遊戯王GX~ノーバディ・レコード~   作:銀猫

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幕間第三話~涙を流す女と迷う少女~

「火之迦具土で攻撃!」

「あぁぁ~!!!」

 

 

浩輔/LP300→0

 

 

此処はカリーヌ教会ホール。時間は夕方。前日の大樹誘拐事件のためゴタゴタしていたユウ達だったが本日は教会で何かイベントがあるぐらいでのんびりしていた。

 

だが十代は一足先にアカデミアに戻り、ジュンコは実家へ一旦帰ることになった。

ジュンコはその後アカデミアに戻るので残りの数日間は5人だけとなった。

 

 

「それにしても…ま~たユウは強くなってるな…前だったら子供相手でも結構苦戦してたのにな…」

 

 

子供相手に「シンクロ無し」のハンデで、LPをユウは4000のままだが相手は8000という状況での勝負だ。

 

もちろん子供もシンクロモンスターは使う。

 

 

 

「う~!!どうしてお兄ちゃんに勝てないの~!!」

「うん、浩輔は確かに惜しいけど…カードの使うタイミングだね。例えばさっきも…」

 

 

そう言ってユウはカードを並べてその場面を表現していた。浩輔以外の子供達も食い入るように見ている。

 

一方あるテーブルでは大樹が友矢と戦っている。ツバキがジキ経由で大樹の言葉を伝えているため支障なく勝負が進んでいる。

 

 

「…………!!」

『バトル!!』

「アーカナイト・マジシャンで攻撃!!」

 

「うわ~!!」

 

 

友矢/LP1200→0

 

 

大樹のデュエルセンスもなかなかのものでそのデッキはツバキのデッキに近く魔法都市(エンディミオン)で溜めた魔力カウンターをエクスプローシブマジシャンやマジックテンペスターなどのシンクロモンスターの効果で使用して攻めると言うデッキだ。

 

 

 

「ちくしょー…大樹って強いんだな…!!今度は勝ってやる!!」

 

「……………………」

 

 

大樹は友矢の言葉に嬉しそうに頷いた。その周囲にははしゃいでいる子供たちがいた。友矢はこの中では上位の実力だったため大樹があこがれの対象に入ったのだ。

 

 

「なあ、そういえばイベントって何するんだ?」

 

「さあ…私は何にも聞かされていませんが…」

 

 

そのイベントの準備を終えた剱都と紫苑がテーブルに付きながらそう話していた。

ちなみにシゲルと澪は前日と同じ様に料理の支度をしていた。

 

 

 

「おーい、飯できたぞ~」

 

「「「「「はーい!!!」」」」」

 

 

 

シゲルの言葉に子供達は一斉に片付けと手洗いを始めた。

 

 

 

 

「じゃあ、皆。ごはん食べる前にある人に来てもらったぞ」

 

「ある人?」

 

 

 

徹が言った言葉に子供達は首をコテンと傾げた。ちなみに子供達にイベントの事は話しておらず、剱都と紫苑はなぜか2台のデュエルディスクをメンテナンスしていたのだ。

 

 

「今から御飯だから、はしゃがないって約束できる~?」

 

「「「「「できる~!」」」」

 

 

澪の言葉に子供達は元気よくそう言った。その声に反応するように一人の銀髪の少年が入ってきた。

 

 

 

「初めまして」

「「「「エド・フェニックス!!?」」」」」

 

 

プロデュエリストのエド・フェニックスだ。

若干16歳という若さでアマのリーグをパスし、来シーズンのプロの世界に踏み入れたデュエリストだ。

 

 

「てか、なんでプロが孤児院に…」

 

「まあいいんじゃね?喜んでるし」

 

 

 

顔を引きつっている剱都にシゲルがそう言った。たしかに子供達はプロのデュエリストと言うことで憧れの眼差しで見ていた。

 

 

「………………!」

 

「………………」

 

 

 

エドはふとホールを見渡し子供の顔を見ていた。だがアカデミア組のテーブルを見て――正確にはユウの顔を見て驚いていた。

ユウも驚いた顔でエドを見ている。

 

 

「む?どうかしましたか?」

「あ、ああ…いや。それよりもせっかくの料理が冷めてしまう。早く食べましょう」

 

 

エドの言葉に子供達は目を輝かせて目の前の料理を食べ始めた。ちなみに本日の料理はシゲル特性パーティコースだ。

 

子供の好きなコロッケやハンバーグにさり気なくそえた野菜、栄養価も高い。

 

ちなみにその料理を口にした澪は部屋の隅で膝を抱えて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後、エドは子供たちに簡単なデュエル教室を開いていた。それに暇だった紫苑とツバキも参加し、シゲルと澪は食後の片づけ、剱都は荷物の整理でユウは徹の手伝いをしていた。

 

 

滞りなくイベントは終了し、子供達は自室に戻り静かに寝た。

エドは2~3日教会に滞在すると言うことだったのだが、

 

 

 

「久しぶりだな」

 

「そうだね」

 

 

6人の目線の先にはそう言っているユウとエド――プロデュエリストと一アカデミア学生が笑い合っている。

 

 

「瞬火さんが死んだと聞いてから心配していたんだぞ…もしかするとお前までって」

 

「ごめん…あれから色々あったからね。僕も驚いたよ!急にプロデュエリストになってるんだから!」

 

 

どうやら見知った仲の様だ。するとユウが思い出したように8人に振りかえった。

 

 

「忘れてた…エド、ボクの友達紹介するね!」

 

「おい待てユウ、色々説明しろ」

 

 

最早流れが完全に手が付けられなくなっているのを見越して剱都は一旦2人を止めた。

 

 

「まずなんでお前はプロのデュエリストと知り合いなんだ、そして互いに親しいな、で瞬火って誰だ」

 

「瞬火ってのは僕のお父さんでエドのお父さんはちょっとした繋がりがあってね。」

 

「カードデザイナーだった父さんと当時アマの上位ランカーだったユウの父親…繋がりがあってもおかしくない」

 

 

エドの言葉に確かにと頷いた。そしてユウの父親が死んだのは10年前だったからその時は互いに幼い子供、打ち解けてもおかしくはない。

 

「エド、こっちは僕の友達」

 

「獣斬繁、ユウのルームメイトだ」

 

「姫野椿です」

 

「姫野紫苑…です」

 

「羽黒剱都、一応この2人の兄だ」

 

 

ツバキはシゲルの背中(いつもの場所)に隠れていた。それにエドが目を細めていた。

 

 

「お前か、ユウの恋人と言うのは」

 

「「ぶっ!?」」

 

「「「そうだ」」」

 

どうやらユウの関係者はツバキとユウの関係をある程度理解していたようだ。

 

 

「ななななんでそんな事知ってるの!?」

 

「お前達が風呂に行ってる間に此処の管理人の徹に聞いたんだ。まさかゴーストシティにいたなんてな…」

 

 

するとホールにある振り子時計が「ポーン」「ポーン」10時を指した。どうやら長く話し過ぎたようだ。

 

 

「ねえ、エド。明日父さんと母さんの墓参りに行こうと思ってるんだけど…来る?」

 

「行かさしてもらう。瞬火さんにはボクも父さんも世話になったからな…」

 

 

―翌日―

 

剱都の車に助手席にはシゲル、その後ろにはユウ、エドが並んで座っており一番後ろにはツバキと紫苑がいる。

 

 

「で、そのユウの家の墓があるのってどこだ?」

 

 

教会を出てすぐに運転していた剱都が聞いた。

 

 

「えっと、西の方にある龍安寺」

 

「龍安寺?俺の家の墓もそこだぞ」

 

 

そう言って剱都は車を右折させた。同じように剱都と共に過ごしてきたツバキもユウの言葉に驚いていた。

 

 

「…まあいい、此処の所墓参りなんてできてないからな。俺は親父たちの墓参りに行く」

 

「じゃあ私も行きます。事後報告ですが…『家族』になったんですからね」

 

「私も、一応お父さん達に…ね」

 

 

「じゃあ俺とエドさんはユウの家の墓にってことだな」

 

「“さん”は付けなくて良い。僕は君達と同い年だからね」

 

 

そうこうしているうちに車はビル街を抜け徐々に建物が少なく、緑が多い風景が見えてくる。

 

 

―龍安寺―

 

「……はぁ…」

 

 

6人が龍安寺に到着すると本堂の境内で眼鏡をかけた好青年がため息を尽きながら掃除をしていた。

 

 

「あの、すいません」

 

「あ…どうかしましたかっ――!?」

 

 

ユウが声をかけると青年は振り返りながら聞き返し――エドを見て固まった。まあプロリーグのルーキーが突然目の前に現れたのなら無理もない。

 

 

「あの…住職さんはいらっしゃいますか?」

 

「あ、ああ…皆本住職…ですか。先月お亡くなりに…」

 

 

青年は残念そうにそう言った。ユウや剱都、ツバキと言った住職と顔見知りだった3人は驚きを隠せないでいた。

 

 

「そう…ですか」

 

「ええ…何か困ってるのならおっしゃってください。」

 

 

「ああ…いえ、墓参りに来たので一言と…すいません、忙しい時に」

 

 

一礼したユウ。それに青年は「いえいえ」と言いながら再び掃除に戻った。

 

―聖牙家之墓:前―

 

 

2家の墓は本堂を挟んでちょうど真反対にあるため此処からは3人グループで行動することになった。

 

 

「ここだよ」

 

 

そう言ったユウの目の前には『聖牙家之墓』と書かれている墓があった。ユウは持ってきた花を添えた。

 

 

「父さん母さん、久しぶり」

 

「…瞬火さん、お久しぶりです」

 

 

ユウとエドは共に両手を添えた。シゲルは左腕が固定されているから右手だけで合掌をした。

 

 

「ユウ、こんな時に聞くのはなんだが…瞬火さん達を殺した犯人は?」

 

「…ううん。まだ見つかって無い。真夜中で目撃者はいないし、強盗なのか怨恨なのかも…ね。それに…あの日の出来事は夢だったのかもってたまに思うんだ」

 

「?」

 

 

 

ユウの言葉にエドが首を傾げた。たしかに目の前で両親が殺されたのならそう思っても無理はない。だがユウの過去を知ってるシゲルからしたらその理由は明白だ。

 

ユウの両親はユウを逃がす為に周囲から姿を見えなくする『何か』と魔法陣のようなモノを施した。それがなんなのかが分からないからか、夢と言う可能性も否定できないのだ。

 

 

 

 

 

 

「暢気なものだな…!!」

 

「「!!」」

 

「誰だ?」

 

 

降り注いだ声にユウとシゲルは警戒して振り返った。背後の富豪の巨大な墓――その天辺には赤いゴスロリの服を着た少女がいる。

 

エドは知らないが見間違いでなければあの少女だった。

 

 

―羽黒家之墓:前―

 

「親父、母さん。新しい家族の紫苑だ」

 

「初めまして…です」

 

 

聖牙家の墓よりも一回り大きい墓の前で手を合わせている3人。普通に見たら兄妹には見えないが3人は紛れもなく兄妹として過ごしている。

 

 

「…義父様と義母様ってどんな人だったんですか?」

 

「御父さんは厳しい人だったね…」

 

「ああ。ちょっとでも他人に迷惑かけたら度付きまわして謝らせに行かせたからな…まあ、筋が通って理不尽な事が大嫌いな人だ。あんな人だから山本は親父が死んでからも俺やツバキに尽してくれんだ。それに俺にデュエルモンスターズを教えたのも親父だ」

 

 

どうやら総裁として忙しくも幼い剱都をしっかりと構ってくれてたようだ。

 

 

「で、御母さん…はね…」

 

「知らなくても無理はない。俺もよく覚えてないんだ」

 

「よく覚えてない…?」

 

 

紫苑がかつて山本から聞いたのは剱都の母親は10人中10人は振り向くほどの美人で、どんな人にも優しかったと聞いた。

 

 

「実はな、俺が生まれてすぐに交通事故で死んだらしい。あまり親父も母さんの事を言ってくれなかったからな。山本も直接の面識は数えるぐらいだったみたいだし…」

 

「だから私は見たこと無いの」

 

 

「…さて、そろそろ戻るか。向こうを待たせる訳にはいかないs「剱都…?」」

 

 

立ちあがった剱都に従おうかとツバキと紫苑も立ち上がると本堂の方に一人の女性が立っていた。長い黒髪にキャリアウーマンのスーツを着た美女だ。

 

剱都を見てものすごく驚いた顔をしているが、当の剱都とはいうと全く面識が無いのか、初対面の様に怪訝な顔をしている。

 

 

「誰だあんた?」

 

「本当に…剱都なんだね…!!」

 

 

女性は泣きそうな顔をしている。いまいち状況が理解できない3人はどうしようか顔を見合わせた。

 

 

「あんた、誰なんだよ。俺とあった事があるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてないの…?私よ、羽黒由香里(はぐろ ゆかり)よ…!」

 

 

その苗字が3人に衝撃を与えた。剱都と同じ名字、そして今、剱都以外に『羽黒』姓なのは誰もいないはずだった。

 

 

「由香里…死んだ母さんの……名前…!?」

 

「そうよ…私はあなたの母親…由香里よ!!」

 

 

―聖牙家之墓:前―

 

 

「テメェ…なんでこんなところに居やがる…!!」

 

「…………………」

 

 

シゲルの言葉に無言で睨み返すのは――

 

 

 

 

 

「ヴィータ…」

 

 

 

管理局のヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータだ。

はやての守護騎士で精霊界にてなのはと組んで2VS1で紫苑に挑み、そのまま意識不明の状態が続いたまま管理局は撤退していった。

 

 

「アイゼン」

「っ、ハンマー!?」

 

 

ヴィータの掛け声とともに何処からか巨大なハンマーが握られた。そのままヴィータは3人に向かって飛んできた。

 

 

「危ねぇ!!」

 

「っ!!」

 

 

 

とっさにシゲルがエドを突き飛ばし、ユウは転がりながらデュエルディスクを起動させた。ヴィータは突撃が外れると今度は空へ舞い上がった。

 

 

「人が…浮かんでる…!?」

 

「…あ」

 

 

驚いてるエドをよそにシゲルは大事な事を思い出していた。それは――

 

 

―カリーヌ教会―

 

『グァ…』

 

『フリ…』

 

『…2人ともなにも言うでない』

 

 

―龍安寺―

 

「(デッキとディスク教会に置いてきちまったァァ!!!!)」

 

 

 

教会に来て2日目の昼にジュンコに没収され、そのまま自室へ置きっぱなしにしてしまったのだ。つまり今のシゲルは丸腰で格好の獲物だ。

 

 

「聖牙夕…あたしと戦え」

「っ…いいよ。何回でも倒してやるさ!!」

 

 

―ユウのターン―

 

「僕のターン!!手札からモンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド!!」

 

 

ユウ

LP4000 手札4枚

伏せモンスター

伏せカード

 

―ヴィータのターン―

 

「あたしのターン、手札の俊足のギラザウルスは特殊召喚する事ができる」

 

 

 

俊足のギラザウルス/ATK1300

 

フィールドに小型のラプトルが現れた。紫苑のときにも使用したモンスターだ。

 

 

「さらに手札から俊足のギラザウルスを特殊召喚」

 

「2体目だと!?」

 

まさか手札に2体目の特殊召喚モンスターがいるとは思って無かったエドは驚いた声を上げたいた。だがその行動をとっているヴィータにユウは違和感を覚えた。

 

 

「フィールドの2体の俊足のギラザウルスをリリース、手札からジュラック・タイタンをアドバンス召喚する」

 

 

フィールド2体のラプトルが消えると巨大なティラノザウルスが現れた。

だがいつもの彼女らしからぬ、淡々としたプレイング。

 

 

「バトル、ジュラック・タイタンでセットモンスターに攻撃」

「…セットモンスターは火炎車。フィールドを離れた時、カードをドローする!!」

 

 

引いたカードを見たユウは静かにそれを手札に加えた。一方のヴィータはそのまま俯いていた。

 

 

「…此処に来た本当の目的って何?」

「…なんのことだ?」

 

 

ヴィータは俯いたまま聞き返した。だが今までの彼女からしてそんな冷静に淡々と事をこなす性格ではないはずだ。

 

 

「単独で僕に会いに来たわけでもないし、あの戦いでの復讐とも考えにくい。じゃあ一体、何が目的なの?」

「…カードを伏せ、ターンエンド」

 

 

ヴィータ

LP4000 手札2枚

ジュラック・タイタン/ATK3000

伏せカード1枚

 

 

どうやら勝負しないと来た理由を話さないと言う事だ。だが闘争心のないヴィータを相手にするのは今のユウにとって容易だ。

 

 

「僕のターン、手札から二重召喚を発動、このターン僕は2回召喚する事が出来る!!1度目、阿修羅、2度目、阿修羅をリリースして砂塵の悪霊を召喚!!」

 

 

フィールドの阿修羅が消えると、真っ赤な体の悪霊が現れた。すると周囲に砂塵が吹き荒れた。

 

 

「砂塵の悪霊の効果発動!!召喚成功時フィールドのこのカード以外の表側表示モンスターを全て破壊する!!」

 

「っ…(タイタンは対象にしない効果には耐性が無い…)」

 

 

砂塵が通り去った後は悪霊しかいなくなっていた。

 

 

「バトル!!砂塵の悪霊で直接攻撃!!」

「っ…!!」

 

 

ヴィータ/LP4000→1800

 

悪霊の攻撃をその身で受けるヴィータ。やはり何かがおかしい、ユウの本能がそう囁いだ。

 

 

 

「…時間の無駄だね」

「なに…?」

 

 

一つため息をついたユウはディスクを収めるとくるっとヴィータに背を向けた。一方彼女はどういう事なのか全く理解できないでいた。

 

 

「ま、待て!!逃げるのか!!」

 

「逃げるも何も、戦意が無い相手と戦う気はないよ。そもそも君の目的は何?僕達の持つカード狙いとも思えないし…かと言ってただ話がしたいと言う訳でもなさそうだしね」

 

 

ユウの言葉にヴィータは何も言えなかった。当の本人も分かっていた、自分が何がしたいのか、ユウと戦う必要は元からない事も――だが、

 

 

「分からねーんだよ…」

 

「?」

 

 

ヴィータの泣きそうな声、それにユウは彼女の顔を見た。シゲルと状況を呑みこめないでいるエドも展開を見守っている。

 

「あたしも、なんでこんなことしてるのか…なんで戦っていたのかも…」

 

「…どういうこと?」

 

 

ユウの言葉に何かを言いかけたヴィータ。だがその緩みで彼女の目から涙があふれ、ぺたりと座って――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはが…歩けなくなったんだ…!!」

 

「「!?」」

 

 

「なのはは3日前に目が覚めた…けど、下半身の感覚が無くなって………」

 

 

その少女はボロボロと涙を流して大切な人物の状態を訴えかけている。

 

 

「医者の話だと強力な魔力に当てられたからって…手術を受けてリハビリすれば歩けるかもしれないが、見込みが薄いって……」

 

 

その少女は両手を握りしめ、行き場の無い悔しさを吐露している。

 

 

「それを聞いたあたしは……気付いたら此処にいた…!!お前がなのはをあんな風にした訳じゃない…頭では分かってる!

けど…強力な魔力ってお前の持ってるあの光の龍だと考えちまうんだよ…!!!」

 

 

光の龍――スピット・クロス・ドラゴンの事だ。確かにあのカードには強力な力が宿っている。実際のダメージが発生するあの空間でそれを使えば何が起こってもおかしくはなかった。

 

 

「どうしたらこの気持ちが収まるだ…!!なのはをあんな風にした奴をぶちのめしたい…けど、その相手がいないんだよ!!」

 

 

目の前の少女は行き場の無い怒りと絶望を抱えていた。

 

 

「なるほどね…だからボクの所に…」

「…事情は知らないが、行き場の無い怒りを誰かにぶつけるなんてそれはそれで、お門違いと言う奴じゃないのか?」

 

 

エドの言葉にヴィータの目が鋭くなった。

 

 

「っ…そんなこと…分かってるさ!!けど頭で分かっててもどうしようもないんだよ!!あの事は誰のせいでもない、それくらいは!!」

 

 

そう言ってヴィータは顔を顰めて俯いた。

 

 

「けど…だったらなんでなのはは歩けなくなったんだ…ただお前達とまた笑いあいたくて、争わない様にって…その弱さを幻魔(ラビエル)に付けこまれた…」

 

 

ヴィータの涙は止まらない。叫びは止まらない。しかし彼女は理解している。

 

 

「あたしは…どうしたら…」

 

「ヴィータ」

 

 

 

何かを諭すようにユウは座り込んで、泣いていた少女の名を呼んだ。

 

 

 

「確かに、なのはの体をそんなふうにしたのはボクなのかもしれない」

 

「っ!!」

 

 

「けどね、ボクにも大切なものがあった。ツバキやシゲル、剱都に紫苑…アカデミアの皆がね。なのはがボク達の前に現れると同じ様に、ボク達も引けない理由がある、同じように君にもね」

「あたしの引けない理由…?」

 

 

ヴィータは考えた。ユウのように今は何かを守る為に戦っているのか。

 

いや、今の彼女の後ろには何もない。では守るためにヴィータはユウと戦っていた訳ではない、それならば――

 

 

「なのはの…ため…」

 

 

彼女は動けなくなった親友の為に戦おうとしていた、だがその相手がいない――

 

 

「じゃあどうするの?このまま(かたき)とも言えるボクと戦うか…なのはのために何かをするのか…それを決めるのは君だよ」

 

「どうするか…」

 

 

ヴィータは考えていた。ユウの言うとおり、ここでイジイジしていても何も始まらない。では、何をすればいいのか――

 

 

なのは――今考えてみれば彼女は精霊界でヴィータを何度も助けようとしていた。それもシフトチェンジ、神の警告などの自身の身を危険にさらすカードを使ってだ。

 

 

「なのはを…守りたい…!!もう守られるんじゃない、なのはを守ってやるぐらい強くなるんだ!!」

 

「へぇ…じゃあ、どうする?この勝負、ここで辞める?」

 

 

そう聞いたヴィータはフィールドを見た。このターンの終わりに手札に戻る悪霊と伏せカードのみ。一方自分の方には何もない。

 

どちらかと言うとヴィータの方が不利な状況だ。

 

 

「(なのはを守るために強くなるんなら…どんなことにも逃げない!!)

あたしのターン!!」

 

 

そこにいたのは先程までの壊れそうな表情の少女ではなく、決意をした強き戦士の表情をした少女だった。

 

 

―羽黒家之墓―

 

「俺の…母親…!?」

 

目の前の女性は確かにそう言った。そして以前一度だけ聞いた母の名前――

 

 

「ふ、ふざけるな!!母さんは俺を生んですぐに死んだ!!」

 

「竜也があなたにそう嘘を言ったのよ。私はあなたを生んですぐに外国へ飛んだわ…竜也から逃げる為に」

 

 

由香里はそう悲しそうに言った。一方の剱都とツバキは何を言っているのか訳が分からなかった。竜也から逃げる?何のために?どうして何も言わずに?

 

 

「私はAWで経理の仕事をしてたから…だから、AWの銃器やお金の動きがおかしいことに気づいたわ。そしてその発信源をたどっていくと…竜也に行き着いたの」

 

「「っ…!?」」

 

 

由香里の口から告げられた会社の闇の部分。それに紫苑とツバキは驚いたが、剱都は頭の中である可能性が浮かび上がった。

 

 

「問い詰めても竜也は何も言わなかった…そして、そんな時、あなたが生まれた。その時ふと思ったの。『まさか、これを待っていたの?』って…」

 

「…父さんが、そのことに関与して母さんを消そうとしていた。だけど俺という跡取りのために生かしていた…って?」

 

 

剱都の言葉に由香里は静かに頷いた。

だがそれは――

 

「けど…私は愚かだったわ。愛した人も信じられないほど…愚かで…酷い女だったのよ……!!だって、」

 

「…当時、父さんの秘書をしていた三島が仕組んだことだったから。そして、そのことに気づいたのはつい最近だった」

 

 

その言葉に由香里は驚いた顔をした。そしてすぐに泣きそうに顔を顰めた。

 

 

「ええ…半年前に日本に戻ってきた時にあなたがAWを継いでいたことを知って…改めて調べたの…そのことを謝りたくて…」

 

 

これっきりにするつもりだったかつて愛した男の墓参り。

そこには逃げた男とよく似た見捨てたはずの少年――剱都がいたと言う事だ。

 

 

「…ごめんなさい…剱都……こんな酷い母親で…」

 

「……紹介したい奴がいる」

 

 

 

俯いている由香里に剱都がそう言った。由香里は剱都がいきなり何を言い出すのか分かっていなかった。

 

 

 

「この2人は姫野椿と姫野紫苑…俺の妹だ」

 

「あ……は…初めまして…」

 

「初めまして」

 

 

剱都の言葉に思い出したように2人はぺこりと礼をした。それに釣られるように由香里も2人に頭を下げた。だがすぐに剱都の説明に由香里は弱弱しく首を傾げた。

 

 

「……妹?」

 

「親無し…ってことだ。ツバキは記憶喪失、紫苑は……まあ、複雑な事情だ」

 

 

関係の無い人に紫苑の事を説明するのは難しい。精霊界と管理局、そして魔法と言う物を全て説明しなければならなくなる。

 

 

「初めまして…なんて名乗ればいいのかな。一応剱都の母親の羽黒由香里…よ」

 

「…………ょ…」

 

 

由香里の自己紹介に剱都は何かを呟いた。由香里からはかすかにしか聞こえてないが、両脇に立っているツバキと紫苑には聞こえていた。

 

 

 

「剱都、いまなんk「一応とか言うんじゃねぇよ!!!」!?」

 

 

 

 

激怒したかのように剱都はそう怒鳴った。両目から涙を流し、睨もうとして弱弱しく泣いている。その姿に由香里は驚きを隠せないでいた。

捨てた事を怒るのか、今さら現れた事に嫌悪するのか、その両方かと思っていた。

 

 

 

「一応って何だよ!!なんで自分の事を名乗るのに戸惑ってるんだよ!!どんなんでも母さんは母さんだろ!!」

 

「剱都…!!」

 

 

 

彼は孤独だった。竜也と言う巨大な『父親』がおり、ツバキと言う『妹』がいて、山本と言う唯一心通わせる事の出来る『執事』がいる。

 

 

だが――そこに『母』というあるはずの物が無かった。

 

 

泣いて山本に付き添ってもらった雷の夜もあった。幼い時は一度も食べた事のない母の手料理を食べたいと竜也に駄々をこねた事もあった。

 

母の事をツバキに説明できなくて悔しい自分がいた。

 

 

 

そんな剱都を、小さいときから見ていたツバキは初めて見た。

 

いつでも孤高で、誰からも頼りにされ、人一倍責任感が強い剱都。だがそれは弱さを見せない偽りの姿だ。

 

 

誰かに甘えたい時もあった。何かを投げ出したい時もあった。誰かに憧れたい事もあった。

 

 

 

 

「寂しかった…ずっと会いたかった…!!」

 

「剱都…!!」

 

 

 

気付いたら剱都は由香里に――母に抱かれていた。初めて知る、その母の温もり。

 

 

 

それが剱都の中で優しく彼を撫でた。

 

 

 

「ごめんね…剱都……ごめんね…!!」

 

「母さん…うわあああああああああああ!!!!!!」

 

 

大声を上げて泣くその少年に声をかけず、ツバキと紫苑はその場をそっと離れようとした。

 

 

 

今ここに『偽りの家族』は必要ない――そう思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫苑ちゃん…ツバキちゃん…」

「「え…?」」

 

 

それを呼びとめたのは彼の母であるはずの由香里だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達も…こっちに来て。もっとよく…『娘』の顔を見さして…ね?」

 

「「っ………!!」」

 

 

 

初めて聞く、『親』の声――ここに『偽りの家族』なんて無かったのだ。彼女達は紛れもなく――『由香里』の『娘達』だった。

 

 

―聖牙家之墓:前―

 

 

「リバース罠、ウィキッド・リボーン!!ライフを800払って墓地からスピット・シルバー・ドラゴンを特殊召喚する!!カードを伏せてターンエンド!!」

 

ユウ

手札3枚 LP2700→1900

スピット・シルバー・ドラゴン/ATK2500

伏せカード2枚 ウィキッド・リボーン

 

 

ユウとヴィータはその後、ほぼ互角の勝負を展開している。

自身の効果で攻撃力上がるジュラック・ギガノトと展開力のあるジュラック・グアイバとドロー加速のジュラック・デイノが並んでいる。

 

 

ヴィータ

手札0枚 LP1500

ジュラック・ギガノト/ATK2100→2500 ジュラック・グアイバ/ATK1700 ジュラック・デイノ/ATK1700

伏せカード1枚

 

一方のユウはモンスターを並べてヴィータのライフを削るも、パワー型で回り抱いた彼女のデッキに力押しで押され始めている。

 

 

「あたしのターン!!ジュラック・ギガノトでスピット・シルバー・ドラゴンに攻撃!!」

 

「(攻撃力は互角…相打ち…いや!?)」

 

 

 

「ダメージステップ、リバース罠発動!!ジュラシック・エンプティ!!フィールドのモンスターをリリースしてフィールドの恐竜族シンクロモンスターの攻撃力をその合計分上げる!!」

 

ジュラシック・エンプティ

通常罠

自分フィールドの恐竜族モンスターを2体までリリースすることで、

恐竜族シンクロモンスターの攻撃力をリリースしたモンスターの合計分アップする。

 

 

ジュラック・ギガノト/ATK2500→6900

 

 

「攻撃力6900!?」

 

「終わりだ!!」

 

 

だが、ユウは口元をニヤリと緩めた。ポーカーフェイスが苦手なユウだが、此処まで事が運ぶために必死に笑いを隠していたのだ。

 

 

「トラップカード、精霊龍の集結を発動!!」

 

「っそのカード!?」

 

 

ラビエル戦で見せたありえないドーピングカード――フィールドのスピットの攻撃力を除外されているモンスターの攻撃力の合計値にする罠。

 

 

「除外されているのはルシアと八岐大蛇、アクエアス、大和神の4体。よって攻撃力は――」

 

スピット/ATK 2800 + 2600 + 1000 + 2100 = 7500

 

「7500!?」

 

「スピット!!」

 

 

スピットの翼に宿った4体のモンスターの光を放ち、ヴィータのフィールドのモンスターを吹き飛ばした。

 

 

「だけどこの効果で相手に戦闘ダメージは無い、そして戦闘で相手モンスターを破壊した時、スピットは除外される」

 

「クッ…リバースカードを伏せてターンエンド!!」

 

ヴィータ

手札0枚 LP1500

モンスター無し

伏せカード1枚

 

―ユウのターン―

 

「ボクのターン!手札から異次元からの埋葬を発動!!除外されてるスピット、伊弉凪、そして君のジュラック・メテオを墓地に戻す!!」

 

「(墓地に…蘇生して止めを…けど伏せカードは漆黒の落とし穴、これで除外すれば…)」

 

 

そう思ってるうちにユウが魔法カードを発動させた。

 

 

「死者蘇生を発動!!墓地からスピットを特殊召喚!!」

 

「(かかった!!)リバース罠発動!!漆黒の落とし穴!!相手がレベル5以上の効果モンスターの特殊召喚成功時、そのモンスターを除外する!!」

 

 

スピットの足元にその名の通り漆黒の落とし穴が現れた。突然の事にスピットは驚きながら落下して――

 

 

「残念だけど、スピットは攻撃のために呼び出したんじゃない!!伏せカードリミット・ドロップを発動!!自分が墓地からモンスターの特殊召喚に成功した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

落ちていくスピットが光の粒子になり、リミット・ドロップのカードに吸い込まれていった。そこから白銀の弾丸が――ヴィータを貫いた。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ヴィータ/LP1500→0

 

 

吹き飛ばされ、『香具山家之墓』と書かれた墓石に激突した。だが負けた彼女の顔は戦う前と比べて晴れ晴れとしていた。

 

 

「いてて…(やっぱり…こいつら強い。頑張って、努力して…なのはを守れるようになったら勝てるかな……まあ、今はいいや…疲れた…)」

 

 

ムクリと立ち上がったヴィータは嬉しそうにアイゼンをユウに向けた。

 

 

「次はぜってぇあたしが勝つ!!」

 

「何度でも倒してあげるよ」

 

 

ユウの言葉に満足したのか、ヴィータは『転移』で一瞬にして消えた。

 

 

「…さてと。2人とも大丈、夫、だっ、た…?」

 

 

エドとシゲルの方を振り返ったが、シゲルは「あちゃー」と言うように目元を抑え、エドは呆れているようだった。

 

 

「さて、じっくりとどういう事か説明してもらうぞ」

 

「え、あ、その、これは…」

 

 

また一人、世界の真実を知る者が多くなった。




紫苑「エド・フェニックス…プロデュエリストですか」
設定はエドの父はユウの父、瞬火と仕事の関係上のつながりがあって同い年の子がいるということで意気投合していた。
エドの父の死後、瞬火はエドに対してあれこれ支援をしていた。だがその後すぐに瞬火は死亡した。
ツバキ「何か関係あるのかな…同時期に亡くなるなんて」

ユウ「なのはが…ね」
一応向こうの本編の落とされてリハビリの件をイメージしました。
そしてフェイトははやてよりもヴィータの方が殴り込んできそうだなっと思った。

剱都「母さん…か」
世界の矛盾メンバーで唯一の親です。
ちなみに性格は結構思い込みが激しい。まるで剱都のことを誤解していたツバキのように
ツバキ「変なところは似てなくていいの!!///」
ユウ「けど…いいな。家族がいるって」


次回予告
管理局の説明をしていたユウとシゲル。
だが、『光の龍』はデュエルじゃないと出現しない。

それを聞いたエドはユウと戦うことを申し出た。

幼い頃から続く勝ち負け。

「聖なる龍、スピット・クロス・ドラゴン!!!」

そして、その新たなページが刻まれる。

「最強のD‐HEROドグマガイ!!」

ぶつかり合う、全てを守りし聖なる龍VS運命の英雄

「また会いましょう」

次回 幕間第四話~精霊VS新たなHERO~
最強カードは「ブレイブアタック」


さて、忙しくなってきたから執筆できる時間が…
剱都「何かあったのか?」
入社、社会人だよ。だから再編集含めての時間が…

というわけで、徐々にスローペースになっていくと思いますのでご了承ください。
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