを4枚捨てた。あと一枚、封印されしエクゾディアがいれば勝てたのに。
「そしてお互いに捨てた枚数ドローする。さらに魔法カード、細胞分裂を発動!!甲虫装甲騎士の細胞を分裂させてトークンを特殊召喚する!!」
細胞分裂トークン/ATK1900
「そしてフィールドの甲虫装甲騎士とトークンをリリース!!女王様のお出ました、インセクト女王!!」
インセクト女王/ATK2200
フィールドに蜘蛛の胴体に人間に近い顔を持つグロテスクなモンスターが登場した。
「女王様はフィールドの昆虫族につき攻撃力が200ポイントアップする!!俺のフィールドにいるのは4体の昆虫、よって――」
インセクト女王/ATK2200→3000
「攻撃力3000!?」
「ひょーっひょっひょ!!これが俺のパワーインセクトデッキだ!!」
攻撃力3000超えが2体に攻撃力をダウンさせる効果含む2000強のモンスター2体。一方ケイタのフィールドは攻守共に0のモンスターが1体のみ
「バトルフェイズ!!アルティメット・インセクトLv7でネモに攻撃!!消えろ!!」
「まだ……墓地のシールドウォーリアーの効果!!このカードを除外してネモの破壊を無効にする!!」
「ちっ…しつこい奴だ…だがエクゾディアは封じた、いつまでもつかな?」
確かにケイタの墓地にはもう有用なカードはない、手札にも引いたのはアームズ・ホールと閃光の宝札、封印されしエクゾディアと死者転生。もう止める手段はない。
「さあ、ターンエンドだ!!」
羽蛾
LP4000 手札0枚
アルティメット・インセクトLv7/ATK2600 究極完全体・グレート・モス/ATK3500 デビルドーザー/ATK2800 インセクト女王/ATK3000
伏せカード無し
―ケイタのターン―
「僕のターン!!お願い…!!」
「ひょっひょっひょ、願ったところで墓地のカードが手札に戻るわけはない。諦めるんだな!!」
震えながら、カードを引いた。
馬の骨の対価、このカードでドローブーストはできるがそのためにはネモをリリースする必要があった。もう一枚は――
「思い出のブランコ…!」
このカードを使えばもしかしたら。でも、それでもダメだったらという恐怖が襲いかかった。
「ッ………――!」
ふと顔を上げると、離れたところで見守るジュンコとシゲルが目に入った。
『お前が賭けたのはお前のデッキでもお前のカードでもない。ジュンコの思い、ジュンコとの絆だ』
『勝てるか、負けるかじゃない。勝つんだ。最初から疑ってたのならそこでお前は負けだ。諦めるのは負けたときだ』
そう、自分が何をやったのか――姉からもらった大切なデッキをアンティにしてしまい、その事実から逃げていた。
そして姉の恋人のデッキを盗もうとした。
「もう、逃げない…逃げないんだ!!」
自分を鼓舞するように手札のカードを使用した。
「魔法カード、思い出のブランコを発動!!墓地の通常モンスターを1体――!!」
墓地から呼び出す通常モンスターを選択しようとして、手を止めた。このカード、そう姉のカード。姉そのものとも言えるカード。
幼い頃からあの人に憧れて使い続けていたカード。
「…墓地の――ハーピィ・レディを蘇生させる!!」
ハーピィ・レディ/ATK1300
登場したのは美しい鳥の羽を持つ女性だった。ケイタの姉、ジュンコのフェイバリットモンスターでもあり、あるデュエリストに憧れたジュンコが幼い頃から使い続けているカードだ。
「ふん、今更そんな低レベルモンスターを出したところで何ができる」
「魔法カード、馬の骨の対価を発動!!フィールドの通常モンスター、ハーピィ・レディをリリースしてカードを2枚ドローする!!」
「…攻撃力が低いネモじゃなくてハーピィ・レディをだと?」
羽蛾もギャラリーもケイタの目的がわからなくて困惑していた。唯一デッキ制作を監修したシゲルとジュンコだけはそれが何を狙ってるのかわかっていた。
「カード…ドロー!!」
1枚目、予想GUY。狙っているカードはこれではない。そして――
「シゲルさん…僕、諦めない、諦めたくない!!」
そう叫んで2枚目を引いたケイタの指先が光ったような気がした。
「…!!」
「さあ、俺のインセクトモンスターを破壊するカードは引けたか?」
羽蛾はそう高笑いしてるがケイタはそれを鼻で笑うようにしていた。
「羽蛾さん、知ってますか?デュエルモンスターズの歴史上、生み出されて一度も召喚されてない忘れ去られたモンスターのこと」
「ひょ…?」
「そんなモンスター存在するわけねぇだろ」
ガキ大将が吐き捨てるように反論するがギャラリーたちも同じ気持ちだった。どんなに弱くても1度は召喚されているはずだ。
「あまりの強力な力にその過酷な召喚条件を課せられた『巨人』を――」
「……ひょ…ま、まさか…!!」
ケイタはニッコリと笑うとずっと、デュエルが開始してからフィールドに存在するネモを手にした。
「僕は――20ターンフィールドに残り続けていたレベル1の通常モンスター未来の戦士ネモをリリース!!」
「…はぁっ!?」
「20ターン!?」
「そ、そっか、一度時の飛躍を使ったから6ターン分経過したんだ!!」
そう、偶然とは言え、羽蛾はこのモンスターの召喚を幇助したのだ。あの時のコンボがまさかケイタにも影響を与えていたとは思わなかった。
「いでよ――眠れる巨人ズシン!!」
フィールドのど真ん中が爆発するようにして盛り上がるとその中から文字通り、巨大なモンスターが出現した。
「ば、馬鹿な…」
「ね、眠れる巨人…ズシン…!?」
その名前はデュエリストなら1度は聞いたことがある。三幻神と同格の力を持つモンスター、しかし召喚する事は誰にもできないと言われていた。
眠れる巨人ズシン/ATK?
「デッキの一番上のカードを墓地に送ってアームズ・ホールを発動!!デッキからニトロユニットを手札に加える!!そしてそれを究極完全体・グレート・モスに装備させる!!」
「ッ…何をしようとしてるのかわからない。だが攻撃力3500のグレート・モスを倒せるわけない!!」
確かに羽蛾のライフは無傷、このターンで終わらせることは無理だと思われている。だがシゲルはもうすでにこのデュエルの終わりが見えた。
「バトルフェイズ、眠れる巨人ズシンでグレート・モスに攻撃宣言!!ズシンの効果、攻撃力はバトルする相手の攻撃力の1000ポイントアップする!!そしてこのモンスターは相手のカード効果を受けない!!」
ズシン/ATK?→4500
「こ、攻撃力4500!?」
「砕け、ズシンパンチ!!」
ズシンは巨大なはずのグレート・モスを羽虫のように殴りつけた。
「うわあああああああああああああ!!!」
羽蛾/LP4000→3000
吹き飛ばされた羽蛾だがまだライフは残されていた。
「ッ…まだ、まだ俺のライフは――」
「何勘違いしてるんですか?」
「ひょ?」
あれ、どこかで…デジャヴ?と羽蛾は若干の恐怖を覚えた。
するとピコンピコンという機械音が聞こえてきた。
「ニトロユニットの効果を発動!!装備されたモンスターが破壊されたとき、そのプレイヤーにもともとの攻撃力分のダメージを与える!!」
「ひょ!?」
いつの間にか羽蛾の首にニトロユニットが引っ掛かっていた。そしてその赤いランプが明滅をやめた。
「爆☆破!!」
「うわあああああああああああああああ!!!!」
羽蛾/LP3000→0
ニトロユニットの誘爆で羽蛾が吹っ飛んだ。まさに急展開、最後に魅せたケイタにギャラリーは茫然としていた。
あまりの驚愕にシーンと静まり返った中、ケイタはガキ大将のほうを向いた。
「えっと…約束、僕のデッキ…」
「っ…う、うるせぇ!!そんな約束知らねぇよ!!」
ガキ大将は羽蛾が負けたのにアンティを受け入れないようだった。
「ちょ、ちょっと、ケイタが勝ったんだから返しなよ!!」
「黙れぇ!!」
「おい」
喚くガキ大将に静かに近づいたシゲル。ちなみにジュンコはもう慣れていたがシゲルは目つきが悪い。そして今は若干機嫌が悪いのだ。
自然と低い声が出てしまい、ガキ大将はだらだらと汗を流して固まった。
「アンティを受けた以上、後になってなしにするのはデュエリストとしては最低だ、素直に返してやれ」
「な、なんだよ!関係ないやつが出てくるなよ!!」
「ぐっ…そ、そうだ…!!第一そんな雑魚に俺が負けるわけない!!イカサマしたんだろ!!」
復活した羽蛾はそういってケイタを殴りかかろうとするがその間にシゲルが入った。
「日本優勝者が聞いてあきれるな、過去の栄光に縋ってる雑魚め」
「な、なにぃ~?」
「お前程度のデュエリストなんてゴロゴロいる。プロにもなってないってことはたかが知れてる」
「くっ…言わせておけば…!!なら、デュエルしろ!!」
「…はぁ、ケイタ、ディスク借りるぞ」
どこかこうなることを、そして最初からこうすればよかったと思いながらシゲルはデッキを取り出した。まあ、ケイタが変わるきっかけになったのならいいかと思いディスクを腕にはめた。
―5分後―
「ブラック・メガ・シュート!!」
「うああああああああああ!!!」
羽蛾/LP700→0
勝負は一瞬だった。というのも羽蛾のデッキは展開力が乏しくパワーで攻めるデッキだ。シゲルの剣闘獣の展開力についてこれず、ソウル・ブラック・ドラゴンの爆発力に瞬殺されたのだ。
「さて、ボコボコにされるかおとなしくデッキを返すか、選べ」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!!」
負けて呆然としてる羽蛾を見てガキ大将は怯えたようにデッキを投げ捨てると逃げ出した。シゲルは本日何度目かのため息をつくとデッキを拾い上げてケイタに渡した。
「二度とデッキをアンティにするなんて考えるなよ」
「うん、誓うよ。ありがとう…えっと…お義兄さん?」
すこし恥ずかしいようにケイタが言うとシゲルは一瞬キョトンとするとクスクスと笑ってケイタの頭をポンポンと叩くとジュンコの元へと戻った。ちなみに今のやり取りを彼女は聞いてなかった。
「ケイタ、お前すげぇな!!」
「そう!ズシンを召喚するなんて!!」
「た、たまたまだよ。またやれって言われてもできないし…」
「一件落着、だな」
「一時はどうなるかと思ったわよ…ところで、なんでズシンなんてものを渡したの?」
エクゾディアをはじめとしたドローブーストはショップで集めたカードだ。しかし、シゲルはあくまでズシンをメインとしたデッキを目指した。
「さすがに別のガチガチに構築したデッキを用意する時間も一から作り直す時間もなかったからな。それと、弱いカードで勝負をあきらめてたし、万丈目のデッキみたいに低レベル低攻撃力でも戦えることを証明するには一番手っ取り早かった」
「じゃあエクゾディアは?」
「あくまで囮だ。それに大概はエクゾディアを封じたら勝てると思うだろ?」
現実的に羽蛾はエクゾディアを捨てさせることで封じたと思い込んでいた。
そうなれば本当の狙いを気付くのは難しい。シゲルやジュードが好んでやる本当の目的から逸らす誘導だ。
「はぁ…そうよね、アンタはジュードの先輩だったわね…」
どこかケイタの戦い方がジュードに似てると思っていたがシゲルが戦い方を教えたのなら無理もない。
「なるほど、君が獣斬繁君か」
「ん?」
「え゛っ…」
年配の男性のどこか感心したかのような声に2人は振り返った。そこにはスーツと大きめのバッグを持って眼鏡をかけた厳格そうな男性がいた。
「…どちらさん?」
「え、えっと、そのえっ、シゲル…」
「私は枕田襟糸という」
「………………」
ポクポクポクとジュンコ、それとケイタを見てもう一度襟糸を見たシゲルの脳内に「ポーン」と理解した。
「ジュンコとケイタの親父さんか」
「うむ、娘が世話になってるようだな、それにケイタも」
どうやら今の一件を見守っていたようで無事に事が済んだのに満足したように微笑んだ。
―枕田家―
「どうしてこうなった…」
あの後、一躍ヒーローになったケイタを含めて4人は帰宅した。
予想とは違い、襟糸はシゲルを友好的に向かい入れてくれた。どうやらケイタのために親身になったのと庇って羽蛾をふっ飛ばしたのとそのデュエルの腕前を気に入ったようだ。
しかし、問題はそこではない。
「ヒックッ…今の若者は他人を敬うということを忘れとる!!」
なぜ酔っぱらた襟糸に絡まれているのだろうか。食事を一緒に取り、学園での話やシゲルの身の上の話をしていた。シゲルの性格を気に入ったのか襟糸はガンガン酒を飲んでいた。
その結果が――これ。
「その点、シゲル君は大丈夫だな、ガハハハハ!!」
「お父さん、飲みすぎだよ…」
「なあに、まだまだ飲める――」
ケイタの言葉に襟糸はそう豪語していたが程なく寝てしまった。
「ごめんね、シゲル君。普段は嗜む程度なんだけどジュンコのお相手さんが気になってたみたいで…」
「気にしないでください」
「シゲルお義兄さん、その、デュエルしてください!」
「ちょ、ケイタ!?」
ジュンコは弟がシゲルを兄と呼んでるのに驚いて、母親は「あらあら」とほほえましく見守っていた。
ちなみに翌日からケイタを見かけたガキ大将はシゲルのことをビビって隠れるように過ごす事になるのだが割愛しておこう。
非常に長くなった…
ユウ「デュエルの内容にもよるけど、結構長いね」
最初はシゲルVS襟糸のつもりだったけど、ケイタの設定を作っていじめられっ子っていうことにしたら今回の話ができたためカットした。
紫苑「それにしてもだいぶと作るに時間かかりましたね」
いや、実は幕間は『精算』と今回含めて4話なのね。ただ順番を間違えた。
シゲル「どういうことだ?」
既に投稿済みの『精算』を除いて3話の内容は今回の『ジュンコの家族(+デート)』と『その頃のアカデミア組』と『チーム戦』の3つなのね。
時間軸的には上の通りなんだけど、先にチームの話を作ったんだ。
釼都「ならそっちを先に出せばよかったんじゃねぇか。
デュエルの相手が新入生にしたせいで時間軸におかしいことになった。相手を変更するにしてもジェネックスでの腕前からノーバディに喧嘩売る在学生もおかしいし…
まあ、投稿が遅れた理由は計算ミスということです。
ツバキ「じゃあ残りの幕間はすぐに?」
いや、次の話はデュエル前まで書き終わったからそこから…多分遅くても4月までには書き上がるはず。
一応ユベル編もプロットまでは完成したから…まあ、終わりが見えないけど
ユウ「終わりが見えない?」
もしかしたら『光の結社編』から『12日後の戦争編』みたいに章を跨ぐかも
まあ、今後の話はここまでにして今回の話の解説です。
釼都「まずはジュンコの家族からだな」
母親とイーストの実技教師の父親、それと小学生の弟ですね
ついでに全員捏造キャラです。
紫苑「そして今回はその弟がメインですね」
なんとなくジュンコのキャラ的に弟に過保護気味となって気弱な感じになりそうだなと思ったので。いじめられっ子ということにしてシゲルから勇気をもらう感じにしたら懐きそうだなと。
シゲル「ついでにあのあと何度もデュエルをした」
ユウ「で、対戦相手の…」
オリキャラを出しても良かったんだけど、落ちるところまで落としてみるのと最後の部分をやりたかったのでHA☆GAを出してみました。
釼都「にしても…すごい偏ったデッキだな…」
成長してないというイメージで旧環境のデッキにアルティメット・インセクトを突っ込むというアンバランスなデッキにしてみた。
その結果当時(GX~5D’s時代)のデッキである剣闘獣にフルボッコにされました。
そして眠れる巨人ズシン
釼都「予想外すぎるカードだな」
リアルだとこれよりも終焉のカウントダウンの方が手っ取り早く勝てるからね
原作では5D’sに登場したカードであり、神デュエルと言える話の主役である。
シゲル「原作でもチームリレーでカードを守って召喚したんだったな」
本当はVSノーバディでだそうかと思ったけどこのメンツで守りきるのは難しいと判断した…
そのため、ケイタのデッキはバニラモンスター軸のエクゾディアです。
紫苑「エクゾディアと見せかけてのズシン…こっちも余りにも偏ってますね」
とは言ってもロックとドローブーストでエクゾディアを狙いつつロックの中心となるレベル1通常モンスターでズシンを狙う。
文字通り一度しか使えないデッキです。
ツバキ「2回目は完全に警戒されるからね」
さて、それじゃあ次回もお楽しみに!