超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ!   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!
社会人になりました!これからもちょくちょくと投降していきますんでよろしくお願いします!

さて、今回のお話は……エドモンと遭遇し何やら様子がおかしい宗谷にとある人物たちが行動を起こす……?

それではお楽しみください、どうぞ!


Fate/stage,8 ゲイムギョウ界、聖杯戦争勃発~理想~

 

 

 

日もすっかり暮れて、夜中になった頃。

アストルフォの宝具である“この世ならざる幻馬”に跨り、戦線を一時離脱した宗谷達は少しでも遠くへと離れるために夜空を駆け抜けた果て、森林の中でひっそりと誰かを迎え入れる様にして開いていた洞窟の中へと避難した。

入口がひっそりとしていた割に中はそれなりに広く人数がどうにかこうにか入ることが出来るスペースは確保されていた。

 

「………ひとまずはここまで来れば大丈夫そうですわね」

 

「追手が来ないことを祈るしかねぇがな」

 

「………つかテメェ、いつまで私の事を抱えてるつもりだ………」

 

洞窟の中へと身を隠し、安堵した様子のベールにそれでもと周囲を警戒を怠っていないクー・フーリンは小脇に抱えているブランを下ろしながら一度洞窟の外へと出る。

“この世ならざる幻馬”のスピードが並々ならない物であり、多少の定員オーバーなど気にさせない程の力強い空中疾走のおかげで早々に追いつくようなことはないと思うが……離脱する前に見せたアヴェンジャー、エドモン・ダンテスのあの高速移動能力を見てはそれを緩めるのも慎重になるというものだった。

 

「俺は一度このあたり一帯に空間探知のルーンを仕込んでくる、何もねぇよりはマシだろうからな」

 

「じゃあ、僕は入り口でヒポグリフと一緒に監視してるね? なんかあったらすぐにみんなを呼べるように」

 

そういうと二人は己のマスターを守るためか、それとも自己防衛のためか洞窟の外でそれぞれに行動を開始した。

ブランとベールはそれを一度見送った後、互いの顔を見合わせた。

その表情は何とも言いきれないような複雑な意志を感じさせるものだった。

 

「……ややこしいことになったわね」

 

「ええ、あらゆる願いを叶える願望機を掛けた戦いのはずが……得体のしれない何者かの奇襲に巻き込まれるなんて」

 

このわずかな時間で本来自分たちが知っていた聖杯戦争の内情が大きく歪んでしまった。

最後の一人となるまで勝ち進み、勝ち取るはずだった聖杯そのものが汚染されて意志を持ち暴走しているということを本来は現れることはないらしいエクストラクラスのサーヴァントを筆頭にした三人の英霊たちに聞かされ、今度はその聖杯の意志によって自分たちのサーヴァントを狙って刺客となる強力なサーヴァントたちが現れた。

 

もはやこの戦いで、自分たちがどのように行動していいのかわからなくなってきていた。

 

「………願いをかなえようにもこの状況じゃどうにもならないわね………この聖杯戦争というのがこの世界で起きた原因も判明するにはしたけど………」

 

「すっきりしませんわね………向こうは何のためにこんなことを………」

 

果たしてこの不穏な戦いの果てに何があるというのか、その中で自分たちは何を見出し、行動すればいいのか……。

まるで心の中に靄が充満しているかのような感覚だった。

 

そして、それはこの二人だけでなく………もう一人いた。

 

「………そう言えば、宗谷は? 彼なら何かしら考えてそうだけど」

 

「………それが………」

 

気になったのかブランがベールに問いかけるとベールはどこか浮かない様子で洞窟の奥の方へと目を向けた。

すると、その先にいたのは暗い洞窟の中を照らすクー・フーリンが用意した即席のたいまつが照らしている中で、洞窟の壁に寄りかかり俯いている宗谷がいた。

その表情は何処か暗く、意気消沈しているとも見て取れた。

 

「………あのような様子で………」

 

「………どうしたの、彼は……」

 

「それが……どうやら、自分を責めているみたいなんです」

 

その様子を見ていた二人の元にアイエフが近づいてきた、彼女の言葉にブランが首を傾げる。

 

「責めている? あの状況下でなぜ自分を責めるようなことを……」

 

「なんでも、あの状況で何もできなかった自分が………情けなかったみたいで」

 

「………無理もありませんわね、わたくしたちはあの場を離れることしかできなかった………あのアヴェンジャーというサーヴァントの気迫はそれ程の物だった……正直わたくしも手を出すのをためらったほどですわ」

 

あの時の邂逅から、一瞬の刹那で見せつけられた猛威……エドモン・ダンテスの力は逸脱しているような物を感じていた。

力量や実力云々ではない、それはもっと別次元の……表に出ている彼という存在の強さを越した先にある、彼の“本質”とも呼べるものだろうかその大きさに女神であるベール体でさえも終始圧倒されるしかなかったほどである。

 

まるで下手に動けば未知数の存在である目の前の男が秘めた何かに……何もかも、一切合切を飲み込まれてしまいそうな、そんな気もしたほどである。

 

「ほ、ほら、ソウヤ~、大丈夫だって! 今は何もできなくてもさ、次があるって、リベンジだよ! リベンジ!」

 

「………」

 

「だからさ、そうやってふさぎ込んでても………ね? 一回負けたくらいでそんなになってちゃ、らしくないよ………」

 

「………ごめん」

 

彼の事を励まそうとしているのかネプテューヌが座り込んでいる宗谷の傍で話しかけているが、宗谷はそれに答えずに立ち上がるとふらふらと洞窟の奥へと足を運んでいった。

 

「………少し、一人にさせてくれ」

 

そのまま暗い洞窟の奥へと進んでいった宗谷、ネプテューヌの言うように彼らしくはないが……その心に負ってしまっている何かは、思っているよりも深く彼の心を苛んでいる様にも見えた。

 

「………思っていたよりも重症ですわね」

 

「………」

 

「………ブラン様?」

 

そんな彼の後姿をじっと見据えるブラン、物静かな彼女はそれらしく何も言わずその視線を彼に向け続けているものの……その瞳にはどこか、大人しくしてはいられない何かがあったようにアイエフには見えた気がした。

 

「………私、ソウヤの事追いかけて来るね! たいまつ借りるよ~!」

 

念のためにと用意していた予備のたいまつに火をつけたネプテューヌはそれを手にしたまま洞窟の奥へと向かっていった宗谷を追いかけていった。

彼女らしいと言えば彼女らしいが、早々に彼は立ち直れるだろうか……。

 

「………私も行ってくる」

 

「ブラン? あなたもなんて、どういうわけですの?」

 

「………なんだっていいでしょ」

 

なぜかその後にブランも付いていったのを見送り、ベールとアイエフは心配そうに宗谷とその後についていった二人の事を見つめる。

そして、そんな洞窟の奥へと向かう者達が前を通り過ぎるのを横目で見ていた者がいた………。

 

 

「………やれやれ、世話の焼けるマスターだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い洞窟の中へと進んでいった宗谷は、ふらふらとしたおぼつかない足取りで奥へ奥へと進んでいくとやがて行き止まりとなっている場所へとたどり着いた。

宗谷はそこで再び壁に凭れかかると、俯きながらその場に膝を抱え込むようにして座り込んだ。

 

……自身の中に湧き上がる不安感と、恐怖にも似た感情に耐えられなかったからだ。

 

エドモン・ダンテス……彼が放っていたあの恩讐の炎、そこに秘められた彼の黒く染まった感情の本流を見て、まじかに感じた瞬間に宗谷は言い知れぬ恐怖と不安感に襲われた。

宗谷自身がここまで精神的な苦痛を感じるほどの気迫となったのかその要因は誰にも理解しえない。

彼はそれを感じ、そして、それに恐怖し、それから身を守ろうとしていたのだ。

 

 

 

………その感情を、“自分が一番理解しているから”………。

 

 

 

恩讐、復讐、怨念、恨みつらみで生まれたその強い感情を……宗谷自身が知っている。

 

 

 

自身も一度、それに“飲まれかけた”からこそ、知っている。

 

 

 

だからこそ、彼は恐怖した。

かつて自分が飲まれたその感情に、その感情の塊ともいえるような存在だった、アヴェンジャーという存在……エドモン・ダンテスという復讐鬼の存在に……。

足に力が入らない、体の震えが止まらない、あの感情と向き合うのが怖い、次に会った時自分の正気を保てるかどうかもわからない。

 

 

 

怖い……怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――復讐……それが我が糧……貴様も同じだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきた声に宗谷が顔を上げる、そこにいたのはどす黒い、何とも取れないような感情のカーテン………そこのない真黒な何かに包まれたその黒い人型の影がゆらゆらと蠢きながら、眼光から光らせる深紅の眼差しを向けていた。

 

「あ………あぁ……あっ………!?」

 

それを見た瞬間宗谷の身体の震えが強くなった、がくがくと体が震え続け、自身の思考が恐怖というワードのみで埋め尽くされて行くかのような感覚をまじまじと感じ、それと同時にその感情に対する嫌悪感が激しくなり始めていくのを感じた。

 

―――こいつだけは拒絶しなければいけない、こいつを認めるわけにはいかない、消さなくちゃいけない。

 

そんな強い感情が恐怖という物の中に埋もれていく心の中でふつふつと湧き上がり始めた。

 

 

 

 

 

―――お前もわかるだろう、何せお前も復讐に駆られた……大切な物を傷つけられ、その敵を討とうとしてその手に刃を取った、血濡れのナイフを……貴様も、オレと同じだ……

 

 

 

 

 

「やめろ………やめろ………やめろ………!!」

 

 

 

 

 

―――その手を見ろ、貴様の手についているぞ……恩讐に染まった、血が……

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

咄嗟にその手に感じた、生暖かくドロリとした感触、宗谷はそれを感じて慌てて自身の手を見た。

そこには………血に染まった自身の手の平があった。

自身の手から沸き立つ物ではない、何かによってついた誰かの血、滴り落ちるほどにべっとりと着いたその手の血に宗谷は目を見開き、さらに恐怖を駆り立てた。

見覚えがあったからだ……この手に……この忘れられない、血濡れの手に……手にべっとりと着いた、血の感触に……。

 

 

 

 

 

―――その血を覚えているだろう………お前は、知っているだろう………恩讐と怨みにかられ、その手に染めた血の主を………なぜそうなったのかも………

 

 

 

 

 

「あ………あぁぁぁ……ちがっ………俺は………俺は……! やめろ…やめろ………やめてくれ……!!」

 

 

 

 

 

―――お前と俺は同じだ……同じ………復讐鬼さ………お前はまだ心のどこかで恨み、憎み、怒り、そして思っている………

 

 

 

 

 

「やめろ……違うんだ、俺はそんな事……もう誓ったんだ……あんなことはしないって……! だから違う、違うんだ、俺は……俺は……俺は!!」

 

 

 

 

 

―――お前の手に持っているその剣が、その刃が言っている……お前の敵を切れと、お前の真の敵を切れと……お前は理解しているはずだぞ、お前の敵は……お前の大切な物を奪った奴だと!!

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その辺にしておけ、マスター」

 

声が聞こえた。

 

腕を誰かに止められた。

 

誰かに向けて何かをしようとしていた。

 

気付いたときに宗谷が感じたのはそれだけだった、無我夢中で何かを握りそれを思い切り振り上げて、何かに振り下ろそうとした。

そうしないと自分が恐怖に飲み込まれそうだと感じたから、抗うためにそうした。

だが、何に対して………誰かに振り上げた腕を横合いから掴まれて止められた状態で宗谷は息を激しく切らしながら自身の腕をつかんでいる者へと目を向けた。

 

「……アー……チャー………」

 

そこにいたのは、エミヤだった。

真っ直ぐと宗谷を見つめながら彼は表情を一つも変えずに彼の目の前へと視線を動かした。

 

「………何があったかは知らないが、正気の沙汰とは思えない事をしたものだ、前を見ろ」

 

「え………っ!」

 

彼に言われて宗谷もまたその視線を目の前へと向けた。

そして、そこにいた者の姿を見て宗谷は再度、驚愕した……。

 

「……ソウヤ……」

 

「……ネプ……テューヌ……!?」

 

そこにいたのは紛れもない、ネプテューヌだったのだ。

その場で尻餅をついた体制でかなり動揺した様子を見せる彼女は驚いた目を向けている、その視線の先にあるのは……宗谷が振り上げた物……彼の武器となる愛剣、赤剣だった。

なぜ目の前に彼女がいるのか、どうして自分が赤剣を取り出しているのか、なんで自分がこの剣を振り上げたのか、自分が今何をしようとしていたのか…。

 

エミヤに止められ、冷静になった宗谷は頭の中でそれを整理する。

 

そして、理解した………理解してしまった………。

 

 

 

自分が今、彼女を………ネプテューヌを、“斬ろうとしていた”と………。

 

 

 

「………あ………あぁぁぁぁぁ………ああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

まただ、また繰り返そうとしてしまった。

その事実に宗谷は赤剣を落し、叫び、恐怖にかられて頭を抱え、その場に崩れ落ち、慟哭と共に強く地面に頭を打ち付けた。

 

「俺は! 俺はまた! こんな! こんな!! くそ!! くそぉぉぉぉ!! 畜生ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

自分に対する怒りが、悔しさが、辛さが、すべての感情をありったけ叫ぶかのようにして宗谷は何度も何度も頭を地面に打ち付け、吠えた。

自分が今支配されようとしていた感情に、再び飲まれようとしていたことに、自身の奥底に仕舞っていたはずのこの心に………宗谷はありったけの悔しさと怒りをぶつけた。

 

それしか、出来なかった。

 

本当はわかっていた、割り切ったように見せておきながら心の奥底ではまだその感情が残っているということに……あの時、自分の大切な人達を傷つけたあの男に……そしてなにより、一時の復讐に駆られた代償として失った、彼女をその手に掛けた……“自分自身に対する恨み”が……。

 

「………やめて………やめてよソウヤ!!」

 

見ていられなくなったのか、咄嗟にネプテューヌが彼の体を抑えるようにして宗谷を止めた。

地面に数回頭を打ち付けたために、額からは血を流しながら宗谷は激しく息を乱し、その怒りを放とうとする。

 

「大丈夫だから! ちょっとびっくりしたけど、気にしてないから! 驚かしたなら謝るから、もうやめよ? ね?」

 

「……………やめても、どうにもならねぇよ……………」

 

「………え?」

 

制止を呼び掛けるネプテューヌに対して、宗谷はぽつりとつぶやくようにしてそう言った。

前のめりに俯きながら、地面に落ちてたまっていく自身の額から流れる血を見つめて、宗谷は呟く。

 

「結局………俺は変わろうとしたかっただけなんだ………自分の中にある感情を誤魔化したいと思って、ただただ自分を変えたかったそれだけなんだ………そうでないと、俺にはこの嫌などす黒い感情しか残らなかったから………」

 

「そ、ソウヤ?」

 

「………わかってたんだ………俺はヒーローになりたいって言って、誤魔化そうとしていただけなんだって………俺は本当はそんな資格ないってわかってたはずなのに……」

 

「ソウヤ! ねえ、どうしたのソウヤ! いつものソウヤらしくないよ!! いつもならちょっとの失敗くらいでそんなめげないじゃん、すぐに立ち上がろうとしてるじゃん、なのにどうしたの……なんでそんな弱気なの!?」

 

意気消沈したかのように呟き続ける宗谷にネプテューヌが問いただす、すると宗谷は小刻みに体を震わせながら彼女の身体から離れてその場に座り込んだ。

そして額の傷に手を当てて、顔を隠しながら………俯き、話し始めた。

 

「………怖いんだ………あいつが、あのアヴェンジャーが………復讐の塊みたいなあいつが………」

 

先程まで見ていたあの黒い何か、あれは恐らく自身の復讐という感情に対する恐怖が具現化したような物、所謂幻のような物なのだということに…。

それが見えたおおよその原因はわかる、自分自身の復讐という概念、誰かを殺しかねない殺意という感情を恐れる自分自身が見せたものだということを……そして、自分自身が見せたその幻を拒絶し、自分はそれを切り払おうとした……目の前にネプテューヌが来ていたことも気づかずに………。

 

 

 

「………どうあっても、俺があの時人を殺したということに変わりはないんだ………俺もあいつと同じだ………復讐しようとした………一時でも俺はそう感じたんだ………俺の子の手は………ヒーローなんかに………正義の味方になんかふさわしくないって……」

 

 

 

自分の手を見つめて宗谷は呟く、自分の額から流す血で手の平が真っ赤に染まっている、これは初めているものじゃない、既に経験している……ただ違うのは、その時に穢れた自身の手についていたのは、自分の血ではないということ。

 

自身もまた、人殺しの復讐鬼だということを語るには、十分なその手を……宗谷は見つめ続ける。

 

 

 

「………今でもあなたは、そんな風に悔やんでばかりなの?」

 

 

 

そう言って彼に声を掛ける人がいた、それが誰なのか宗谷はすぐに分かった……この声はブランの物だった。

物静かな雰囲気に合った、深々と降る雪のような言葉、だがその柔らかな言葉の中にある冷たく、どすの入ったものが混じっているのを宗谷は感じた。

 

「………わたしは聞いていたわ、あなたが孤児であること………その過去に悪いことがあったこと……でも、イストワールのようにあなたのすべてを知っているわけじゃない……でも、これだけは言えるわ………」

 

ゆっくりと近づきながら宗谷の前まで来るブラン、すると彼女はその手を伸ばして徐に宗谷の服の胸ぐらを掴み上げ………思い切り宗谷の頬を殴り飛ばした。

 

 

 

「………黙って聞いてりゃ昔あったことをぐちぐちぐちぐちと、女々しいんだよ! うすらトンカチ!!」

 

「ぶ、ブラン!?」

 

 

 

突然宗谷に対して怒鳴り声をあげたブランに驚くネプテューヌ、力なく小柄な細い彼女の拳のどこにこんな力があったのか、洞窟の壁際まで殴り飛ばされた彼にブランは近づくとそのまま再度宗谷の胸ぐらを掴み上げて壁に押し付けながら持ち上げた。

彼女の腕に掴み上げられた宗谷はそのまま彼女に壁際まで押し込まれ、壁に押さえつけられた。

 

「お前がそんなことで折れる奴か? 昔のこと思い出してがたがた震えてる臆病者か? お前がそんなろくでもねぇ軟弱やろうだったか!! あぁ!?」

 

「………何がわかるんだよ………ブランに………人殺しの俺に何が………」

 

「知らねぇよんなもん!! 悩みたきゃ勝手に悩め!! でもなぁ、そういう風にため込んでるとこ見てるとイライラするんだよ!! 男ならぐちぐち悩んでねぇで、立て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“守りたいん”じゃねぇのかよ!! 今度こそ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叩きつけるように言われたその言葉に、一瞬だが思考の中で火花が散るのを感じた。

 

………“守りたい”………その言葉が宗谷の中で一瞬だけ、思考の中に一瞬だけの熱い火花を飛ばした。

意気消沈した目に彼の意志が宿ったかのように見開かれ、ブランを見つめ返す。

 

「………守り………たい………俺が?」

 

「忘れたのか……あの時、“新・犯罪神事件”の時に私たちが一度死んだとき、お前は何で諦めなかった……何のために戦った、何のために救った!! ………守りたいって思ったからじゃねぇのかよ………誤魔化しだろうが何だろうが関係ねぇ!! お前は今度こそ守りたいから目指したんじゃないのかよ!!」

 

以前にプラネテューヌで起きた大きな事件、その際に女神達が一度消滅するという事態の中で彼はそれでも諦めなかった。

一度失いかけた中でも希望を見出した彼はもう一度走り出し、その手を伸ばした。

それはなぜか………彼女の言うように、“守りたかったから”だ………今度こそ、失わないために……。

 

「………俺は………でも………俺は………」

 

「………マスター、一つ言おう………私は許容できない物がある、一つは未熟な思想………もう一つは………理想だ」

 

「………っ」

 

ブランの言葉に戸惑う宗谷、自身の犯した過去の戒め、だがそれでも自分が目指した今の理想、それに葛藤する中で今度はエミヤが口を開いた。

だが、その言葉に宗谷は息を飲んだ。

 

「例え自身がどれだけ未熟でも、それはまだ流せる……だが未熟な思想を持って大きな理想を抱く、それが何を招くかわかるか………答えは“破綻”だ」

 

鋭い眼光を向けてエミヤは宗谷に告げる、その姿に宗谷は気圧されながらも目を離さなかった。

 

離してはいけないと思った。

 

 

「ただその願いがきれいだからと憧れた、そして自分は誰かのためにならなければならないと走り続けた……未熟な思想で抱いた理想の強迫概念に突き動かされながら……それが破綻した概念と知った時にはもう遅い……残ったのは救うべきものを失った、空っぽな手だ」

 

 

目の前の一人の英雄が………“自分と同じ理想”をかつて抱いた一人の人物が辿った系譜………それがもしもの自分の可能性のように思えたからだ………。

 

 

「故に言わせてもらおうマスター………正義の味方なんて碌なものじゃない………お前がそんな思想で未だにそれを目指していたのならそのままその理想に埋もれ、そのまま溺死してしまえ………」

 

 

目の前の男が辿った系譜が……空虚な荒野の中に刺さる無数の剣が……一瞬だが宗谷の中にその記憶が流れ込んだ気がした。

 

 

「だが、それでも………お前が何かのためにこの聖杯戦争に挑むというのなら………」

 

 

酷く辛く、悲しく、報われない、そんな道をたどってきた中で彼が見出した“答え”………。

 

 

 

「………答え次第で、俺はお前の剣となってやるさ………」

 

 

 

彼が最後に見出した答えを………。

 

あぁ、そうだ、確かに彼もまた自身の辿った系譜を恨んでかつての自分を“殺そうとした”。

だが、それでも彼の中にあったものは根底から変わることはなかった……彼もまた、その願いを手放そうとはしなかったからだ。

今の自分がどうあっても、自分自身の理想は変わらない、なら何をなすべきか……最後に見出した答えが………。

 

「………俺は………本当はそんな資格ないってのはわかってる………そんなの、わかりきってた………」

 

自分の強迫概念となるその理想、例えそれをどれだけ積もうとも、抱え込もうとも変わらない、己の中にある決意……ずっと前に誓ったその意志は、まだ消せない。

たとえどれだけ否定したとしても、どれだけ自分を蔑もうとも、これだけは変えてはいけない……。

 

「でも……それでも俺は……守りたい………みんなを、大切なみんなを………守りたいんだ………矛盾していても、失っていたとしても、自分の手で台無しにしたんだとしても!! ………俺は守る………守りたいんだ………だから、なりたいんだ!」

 

自分が夢見た理想を……大切な幼馴染と一緒に見た……その理想を、変えるわけにはいかない。

それが例え、強迫概念だったとしても少なくとも間違いではないのは明らかだから……なぜなら、“託された夢でもあるから”………今はもういない、彼女から………。

 

 

 

「かつてのあなたが目指した……“正義の味方”に!!」

 

 

 

自身の脚を奮い立たせて立ち上がった宗谷はエミヤにそう告げる、それを真正面から見据えたエミヤは静かに目を閉じると、口元に微笑みを浮かべた。

 

「………しょうがないマスターだ………つくづく似ている………」

 

小さく呟いた後にエミヤは再び目を開くとその手を伸ばした。

 

 

 

「………答えは得た………君がそれでも目指すというのなら最後までたって見せろ………オレに見せてみろ、マスター」

 

「あぁ……俺はもう諦めない……俺は最後まで目指してやるよ……だから、手を貸してくれ………“アーチャー(エミヤ)先輩”」

 

 

 

その手を握り、答える宗谷。

同じ理想を追い求めた物と、今それを追い求めんとするもの、二人の見た結果は違ってもそこに抱いたものは同じ、二人の意志は……一つとなった。

 

「………ブラン、ごめんな………気を遣わせて」

 

「……別に、ただ……イラッとしただけよ」

 

「それでも……てんきゅな」

 

「………」

 

この世界で出来た大切な仲間を、守るため……こうして不安定だった自分を支えてくれた仲間のためにも、自分はここで折れるわけにはいかない……例え、目の前に現れた存在がどれだけ多くても……折れるわけにはいかないと……宗谷は誓いながら、洞窟の入り口の方に目を向ける。

 

 

 

(………やっぱり………あなたは、そうでないとね………)

 

 

 

その背中を見つめるブラン、ふっと口元に浮かべた微笑みに込められた彼女の想い、それを彼女が口にすることはないだろう、少なくとも今は……できることとしたら先程のように彼を元気づける、それくらいだ……それだけだとしても、彼女は満足だった。

 

「………ここからどうするの、宗谷?」

 

「まずは何とかしてあいつらをぶっ飛ばす……そして、この聖杯戦争を……終わらせる」

 

「うわ~、ストレート~……まあ、復活した宗谷らしいっちゃらしいよね!」

 

「………悪かったなドストレートで………」

 

ネプテューヌの言葉にぼそっと呟く宗谷……すると、その時だった。

 

 

 

「みなさん!! 外に!! 外を見てくださいまし!!」

 

 

 

ベールが慌ただしく宗谷達の元に駆け付けてきたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女に促がされて外に出た宗谷達一行、そこで彼らが見たのは………目を疑う光景だった。

 

空一杯を包み込む、どす黒い暗雲……いや、雲と言えるかも怪しいただただ根深い闇、それがこのゲイムギョウ界の空を覆いつくしているのだ。

 

「なっ……これは……!?」

 

「………あの闇そのものが膨大な魔力の渦のようだ」

 

「さっきからガラリと雰囲気変わりすぎじゃない!? ねえ、何があったのアイちゃん!」

 

「分からないわよ! 急に空が陰り出したと思ったらこんな……」

 

この異様な事態に戸惑いを隠せない一同、するとそこに一人の人影が近づいてきた。

いや、正確には一人を抱え込んできた状態のであるため、二人の様だが……。

 

「どうやら、やっこさんも動き出したみたいだぜ」

 

「クー・フーリン……と、背中にいるのって……ディルムッド!!」

 

彼らの元にやってきたのは、背中に先程自分たちを逃がすために時間稼ぎとなったディルムッドを抱えたクー・フーリンだった。

だが、ディルムッドはかなり弱っている様だ……それもそのはず、体中は傷だらけであり、腹に痛々しい大きな傷が口を開けており、そこからはどくどくと血が流れている。

 

「ルーン魔術の仕込みをしてたら偶然な……おい、まだ喋れるか」

 

「ぐっ………大丈夫です、感謝します……御子殿……」

 

「無理にしゃべると傷に触るんじゃ……アイエフ! 確か救急箱持ってなかったっけ? コンパさんに借りたの!!」

 

「私の事より……………はやく……伝え……無くては、ならないことが……!」

 

体に走っているのだろう激痛に耐えながら、ディルムッドが必死に言葉を絞り出す。

今にも掠れて消えてしまいそうなほどだが、彼は意識を何とか繋ぎ留めながらその先を続ける。

 

 

 

「奴らは………汚染された聖杯の意志が………ある目的、の……ために…動いて……いると……言っていました……」

 

「目的? ………な、何のために?」

 

 

 

恐る恐ると聞き返した宗谷にディルムッドは口から血を吐きながら、答える………そして、その答えに宗谷達は驚愕せざるを得なかった……。

 

 

 

 

 

「………この世界の……生命……そのすべてを………魔力によって闘争本能の塊とし……終わることのない……戦乱を………起こすと………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どす黒い塊のように突如として現れた闇、まるで球体のようにゲイムギョウ界の森をまるまるすっぽりと包み込んだそれを、遠い山から見つめる人影がいた。

茶髪の髪を夜風になびかせまっすぐにその闇を見つめるのは、かつてこの世界に“魔神”という名を持ってしてその歴史に名を残したもの、魔神 ヴィクトリオン・ハート……。

 

そして、その傍らには今はプラネテューヌ教会に身を置き、宗谷達と共に行動している、シンシアと宗谷に並ぶ新たな勇者として行動を共にし始めたハルキの姿があった。

 

「………ここからが正念場だ………頼んだよ」

 

森を包み込む巨大な闇を見据えて呟いたヴィクトリオン・ハート……その中にいる一人の人物とその傍らにいるもう一人を、遠くから見つめるようにして……その瞳に移るのは期待か……それとも、願いか……どちらにせよ彼はここで祈ることしかできない……この状況の中で彼が進むルートを……。

 

「………本当にボクたちが介入する必要はないの?」

 

「………このままじゃ………みんなが……」

 

闇を見てただ事ではない雰囲気を感じたのか、警戒して見つめるハルキとそれを見て嫌な予感を感じているのか不安そうなシンシア、だがヴィクトリオン・ハートはこくりと頷いて二人の頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ……“あれ”に対抗するには、“本物であり、その名を馳せた本物の英雄”の力を借りなくちゃいけない……その準備はもう整った……二人は予定通り、バーサーカーとセイバーを……」

 

「………まあ、セイバーは最初から協力してくれるマンマンみたいだから心配はないけど、まだ向こうも消えてないみたいだし……」

 

「……バーサーカーさんも……まだやれるって言ってるけど……でも……」

 

ヴィクトリオン・ハートの言葉にハルキとシンシアは自身の手の甲に目を落とす、するとそこには宗谷や他の女神達と同じ令呪が刻まれていた。

そう、二人もまたこの聖杯戦争に参加していたマスターたちだったのだ。

 

………ヴィクトリオン・ハートの指示のもとに………この事態に対抗するために。

 

 

 

「………大丈夫、準備は整い始めている………彼はもう既にその土台を作り上げている………“19個目のヒーローメモリー”の力を解き放つ土台を………後は………花開くのを待つだけだ」

 

 

 

 




いかがでしたか?

次回!ラストバトルが近づいてきた……果たして宗谷達の敵となる汚染された聖杯を持つ者とは!

次回もお楽しみに!

それでは……
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