超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ! 作:白宇宙
なかなか時間が開いてしまって申し訳ありません! リアル事情と他作品の投稿とで期間が開いてしまったこのお話、ようやく続きを投稿できました!
さて、今回は前回の戦いから時間が経ったある日の様子……一時の休息を得たマスターたちに、ある物が……
それではお楽しみください、どうぞ…
あれからの事を纏めるとしよう……先日の夜に起きた、ゲイムギョウ界という異界の地で起きたこの聖杯戦争の開始の合図となったサーヴァントのファーストコンタクト、それは最初から混沌とした現場となり、不穏な空気に包まれた開幕となってしまった。
俺がひょんなことでこの世界に召喚した、サーヴァント、アーチャーのエミヤ………彼が最初に遭遇したのは、ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナだった。
ディルムッドの方はマスターの出した命令に忠実従っているのか、それとも彼の生前に持っていた騎士の誉れともいうべきプライドがそうさせているのか……最初は二人による一対一の真剣勝負からだった。
だが、しばらくしてその戦いは不穏な空気に包まれ始めた………横から乱入したアサシンのサーヴァント………そして、さらに横から乱入してきたキャスターのサーヴァントとなったクー・フーリンとライダーのサーヴァントのアストルフォ、そしてそれを突き従えていたブランとベールの存在、まさかの二人の聖杯戦争への参加の事実を知ったということだけでも驚きなのだが………なによりも驚きだったのが、ブランのサーヴァントであるクー・フーリンが言った言葉をきっかけに広がったこの聖杯戦争そのものへの“疑問”………。
……この聖杯戦争は、何かの手によって仕組まれているのではないか……。
一体誰が、なんのためにという疑問は当然あるし、全く見当もつかない。
突然この戦いに巻き込まれたということにも未だに実感がわいていないのに、さらに追い打ちをかけるかのように出されたその疑問、既に俺の中にある思考はこんがらがってきはじめているのに………極めつけに現れたのは………俺達の前に現れた、“二人のバーサーカー”だった。
漆黒の鎧に身を包み、本能のままに暴れるというかのような乱入を仕掛けてきたバーサーカー、円卓の騎士の一人……ランスロット。
そして、そのランスロットに立ち向かうかのように俺たちの前に現れ、危ないところを助けてくれた
本来の聖杯戦争の形ですら大きく変化し始めたこの戦いは………もはや、正規の聖杯を掛けた戦いでも、命を懸けた戦争とも取るのは難しい……まさに、“異変”そのものではないのかと俺は思い始めていた……。
この異変は、たぶん………今まで俺が体験してきたどの戦いよりも複雑で、かなり厄介な異変じゃ、ないのだろうか………。
「……ってのが、今の俺の心境だ……」
『無理もありませんわね、突然こんなことを一気に体験されては心の整理がつかないのは当然のことですわ……まったく、ブランが話を焦らせるからソウヤが混乱してしまったではありませんか』
『………事実を隠して、先送りにしたとしてもどうにかなることでもないわ………それなら、早めに伝えておいたほうがいいと思ったの』
俺は今、俺の自室に据え置きで置かれているコンピューターの通信ツールを通して、あの事件以来時刻に戻ったらしいブランとベールの二人と前に起こった戦いについての意見交換と、おさらいをしていた。
今回のこの聖杯戦争の核心について近づきつつあるらしい二人に意見を聞いておくことは俺としても願ったりな機会だから、こうして二人と通話しているわけなんだが……正直言ってまだ俺の中にある心の靄は完全に取り払われたって感じじゃなかった。
「……これから俺達はどうすればいいのか……わからないぜ」
『キャスターから話を聞く限り、聖杯戦争は勝ち残ったマスターに聖杯が与えられるという物……正規の方法ならサーヴァント同士が戦ってマスターのこの聖杯戦争の参加権を奪えばそれでいい……それだけのはずなのだけど』
『………どうにも釈然としませんわね………果たしてその聖杯は誰が与えるのか、というより、この戦いを誰が監督しているのか………』
「………俺の知ってる聖杯戦争でも、いろいろと陰謀が渦巻いていたけどな………今回は飛び切りややこしい感じだ」
聖杯がなぜこの世界に現れたのか、一体その情報は誰から齎されたのか、そして、なぜ聖杯戦争を行なう必要があるのか………目的が見えない子の異世界で行われる聖杯戦争、いったいどうすればいいんだ……。
『……場合によっては、私達も戦い合わなければいけないことになるかもしれないわね……』
「なっ……なんでだよ! なんでそんな……」
『落ち着いてくださいまし宗谷、まだもしかしての話ですわ……この聖杯戦争の根本となった原因次第ではそうなりえるかもしれない、というだけの話ですから』
「冗談にしても……そういうのやめてくれ……」
今は二人は協力体制を作ってくれているが……今後、この戦いを進めていく中では場合によっては敵になるかもしれない……そんなことにはなってほしくはないんだけど……。
俺は複雑な心境を抱きながら部屋に置かれている椅子に深く腰掛けて天井を見上げる。
………わからねぇ、どうしたらいいのか本当にわからねぇ………。
この聖杯戦争で、俺は何のために……何の目的をもって戦っていけばいいのか……それが全く見えない……理由もなく戦いに身を投じることがこんなに気持ちの悪い物だったなんて、思いもしなかった……。
しかも、本来なら相手になってたかもしれない場所に自分の知っている身内がいたなんてのが知ってからはなおさらだ………俺はこの先どうすればいいのか、本当に………先が真っ暗で何も見えない……。
「……なあ、二人とも……二人はこの聖杯戦争で、何のために戦うんだ?」
溜まらず俺は少しでもこの疑問という靄に包まれた心境を晴らしたいと思い、二人に問いかける。
すると、俺の問いかけに対してベールとブランしばらくの間の沈黙を保った後……。
『………正直言うと、私もわからないわ………私はそんな眉唾な道具のために戦うなんて、時間の無駄と感じていたから』
『わたくしとしては、そんなレアアイテムがあるのなら是非とも手に入れたいところですけど…仮に手に入れたとして、その後もったいなくて使うのを躊躇してしまいそうですし、ネトゲで手に入れたレアアイテムと同じで』
……どうやら二人も俺と同じらしい・・・…。
二人もまた、この聖杯戦争ではっきりとした目的を見いだせていないようだった……。
『………でも、仮に………もし本当に願いが叶うのなら………私は同人小説に仕えそうな画期的なアイデアと、集中できそうな空間を望むかしら……あとは宗や……こほん、個人的な秘密だけど』
『あ、それならわたくしはゲームを一週間ほど満喫できる権利を貰いたいですわね♪ あとはイストワールとネプギアちゃんとあと宗谷をわたくしの元に妹と弟として引き入れる権利を……』
………ああ、でも………この二人はちゃんと欲望を持っていたのね………まあ、ずいぶんと私利私欲にまみれた願いだこと………一部ちょっと理解に苦しむような内容があった気もしないこともないのだけれど………。
そんな平和なのかどうかは微妙だけど、簡単な願いを叶えてくれるような聖杯戦争ならここまで悩まずに済んだのかもしれないけどな。
二人のその意見に俺は何となく苦笑いを浮かべる、すると二人は突然どこか真剣身を帯びた表情を浮かべると互いに、どちらからということもなく通話をしている画面の向こうから俺の方へと目を向けてきた。
『だけど……そんな簡単に叶う願い程、つまらないものはないわ』
『ええ、願い事は自分の力で叶えるのが一番ですわ』
「……ああ、それは……俺も同感だ」
彼女たちの目に写っているのは、まさに彼女たちの中にある揺るぎない心を映し出したかのような強い意志を感じる目だ。
二人はこう思っているのかもしれない……楽にかなえられる願いなんてない……自身が頑張って、かなえた願いにこそ意味があるのだと……。
そして、それは………俺も思っていることだ。
だからこそ、俺は聖杯戦争に掛ける望みなんてものはない……俺は正直、万物の願いを叶える杯なんて、いらない……聖杯に捧げる願いなんて、今の俺にはないから………。
でも、よく考えてみたら……それが原因で今苦しんでいるのかもしれないな……俺は……。
「………やっぱり、早いうちに彼に打ち明けるのは………焦りすぎだったかしら」
一通りの意見を交換し終え、ブランは通話を切ると今まで自身が座っていた椅子に深く背を凭れさせる。
今この世界で何か起ころうとしている、なら何かが起きる前に自分がしっかりしないと……そう感じた故にブランは選んだのだった。
宗谷に協力を仰ぐということを……。
何かが起きて、またあの時のような……新・犯罪神事件の時のような悲劇を起こさないようにするために……。
あんな悲しく、辛い思いを……一時とはいえ、味わったからこそ……彼女は繰り返すわけにはいかないと感じた、だからこそこの戦いの存在……そして、不可思議な点を抱えるこの戦いを早期に終わらせる必要があると判断したのだ。
「………そのためにも、彼の力は必要だわ………でも………」
肝心の頼みの綱である宗谷は今、迷いの中にいる……今の彼と一緒にこの異変に身を投じて、本当に大丈夫だったのだろうか……自分の判断は焦りすぎたものだったのか……彼女の胸中に不安という名の影が差す。
「心配すんなマスター、あの坊主はそこまでやわなようには見えねぇよ」
そんな時だった、一連の話を聞いていたのであろう、今の自分の良き協力者となってくれているサーヴァントがどこか落ち着いた微笑みを浮かべながらそう言った。
透き通った水色のローブに身を包み、傍らに杖を置く彼は部屋から見えるルウィーの雪景色を見ながら壁に凭れかかるようにして座り込み、何かを作っている。
「……あなたが言い出したことが原因で彼も……もっと言えば私も迷っているのに、ずいぶんと上からなのね?」
「へっ……気に入らねぇかい? だけどまあ、俺からしたらあの坊主はまだまだひよっこだ、だから自然とそう見えちまうもんでな」
何やら糸のような物を手ごろな棒に括りつけている彼はそういうと括りつけた糸を手で引っ張って棒の強度か何かを確認しているように見える。
「すぐに負荷を抱え込んで折れそうに見えるんだったら、俺はわざわざ試すような真似はしねぇ、だけどあいつには見込みがある、だから俺は反対しなかったんだよ……うし、大丈夫そうだな」
「………何を作っているの?」
「ん? 見てわからねぇか? 釣り竿だ」
ブランの問いかけに答えたキャスターは自身のお手製らしい釣竿を彼女に見せる。
「釣竿を作るのにもコツがいってな、獲物がかかった時に折れないような棒を選ぶのには目利きが必要になる」
「………結局何が言いたいのかしら?」
「要するに、俺は気に入ったってことだよ……この釣り竿に使った棒も、あの坊主のこともな」
そう言ってキャスターは釣り糸の先に今度は釣り針や浮きとなる小物を取り付け始める。
「話を聞いた限り、あいつには確かに見込みがある…だが、マスターとしては半人前だ、だからこそこれからが楽しみでもあるんだよ」
キャスターはそういうと口元にうっすらと微笑みを浮かべる、彼は彼なりに宗谷の事を気にいってくれたと言っているのだが、その言葉の裏が読めずに本当の所はどんなことを思っているのかとブランは内心で思いながらキャスターを見つめる。
そんな時だった、不意に彼女がいた部屋の扉が勢いよくバタン!と開け放たれた。
「おじさーん! あーそーぼー!」
「あそぼ……♪」(わくわく
元気よくドアを開け、元気よく声を張り上げて部屋の中に入ってきたのは色違いのコートと帽子を身に付得た似た顔つきの二人の少女、この国、ルウィーの女神候補生であるホワイトシスターこと、ロムとラムの二人である。
「そう急かすんじゃねぇよ、嬢ちゃんたち……後おじさんはやめろ、俺はまだそこまで歳くってねぇよ」
「なんでもいいでしょう? おじさんはおじさんなんだから、それよりも遊ぼう! 約束したでしょ?」
「……この前約束したよ?」
「……はあ、しゃあねぇ、もう好きに呼んでくれや……うし、そんじゃあ行くか」
二人の純真無垢な瞳にキャスターはまんざらでもなさそうな表情を浮かべると立ち上がり、先程作っていた釣り竿を手に取ると二人の頭を手で撫でてから部屋の出入り口へと向かっていった。
「そういうことでなマスター、俺はちょっくらこいつらの相手をさせて貰うが、構わねぇか?」
「……まあ、構わないけど……何をするの?」
「前に釣りのやり方を教える約束をしてな、まったく……ガキは元気すぎていけねぇ、付き合ってやる身にもなってほしいぜ」
そう言いながらも口元には微笑みを浮かべるキャスターを見て、ブランは何となくだが彼の内面を少し理解し始めた。
彼は………クー・フーリンという名の英霊は、もしかしたら意外と世話焼きなのかもしれない………と………。
「………助かるわ、ありがとう………キャスター」
「礼を言われるほどのことじゃねえよ、見返りはちゃんと用意してもらうぜ」
「よーし! ラムちゃんが一番たくさん釣ってやるんだからー!」
「わたしも……負けないもん……♪」(わくわく
「ボクだって負けないよー! あんまりしたことないけど、まあ、ボクだってシャルルマーニ十二勇士の一人なんだし何とかなるよね!」
キャスターを先頭に意気揚々とその後をついていくラムとロム、そして同じように釣竿を片手に自信満々にその後をついていく桃色に近い赤髪を後ろで三つ編みに纏めた美少女の姿を見送るとブランは再び自身が座っていた机へと向き直………。
……………。
「………なんでいるの、ライダー………」
「いつから居たんだ、お前………」
さりげなくもう一人紛れ込んでいたことに気付いたブランとキャスターはほぼ同じタイミングでロムとラムの後ろに付いて来ていた、この聖杯戦争に呼び出され、リーンボックスにいるベールのサーヴァントであるライダー、アストルフォの方に顔を向ける。
本来ならリーンボックスにいるはずの彼女………ではなく、“彼”がなぜこの場にいるのか疑問を感じた二人は言い方は違うが内容が同じ意味を持っている問いかけを口にする。
すると、ライダーはその場で首を傾げると、顎に人差し指を当てて何かを考え込むような仕草をする。
「………う~ん………暇だったからなんとなく?」
「………そんな簡単な理由でわざわざルウィーまで来たの?」
「だって~、マスターの部屋にあるゲームはもうほとんどやっちゃったし、マスターはなんか別のゲームやってて相手してくれないし! もうBLゲーは飽きたよ~!」
「いや、お前十分楽しんでる気がするんだが……つか、なんだその……びーえるってのは」
「キャスター、あなたが知らなくてもいい事よ……」
「お、おう……」
何やら気になる発言はあった物の、まさに自由気ままを体現しているかのような性格のライダーにブランとキャスターの二人は戸惑いを隠せなかった。
果たしてこの英霊は現状の複雑性をわかっているのかと少々不安を感じてしまうほどに……。
「それに、遊ぶなら人数は多い方が楽しいでしょ? ね? おちびさんたち?」
「うん! だからアストルフォちゃんとも遊ぶ~!」
「みんなでの方が……楽しい……」(にこにこ
そして、その性格ゆえかいつの間にかロムとラムの二人とも意気投合していることに二人は驚きを隠せずにはいられなかった。
どうしたものかと言いたげな苦笑いを浮かべながらこちらを見て来るキャスターに、ブランは何も返さず小さなため息をついて自身のパソコンのデスクトップへと目を向ける………すると、その時に気付いたのだが、いつの間にかメールボックスに一軒の通知が来ていた。
あて先は………ベールからだった。
(………向こうもいつの間にかこっちに来ていることに気付いたのかしら?)
気になったブランがそのメールを開いてみると……。
『そちらにライダーが言っていると思うのですけど、わたくし今四女神オンラインの攻城戦で手が離せないので、気にせずお相手をしてあげてくださいな♪』
といった内容だった。
「………キャスター、ついでにお願いするわ」
「………らしいな………」
サーヴァントもサーヴァントならマスターもマスターか……リーンボックスの二人はなぜこうも自由気ままなのか、ブランは今になって軽く頭を抱えるのだった……。
プラネテューヌの街中にあるホテルの一室、一般的な市民にも利用されているそのホテルの一室にただ一人、一般とは大きく離れた立ち位置にいる人物が宿泊している。
ホテルに備え付けられたシングルベッドの上に寝転がり、天井を見上げているの彼女……名前と同じ、漆黒の黒髪を二つ結びにした少女、彼女の生まれはこの国ではない……こことは違う隣国、ラステイション、しかもそこの守護を務める守護女神の一人……ノワールだ。
ノワールはホテルの天井を見上げながら自身の右手の甲を見つめる。
そこには自信が身を投じている“戦い”への参加権でもある刻印、令呪と呼ばれるものが刻まれている。
「………聖杯………あれを勝ち取れば、私は………」
彼女の中にあるのはこの戦いに掛ける、“己の目標”ともいえるもの、彼女はそれを糧にこの世界では異質としか言えない、この戦いに参加したのだ。
「そうすれば私はもっと……私はもっと、前に進める……あいつの所にもきっと追いつける」
ノワールの目標の先にある物、そこにいるの………自分がひそかに思いを寄せていた、一人の青年の姿。
最初にあった時からたくさんの出来事を経て、いつの間にか持っていたこの思い……だけど、それは……今の自分では到底かなわない、遥か高みの想い……。
今の自分ではこの想いを持っていても到底釣り合う者ではない……だからこそ彼女は誓ったのだ。
「……この戦いに勝って、私は……相応しい器を持った人間になってやるんだから」
天井に掲げるように伸ばした右腕、その公に刻まれた令呪農地の一つはもう既に使用済みなのか掠れていた。
その内容はこの戦いにおける互いの意志を確認し合う証として、自身のサーヴァントと交わしたもの……。
「………マスター、ただいま戻りました」
噂をすればなんとやら、というわけでもないが……いつの間にかそのサーヴァントが帰ってきていたらしい。
聞き覚えのある声と共に室内に入ってきたのは彼女のサーヴァントとなった双槍使いの美男、ランサー、ディルムッドだ。
「ご苦労様ランサー、それで他のマスターに動きは?」
「……アーチャーのマスター、彼に関しては主との“契約”もあるため手は出していませんが……見た限り、まだ動くのに抵抗を感じているようです、キャスター、ライダーのマスターも同様で……そのほかのマスターについては、まだ姿を確認できておらず……」
「……今のところ参加が分かっているマスターは宗谷とブランとベールだけだものね……それにしても、あの二人が参加しているなんて思いもよらなかったわ……」
昨日の邂逅の際に姿を現したあの二人、その様子を遠巻きに観察していたノワールは宗谷だけでなくあの二人でさえも参戦していることを知り、驚きを隠せずにいた。
だけど同時に動じるわけにはいかなかった……動じてなる者かとノワールは思った……思わなければいけなかった。
(………羨ましいなんて思ってないんだから!)
こうして自身は身を隠して参戦しているというのになぜあの二人は堂々と彼の前に姿を現したのか……軽いあてつけなのかとさえ思えてくる、向こうに自覚はないのだろうが……。
しかし、このくらいで動じていてはいけない……いけないのだが……。
「………あーもー!! も~~~~~~~!!」
近場の枕を唐突に抱きしめて唸りながらゴロゴロと身を転がすノワール、やはり溜まった者は出したくなる時があるのだろう……。
そんな彼女の様子を見てランサーはどうしたことかと、きょとん、とする。
「……あ、主?」
「はっ!? ……こほん……あ、ありがとう、なんでもないのよ? なんでも」
「は………はぁ………」
彼の視線と声を掛けられたことでようやく我に返ったノワールは慌ててその場で取り繕い、身を起こす。
(………よほど、例の宗谷という少年の事を気にかけているのだろうな………あの少年は苦労をすることになるのだろう……不憫だが……)
だが、取り繕った所で彼女の思惑はなんとなく理解されていたのだった。
そんな密かな気苦労を何となく心中で察しながら、別の場所にいる自身の主の意中の相手に同情の念を送りながらも、ランサーは切り替えてこほん、と咳ばらいを一つすると懐からある物を取り出した。
「………それで、マスター、実は先程………こんなものが………」
「なに? 手紙だと?」
プラネテューヌの郊外にある自然豊かな土地の一角の備えられたナス畑、ここは依然にある人物とプラネテューヌの女神と女神候補生、そして異世界から新たに来た女神の三人、そして一人の青年と司書がひと悶着を起こした場所だ。
今は収穫期を迎えてナスが食べごろになっている中、ちらほらと既に収穫された後のナスが見えるその畑のほぼ真ん中に位置するところにある小屋のような小さな家、そこでこのナス畑を買い取った張本人がいた。
「チュ、おばはん名義で珍しく来てるっチュよ、おばはんにも手紙を貰う相手がいたっチュか?」
「そんな相手に覚えはない、あったとしてもナスの出荷先からだろうがこの前出したばかりだぞ、売り上げの起債にしては早くないか?」
手紙を受け取ったその畑の主は、その手紙に記載された名義を確認する………。
そこには確かに……「マジェコンヌ様へ」と記載されていた。
「確かに私の名義だ……しかしなぜだ」
「知らないっチュよ、それにしても古風な手紙の出し方もある物っチュね? その手紙今どき伝書鳩で運ばれてきたっチュよ」
「伝書鳩だと? ……訳が分からん」
なんやかんやで長い付き合いとなっている小型のネズミ型の人物、ワレチューの言葉に首を傾げるマジェコンヌはその手紙をまじまじと見つめる。
なぜ今時に伝書鳩という方法で手紙を出す必要があるのか……そもそも、そんな方法を何故自分に向かって出したのか、不可思議な点が多いことを抱えながらもマジェコンヌはその手紙を見つめ続ける。
「………どうかしたの、おかあさん」
そんな時だった、不意に自身の足元で今自分と行動を共にしている、サーヴァントという存在であり、今自分が身を置いている戦いにおいての貴重な戦力である少女がマジェコンヌの服の裾を引きながら問いかけてきた。
「ん? ……お前が聞いてもどうということはないことだ……それよりも貴様、ちゃんとすべて食べたんだろうな?」
「うん……ナスカレー、美味しかったよ?」
「……またナスを食べさせてたっちゅか」
「やかましい、昼飯時だったのとまだ売れなかったナスがあったから有効活用したまでだ!」
ジト目でマジェコンヌを見るワレチューにそう言い返したマジェコンヌは自身の足元に引っ付いている自身のサーヴァント……アサシン、ジャック・ザ・リッパ—に目を向ける。
「それよりも、残してはないだろうな?」
「うん……わたしたちは少しでも魔力を回復させておかないと、おかあさんのために……」
「………ならいい、食器は洗っておくから後は好きにしろ」
「……うん、おかあさん」
アサシンは今の自分にとっての重要な戦力の一部、それの微調整もまた必要なことと思いながらマジェコンヌはジャックにそう指示を出す。
それに対して、忠実に返答を返したジャックはちょこん、と近場に置かれた椅子に腰を掛ける。
少し自信の体格よりも大きな椅子なためか、足を少し浮かせて静かに座っている彼女は言われた通り……なのかはわからないが、彼女なりに体を休めている様だ。
「………やはりむず痒いな、あの呼び方は」
「悪者の影はどこへやらっチュね」
「私がいつ足を洗った、そのためにこの戦いに参加したのだろうが! ……いつまでもナス農家になっていられるか」
「のわりにはこの前はナスを収穫しながら……生きていると感じる、なんて言ってたっチュよ?」
「貴様の給料を次から少し減らしてやろうかネズミ?」
「チューーーー!? そ、それは勘弁っチュ!? ネズミにも労働基準法は適用されるはずっチュよ!」
自身が考えられる限りの作戦を実行に移し、その野望を打ち砕かれた今……彼女に残っているのはこのナス畑のみとなっていた。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかないのが彼女の心中だ、何としても脱却しなければならない……故に彼女はこの聖杯戦争と呼ばれる戦いに参加したのだった。
「……今は何とでもいうがいい、万物の願いを叶える杯とやらが手に入れば後はこっちのものだ……さて、その時は何をするか」
「……今から買った気でいるのは負けのフラグな気がするっチュ……」
彼女の中に滾っていた女神達への復讐の念を滾らせるマジェコンヌ……すると……。
「………おかあさんは、聖杯を手に入れた後、どうするの?」
唐突にアサシンがマジェコンヌにそう問いかけてきた。
彼女からの突然の問いかけにマジェコンヌは軽い動揺を感じながらも振り返り、彼女へと目を向ける。
まるで人形のような薄い表情にあるくりっとした目がマジェコンヌを揺るぎなくまっすぐに見つめてる。
「な、なにって………まずは、女神に対抗できる力を………あ、いや、先に私の意のままの国を作るか……」
彼女の問いかけにたじろぎながらも思考を巡らせて考え始めるマジェコンヌ……するとジャックは首を傾げながら、さらに言葉をつづけた。
「……そこに、おかあさんの……“幸せ”はあるの?」
その言葉にマジェコンヌは一瞬だが、耳を疑った……。
そんなことを言われたのは彼女の中では生まれて初めての事だった。
「幸せ………だと? ……暗殺者のお前が何を……」
「………わたしたちはただ、戻りたかっただけ………おかあさんのそばに……わたしたちが“いるべき場所”に………でも、こうしておかあさんと過ごしている今のわたしたちは感じているよ………」
そういうとアサシンはまっすぐにマジェコンヌを見つめながら、人形のような薄い表情の口元に………。
「………幸せを」
笑顔を、浮かべるのだった。
「し、幸せだと………そんなもの、私には………」
関係のないことだと思っていた……でも、なぜだ………。
なぜ、嫌悪感を抱かないのか……。
それが、マジェコンヌにとっては戸惑いでしかなかった………自分の中で何が起きているのか、わからなかった……。
「……わたしたちは、おかあさんにも幸せになってほしいから……頑張るね?」
「……随分と妙な好かれ方をしてしまったっチュね、おばはん」
「う、うるさい! そ、そりよりも今は手紙だ! 手紙!」
自身の中で湧き上がった妙な感覚にマジェコンヌは戸惑いながらも、思考を切り替えねばいけないと彼女の本能がそうさせたのか彼女は手に持っていた手紙の封を切り、中身を確認する。
そして、その内容に目を通した時………動揺していた彼女の表情が、一気に真剣身を帯びた……。
「リンゴの皮剥きは包丁を動かすのではない、軸となるリンゴそのものを動かせばうまくいく……このようにな」
「………綺麗………うすい」
プラネテューヌ教会の居住スペースにある台所、そこでは今、今現在宗谷のサーヴァントとなっているアーチャー、エミヤがこの教会でメイドとして働いている少女、シンシアに料理の手ほどきをしているところだった。
先日の邂逅からの激戦から動きを見せていない現状を、彼は彼なりに過ごしている様だった。
本来ならアーチャーのスキルを使って索敵や、敵の動向を探るのが本来のやるべき役割なのだろうが……当のマスターである彼が今は動きを見せる意思がないのだから、どうしようもない。
故に彼は彼なりの息抜きをしているところなのだ。
「……それにしても、君は少々気が抜けているな……包丁で指を切るならまだしも、右手そのものに包帯を巻くほどの怪我をするなんてことはそうそうないと思うのだが」
「あう………ごめんなさい」
「…謝ることはない、慣れていないのなら仕方のない事だろう」
今彼がシンシアに手ほどきをしているのは彼女がこの前料理の練習中に怪我をしてしまったために同じことを繰り返さないようにと頼まれたためでもあった。
基本的に料理をすることは嫌いではないエミヤは、ついでにという感覚で彼女にこうしてリンゴの皮むきを教えているのだ。
「……君みたいに年端もいかない少女は傷が残りやすい、これからは気を付けることだ」
「は、はい………」
「……わかっているならそれでいいさ、頑張るのは良いが、頑張りすぎないのも手だぞ」
「………?」
「……すこし、わかりづらかったか」
自身の発言の意図が伝わらなかったのか首を傾げるシンシアにエミヤは何となしに頭を撫でる。
白い髪をしている彼女の髪はやわらかく滑らかで、肌触りもいい………。
(………白い髪、か)
そんな彼女を見ていると、不意にある人物の事を思い浮かべてしまう……自分の遠い昔の記憶にある、彼女と同じ白い髪をした、赤い目の“ホムンクルス”の少女の事を……。
自身があの時、助けることが出来なかったあの少女の事を……あれがあの戦いで犠牲となる運命だったのかは、今となっては考えても仕方のないことかもしれない。
だが、それでもその時の光景は……今でも彼の脳裏に焼き付いてる……。
………“守護者”となった、今となっても………。
「……あ、あの……」
「? ………おっと、すまない……すこし、考え事をしていてね」
いつの間にか物思いにふけっているあまりに彼女の頭を撫で続けていたらしい、頬を赤らめて声を掛けてきた彼女の声でようやく我に返ったエミヤはその手を放して彼女に謝る。
それに対して、シンシアは気にしていないという意思の表れか小さく首を左右に振った後、先程彼が教えてくれたことを生かしてリンゴと包丁を手に取るとリンゴの皮むきに挑戦し始める、包帯を手の甲から人差し指に掛けてという広い範囲で巻いている右手で包丁を握った彼女はリンゴを、ぎこちなくではあるが皮をむいていく。
「………ぅ……ん……」
「……そうだ、少しづつでいい……その調子だ」
そして、その様子をエミヤが手ほどきを行ないながら見守る。
傍から見れば髪の色もあってか兄妹のようにも見える光景である………。
………そんな時だった。
「ソウヤー! アーチャー! ちょっとこれ見てー!!」
ネプテューヌの慌ただしい声を上げながら、一通の手紙を持ってきたのは………。
時間が進み、辺りが夕方の様相へと変わった頃、宗谷は教会を出てネプテューヌ、アイエフ、そしてエミヤの聖杯戦争の当事者となった面子と共にある場所に来ていた。
そこはプラネテューヌの外にある、小さな寺院だった。
そこはかなり時間が経っているのか、かなり古ぼけており、一見すると既に使っている様子はない廃寺院と言った所だろうか……。
そこに宗谷達4人はある理由の元に、“集められた”。
「………ネプ子が持ってきたこの手紙、いつの間にか玄関の前に置かれてたらしいけど………」
「……ああ、最初は俺も何事かと思ったんだけど……どうにも見過ごせない内容だったんだ」
寺院を前にしてそう言ったアイエフに、手元に“一通の手紙”を持っている宗谷が答える。
これは数時間前、ネプテューヌが教会の前で見つけその宛先を見たために宗谷とエミヤの二人に慌てて見せたものだった。
突然の事に何事かと思いながら、その手紙の内容に目を通した宗谷は………その内容を見て、目を疑った。
その手紙にはこう書かれていたのだから………。
『この聖杯戦争で起きている異変、核心へと至ることをあなた達マスターたちに伝えます。 同封した地図の場所に、夕刻お集まりください 主の導きのあらんことを』
その内容な……聖杯戦争の存在を知る何者かからの手紙だったのだ。
しかも、それはこの聖杯戦争における異変についての核心に迫るという内容のもので……これを見た宗谷達は半信半疑になりつつも、この誘いに乗ることを選んだ。
当然罠の可能性も諮詢されたが……その時はその時というネプテューヌの強引な押しもあってか、彼らは今この場にいる。
そして、約束の夕刻……寺院の前には、宗谷達4人だけしかまだそろっていない。
「………やっぱり、罠かしら」
さすがに警戒の意志を見せ始めるアイエフ、すると……。
「………いや、どうやら私達だけではないということらしい」
何かに気付いたのか、エミヤが空の方を見上げた。
すると、少し時間をおいて空から突然吹き荒れるような突風が彼らを襲った、この時肌で感じたこの風の感覚を宗谷は覚えていた。
これは……つい先日にも自分が体験した風……。
「お待たせしましたわ~」
「マスターの事迎えに行ってたら、遅くなっちゃった~!」
「よぉ、また会ったな坊主?」
「………あなた達も受け取ったのね、その手紙を」
「やっぱり……ベールとブランたちの所にも届いてたんだな」
上空からこの世ならざる幻馬に乗って降りてきた見覚えのある顔ぶれに、宗谷は少しの安堵を感じた。
ベール、アストルフォ、ブラン、クー・フーリンの四人は地上に降りると彼らの元へと歩み寄り、寺院へと目を向ける。
「……ここが集合場所か? にしては随分と湿っぽい場所だな?」
「魔術師となったお前なら、魔術工房にはうってつけではないか? キャスター」
「ハッ、俺は生憎とこんな辛気臭ぇ場所は選ばねぇよ」
「ちょ、会って早々険悪ムードはやめてくれよ……あんたらただでさえ相性悪いんだから」
会って早々に何やら不穏な空気を流しているクー・フーリンとエミヤに宗谷は慌てて仲裁に入る。
やはり、片方のクラスが変わっても根底にある相性というのは変わらないということなのだろうか……。
そんなことを感じていると……。
「………あれ? ねえねえ、みんな……あれ」
アストルフォがそう言って寺院の方を指さした……見ると、確かにブランとベール達の一行が到着するのを待っていたかのように、寺院の扉が開いたのだ。
まだ全員は揃ってるようには見えないが……そんな疑問を抱きながら、少しの警戒を保ちつつ一行が寺院の扉の奥へと視線を送ると……。
「………皆様、よくぞ集まってくださりました」
「うむ、お前達のその直向きな精神に敬意を送ろう! 与がわざわざ鳩を捕まえて手紙を届けさせただけはあるという物だな!」
「なぁに言ってやがる、その鳩に事情を説明したのは俺だってことを忘れんじゃねぇよ、王様よ」
その寺院の奥から、三人の人影が姿を現したのだ……。
そして、宗谷はその姿を見て驚きのあまりに目を疑った。
三人のうちの左端にいる人物、その姿には見覚えがある……筋骨隆々なその体と頭の金髪は先日、九死に一生を得ることとなった要因となった人物、あのもう一人のバーサーカーであるあの男と見て間違いのなかったからだ。
だが、問題は他の二人だ……その男が後ろに付き従うように歩く先にいたのは……二人の女性だった。
一人は金色の髪を結え、体を目にも鮮やかな深紅のドレスに身を包み、幼さの残る顔立ちをしていながらもその立ち居振る舞いにはどこか揺るぎのない、確固たる自信が見えるかのようだった。
なによりも、その女性が傍らに握る……一振りの“剣”……。
特徴的な湾曲を描いたその刃には燃え盛る炎を纏い、その剣に秘められた力がありありと見えるかのようだった。
そんな深紅の炎の剣を携えた女性の横……二人を突き従える形で最も先の先導を歩く人物………彼女は深紅のドレスを着たその女性とはまた違う雰囲気を身に纏っていた。
同じ金髪をしてはいるが、その髪を三つ編みに結わえ、所々に鎧のような装飾を備えた、落ち着きのある色合いをした衣服、その衣装はどことなく……神聖な印象を受け、一種の神々しさすらも感じる物だ。
派手ではなく、それでいて地味でもない……その中に秘められた言い知れぬ雰囲気に、その場にいた誰もが視線を向けただろう……彼女の存在から放たれる、慈愛に満ち溢れているかような雰囲気を……そして、その腰に携えた細身の剣から放たれる揺るぎない意志、そして右手に携えた……長大な“御旗”が放つ彼女の存在は……どんなものよりも気高く、清らかな物であると……。
そんな彼女を先頭にした三人の登場にその場にいた者達は息を飲む………そして、その静寂の中で、三人はそれぞれに口を開き始める………。
「………此度の聖杯戦争でこの位を得た与は何者でもない、あえてこの場で名乗らせてもらう、我はセイバー! 真名は……“ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグゥストゥス・ゲルマニクス”である!」
「俺は同じくこの聖杯戦争でバーサーカーを張らせてもらってる、ゴールデンこと“坂田金時”……お? そこのアーチャーと嬢ちゃんたちとは、二度目だな?」
「そして………皆さんに手紙を出し、この場に集めさせていただきました………」
三人はそれぞれの真名を露わにすると次の瞬間、宗谷達の意識を一気に集中させる一言を言い放った……。
「私は、“ルーラー”のクラスを持つサーヴァント………真名を、“ジャンヌ・ダルク”……今明かします、この聖杯戦争が………なぜ起こったのかを」
いかがでしたか?
今回のお話でようやくこの聖杯戦争編の全クラスサーヴァントが出そろった~!
7人よりも多いけど……。
さて、そんなことより! 次回は突如として姿を現した、エクストラクラスのサーヴァント、ジャンヌが語るこの聖杯戦争が起きた真実とは!
それでは、次回もお楽しみに!