超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ!   作:白宇宙

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長らくお待たせいたしました(汗
ネプえく聖杯戦争編もクライマックスへ、今回のテーマは起動!

巌窟王vs宗谷&エミヤ、果たしてその先にあるものとは……。

そして、目覚めるものとは!

それではお楽しみください、どうぞ…。


Fate/stage,10 ゲイムギョウ界、聖杯戦争勃発~覚醒~

 

 

 

―――おおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

獣染みた声を上げ、どちらからともなく地を蹴り、恩讐の炎を滾らせた復讐鬼と二振りの剣を携えた赤い弓兵とそのマスターである一人の青年が飛び出した。

互いの前の前の敵に向かっていく、狙いをずらすことなく、ただただ目の前の敵に向かって走る。 託された意志を胸に、守りたい未来のために、守りたいたくさんの命のために、宗谷は走る……恐れるのを捨て、震えを無視し、剣を握る手に力を籠める。 目の前の最大の敵を討ち果たすために……。

 

「リンクオン!!」

 

左手に取り出したV.phoneを赤剣に装填し、自身の体を先頭に適した姿へと変える。

勇者、クロス・ヴィクトリーに変身した宗谷は共に戦ってくれるエミヤの前に出ると外套をはためかせながら向かってくるエドモンの間合いをよく見て……。

 

「せぇえ!」

 

初撃を放った。

横薙ぎの単純な一閃、片手で震えるのに適したリーチと重さを持つ赤剣で繰り出す単純ながらも最も繰り出しやすい一撃。

だが、それ故にその攻撃は見切りやすい。 エドモンは軽々と跳躍するとクロス・ヴィクトリーのその一撃を回避した、彼の先制攻撃は失敗した。

 

 

だが……。

 

 

「………っ!」

 

 

その後ろには、“弓兵”がいた。

 

 

「はああ!」

 

 

空中に飛び出したことでがら空きになったエドモンに向けて、エミヤは両手の剣をブーメランのように投擲する。

回転しながら接近してくるその攻撃をエドモンは両手に炎を灯すと、それを左右に広げる様に腕を振るって炎を繰り出し、自身に飛来してくる白と黒の刃を跳ね除ける。

しかし、エミヤの攻撃はそれで終わらない。

 

「―――投影・開始(トレース・オン)……!」

 

投影魔術を駆使した戦い方を得意とする彼に、投げた武器を取りに行くことなど必要ない。

新たな二振りの剣を魔力によって作り出しながら跳躍したエミヤは大上段から両手の剣を振り下ろす。

 

「無尽蔵の刃か……いいぞ、だが舐めるな!」

 

直前エドモンが外套をばさりと翻すと自身の足元が青白い炎で包まれた。

それを合図にエミヤの攻撃が当たる間合いからエドモンの身体が空中で横にずれた。

 

「お前達に……オレを捉えられるか!」

 

クロス・ヴィクトリーとエミヤの二段構えの連続先制攻撃、それはエドモンの恩讐の炎を身に纏ったことによる空中での移動によって回避された。

まるでジェット機か何かを足に仕込んでいるかのように、恩讐の炎を推進力にエドモンは本来生身の人間では移動不可能な空中を自力で移動してみせた。

先攻したクロス・ヴィクトリーが後ろを振り向き、その背中側に直地したエミヤが背中合わせになる。

そして、それをあざ笑うかのようにしてエドモンは空中を飛び回る。

 

少しでも隙を見せれば向こうから仕掛けてくる、ただでさえ高速な移動を行っている以上、視界だけではなく全神経を集中させなければ不意を打たれるのは必至だ。

変身したことによって強化された神経をクロス・ヴィクトリーは鋭く研ぎ澄ます、見えない背後を今共に戦う頼れる先輩(サーヴァント)に任せ、自分は自分の感じ取れる範囲に意識を集中させる。

 

(どこからくる……)

 

周囲を飛び回る尾を引く青白い炎、幻想的ともいえばロマンチックかもしれない、だが今の彼らにとってその尾を引く炎はいつ自分たちを燃やし尽くす種火になるとも知れない脅威……少しの油断も許されない。

 

「………っ! マスター、伏せろ!!」

 

目に写る青白い炎を必死に追いかけるクロス・ヴィクトリーの耳に背後のエミヤの声が響き渡った。

それを聞いた彼は咄嗟に後ろに振り返ろうとするが、それよりも早くエミヤは手を広げ、それを素早く“上へと振り上げた”。

 

すると彼が持っていた夫婦剣は魔力の光となって消滅し、代わりに左手には黒い洋弓と右手には細身で刀身が螺旋状に捻じれた一振りの剣が握られていた。

エミヤは両手にそれを握ると視線を上へと向けたままその剣を素早く弓に番える。

その狙いの先に何があるのか、クロス・ヴィクトリーは咄嗟に上を見上げると………。

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」

 

猛々しい雄叫びを上げながら両腕に灯した炎をこちらに向けて巨大な火球として打ち出してきたエドモンの姿があった。

ざっと見てもここにいる二人を優に飲み込んでしまいそうなほどはあろうその炎を見たクロス・ヴィクトリーは咄嗟に防御のスキルを発動させようとするが……。

 

 

 

「………I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ 狂う)

 

 

 

その間にも静かに、それでいてはっきりとエミヤの言葉が聞こえ……。

 

 

 

「………“偽・螺旋剣(カラド・ボルク)”!!」

 

 

 

次の瞬間には弓に番え、矢となった螺旋状の剣をその火球に向けて真上に、まっすぐに撃ちだしていた。

その一撃を、宗谷は知っている………今放ったのは彼の持つ投影宝具の一つ、“偽・螺旋剣”。

その威力は弓で放った威力の場合、ランクAに達するとされる強力な射出型魔剣であり、しかも真名解放した場合、放たれた矢として持つ貫通力は………。

 

――――空間すらも貫く。

 

天空へと昇らん勢いで勢い良く打ち出されたそれはまっすぐに、一直線に火球へと向かっていき……そして、次の瞬間……二人の真上に小爆発にも似た衝撃が起こった。

エミヤの放った一矢がエドモンの放った火球を貫き、弾けさせたことによって発生したものだ。

上から叩きつけられるような衝撃をその身に受けながらも、クロス・ヴィクトリーは何とか身を低くして耐える。

そしてあの大きさの下級を一撃で霧散させた一矢、それはそのまま火球を放ったエドモンをも貫かんとまっすぐに向っていく。

 

「………なるほど、防ぐと同時にすぐさま攻撃に転じたか………だが」

 

しかし、次の瞬間……。

 

「俺を捉えるには……」

 

その一矢は………炎を貫いた。

 

「っ!」

 

「………少し、足りないな」

 

そして、肝心のエドモンは次の瞬間には矢を放った体制でいたエミヤの真正面に移動していた。

それに気づいたときにはもう遅い、エミヤは咄嗟に夫婦剣を投影して反撃しようとするが……それよりも早く思い蹴りが彼の横腹を打ち据えた。

強力無比な炎の一撃はエミヤの放った宝具(カラドボルグ)によって何とか退けられはしたもののそちらに意識が行くあまりエドモン自身の一撃への注意を怠っていた。

繰り出された蹴りを受け、エミヤの身体が宙を舞い、地面へと激突した。

 

「アーチャー先輩!!」

 

身を低くして先程の衝撃に備えていたクロス・ヴィクトリーは彼を気遣いながらもエミヤを蹴り飛ばされた張本人であるエドモンに咄嗟に切りかかろうとする。

だが、それを成しえるにはあまりにも距離が近すぎた。

右手に持った赤剣を振り抜く前にエミヤに一撃を喰らわせた時点で既に距離を詰めていたエドモンはその腕を片腕で押さえることであっさりと防いでしまった。

 

「………足りない、それでは………」

 

「え……っ!!」

 

一瞬、エドモンが何かを呟いた。

それに気づいたクロス・ヴィクトリーがその言葉の意味は何なのかを考えるよりも先に、自身の胸に強烈な熱風とおぞましい感覚がぶつかり、気付いたときには自分の身体ははるか後方へと吹き飛ばされていた。

 

「あっ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

青白い炎が身を焦がし、熱さと言い知れぬ恐怖が自分を包み込む。

その感覚に彼は絶叫を上げながら地面を何回もバウンドしながら吹き飛び、距離にして約数百mまでふきとんだところで止まった。

何回も地面にぶつかった衝撃で彼を包み込んだ恩讐の炎は勢いが弱まり、篝火のように彼の身体で小さく燃え燻っているのが見える。

そして、当のクロス・ヴィクトリーはその身に受けたそのあまりの威力に息も絶え絶えになり、自分に刻まれたその一撃の重さに……驚愕していた。

 

(たったの一撃で………この威力かよ………!)

 

サーヴァントの力は人間の力を遥かに凌駕している、それはもうここに至るまでの経緯で十分承知していた。

だが、今受けた一撃はそれを軽々と越えてしまうほどに凶悪であまりにも強すぎる一撃だった。

体の痛みが尋常ではない、一瞬で意識がぐらつき、体の中の何かが消し炭になるかのような感覚に襲われた。

下手をしたら今の一撃で自分の意識が刈り取られていたかもしれない……地面に這いつくばりながら何とか起き上がろうとするクロス・ヴィクトリーはそう感じざるを得なかった。

 

強い………。

 

今自分の目の前にいる敵は………あまりにも強い。

 

今までの敵よりも、断然に……何かが違う……。

 

「………人というのはよくわからない物だ」

 

エドモンが頭に被った帽子を目深に被り直して呟く。

 

「人はそれぞれの思考によって己の力を自由に変えていく……強くも弱くも、善にも悪にもなる……だが特筆して、何かのタガが外れた時の力はあまりにも強すぎる……制御も聞かなくなる……俺がそうだ」

 

帽子の鍔を少し上げ、その下から覗く鋭く、底の見えない恐ろし気な眼光がはるか遠くまで吹き飛んだクロス・ヴィクトリーに向けられる。

 

「俺は監獄島(シャトーデュフ)に幽閉されたあの時から……何かが壊れたんだろうな、そう、あの時からだ……俺の中で、“復讐”が芽生えたのは」

 

「………復讐か………巌窟王、濡れ衣を着せられ幽閉され脱獄を果たした後、自身を陥れた者達に復讐を果たした、文字通りの復讐者か……」

 

遠くの方で布が少し破れた赤い外套がゆらりと揺れたのが見えた、浅黒い肌をした顔に赤黒い液体が滴る。

今の一撃で負傷したらしいエミヤはゆっくりと立ち上がると、頭から血を流しながらもニヒルな笑みを浮かべた。

 

「目的を果たしたとしても、君の中に眠る復讐の炎は消えないということか……例え、その炎を向ける敵が既にいないとしても」

 

「くっ………はははははははははははは!! 違いない、今のオレも貴様も、何処かの時代から呼び出された亡霊に過ぎない……主という存在によって呼び出された使い魔……故に、オレは目的を果たした後も、こうして復讐者として呼ばれてしまったということか」

 

「そのとおりさ」

 

エミヤの言葉に皮肉気味な返答を返すエドモン、するとそんな彼の背後に彼を呼び出したマスターである人物が近づいてきた。

 

「彼も俺も同じ復讐者……恨みを持ち、復讐したい物があった……だから俺が用意する駒に相応しいと感じたんだ、その激しい恩讐の炎……すべてを焼き尽くすにはこれほどいいものはないだろう?」

 

「お前が……聖杯の……っ!」

 

「………そう、俺がこの聖杯戦争の仕掛け人………偶然とはいえ、万能の願望機と同調した………“この世界の復讐者”だ」

 

痛みが響く体に鞭を打ち、クロス・ヴィクトリーがそう告げると復讐者のマスターは……いや、汚染された聖杯の主はあくまで柔和な微笑みを浮かべながら答えた。

微笑んではいるが、どこか冷たい、氷のような笑顔……それを見たクロス・ヴィクトリーは反射的に体が少し震えるのを感じた。

 

「なんで……なんでこんなことを……!」

 

「なぜ? 復讐するのに、理由なんかいるかい? 俺はこの世界を……ゲイムギョウ界をただただめちゃくちゃにしたいだけなんだ」

 

「なんのためにっ……!! なんのためにこの世界にそんなことを……!」

 

声を絞り出すようにして出した問いかけ、それを聞いた聖杯の主はしばらく考え込むように目を伏せた真顔を浮かべた後、うっすらと目を開き、自分の手の平を見つめた。

 

 

 

「………消されたからさ………歴史という記録から、俺という存在が消されたからだよ」

 

 

 

怒り、悲しみ、怨み、妬み、寂しさ、そのどれにも当てはまらない……まるでそのすべてをぐちゃぐちゃに混ぜた様な深い闇を宿した瞳だった。

そう呟いたその人物の言葉に秘められた真実、いや、この一連の出来事の中に隠された本質はどれほど深い闇を抱えているのか、その目を見たクロス・ヴィクトリーはそう感じた。

今自分たちの前にいるこの人物が果たそうとしていること、それに至る経緯、それはわからない……ただ言えるのは今の自分では知りえない事だという事実、それは何となくではあるが分かった。

 

でも、だからこそ……同情には至れず、反射的に分かったこともある。

 

………この人物の復讐の念はあまりにも強大すぎるということ………。

 

何があればここまで大きくなるのかということ……果たしてこの人物が抱える闇がどれだけ深いのか……それが分かったからこそ、恐怖した。

この得体のしれない……巌窟王という復讐者を従えた“ゲイムギョウ界の復讐者”に……。

 

「いや、消されたというよりはむしろこの世界そのものがなかったことにしたってとこだろうかな……俺のような“黒歴史”は世界にとっては不必要な記録、削除すべきデータってことさ……君にもわかるだろう、アーチャー」

 

底が見えない闇を抱えた瞳、その視線が血を流しながらも立ち上がったエミヤへと向けられる。

 

「きみにもあるだろう? 消したかった記憶が、消したかった過去が、消したかった己の黒歴史が……わかるよ、俺も……俺はこの世界によって消されたいらない歴史そのものだ、きみの過去についても十分理解できるよ、英霊 エミヤ」

 

「………消したかった過去か」

 

「綺麗だからこそ憧れた、強い存在だからこそ憧れた、守りたいからこそ求めた、救いたいからこそ求めた……そしてきみは至った……守護者として、人類の抑止力として……その結果がただの掃除屋だ……皮肉なことだ、人類を守るために人間をたくさん殺すなんて、さぞ君は不本意だっただろうね」

 

聖杯の所持者であるその存在は知っていた、彼がかつて経験した過ちを、かつて願ったことを、そして英霊となるまでの間に起こった彼自身の出来事を…。

恐らくは聖杯を通して“英霊の座”から彼の記録された出来事、その逸話を読み取っているのだろう、だからこそ真名も過去も知ることが出来るのだ。

 

血塗られたエミヤの過去、守護者という抑止力の器に収まった彼に待っていた残酷な現実……それは宗谷自身も知っている。

見たからこそ知っている、物語として……その目で見たから知っている。

世界が違うがために、変わった形で彼と出会うずっと前から知ることになったその辛い過去を……。

その辛さの大きさを……故に彼がそのルーツをその手で殺そうとしたことも……理解できてしまう。

彼の心が弱いなんて言えない、彼の心が背負った辛さを自分がどうこう言える存在じゃない、だからこそこの時のクロス・ヴィクトリーは……宗谷は何も言えなかった。

 

「だからこそわかるよ……きみがきみ自身を、かつての自分を殺そうとしたのもね……俺もできることなら消してやりたいよ……今でもね……だからこそ、俺は復讐する……それも含めてこの世界を……すべてを“猛争”の渦に落とす……理解できるだろう、エミヤ……きみは、俺を……」

 

まるで彼をいたわるかのように伸ばしたその手、その先にいるエミヤはじっとその手の主を見据える。

地に伏せたままその様子を固唾をのんで見守るクロス・ヴィクトリーは彼を見つめ続ける。

 

やがてエミヤは目を閉じるとその首を左右に振った。

 

「やれやれ、その通りだ……未熟な過去の自分、今思い出しただけでも反吐が出る……故に許すことはできない、その未熟な思想も」

 

かつての自分の無謀さ、危うさ、危険を顧みぬその姿勢。

それは物語を見ていた自分の様な第三者からしたらとてもきれいに映る、とても輝かしい物語の英雄譚の如き光に見えることだろう。

けど、それはあくまで当の本人とは違う、まったく別の人物が見た感想に過ぎない。

どんなに物語の主人公が美しく、勇ましく、かっこよく見えてもそれはその姿を見た者の勝手な感情移入と憧れだ。

そう、憧れ……それがあったからこそ、エミヤという人物はかつて……それに憧れた……。

 

「憧れ、ただそれだけのために非合理的な役目を担わされる正義の味方なんかになろうと思った、なりたいと思った……その役目の本当の意味を、その業も、何も知らずに、何も目を向けずに……その道をどこかの誰かも歩もうとしている」

 

「………アーチャー先輩」

 

自分も同じだ。

その姿が美しい灯ったから憧れた、綺麗だから憧れた、手を伸ばして誰かを救えるとてもすごい存在と思ったからなりたいと思った。

まるで、あの物語の主人公のように………なれる物ならと願った。 誰かを猛傷つけることのないように、失うことのないように……誰かを悲しませることのないように。

だけど、今目の前にいる自分の使い魔となった英霊は知っている。 その役割を担ったことで経験した血生臭い所業を、終わることのない深い業を、人類の抑止力たるその役目が意味を成す目を反らしたくなるような現実を……。

 

「正義の味方なんて……碌な物じゃない」

 

飽き飽きとしたかのような言葉でそう呟いたエミヤ、そんな彼に黒歴史と名乗った人物は怪しく微笑む。

 

「そう、碌なものじゃないってことを君は知ってる……だからこそそんな理念は今のうちに潰すべきじゃないかい? 君の手で、ね?」

 

彼女の眼の奥の闇が蠢いた気がした、得体のしれない底のない闇がエミヤを捉えている。

その言葉にエミヤはその顔を倒れている、彼のマスター……クロス・ヴィクトリーに向ける。

 

「君のその弓は世界の抑止力、人類の抑止力となる矢を放つ弓だ……ならば、そんな不合理なものが生まれてしまう前に、一人の少年を君の手で救うのも、君の役目じゃないのかい?」

 

「………それもそうだな、同じことを俺は今まで何回もやってきた……そんな苦しみを味わう必要などないさ」

 

「っ………!」

 

そう言ってエミヤが自分の方に目を向け、その手に握った弓と反対の手に一振りの刀を投影するのを見て、クロス・ヴィクトリーは仮面の下で息を飲んだ。

その手が弓に近づく、弓の弦に剣が矢としてつがえられ魔力の光と共にそれが一矢へと姿を変える。 あとはその手を離せばその屋は一直線に自分に向かってくる。

 

その先にあるのは………。

 

 

 

「………まったくもって、正義の味方は碌な物じゃないな、マスター」

 

 

 

標的を貫くという事実だ。

 

 

 

放たれたことで発生する空気を切り裂くような軽い音がするのが聞こえた。

弓から離れた矢が一直線に、刹那の如き一瞬と共に狙いを定めた標的がいる先へと向っていく。

 

 

 

 

 

彼の目の前にいる………黒歴史へと。

 

 

 

 

 

「………ふーん、やっぱりそうなるのか」

 

放たれたその矢が黒歴史の頬の横を通り過ぎていった。

起動が逸れたのはその一瞬で黒歴史がその首を横に少しだけ傾けたからだ、まるで想定の範囲内とでもいうかのように……。

その視線を弓を自分へと放ったエミヤへと向けて。

 

「君は結局、そうやって誰かを守るためにという綺麗な建前に縋って標的を貫く、道具でしかないわけだ」

 

「ああ、そうだろうな……お前の言うとおりだよ、私は抑止力として掃除を行うただの道具だろうな……だからこそ掃除をさせて貰う、人類にとっての脅威……お前という存在をな」

 

揺るぎないその言葉、それを聞いたクロス・ヴィクトリーは奮い立つかのようにして剣を杖にして立ち上がった。

そして、今も尚弓を番えるエミヤの隣へと移動する。

 

「………やっぱり………やっぱりかっこいいよ、アーチャー先輩」

 

「私に憧れてもいいことなどないぞ、マスター」

 

「それでもだよ……今の俺にはあんたは間違いなく、そう見えるよ………俺の憧れた正義の味方………すっごく頼りになる、憧れの!」

 

彼の放ったその言葉に、エミヤはしばらく不愛想な顔を浮かべていたが、不意に口元にまたいつものニヒルな笑みを浮かべる。

隣に立つ自身のマスターに、何を想い、彼はその目を向けるのだろうか……それは恐らく彼にしかわからない事だろう。

 

「ならば、ここからは君の番だ……奴を討て、マスター」

 

「ああ、援護頼むぜ……先輩!!」

 

再度立ち上がった二人、それに相対する二人の復讐者は向かってくるであろう二人を迎え撃つべく動き出そうとしている。

マスターである黒歴史が、隣に立つ巌窟王に視線を向けると巌窟王は帽子を深く被りながら前に出る。

 

「……その強い意思、呆れるほどのお人よしと言わせてもらうぞ、アーチャーのマスター」

 

「悪いな、ずっと前からそういうのに憧れて小さな親切大きなお世話の誠心でこちとら生きてきたんだよ」

 

「ああ、でなければお前がここに来ることはなかっただろう……そして、俺がこうして前に立つことも……」

 

「………?」

 

この時、クロス・ヴィクトリーは何となくエドモンから妙な違和感を感じた、先程まで敵対していた時とは違う何か、その体から溢れる青白い恩讐の炎の揺らめきに紛れたまた別の何かが、今一瞬だけ垣間見えた気がした。

 

「さあ、そろそろ終わらせよう……聖杯の泥もそろそろ溢れる頃合いだ、その前にこちらも終わらせてしまおうか、アヴェンジャー」

 

「………ああ、そうだな………オレは言わせてもらった………“待て、しかして希望せよ”とな」

 

「………そう言えばアヴェンジャー、君のその言葉………どういう意味があるんだい?」

 

黒歴史が巌窟王にそう問いかけると巌窟王は目深に被っていた帽子を少しだけ挙げてその下にある彼の目を覗かせた。

その視線はしっかりと自分たちに向けられている。

そして彼は右腕にまた青白く揺らめく恩讐の炎を滾らせ……。

 

「こういうことだ、共犯者……しかと受け取れ、俺からの僅かな希望を」

 

そのままその拳を“黒歴史へと向けた”。

 

次の瞬間、彼の手で度っていた青白い炎が背後にいた黒歴史に向けて放たれ、一瞬にしてその姿を飲み込んだ。

まさかの巌窟王が取った行動にクロス・ヴィクトリーは驚き、隣にいたエミヤも少しだが眉を動かした。

 

 

 

「オレは復讐者だ、それは否定する存在がいるからこそ成り立つ……オレにとって否定するのは俺を復讐者へと駆り立てたもの、終わりなき復讐に意味などない……ならばそれに終わりを告げるのだとしたら、お前にこの炎を向けることだろうさ」

 

 

 

そう言い放った彼の言動、自身のマスターへの攻撃はあまりにも予想外すぎる行動に他ならなかった。

彼は今の一瞬でマスターを裏切ったのだ、復讐者という存在を完遂するという自分の考えの下に……マスターに………その復讐の炎を向けたのだ。

 

「ああ、そうか、あの二人とは違うものを感じたと思ったらお前だったのか、アヴェンジャー……俺の支配に染まったような行動もすべてお前の芝居か」

 

「悪いな共犯者、俺に成すべき役目があるようでな……そのためにいちいち他人事の異世界での関係のない復讐に手を出す義理はない」

 

「ずるいなぁ、それじゃあまるで………最初からこの俺の事を潰す気だったみたいじゃないか?」

 

「………さあ、どう思う? かつての共犯者よ」

 

揺らめく恩讐の炎の中から黒歴史の声が聞こえてくる、変わらない調子の何気ない話をするかのような淡々とした口調。

それに返答するエドモンの口元には先程までに見せていた凶悪な笑みとは違う、落ち着いた笑みを浮かべている。

何かを成し遂げた感覚にでも浸るかのように……。

だが、その笑みと視線の先にある炎の中で、何かが動いた。

 

 

 

「そうだね、気に入らないな。 だから、無理くりにでも利用させてもらうよ」

 

 

 

ずるり!! とでも表現するかの様な粘着質な音と共に、炎を掻き分けながら黒い何かが飛び出し、目の前にいた巌窟王の体に絡みついた。

その体を縛り付けた黒い何かはまるで生きた触手のようにうねうねと怪しくうごめき、その所々にはぎょろぎょろと蠢く不気味な赤い目玉が付いている。

 

「っ! アヴェンジャー!!」

 

「動くな、アーチャーのマスター!」

 

咄嗟にそれを見てクロス・ヴィクトリーが前に出ようとしたのを巌窟王自身が止めた。

ぎりぎりと音を立てて縛り上げる不気味な触手、その目玉がすべて巻き付いている巌窟王へと向けられている。

 

「違和感は感じていたよ、オレに対して希望なんていう曖昧で無意味で一番無縁な言葉を投げかけていた時点でね……いずれこうなるとは思っていたさ」

 

「ふっ……ずるいのは貴様も一緒だな」

 

「お互い様さ、だからこれもそれ相応の報いとしてやらせてもらうよ………君の霊気も魔力で出来た肉体も、その霊核もオレが使わせてもらう、本当なら聖杯戦争を吹っかけて脱落したサーヴァントからいただくつもりだったけど手間が省けるよ」

 

巌窟王の体を縛り付けていた太い触手から細かな細い触手が伸びてその体をどんどん絡め取っていく、まるで繭にでもなるかのように彼の人型のシルエットがどんどんと黒い塊と化していくのをクロス・ヴィクトリーとエミヤは目の当たりにしていた。

このままではまずいと感じたのかエミヤは咄嗟にまた弓に矢をつがえようとする。

 

「聞け!! アーチャー!! いや、英霊エミヤ!!」

 

「っ!」

 

だがそれを再度エドモンの声が止めた、手を止めたエミヤがその視線を今も尚触手に包まれて行く彼に向けると、かすかに見える顔の一部である目と口がエミヤの方に向けられて巌窟王の言葉が伝えられた。

一瞬だが、その炎を共通の敵に向けた彼の……おそらく最後の言葉が……。

 

 

 

「………答えは得たか? なら、お前の役目を果たせ………“本当のお前の本当の役目”を」

 

 

 

それを最後に、巌窟王は全身を触手に包まれた繭のような物に姿を変え。

次の瞬間、目も覆いたくなるような残酷な音と共にその体が入っているのであろう繭がひしゃげていった。

骨が砕ける音、血が隙間から噴き出す音、体がつぶれていく音を響かせながらどんどんとその繭は小さくなっていき……。

 

最後には繭などなかったかのように触手が炎の中に消えていき、後には彼の残した血しぶきと帽子が魔力の粒となって空へと舞って行った。

 

「………アヴェンジャー………」

 

「先程まで敵として戦っていた相手に、同情かい?」

 

炎の中から先程その中に呑まれた黒歴史がゆっくりと歩きながら現れた。

先程まで人の形をしていたその姿はある一部が完全な異形となり替わっている、いや、それはもはや一部には収まらない。

右腕から右半身、顔の半分ほどがまるで蔦が絡まるかのようにして先程巌窟王の体を絡め取った漆黒の触手で形成されている。

底から覗くいくつもの赤い血のような不気味な目玉をぎょろつかせ、歩み寄ってくる黒歴史はまさに偉業を通り越して、怪物と呼ぶにふさわしい姿となっていた。

 

「正義の味方っていうのは心の移り変わりが激しいね、敵として戦っていた相手にも情を移す、わけのわからないことだ」

 

「お前のその姿に言われたくねぇよ、お前はいったい何者だ……お前は何なんだ!」

 

「黒歴史さ、このゲイムギョウ界と……そして遥か彼方の世界、“魔術王”が残した負の遺産の一部にしてその片割れ、哀れに目的を果たせずに散った七十二の魔神の残りカス……その複合体が今のオレだ」

 

「……どういうことだ?」

 

「要するに、君の知らない遥か遠い世界……人理を賭けた戦いで破れた魔神の柱……オレは流れ着いたその柱に乗り移った怨念、ただの意志に過ぎなかった……だからこそ必要だったのさ、この世界に齎された聖杯の力を……オレの存在意義を果たすために……そしてかの王が成すことのできなかった人理の焼却を此処から再び始めるために!!」

 

クロス・ヴィクトリーには到底理解が追い付かない内容を言い放った黒歴史、体の半分を形成する黒い触手が猛りを上げるかのように蠢き不気味な動きと共に震えた。

総てを知りえることはできないが今の話の内容で、クロス・ヴィクトリーは今目の前にいる存在が何なのかを直感的に理解した。

今目の前にいるのは二つの存在が融合した得体のしれないバケモノだということを。

 

「要するにあいつはこことは違う別の世界で滅んだ魔神の柱とかいう奴の欠片にこの世界のあいつという意思が混ざり合って出来たってことか……ゲテモノにゲテモノ混ぜても最悪なのが完成するだけだってのに」

 

「だが、それだけでもわかれば好都合だ……マスター、一度滅んだ奴ならば倒せない義理はない、ましてや砕けた欠片からできた成れの果てなど、造作もないことだ」

 

「ははははははは! 確かに片方は紛れもないただの残りカスさ、しかしね、俺という強固な意志と今手に入れたサーヴァントの霊格、そしてオレ自身の中にある聖杯……これでオレは十分な力を手に入れた、完全なる復讐者となった! オレこそがこの世界のアヴェンジャーとなったんだ……! あっはははははははは……ははははははははははははは!!」

 

倒せない道理はない、だが黒歴史が言うのも事実と言える。

現に今、巌窟王を取り込んだことで得たのであろう溢れんばかりの威圧感と力の波動ともいえるものがあたりを震わせびりびりと二人の体に伝わる。

先程の巌窟王など優に超える怪物が、今目の前で誕生したのだ。

 

「最初はここから始まる……オレという存在をなかったことにしたこのゲイムギョウ界の奴らをすべて、オレが猛争の渦に叩き落す……その前に、お前たちは邪魔だ……消えろぉ!!」

 

黒歴史の右腕が自分たちに向けられ、それがまるで牙を剥くかのように四叉に裂ける。 そこから顔を覗かせるのは大きな一つの赤い目玉、それが二人へと狙いを定めると……赤い光を輝かせ、二人描けて魔力の閃光を打ち出してきた!

 

「やばい!!」

 

咄嗟に身の危険を感じたクロス・ヴィクトリーはスキルで応戦しようとする。

だが、それよりも早く前に出たエミヤが持っていた弓矢を魔力の粒に戻し、その手を前へと突き出した。

 

次の瞬間、二人の目の前に鮮やかな魔力の光が華を開かせるように広がり、いくつもの魔力で出来た円形の盾となって迫りくる閃光を受け止めた。

重なった七つの魔力の盾がぶつかった閃光を受け止めて軋みを上げて一枚、また一枚と砕けていく、だがそれでも先行の勢いは確実に抑えられて次第にその威力はかなり収まっていった。

 

やがて、閃光が収まり、二人を守り切ったことで役目を終えたかのようにその魔力の盾は消滅する。

 

「………“熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”………た、助かった……」

 

「だが、今の一撃だけだ、おそらく次はない」

 

間一髪、エミヤの防御宝具で何とか難を逃れた二人だが気は抜けない。

今のは恐らくまだ軽い方、次からはさらに力を上げて放ってくるのが目に見えているからだ。

 

「今の盾で調子に乗らないことだ、次は止められないよ……」

 

不気味に蠢く触手、それを見てエミヤが何かを考えるような仕草をした後後ろにいるクロス・ヴィクトリーに目を向けた。

 

「………マスター、ここで奴を倒すのに可能性がある物が一つある………」

 

そういうと、彼はこちらに背を向けることなくその両手に夫婦剣、干将莫邪を投影する。

 

「可能性が、ある物?」

 

「君のスキルの中にある物をよく見ろ、それが答えだ」

 

「答えったって、あいつに対抗できるスキルなんて………っ!」

 

言われるままにその視線を赤剣に連結したV.phoneに向ける。

そして、“それ”を見つけた時、彼は目を疑った。

 

「……これって……」

 

スキルを示す、アプリのような表示の中に一つ、見覚えのないスキルが一つだけあったのだ。

 

それはどこかで見たことのある、ある人物があるサーヴァントとの契約の証としてその手に刻み込んでいた令呪と同じ刻印が記されている。

それが何の意味を成すのか、クロス・ヴィクトリーが理解する前にエミヤはその顔を彼の方へと振り返らせた。

 

 

 

「………なるんだろ、正義の味方に………俺のようなではない、お前だけの正義の味方に……だから使え、そして一緒に行くぞ」

 

 

 

この時、クロス・ヴィクトリー……いや、宗谷にはエミヤの表情にある人物の面影が重なった気がした。

自分と同じように正義の味方に憧れた……あの時の、かつてのエミヤの姿……。

 

 

 

「………はい!! 衛宮 士郎さん!!」

 

 

 

力強く頷き、答え、彼はすぐさまそのスキルを使用する。

 

 

 

「なにをごちゃごちゃと!!」

 

 

 

だがその瞬間、黒歴史が第二射を放ってきた。

その閃光がまっすぐに二人へと向かい、次の瞬間巨大な爆発となって二人を包み込んだ。

轟々と立ち上る爆炎と煙、それを見て黒歴史は口元に怪しい笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

―――Skill Link!

 

 

 

 

 

だが、その中で音声が鳴り響いた……赤き勝利の勇者と呼ばれた戦士が響かせる、力の起動を示す音声が……。

 

 

 

―――Fate/stay night!

 

 

 

途端にその爆炎を薙ぎ払うかのように、その中心から黄金の光が溢れ出し、爆発するように広がった。

そして、その光は天へと延びる一筋の柱となると……。

 

その中の中心にいるクロス・ヴィクトリーがその光に向かっていくように空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

『X.victory Featuring Saber!』

 

 

 

『輝け! 聖剣の光! ブリテンの騎士王よ! 放て、エクス! カリバー!!』

 

 

 

 

 

黄金の光の中で赤かった彼の装甲が所々が青と銀色になり、背中には勇ましい青色のマント、仮面はまるで獅子を思わせるような形に変化し、腰回りにも騎士甲冑を思わせる装いに変化する。

そして、彼の持っていた剣、赤剣の刃が黄金に輝き、鍔のコントローラーを思わせる装飾も機械的ではあるが洗礼された剣を思わせる形へと変形するとクロス・ヴィクトリーは地面へと舞い降りて手に持った黄金の刃を持つ赤剣を地面へと突き立てた。

 

 

 

「………この力、そうか………よし」

 

 

 

自身の変わったその姿を理解したかのように呟いたクロス・ヴィクトリーは仮面に包まれた顔を上げて地面に刃を突き立てた剣を引き抜いて切り払うようにして構えた。

 

 

 

「サーヴァント、セイバー……真名を、騎士王 “アルトリア・ペンドラゴン”! この力、お借りします!!」

 

 

 

その身に宿る力の源、それに対しての経緯と決意を示す言葉を叫び、今ここにクロス・ヴィクトリーの19個目のスキル、“スキル Fate/”が起動した!

 




如何でしたか?

次回、いよいよ決着!!
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