超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ!   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!
最近リアルの事情で書くペースが落ち気味ですが、ようやく書き上げれました……(汗

さて、今回は聖杯戦争編のターニングポイント!
姿をあらわすサーヴァント達、だがそんな中疑問が浮かび上がる…。

それではお楽しみください、どうぞ!


Fate/stage,4 ゲイムギョウ界、聖杯戦争勃発〜疑問〜

驚愕の表情をマスクの下で浮かべるクロス・ヴィクトリー、顔が隠れているため第三者からその表情は見えないが今彼が叫ぶように言い放った言葉を聞いてその場にいた者が彼がいまどれだけ驚いているのかを感じ取ったのだろう。

というか、彼の目の前にいる人物たちの姿を見て、驚かないと言った方が無理な話だろう。

なにせ、今彼の視線の先にいたのはプラネテューヌを守護する役目を持ったネプテューヌと同じように、このゲイムギョウ界を守る役目を担った守護女神だったのだから……しかも、その傍らに……サーヴァントを引き連れて……。

「ど、ど、ど、どういうことなんだよ!? なんでベールとブランの二人が!?」

「うふふ、驚くのも無理はありませんわ、だってこうしてマスターとなったことをあなたには教えていませんし」

「……まず、聞かれてもなかったし……なにより自分から名乗り出るのも面白みに欠けるしね……」

何やら楽し気にそう説明するベールとは対極的にさも当然と言うかのような冷静な言葉でそう告げるブラン、この二人がなにゆえにマスターとなったのか宗谷には聞きたいことが山ほどあると言いたげである。

「……それよりも宗谷、質問よりもまずはやるべきことがあるんじゃないかしら?」

だが宗谷のその質問したいという考えをブランが真っ向から冷静さと静けさを感じさせる言葉と共に流すと、そのまま視線を宗谷の周囲にいるこの場に集まった他の英雄たちへと向ける。

新たな脅威となりえる他のクラスのサーヴァントとそのマスターとなりえる人物は二組も、それも突然現れたことに対して警戒しているのか、ディルムッドとジャックの両者は己の武器を構え、視線を彼女たちとそのサーヴァントに向けている。

「あれ? やっぱり僕たちあんまり歓迎されていないの?」

「まあ、そこの小せえアサシンの方は自分の宝具を掻き消されたことに対して不満持ってても仕方ねぇだろうよ……前から思ってたけど、お前気楽なもんだな」

「えへへ~、そうかな、のんびり屋とかマイペースとかよく言われるけど」

「褒めてねぇよ、そんでなんでうれしそうなんだよ」

対して視線を注がれている当の二体のサーヴァントはどこか緊張感に欠けた会話をしながらも自分たちが向こう側にあまり歓迎されていないことを何となく理解はした様だ。

気の抜けた印象を感じる苦笑いを浮かべる童顔で一見すれば美少女とも見て取れるような顔立ちをした“美少年”に、ニヒルな微笑みを口元に浮かべた青いローブの魔術師が織りなす会話、見た所この二人は敵対関係には見えないが………ここである人物が疑問を抱く。

「……姿を現してくれたのはむしろこちらとしても他の参加者を探す手間が省けて好都合だが……どうもそちら側の目的が読めんな、キャスター、ライダー……」

エミヤである、彼はどこか疑いを持った鋭さの残る眼差しを後から姿を現したキャスター、とライダーのサーヴァントである二人に向けてそう問いかける。

すると、それに対して青いローブのキャスターが視線をエミヤへと移す。

「なんだよおい、また会ったと思ったら用心深いのは相変わらずか? えぇ? 赤い剣使いの弓兵よ」

「そう言うお前はだいぶ様変わりはした様だがそのガラの悪い目つきは変わらないようだな………“クランの猛犬”」

「……へっ、やっぱり“ランサーの時の俺”のことを覚えてやがったか」

「え? なになに、二人とも知り合いなの? 僕だけのけものはずるいよ!」

なにやら意味深な会話をする二人を見て、ライダーが何やら不満げに頬を膨らます。

ライダーである彼にはこの二人の英霊がかつてどのような“戦い”を経たのかは知らないが、二人の英霊が出会うのは今回が初めてではない。

アーチャーのサーヴァント、エミヤとキャスターのサーヴァントとして今回召喚されたのであろう、“アルスターの大英雄”こと、“クー・フーリン”………この二人はこの世界で今起きている聖杯戦争とは違う、宗谷が物語として見て知った聖杯戦争の折にちょっとした因縁があるのだ。

「………まあ、お前さんには関係のないこった、それに今回ばかりはいきなりてめぇと睨みあってやり合うわけにもいかないわけがあってな」

「………なに?」

頬を膨らませてクー・フーリンに近づくライダーを杖の先で押し返しながら、クー・フーリンはエミヤにそう返答した。

その言葉にクロス・ヴィクトリーもまた疑問を抱く、彼が知っているランサーとしての彼よりも何やら落ち着いた雰囲気を感じる彼に違和感を感じているというのもあるが、戦う際は荒々しく、持っていた槍を振るい目前の敵を貫かんばかりの闘志に満ち溢れていた彼とは違う、どこか冷静であり、しんと静まり返った湖畔を思わせる静かな雰囲気………宗谷はこの時、彼から自分やエミヤに対しての敵意を感じなかったのだ。

そして、それはクー・フーリンの隣にいるライダーにも言える、彼の場合は元々の性格もあってなのだろうがこちらを敵として認識している様子はまったくもって、正直クー・フーリンよりもわかりやすいくらいに感じない。

ならいったい、この二人はどういう命令で動いているのか………マスターである二人はどういう考えでここに来たのか、不思議に思った宗谷が二人の後ろに立つベールとブランへと目を向ける。

「……長話をしている暇はないわ、キャスター……」

「っと、そうだな……早いとこ用件だけ済ませておくか」

ブランがそう言うとキャスターはどこかめんどくさそうな言い方をしながらも一歩前に出て、その場にいる者達へと目を向け、真剣な眼差しを浮かべた。

サーヴァントという存在であり、登場の仕方に混乱さえあれど、その場に居合わせた者は彼の放つその威圧にも似た視線を受け、反射的に息を飲む。

「………この場にいる、聖杯によって選ばれし英霊の座から現界したサーヴァント、そしてそのマスターに告げる………」

静かに、そこに響くように言葉をつづけるキャスター、そして次に彼が言った言葉に、その場にいた者達は呆気にとられることになった。

「………悪いことは言わねぇ、お前ら一旦この聖杯戦争から……手を引け」

クー・フーリンが放ったその言葉、それがその場の全員の耳に行き届くのと、その場にいた全員の人物たちがそれぞれの反応を示すのに、さほど時間は掛からなかった。

そして、この反応を見た当の魔術師は既にこの反応を予想していたのか、口元に皮肉気な微笑を浮かべたまま杖の柄の先を地面にこん、と音を鳴らしながら地につけた。

「……随分と勝手な物言いだな、キャスター」

「勝手も何も、これは俺の言葉ってだけじゃねぇ、俺のマスターのあいつとその仲間の姉ちゃんが話し合った結果でもあるんだぜ?」

エミヤにそう言ったクー・フーリンは視線を彼の背後で事の成り行きを見守っているブランとベールの二人へと向けていた。

話しを振られたのに対し、ブランはいつもの淡麗な無表情を浮かべているのに対し、ベールもまた揺るがない穏やかな微笑みを浮かべているばかりだ、同時に傍にいるライダーの頭を撫で撫でとしていなければそれなりの威厳にも似た雰囲気があっただろう……。

「………その核心に至る根拠は何だ」

そんな中、訝し気にキャスターを見つめていたエミヤに続いて、彼に問いかける物がいた。

ランサー、ディルムッドである。

「この場にいる全員に対して、此度の聖杯戦争を自らの手で放棄しろ、と……そこまでいう根拠がなんなのかを提示してくれなければ、こちらとしても判断しかねる……それが例え、“赤枝の騎士団”で武勇を振るったケルトの大英雄であるあなたの言葉であってもだ……」

「………どうやら俺の後に活躍した騎士は相当用心深いみたいだな………まあ、そうなってもしかたねぇな、あ、後覚えておけよ、ランサー………今の俺は“騎士”の時の俺じゃあねぇ、今の俺は“ケルトの魔術師(ドルイド)”だ」

ディルムッドの言葉に後半はどこか意味深なことを言いながら、彼にそう告げた魔術師は再び視線をその場にいる全員へと向ける。

「ここにいる奴らの中で、少しでも疑問を感じた奴がいるはずだ……そいつはおおよそだが、こう感じたんじゃないのか? “なぜこの世界で聖杯戦争が始まったのか”、もしくは“いつからこの世界に聖杯があったのか”ってな」

その場にいた全員に問いかける様に彼が言い放ったその言葉、それに真っ先に反応するものがいた。

クロス・ヴィクトリー………宗谷である。

「その言葉……あんたは知ってるのか? この世界で聖杯戦争が起きた理由を、その大本を、あんたは知ってるのか?」

「お前は少なからず疑問を感じているみたいだな………うちのマスターの嬢ちゃんが言うだけはあるってことか」

宗谷はずっと疑問を抱いていた。

この聖杯戦争が始まりを告げる、その前から感じていた疑問……本当に聖杯戦争がこの世界で起きるのか……かつてこの世界で聖杯戦争が行われたのか……この疑問は彼がエミヤを召喚する前にも心の中で感じていた疑問、いや、違和感ともいえる物だった。

そもそも、彼にとってこの聖杯戦争は大本を辿れば“あくまでサブカル作品”の一端であり、それが異世界で実現されていると言われていてもピンとくるものがなかった。

しかし、自分自身が物語の主人公たちの力を借りている時点でそのあたりの疑問はあまり感じることはないような物なのだが………なぜかこの時の宗谷には疑問ばかりが残っていたのだ。

唐突に始まった聖杯戦争、自身がマスターとなり命を懸けた戦いに挑む、監督役もいないこの戦いを………と言った、それらの不安要素よりも言い現わすのが難しいある感覚………。

………嫌な予感を感じたからである………。

「……前々から変に感じてたんだ……納得が行かないっていうか、合点がいかないっていうか……どうして聖杯戦争が起こってるのかってことがずっと気になって仕方なかった………なんか………すっきりしなくて、受け入れられないんだよ………」

誰にでもなく今まで自分の感じていたことを口にするクロス・ヴィクトリー、少なくともイストワールにもこの世界を生きた女神であるネプテューヌでさえも、そしてこの世界の住人であるアイエフでさえも聖杯戦争に関する知識は全くなかったはずだった。

故に感じていたのだ、この聖杯戦争という戦いがこのゲイムギョウ界で起きているという違和感を……。

仮面の下で俯くようにしてそう言ったクロス・ヴィクトリーに、キャスターが向き直る。

「………そいつはそうだろうな、何せこの世界には聖杯戦争をやるに値する“条件”が曖昧すぎるからな」

「………条件?」

「あぁ、まあ、確証はないがいろいろと納得が行かねぇ節がいくつか存在する……」

どこか先程とは違う真剣な面持ちで切れ長な目を向けたクー・フーリンはそう説明を始めながらまず自分自身を親指で指さした。

「まずは……俺達のようなサーヴァントの存在についてだ、これは俺だけでなくここにいる奴らにも言えるが……まず俺達その者がここにいる時点で可笑しい」

「え、なんで? ソウヤから聞いたけど、サーヴァントって聖杯がマスターになった人たちに貸してくれるめっちゃくちゃ強い使い魔なんだよね? 確かにパラメーターとか明らかにチート級みたいに感じるけど、存在そのものを自分で否定しちゃうの?」

クー・フーリンの言葉に疑問を感じたネプテューヌが早速問いかける。

確かに彼女の言う通り、この聖杯戦争をするにあたり必須となる条件の一つとして挙げられるのが七騎のクラスに分けられたサーヴァント、つまりは英霊の存在である。

魔術師の魔術によって一時的にその姿を現世に表し、マスターと共に戦う矛であり戦争への参加資格、聖杯戦争が開かれるためにあって当然ともいえるその存在をサーヴァントそのものが否定することが出来るのはなぜか?

「あぁ、俺達サーヴァントは確かに聖杯によって導かれて、現界した存在だ……そして、その正体は“英霊”、人類史の歴史、または神話の中で名を馳せた存在だ………だがよ、ここで一つ疑問が起きるんだよ……」

彼はそう言うと視線を今度はネプテューヌの方へと向けた。

「お嬢ちゃん、お前さんは今まで物語や昔話で……あるいはこの世界の歴史の中で、クー・フーリンという名前を聞いたことがあるか?」

「うぅん、全く知らないよ? むしろ今さっきソウヤが言ったのが初めてだけど」

「………要はそう言うことさ、女神の嬢ちゃんであるお前が聞いたこともない………それが俺達に決定的な矛盾を起こさせる」

その言葉に真っ先に反応したのは、話を聞いていたエミヤだった。

彼は鋭い眼差しをキャスターに向けると、その問いに対して答えを提示するように、言い放った。

「………この世界の歴史上に存在そのものがない英霊たちがこの世界で厳戒するのは奇妙だ………そう言いたいのか?」

「相変わらず頭の周りは良いみたいだな、まあ、要するにそう言うこった」

エミヤの答えにクー・フーリンは正解と取れる返答を返す。

「俺達サーヴァントは人間の歴史の中で、功績や武勇を持ってして名を馳せ、人々の“信仰”を糧として人間霊から精霊のクラスまで引き上げられた存在だ、だがその際に必要となる信仰心を生むには当然その世界にいる人間が俺達の事を知っていなくちゃあならない………な? おかしいだろう?」

「………そういうことか………そう言われればおかしい」

答え合わせをするかのように説明するクー・フーリン、それを聞いた時クロス・ヴィクトリーはその言葉が意味するこの聖杯戦争の矛盾点の一つを導き出すことが出来た。

そう、彼らがこの世界で限界を果たすのは明らかに不自然なのだ……何せ彼らは……彼らという英霊たちは……“この世界には存在していない”のだから。

「この世界の歴史上にも、物語にも、あんた達みたいな偉人や伝説の英雄たちの名はない……それなのに、現界できてるってのはあきらかにおかしい……!」

「その通り、召喚が行われるなら本来ならこの世界の英雄にも等しい名を持つ者が召喚される方がよっぽど自然だ、例えるなら今までこの世界を支えてきた歴代の守護女神とかな……だが、こうして実際に召喚されたのはこことは違う世界で名を馳せた者達……つまりこの世界にとっては異界の英霊となる者達だ」

この世界において信仰心は主にこの世界を守護する存在であるネプテューヌ達と言った守護女神へと向けてシェアエネルギーとなって送られている。

だが、その信仰心の中にはほぼ当然と言えるレベルで今まさに説明しているキャスター、アルスター伝説のクー・フーリンやシャルルマーニ十二勇士であるライダー、アストルフォなどと言った存在は当然ないのだ。

自分の存在を何故否定できるのか、その答え合わせを済ませたキャスターは再びクロス・ヴィクトリーの方へと目を向けると、人差し指を立てて見せる。

「そして、ここで更なる疑問点がもう一つ浮かび上がる………なら俺達がこうして召喚されたのはなぜか………その“根源”は何なのかってことだ」

「根源も何も……我らサーヴァントは聖杯によって選ばれた者達、我らがいるということは聖杯が………っ!」

問いかけに対して、さも当然なことを答えるかのようにディルムッドが答える……だがその途中で彼は何かに気付いたのか、言葉を途中で斬った。

その反応でディルムッドが何を感じたのか、おおよその判断がついたのかクー・フーリンがしてやったりと言った表情を浮かべる。

そして、彼の考えを理解できたのは彼だけではなかった………クロス・ヴィクトリー、そしてエミヤの二人も、また然りである。

「………私達が召喚されるのはその聖杯があって初めて成立する………そしてその聖杯が私達を召喚させるのに選んだということは………」

「聖杯が………聖杯そのものが“この世界の聖杯じゃない”ってこと………!」

その予想が本当だとするなら、宗谷の中に存在した疑問の一つが解消される。

この世界で今まさに聖杯戦争が開始されるのなら、以前の聖杯戦争がいつ行われて、どのような結末を迎えたのか……その疑問の答えにも近しい結論が一つ浮かび上がる。

………そもそもこの世界に聖杯がなかった………。

ならその聖杯はどこから来たのか……。

クロス・ヴィクトリーの中でまた新たに浮かび上がった疑問、だがそれは程なくして自分の中で答えが出た。

聖杯が英霊を選ぶなら、その聖杯はその英霊が存在していることを記録していなければならない……それはすなわち……。

「……聖杯は、“別の世界から齎された”……」

「……そう考えるのが妥当なとこだな」

宗谷が呟いた答えに、エミヤが合意するように呟く。

「………この世界には存在するはずのない俺達がこうしていること………なのにこの世界に聖杯が存在していて、俺達がここにいる………そしてこの世界にこの聖杯戦争の監督役はいないのに、召喚の方法と聖杯戦争の予備知識が記された情報だけが見つかった………どうにもきなくせぇと思わねぇか?」

この世界で起きた聖杯戦争のいくつもの疑問点、そしてそれを裏付ける矛盾、多くの疑惑を残すこの聖杯戦争に参加したサーヴァントの一人、クー・フーリンは静かに口を開いた…。

「………まるで何かの目的があって、この聖杯戦争が仕組まれたみたいでよ………」

本来、起こるはずがなかった世界で巻き起こった聖杯戦争、それがなぜ起こったのか……それは偶然などではない、誰かが引き起こした仕組まれた物ではないのか。

今までの疑問点を踏まえて浮かびあがる、もっとも可能性が高い結論を、キャスターが言い放った。

……聖杯という、人知を越えた全知全能の杯……。

それによって引き起こされた魔術師同士の戦争、それがこの世界で引き起こされたのは……何か裏がある……。

彼の言葉を聞いて宗谷の中で感じていた違和感、そして悪寒が明らかな“異変”へと姿を変えた…。

今自分は………いや、この世界には新たな異変が起き始めているのだと………。

なら、このまま聖杯戦争を続けていいのか?

このままではこの世界に何かよからぬことが起きるのではないのか?

それこそ………“冬木”という町で起きた、“第四次聖杯戦争”の時のように………。

その場にいた者達、彼らの間に嫌な空気が充満する、この聖杯戦争に対する疑問と不審感にも似たような雰囲気。

鋭い眼差しを向けているアーチャー、エミヤ。

美麗な顔立ちにまっすぐにどこかを見つめるランサー、ディルムッド。

変わることのない無表情でその場の状況に目を動かし続けるアサシン、ジャック。

説明をするキャスターの後ろでことの成り行きをマスターであるベールに撫でられながら見守るライダー、アストルフォ。

この聖杯戦争そのものに一石を投じたキャスター、クー・フーリン…。

そして、この聖杯戦争に身を投じることとなった、宗谷を含める彼らサーヴァントのマスターたち……。

この場に姿を現していない者達もいるが、今のキャスターの言葉で少なからずこの戦いに疑問を抱いているものが出てきていた……宗谷もまた、そのうちの一人だった。

「………?」

だが、そんな中ある人物がまた別の反応を示した。

疑心暗鬼にも似た空気が立ち込めるこの場で、不意に一人の人物が視線を上げて、ある一点へと目を向けた。

そして、それは………この場の空気を一転させる、合図となった………。

「っ! 宗谷! アーチャー! ネプ子! 伏せて!!」

声を上げたのはネプテューヌの隣にいたアイエフだった、彼女は何かに気付いたのか自身の仲間たちに危機を知らせるようにそう言い放つと、咄嗟に自分の近くにいたネプテューヌの頭を押さえて身を低くした。

そして、彼女の言葉に反応したクロス・ヴィクトリーとエミヤも、何事かと慌てて周囲を警戒する。

すると、次の瞬間………彼らのいる場所に向けて、けたたましい轟音と共に空気を引き裂かんばかりのいくつもの細かな何かがとてつもない勢いでいくつも飛んできた。

それは一言でいうなら………“弾丸の雨”。

そう言うのが妥当だった。

地面を穿ち、周囲を抉る細かな物体がものすごい勢いでその場にいたサーヴァントやマスターである人物たちに向けて降り注ぐ。

それにいち早く気付くことが出来たクロス・ヴィクトリーとエミヤの二人は咄嗟にその場を大きく飛び退って直撃を回避する。

同様に他のサーヴァントやベールとブランもアイエフの言葉を聞いていたためにすぐさま反応でき、降り注ぐ弾丸の雨を回避することが出来た。

けたたましい発砲音がいくつも重なるようにして響き、コンクリートの地面を穿つ。

突然の奇襲に動揺を隠せないクロス・ヴィクトリー、すると………

――― ………―――――――――――――!!

突然彼の耳に獣とも、人の物とも取れるような叫び声が響いた。

本能に任せるようなとてつもない叫び声、それが聞こえた方向にクロス・ヴィクトリーは咄嗟に目を向ける。

そして、そこにいた者の姿を見つけた時、クロス・ヴィクトリーは息を飲んだ……。

廃工場の一角の屋根の上、そこに立っていたのは全身を重厚な甲冑で包んだ“騎士”だった。

だが、その人物は騎士というには明らかにおぞましい何かを感じずにはいられない、とてつもない威圧感を放っていた……それはまるで、本能に従い獲物に襲い掛かる“獣”のように……。

漆黒にも近い鎧に身を包み、顔の全体を覆う兜の目元を赤く輝かせながらクロス・ヴィクトリー太刀を見下ろす者、その者の正体と、真名をクロス・ヴィクトリーは知っている。

第四次聖杯戦争において、猛威を振るったサーヴァントの内の一体であり、彼の知りうる限りの中で強力な力を持つサーヴァント。

“円卓の騎士”と呼ばれる騎士の中でも最強と謳われる存在でありながら、“裏切りの騎士”という負の烙印を押されることとなった者……。

「………“ランスロット”………」

その身を“狂戦士”へと落した姿になり、現界した騎士は叫びをあげると両手を前へと突き出す。

その両手に握られているのは、二丁のサブマシンガンだった。

サブマシンガンにはなぜか赤黒い血管のような光が刻み込まれており、禍々しい光を放っている。

「………―――――――――――――――――――!!」

再び獣にも似た声を上げた瞬間、それと同時にサブマシンガンの銃口が火を噴き、唸りを上げた。

撃ち出されたいくつもの弾丸がさながらガトリング砲の如き威力を見せながら再び周囲に降り注ぐ。

「奴は……あの時のバーサーカー……!」

「どういうこった、この状況でいきなり現れるなんてよ」

突然乱入してきたバーサーカーのサーヴァントを前に、一度一戦を交えた記憶を引き継いでいるらしいディルムッドが驚いている様子を浮かべる中、クー・フーリンが何やら日が虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

だが、そんなことに構いはしないとでもいうかのようにバーサーカーはそのクラスによって与えられた本能に従うように猛威を振るう。

叫びを上げながら周囲に弾丸の雨を降らせるランスロット、唐突な狂戦士の乱入にその場にいた者達は動揺を隠せない。

「ちょ、ソウヤ! 何あのサーヴァント! あきらかにハッピートリガーしてるんだけど!? そう言う人なの!?」

「あぁ、そうだよ! バーサーカーは狂戦士ハッピートリガーどころか一度戦いになったらバーサクしまくりのサーヴァントなんだよ! それが何でこんな時に!」

その場の空気に疑心暗鬼が流れているさなかに突然の奇襲という横やりを入れたバーサーカー、いったいマスターの方は何を考えているのか……考える余裕すらもない状況の中、クロス・ヴィクトリーはネプテューヌとアイエフと一緒に周囲を走り回る。

なによりも、ランスロットはバーサーカーの中でもとりわけ厄介な能力を持つサーヴァントだ、真っ向から立ち向かうには困難を有する。

「ちっ……取りつく島も与えねぇってか……おいマスター、ここは一旦退くぞ!」

「……そうね……仕方がないわ」

「それに関しては同意ですわ、このまま話を続けられそうな感じではありませんし……ライダー!」

「うん、まかせといて! お願い! “この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)”!!」

この状況に対抗できる余裕はないと判断したのか、ベールとブランの二人はすぐさま撤退を判断し、アストルフォが宝具を発動させて呼び出した幻獣の背に跨り、すぐさま上空へと退避した。

「ちっ………弓兵よ、貴様との勝負は一旦預けさせてもらう!」

そして、その判断はランサーも同じだったようだ。

エミヤに向けての物と思われる言葉を残すと、彼はどこかへと姿を消した。

同様にいつの間にかジャックも姿を消しており、気付けばその場にはエミヤとクロス・ヴィクトリー達4人とランスロットのみとなっていた。

「アーチャー、あいつとやり合ってどうにかなりそうか?」

「……すまないが、取り入る隙が見いだせない……というより、奴は柄体が知れなさすぎる……このまま挑むには分が悪いと判断するのが妥当だろうな」

ランスロットのサブマシンガンの掃射を掻い潜りながらそう言ったエミヤにクロス・ヴィクトリーは仮面の下でバツが悪そうな表情を浮かべる。

それもそうだろう、なにせランスロットの持つ“宝具”に対してエミヤの持つ“能力”を照らし合わせるなら明らかに分が悪すぎる。

ランスロットの持ち前の能力を持ってするなら尚更だ………仮にエミヤの“宝具”を発動したとしても押し切るのは難しいだろう。

だが、このままでは自分たちも危ない……。

目標となる存在が一気にこの場を離脱したことによって今、ランスロットの狙いはアーチャーのサーヴァントであるエミヤとそのマスターのクロス・ヴィクトリーに向いている。

このままでは狙い撃つにされるのは必至、クロス・ヴィクトリーの中で焦りにも似た感情が湧き上がってくる。

するとその時、不意にランスロットが両店持っていたサブマシンガンを放り捨てた。

弾切れになったのかと、一瞬クロス・ヴィクトリーはチャンスを見出したように感じたが、それはすぐさま違うと理解した。

ランスロットが新たに足元から何かを持ち上げて肩に担ぐ様にして構えたのだ。

それは長くて太い、丸太のような筒状の物でその筒状の何かには覗き込むためのスコープと持ち手、そしてトリガーが備え付けられている。

その独特のフォルムを見た瞬間、クロス・ヴィクトリーは理解した……あれはサブマシンガンよりも遥かに危険な武器だということを…。

「………ッ!」

ランスロットがその武器を担いだまま跳躍し、地面へと飛び下りる。

そして、着地した瞬間、その照準をこの場から退避しようとするクロス・ヴィクトリー達の方へと向けた。

「おいおいおい嘘だろ……“バズーカ”なんかどこから持ってきたんだよ!?」

今、あの武器のトリガーが引かれたら打ち出された弾頭は通常ではありえない火力を持ってして自分たちに向かってくる。

その威力を想像するにはあまりにも恐ろしい、なにせ今あのバズーカはランスロットの持つ“宝具”によって彼の“疑似宝具”へと変化しているのだから。

………このままでは………!

クロス・ヴィクトリーの脳裏に最悪の状況が浮かび上がる……だが、そんなことに構うことなく、その本能に従うかのように、バーサーカーは照準を合わせたバズーカのトリガーを………引いた。

轟音と共に打ち出された弾頭は、まっすぐにクロス・ヴィクトリー達の方へと向かってくる。

その速度はあまりにも早く、防御を成功させたとしてもその威力を押し殺せるかどうかも怪しいほどの距離にまで迫っていた。

ただでさえ武器として強力だったバズーカがその威力をさらに引き上げられている、そんなものを受け止められるかどうかは正直言って無理な話だ。

驚異的な火力を秘めた弾頭が、クロス・ヴィクトリー達へと襲い掛かる。

全速力で走る彼らに対し、ミサイルさながらの推進力で空中を滑空する弾頭との速度差は目に見えて明らかに差があった。

その距離がどんどん埋まっていく………。

そして………。

― ………ゴォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオン!!

とてつもない爆発的な音と、とてつもない衝撃が周囲一帯を震わせた…。

「………あ、あれ?」

だが、だというのに………自分達の身には何も起きなかった………。

確かに爆音と爆風を感じて、一瞬だけ体が浮き、地面に投げ出された感覚はあった。

だが、“それだけだ”。

特に体には外傷がなく、大きな傷もない……なのに、なぜ自分は無事でいるのか……。

不思議に感じたクロス・ヴィクトリーは身を起きあがらせると周囲に目を向けた。

自分の周りには地面に倒れているアイエフとネプテューヌの姿、二人もまた目立った外傷がなくしばらくすると何が起きたんかと言いたげに身を起こした。

そして、エミヤ、彼は自分の後方にいた。

振り返ったクロス・ヴィクトリーが彼の姿を見ると、何やら彼に似つかわしくない驚いたような表情を浮かべているのが確認できた。

一瞬だが、もしかしたら彼の持つ力によって自分阿知は無事に済んだのではないかとクロス・ヴィクトリーは思ったのだが、今の彼の様子を見る限り層とはいい難い。

なら一体何が………クロス・ヴィクトリーがその答えを求めてエミヤが見つめる視線の先へと目を向ける………。

そして、その先で見た光景に……クロス・ヴィクトリーは今度は言葉を失った。

爆発による影響か、周囲を燃え盛る炎が包み込む中、周囲に………なぜか“雷光”が駆け巡っていた。

それだけではない、炎と雷が入り乱れる不可思議な光景の中で………一人の人物が立っていたのだ。

自分たちとランスロットの間に立ち、しっかりと、そしてどっしりとその場に仁王立ちする者の姿…。

普通の人間なら無事では済むわけがないこの状況で、悠然とその場に仁王立ちする人物、その者はクロス・ヴィクトリー達に背を向けてまっすぐにランスロットを見据えている。

「………気に入らねぇなぁ」

そして、その人物は唐突にそう言い放った。

「………まったくもって気に入らねぇ、理由もなしに突然人の土俵に横入りするクレイジーな奴ならオレも歓迎したいところだが………人の褌で相撲を取ろうとしやがる無粋な野郎は気に入らねぇ………」

その男は、自身の周囲に“黄金の雷光”を放ちながらそういい続け、自身の目の前に刺さっている身の丈はあろうかという巨大な斧の柄に手を付ける。

「………おい、そこのブラックナイト………オレが誰だか知ってるか?」

そして、その巨大な斧を肩に担ぎながらその男はランスロットに問いかける。

だが、ランスロットは目の前の突然の乱入者に対して言葉を返す様子は見せない、いや、そもそもバーサーカーで言葉を発することが珍しいのだが……。

「知らねぇなら教えてやるぜ、オレが誰なのか………よぉく聞いときな」

その男はそう言うと口元ににっと笑みを浮かべた。

鍛え抜かれたのであろうとてつもなく筋骨隆々な肉体に、かなり派手な金色のバックルを腰に巻いたレザージャケットのその男……金髪の髪をおかっぱに揃え、目元に鋭く、シャープなサングラスを掛けたその男は………いや、“漢”は………名乗りを上げる。

「雷電を受けて輝く黄金、誰かがオレを呼びやがる……魔性を屠り、鬼を討てと言いやがる………あぁ、うるせぇなぁ………うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇ! 耳元であれこれ言うんじゃねぇ! いつだってオレァ、オレの斧を振るうまで! 悪鬼を制し、羅刹を殴り、輝くマサカリ、ゴールデン!!」

名乗りを上げた男は雷光をその体に帯びて、身の丈はある斧を振り回し、その刃を地面へと突き立てる。

その姿を見ていたクロス・ヴィクトリーは………いや、宗谷はこの時こう感じた。

この漢は………“黄金(ゴールデン)”だと………。

「名乗りたくはねぇが名乗らせてもらうぜ? ………英霊、“坂田金時”!! バーサーカーの位を得て、此度の聖杯戦争にゴールデンに見参、じゃんよ!」

堂々たる姿で名乗りを上げた英霊、その名を“坂田金時”と言ったその漢。

だが、彼は今こう言った、“バーサーカーの位を得て”、と……。

「………二人目の、バーサーカーだと………!?」

本来ならあり得ない、一つのクラスに二人の英霊が現界するという異常事態にエミヤは驚きを隠せなかった。

何かの間違いかとも思ったが、ランスロットの攻撃を横から割り込むような形で相殺したその力はまさしく英霊そのもの……いったい何がどうなっているのか、エミヤはこの時動揺を隠せずにはいられなかった。

「おう、そこの赤いボーイ&ガールズ、お前らは今のうちに逃げときな、オレはちょっくらあいつにタイマン貼ってくるからよ、巻き込まれねぇうちに離れとけ」

二人目のバーサーカー、金時はそう言うと首を左右に振り、こきこきと鳴らしながら右腕に持った斧を豪快に振り回すと再び肩に担いだ。

「え、で、でも…!」

「……坂田金時と言ったな、お前は何が目的だ」

「おい、お前アーチャーだよな」

エミヤが彼に向けて放った問いかけに金時は背を向けたまま返す。

「金時じゃねぇ、ゴールデンと呼びな、あと、目的に関しては気にすんな、オレァいつでも守りたい物を守る、そういう性分なんだよ………まあ、これはオレの“大将”の命令でもあるんだけどな」

そう言った金時はその場に深く腰を落として、ランスロットと相対する。

「いいかららここは任せときな……“邪魔者”纏めて、オレが殴ってやるからよ」

「………――――………!」

相対する二人の狂戦士、体から溢れ出る強烈な闘志を前にしてクロス・ヴィクトリーはこの時、咄嗟に首を縦に振っていた。

この戦いに割り込むことはできない……この投資に触れれば、こちらが危ない……彼の本能がそう告げたのである。

それはまたネプテューヌやアイエフも同様だったらしく、次の瞬間彼らは金時に背を向けて走り出した。

そして、それに遅れてエミヤもまた乱入した二人目のバーサーカーを気にしながらも、その場を後にする。

「………さて、ギャラリーもいなくなったみたいだしこれでお互い全力でやり合えるな………」

クロス・ヴィクトリー達一行が走り続ける最中……。

「さあ、かかって来なぁ!!」

「――――――――――――――――――――――――!!」

次の瞬間、彼らの背後でとてつもない衝突音と衝撃がその場の空間を震わせた………。

「まったく、なにがどうなってるっちゅか、いきなり他のサーヴァントが出てきてこの戦いから手を引けなんて、悪役のオレ様達には無理な話をするものっちゅ」

「喚くなネズミ、なんであろうと私の目的は変わらん、この戦いを勝ち抜けばいずれ聖杯という万物の願いを叶える杯が手に入るのだろう? それが手に入ればそれでいい」

先程の廃工場から離れた廃れた廃墟の中に、二つの人影があった。

一人は一見すると魔女にも似たような服装に身を包んだ一人の女性と、その傍らに付いている一匹のネズミのマスコットの様な影、二人は何やらそうやり取りを交わすとどちらからともなく、同じ方向へと目を向けた。

「……帰ってきたみたいっちゅね」

「ご苦労だった、それで戦況はどうだ………アサシンよ」

二人が目を向けた先にいたのは、小さな子供のような姿をしていた……あの廃工場での戦況の最中でさりげなく離脱を果たしたアサシン、ジャックだった。

「………よくわからないよ、おかあさん………なにもかもがめちゃくちゃで、わたしたちにはわからない」

ジャックはあの状況の中で感じたことを素直に言う、むしろそう言うしか他ならなかった。

自分の使命はわかっている、だけどあの戦いのさなかに言われたことを受けて自分はどうすればいいのか考えることが出来なかったからだ。

すべては……自分の身を任せている、この人物のためだから。

「ちっ……収穫はなしか……まあ、いい」

「ん? 珍しいっちゅね、前なら明らかにここで能無しめ! とかいう所なのにっちゅ」

「うるさいぞネズミ、まあ、焦らずともいい……この戦いは今戦況が乱れている、その隙に乗じるチャンスもいくらでもあるという物だ」

そう言うと女性は廃墟の窓から見える夜空を見上げる。

夜の空に浮かび上がる月、その月の光が彼女の三白眼の切れ長な目に写りこむ。

「今は私の崇高な目的のため、この流れに乗ってやるのも悪くはないということだ、いざとなったら聖杯とやらを横からかっさらえばいい、そうすれば私の願いも……」

「考え方がせこいっちゅね~…まあ、おばはんは最近そんな余裕ないからしょうがないっちゅけど」

「黙れと言っただろうネズミ! 貴様の分の食事を抜くぞ!」

小さなネズミのマスコットの様な影に向かって女性が怒号を迸らせる、だがそんな中……。

―………ぐ~………。

不意にどこからか間の抜けた音が鳴った。

「………ぁ」

それの原因はジャックからの様だった、英霊として現界しているにもかかわらずなぜか彼女には空腹という感覚が働いていた。

そして、それが聞こえたのか女性とネズミの二人がジャックへと目を向ける。

「なんっちゅか、もうガス欠っちゅか? めちゃ強な力があるとはいえ子供はこれだからいやだっちゅ…」

「………仕方がない、今後も働いて貰うのだから、その際に動けられなくなっても困る………アサシン、来い、飯にするぞ」

「………うん!」

女性の言った言葉に、ジャックはすぐさま頷いた。

そして女性は身を翻すとそのまま歩きだし、その後をネズミが追いかけていく。

「ところで、今日の飯はなんにするっちゅか?」

「売り物にならん在庫が出たからな、麻婆茄子だ………飽きたとは言わせんぞ」

「………封殺されたっちゅ」

そんなやり取りをしながら進んでいく二人をジャックは見つめる、だが彼女が遅れていることに気付いたのか女性は後ろを振り向くとジャックに言葉を掛ける。

「何をしているアサシン、貴様には売れ残りと売り物にならないナスの処分を手伝って貰わなければならないんだ、遅れは許さんぞ」

「………うん、おかあさん………」

「………やはり慣れんな、その呼び方は………背中が痒くなる」

口元に微笑みを浮かべながらジャックは自身のマスターの後をついていく、右手にМという字を象ったかのような形をした令呪を持つ………アサシンのマスターとして選ばれた、マジェコンヌの後を………。

「………ただいま戻りました、マスター」

「………ごくろうさま、ランサー」

別の場所、廃工場から少し離れた場所に位置する宿泊施設、そこではランサー、ディルムッドが自身のマスターと合流していた。

マスターである人物の前に膝をつき、頭を下げるディルムッド、そんな彼の姿をマスターである人物は見つめて、視線をすぐに部屋の窓へと向けた。

「………今日はもういいわ、下がって」

「はっ………しかし、主よ………一つ、よろしいでしょうか?」

「……なに? 言いたいことがあるならはやく言いなさい」

ディルムッドの問いかけにマスターはどこか不機嫌な雰囲気を声色に混ぜながらそう返した。

「……先程、魔術師が言った件、マスターはどうなさるのか、お聞かせ願いたい」

自分はサーヴァント、その手に握った槍は主のためにある、その本質はこうして再び現界した今も変わらない。

そして、それはこの主なら自身の槍を預けてもいいと、思ったからでもある。

すべては主の想いのまま、自分はこの戦いで槍を振るうと決めた、そのためになら……ディルムッドはその誓いの元、自身の主に問いかける。

そして、その答えは程なくして帰ってきた…。

「………どうもしないわ、私はこの聖杯戦争に勝ちたい………それだけよ………」

そこにあるのは、揺るぎない一つの想い。

ディルムッドのマスターの証である右腕の甲にちらりと見える三本の剣が束なったような令呪を持つサーのマスターは再び夜空を見上げる。

夜の空と同じ漆黒の二つ結びの髪をなびかせ、赤い瞳を空へと向ける彼女は強く拳を握り絞める。

「……勝たないといけないの………そうでないと………私は………私は、“あいつ”の隣にいられなくなる………」

勝利の先に彼女が目指す物、揺るぎない信念を持つ彼女なら………この世界の守護を司る、“守護女神”の一人でもある彼女、ノワールになら………自身の槍の忠義を、預けれる………そう思ったから。

湧き上がった聖杯戦争の“疑問”………この中で、それぞれはどのような思惑を抱くのか…・……聖杯戦争の始まりを告げる初日は、こうして幕を下ろした。




いかがでしたか?

次回は、この疑問を抱いた宗谷はこの聖杯戦争で何を見出すのか、疑問が異変へと変わった聖杯戦争の中でマスターとなったものたちは何を思うのか!

次回もお楽しみに!
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