超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ!   作:白宇宙

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長らく、すごい長らくお待たせしてくれた方、本当に申し訳ありません。
まあ、いろいろあってこんだけかかりました(遠目
今後はちょくちょく執筆もしていきたいと思っているので前々から生暖かく見守ってくれている方、どうか今後もごひいきに…。

ってなことで今回のゲイムギョウ界聖杯戦争勃発編、テーマは希望!

その思いを胸に、彼らは挑む! 絶望の闇に!!



Fate/stage,11 ゲイムギョウ界、聖杯戦争勃発~希望~

 

 

 

「姿が変わった? この期に及んで隠し玉とでもいうのか……いや」

 

ゲイムギョウ界に生まれた復讐者、彼女は今目の前に現れた新たな戦士の姿を見て眉を潜めた。

先程までの赤い装甲から一転し、青と銀色を基調とした騎士然とした風格に溢れた姿へと変化した目前の敵から感じる違和感に復讐者はここに来て初めて警戒を見せた。

先程の彼とは違う、明らかに変化した姿……なによりもそこから感じる今までとは大きく違う、別の気配……いや、これはむしろ気配ではない。 今彼から放たれているのは気配というにはあまりにも大きく、威圧感というにはあまりにも鋭い物だった。

いうなればこれは……研ぎ澄まされた剣士の持つ、覇気。

 

「……まさかこれは、サーヴァントの……馬鹿な……聖杯を持つオレが知らない新たなサーヴァントなんて……」

 

「そう、召喚はされていない……今お前の目の前にいるのは、私のマスターだ……だが、今のマスターは私も理解しえないもう一つの答えを得た……お前を葬るために出した答え、それがこの姿だ」

 

突然起きた敵の異変に驚きとも遺憾ともとれない反応を見せる復讐者にエミヤは告げる。

その間にもクロス・ヴィクトリーは背中に携えたマントを翻しながら復讐者の元へと歩み出る。

そして、次の瞬間彼の変化と共に姿を変えた剣を右に振り払い、その後切っ先を復讐者へと向ける。

 

その時、復讐者は感じ取った。

 

聖杯を手にしているが故なのか、それとも彼女が取り込んだ残骸の中にある何かがそれを知らせたのか……彼の中に今存在する新たな力の本質を彼女は察知したのだ。

剣先から放たれる鋭い覇気、ぶれぬその凛とした雰囲気と揺るがぬ芯の通った振る舞い、なによりも彼から感じる力の本流があるものと一致したのだ。

彼女も今回の自身の策略のために利用した、魔力を持つ使い魔の一角……そう、“三騎士”の一つと同じ気配を……。

 

「………セイバーと同じ魔力………そうか、そういうことか……」

 

それを理解した時、復讐者は彼の中にいるのが何なのかを知ることが出来た。

これは聖杯から知りえた英霊の座の中にいるサーヴァント、そのセイバークラスの中でも名を馳せた伝説の騎士の王と同じ気配……。

それを彼の中から感じる……ということは、答えは一つ……。

 

 

 

「貴様……英霊を体に宿したのか……疑似サーヴァント……いや、この場合……“デミサーヴァント”になったということかい?」

 

 

 

“デミサーヴァント”。

本来この聖杯戦争において英霊という存在は使い魔という形で契約を結んだ魔術師となる人物に仕え、共に戦う。

だが復讐者が今言い放ったこのデミサーヴァントは同じサーヴァントでも性質が大きく違う。 その違い、それは召喚した英霊と“憑依・融合した人間”のことを指すのである。

復讐者はクロス・ヴィクトリーが至ったこの姿がその状態であると予測を立てる、だがこの状態はそう簡単になれるものではなく本来の英霊を召喚する方法よりもあまりにも危険なリスクを伴う……勝利を確信してそれを易々と彼が受け入れたというのか……はたまた付け焼刃に過ぎないのか……。

 

どちらにせよ、予想外の事態ではあるが理解を得た時、復讐者は焦ることはなかった。

 

デミサーヴァントになるということは魔術師であっても融合する英霊に認められなければ成しえることが出来ないという相当に困難な方法であり、一歩でも間違えれば死に直結してしまうリスクが高すぎる方法でもある。

 

「だとしたら随分と早まった選択をしたね、人間であり、さらには魔術回路を持たない君が英霊をそのみに融合させるなんて……本来そこの守護者を召喚できたのもプラネテューヌの女神である彼女がいたことで代用が聞いたのがあるというのに……それもなくして余計に負担のかかるようなことを……死に急ぐつもりかい?」

 

「………いいや、そんなつもりはない………俺は勝つさ………」

 

そんな難易度の高い方法で至った姿でクロス・ヴィクトリーは復讐者にそう返した。

黄金の輝きを放つ姿に変化した赤剣、それを地面に突き立てながら獅子を思わせる形状に変化した仮面の奥で眼前の復讐者を見据える。

 

「俺は勝利に一番近い可能性に賭けた……この戦いを終わらせて、また平和な世界でみんなと笑いあうために……だから俺はこの方法を選んだ……そして、力を借りたんだ」

 

地面に突き立てた剣の切っ先を抜き放ち、その先端を復讐者に向ける。

 

「………だから、死に急いだつもりはない」

 

仮面の奥で敵を見据えるその瞳には一切の迷いはない、さながら戦う意思を固めた騎士を思わせるその強い意志を込めた瞳に答えるかのように剣の輝きはその強さを増した。

 

「………そういうことだ、この世界の復讐者……いや、亡霊よ……覚悟は決めておいた方がいい、ここからは我々が本気で相手をさせてもらう」

 

そこに並び立つエミヤ、主である彼と共に自身が成す役目を果たすために……彼はその手に剣ではなく、弓を握る。

並び立った二人を前にして復讐者は呆れにも落胆にも似たため息を一つ吐いた。

 

「やれやれ……楽しませてくれるかと思ったが悪足掻きもここまで来ると見るに堪えないな……そんなにはやくに眠りたいなら、これで終わりにしてやるよ」

 

これ以上無駄な時間を喰いたくないと感じたのかそう言った復讐者は異形へと変貌した右腕を上に向けるとそれをまるで蕾が花開く瞬間のように四叉に分裂させる。

ぎょろぎょろと不気味な目をいくつも埋め込んだその触手染みた腕はその目の先に光を収縮させ………次の瞬間、二人に向けて豪雨の如くその光を降り注がせた。

まるで鮮血を思わせる深紅の光、それが幾重にも降りかかってくる。

先に地面に直撃したその攻撃は次の瞬間に大爆発を起こし、地面を抉る。 一目で見ればわかる相当な威力である、それがこの数で一気に降り注いでくるとなると例え一撃をなんとか耐え抜いたとしても次、また次と襲い掛かってくるだろう。

 

目の前に輝く目障りな光、それを掻き消したことを復讐者が確信し、怪しげな笑みを浮かべる……。

 

次々と炸裂し、爆散していく鮮血の光。

目の前にいる二人の人影がその中に消えていく。

 

 

 

「………っ!」

 

 

 

だが復讐者が浮かべていた笑みが消えた。

 

(……消えていない……先程から感じる……魔力が……)

 

聖杯を持つが故に感じる、英霊が持つ魔力の流れ、先程よりも膨らんだ魔力が今の攻撃を受けてなお消えていない。 それを感じ取った復讐者は眉を潜めた。

今の攻撃なら並大抵のサーヴァントはもちろん、神霊に近しい存在であったとしても無事では済まされないはず……それなのにどういうことか……

 

(魔力が……さらに膨れ上がっているだと……?)

 

何かのスイッチが入ったかのように、感じ取っていた魔力が周りの空気を集めて大きく渦を巻く竜巻かのようにどんどん大きくなっていっているのだ。

爆炎と共に発生した煙が晴れていく中で、その中で焦土と化しているはずの二人がいる場所から………膨れ上がってる魔力。 その量はどんどん大きくなっている。

一体これは何だというのか……復讐者が思考を巡らせ始めた時だった。

 

 

 

―――………I am the bone of my sword.

 

 

 

聞こえてきたその言葉……この声は、間違いない、弓兵の物だ。

 

 

 

―――Steel is my body, and fire is my blood.

 

 

 

膨れ上がっていく魔力の渦の中で聞こえてくるこの言葉の羅列…。

その内容を聞いたとき、復讐者はある物を思い浮かべた。

 

 

 

―――I have created over a thousand blades.

 

 

 

サーヴァントにはそれぞれの逸話になぞらえて具現化された最高の武器、技、奥義、強大な一撃や大魔術を可能とする技……宝具がある。

間違いない、これは……アーチャー、エミヤの持つ宝具だと。

 

 

 

―――Unknown to Death. Nor known to Life.

 

 

 

復讐者が放った光、それが降り注ぐ直前にエミヤは自身の持つ最大宝具を展開し、その際に発生する魔力の渦でそれを薙ぎ払ったのだ。

しかし、強力な英霊でもない、守護者である彼にそれ程の力があったというのか……。

 

 

 

―――Have withstood pain to create many weapons.

 

 

 

いや、それはどう考えてもあの英霊ひとりであったとしても無理だ。

しかし、こうして実際に二人の魔力は健在でありそれはこうしてさらに大きく膨れ上がっている。

一体何がそれを可能とさせたのか……。

 

 

 

―――Yet, those hands will never hold anything.

 

 

 

………一人なら、確かに無理。

だが、それが……二人だとしたら?

 

その思考に至った時、復讐者はある結論に至った。

 

(奴らは二人同時に宝具を解放した? アーチャーだけではない、英霊を身に宿らせたマスターの方も同時に……!)

 

二人が同時に解き放った魔力、宝具によって発生した魔力の渦を織り交ぜて復讐者が放った破壊の閃光を薙ぎ払ったのだ。

あり得る可能性、それを思考の末に復讐者が理解した時だった。

 

 

 

―――So as I pray.

 

 

 

膨れ上がっていた魔力が……自身と周囲を飲み込むほどの勢いで、弾け飛んだ。

 

 

 

―――“UNLIMITED BLADE WORKS”.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景色が変わった。

 

比喩などではない、紛れもない事実として復讐者が見ていた景色が次の瞬間にガラリと一変した。

夜の闇に包まれた周囲は黄昏のような赤く、錆び付いた明かりに照らされた荒野に変わっていた。

どこまでも果てしなく続いていく荒野、空に浮かぶ巨大な歯車、地面に突き刺さっている……多くの剣。

 

これがアーチャー、英霊にして守護者、エミヤが持つ宝具。

 

周囲の景色を完全に変化させ、己の心象風景を具現化させる大魔術……“固有結界”。

 

復讐者はあたりを見回した後、その結界を作り出した英霊へと目を向ける。

そこには、確かに立っていた。

この結界を作り出した赤い外等の英霊と……その横に立つ、黄金に光る剣を携えた主が……。

だが、その姿は先程とは違っていた。 主であるクロス・ヴィクトリーは今までなかったはずの者に跨っている。

純白の体を持つ。勇ましく、美しい、一機の“機械仕掛けの白馬”だ。

 

あれがエミヤの宝具と同時に展開した彼のもう一つの宝具……。

 

 

 

「………さあ、行こうぜ、先輩!」

 

 

 

その言葉と共にクロス・ヴィクトリーとそれに仕える弓兵は一機の機械馬に共に跨り、復讐者へと向けて駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身のマスターたちをすべての根源に向かわせるために殿を務めたアストルフォ、自身がひきつけた無数のシャドウサーヴァントを相手に自身の宝具、“この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)”に跨り、そのスピードと自身の馬上槍を持ってして蹴散らしていく。

だが、戦いが始まって既に数十分、サーヴァントと言えど状況は優勢とはお世辞にも言い難かった。

 

「もうほんっとにキリがないなぁ! ボクは最弱の英霊だってのに、なんでこんな役目引き受けちゃったのかなぁ! まあ、選んだのはボクなんだけど!!」

 

空から地面に向けて急降下、直前に地面を蹴って軌道を地面に対して平行に変えたヒポグリフのタイミングに合わせて手に持っている槍の先を黒い英霊たちに向ける。

疾風もかくやというスピードと共に黒い英霊たちの体に風穴があき、塵尻に霧散する。

今ので何人減らせたか、そう考えてもまるでそれを掻き消すかのようにわらわらとシャドウサーヴァントが向かってくる。

 

「やばいなぁ……やっぱり一人でここを受けおったのは無茶もいい所だったかな……」

 

理性が飛んでいるあまりに自身なりに最善の方法を選んだつもりではあった物の、これを見てしまっては後悔してしまう。

まったく、自分の思考がとことん恨めしい……。

 

だが、それでも止まるわけにはいかない。

 

「……でも、ボクはまだ納得していない……だから、納得いくまで、諦めない!!」

 

一陣の風となる、一刀の刃となる、この世界に群がる黒い影を薙ぎ払う光となる。

それが己の役目、シャルルマーニュ十二勇士が一人である、自身がこの世界に厳戒した勤め。

アストルフォは止まらない、自身が納得するその時まで。

 

「なっ! やば!」

 

不意にヒポグリフが、がくっ、と大きく揺れた。

気付けばその足に数人のシャドウサーヴァントがしがみ付いていたのだ、影とはいえ元は英霊、侮れない瞬発力としつこさを持ち合わせている個体はいるということか。

余計な重しを得てしまったヒポグリフのスピードが落ちる、そしてそれを狙ったかのように他のシャドウサーヴァントが一斉にアストルフォ目がけて攻撃を放つ体制に入る、ある物は剣のようなものを振りかざし、またある者は槍を構え、あるものは弓を射り、またある者は魔術を……。

 

(………さすがに、やばいな。ほんと)

 

これを防ぎきるすべは自分にはない。

おそらく次の瞬間にはシャドウサーヴァントの一斉攻撃によって、自分の身体はズタズタにされることだろう……肉塊がいい所だろうか……サーヴァントとはいえその最後はさすがにきついなぁ……。

彼が自身のこの世界の最後を決意した、その時だった……。

 

 

 

―――“開け!!招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)よ!”

 

 

 

高らかに響くその声、それと共にアストルフォの視界が一瞬にして……黄金のへと染まった。

一体何が起こったのか、木と草と地面ばかりだったあたりの風景が一瞬にしてあまりにも荘厳な…“黄金の劇場”へと変わったのだ。

 

 

 

―――続け!アサシン!!

 

―――解体するよ………!

 

 

 

次の瞬間、シャドウサーヴァントが群がるとする自身の元へ向かってくる二人の影を見た。

一人は赤い、舞台衣装に身を包んだそれは尊大な雰囲気を纏う、燃え盛る赤い剣を手にした少女。

そしてもう一人は小柄、あまりにも小柄な小さな子供、黒い布地の少ない衣服に両手にナイフを持った小さな子供……。

 

 

 

―――“童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!!

 

 

 

―――“解体聖母(マリア・ザ・リッパ—)!!”

 

 

 

自身に群がろうとする漆黒の影が、荘厳な炎と怪しげな斬撃と共に次々と薙ぎ払われる。

 

これは間違いない、サーヴァントの宝具だとアストルフォは瞬時に理解した。

そして顔を上げた時、そこに立っていたのは……。

 

「よくぞここまで耐え抜いた、ライダーよ! 我らの登場を盛り上げてくれたことに賞賛を送ろう!」

 

「………まだまだ、解体できそうだね」

 

アヴェンジャーとの戦いの際に分かれていた赤いセイバー……ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス。

そして、敵対関係にこそあったはずの黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパ—だった。

 

土壇場で駆け付けたまさかの援軍にアストルフォは文字通り目を丸くする、だがそれを他所に二人は群がるシャドウサーヴァントを一瞥するとアストルフォに向き直る。

 

「ライダーよ、反撃の狼煙は今立ち上がった、我らがこの異界の地に立ったその宿命、その務めを果たそうとするなら……余と共に、この劇場で踊ることを許そう」

 

反撃の狼煙……。

それが具体的に何なのかはわからない、だが直感的に理解した……この二人は、今の自分にとっても、この世界にとっても、最高の助っ人なのだと。

 

「おかあさんが言ってたの……おかあさんにとって余計なものはぜんぶ殺しちゃっていいって……だからここにいるの、ぜんぶ解体するね?」

 

昨日の敵は今日の友、これほどまで心強いものはない。

消沈しかけていた闘志がここにきて燃え上がるのを感じた、アストルフォは馬上槍を天に向けて高く振りかざす。

この世界の、己の務めを果たすために。

 

 

 

「例え異界の地でも! ボクらはやり遂げる!! この世界を守るのが、ボク達の役目なんだ!!」

 

 

 

一騎当千、3機の英霊がこの場に集い………影をすべて薙ぎ払う。

 

この号令は、その相図でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかこんな形で自身の師と戦うことになるとは思っていなかった。

槍を使っている時ならまだしも、魔術師として現界したときに敵として会い見えようとは……。

ケルトの女戦士というのはただでさえ血気盛んであり、戦いになると手加減という物をしない。 自身の師匠である彼女……スカサハもその類である。

自身の持っているドルイドの杖を槍代わりに、炎を灯して槍のように振るうがやはりその差は歴然、スカサハの実力をクー・フーリンを優に超えていた。

 

「ちぃぃ! やっぱ槍がないときついったらねぇぜ……!」

 

「何を言うセタンタ、例えあの槍を持っていたとしても……貴様がそう易々と儂を越えられるわけがなかろう!!」

 

自身に突き出される魔槍、ゲイ・ボルグの二槍流。

長いリーチを持ち、鋭い一撃が絶え間なく次々と繰り出され、自身は杖を使ってそれを何とか往なすのが関の山だ。

純粋に強い、ただ強いなどではない、その体に刻まれた戦いのセンス、経験、体捌きに判断力、すべてが人間離れをしすぎてもはや化け物と見て大差ない、多くの神を殺してきたその実力はこうして敵に回るとここまで恐ろしい物なのか……勝つための光明を見いだせずにいる。

 

「無駄に体力を削りおって愚か者め、そろそろ楽にさせてやる……!」

 

空気を切り裂く軽い音、自分に迫ってくる赤い槍先、横薙ぎに向かってくるその一撃を咄嗟に体勢を低くして回避したクー・フーリンは反撃にスカサハの脚を狙って炎の杖を振り抜いた。

炎が揺らぐことによって発生する独特の音、手応えは……無かった。

 

直撃の直前にスカサハが高く跳躍したのだ、それに気づいた彼は咄嗟に視線を上に向ける。

 

「そぉらぁ!!」

 

その先の視界に広がったのは先程まで彼女が握っていたゲイ・ボルグが一気にその数を増やしてこちらに向かって雨のように降り注ごうとしている瞬間だった。

彼女の掛け声とともに放たれた赤い魔槍の雨が向かってくる、防御のルーンで何とかなるとは思えない……。

 

(くっそ……槍さえあればよぉ……!!)

 

どうしても悔やまれる、本領を発揮できない自分に……この状況で求める、己がもっとも扱いやすく、信頼する武器に……。

せめて、目の前にあれば……ランサーとしての自分なら……。

 

 

そう思った直後だった。

 

 

 

「御子殿っ!!」

 

 

 

目の前に……自身に向かってくる深紅の槍を弾くように……別の赤い、槍先が飛び込んできた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

 

割り込んできたその人物は自身に向かってくる槍を決死の力を持って得物の槍を振るって弾いていく、降り注いでくる槍の力がどれほどの恐ろしさを秘めているのかを知った上の、決死の覚悟がその背中から伝わってくる。

一つ、また一つと向かってくる槍を弾き返す。 全身全霊、一瞬の油断も許されない極限の状況……それを彼が……此度の聖杯戦争に呼ばれたランサーが果敢に挑んでいる。

 

「お前……!」

 

「私は既に、手負い! たとえここで果てようとも! 僅かな希望だとしても、私は守り抜く……! フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッドとして!!」

 

弾ききれなかった槍がディルムッドの身体に突き刺さる。

鮮血が舞い散り、地面に落ちる……だが彼は意識を繋ぎ留め、クー・フーリンを守ろうとその槍を振るう。

肩を貫かれ左腕を使えなくなったとしても、右足を貫かれ立つ力を削られたとしても、腹を抉られ激痛に意識を飛ばしそうになったとしても、彼は喰いついた……その美麗な顔とは釣り合わない、戦士の顔を浮かべながら。

 

「………カッコつけんじゃねぇよ………後輩が………!」

 

「そんなんじゃ、ねえよ!!」

 

直後、自身とディルムッドの目の前を覆うかのように巨大な氷の壁が形成される。

降り注ぐ槍がその氷壁に甲高い音を立て突き刺さる。 この力は誰の物かクー・フーリンは知っていた。

 

「こんな状況で、藁にもすがる思いをお前に託してるんだ! これが格好つけなんて言えるかよ!!」

 

自身の主にしてこの世界の女神、ブラン……ホワイトハートだった。

自身の背後に巨大な戦斧を携えて舞い降りた彼女は自身のサーヴァントに檄を飛ばす。

 

「相手が師匠だろうが、なんだろうが、関係あるか! てめぇがすげえ英雄だっていうなら……根性見せやがれぇ!!」

 

その言葉と共に地面を蹴り、ホワイトハートが氷壁の上を越えてまっすぐにスカサハに向かっていく。

槍の連続投擲を止めたスカサハが自分に向かってくる白き女神に気付くと、その槍を構え身を駒のように捻りながら二槍を横薙ぎに振り抜いた。

それに対し、ホワイトハートはその華奢で小柄な体のどこに秘められているのか…バーサーカーもかくやというとてつもなく重い一撃で迎え撃った。

 

凄まじい衝撃波があたりに響く、それを発生させた二人は己の武器をぶつけ合わせたまま不敵に微笑んだ。

 

「神を殺してきた儂に、女神が挑んでくるとはな……」

 

「おめぇの世界ではそうでも……こっちの世界では早々やられるやわな女神なんかじゃねぇんだよ!!」

 

数多の神を殺してきたという存在に、この世界を守護する白の女神は恐れることなく果敢に挑んでいく。

無謀、どう考えてもクー・フーリンはその所業が無謀にしか見えなかった。

先程のディルムッドにしてもそうだ、命知らずにして戦人の武士(もののふ)揃いのケルトの戦士だとしてもだ。

キャスターとして厳戒しているが故なのか、いつもよりも冷えている頭で考えればスカサハに挑むのがどれほどの命知らずな事なのかは目に見えて明らかだというのに……。

 

「こっちは、負けられねぇ理由を………たくさんのものを背負って来てんだ! てめぇなんぞに! 負けてられるかぁ!!」

 

自身の耳に響いてくる、その命知らずの女神の声。 負傷し、その場に崩れ落ちるディルムッドを支えながら響いてきたその声を聞いたとき、クー・フーリンはどこかその言葉、彼女のその言葉に秘められた何かに、既視感を感じた。

自分も知っている、このどこか懐かしいような熱さ……先程自分を守ってくれた彼女の氷壁を溶かし、砕くかのような、この……燃えたぎる闘志……。

 

ああ、そうか……自分はキャスターとなったことでケルト戦士としてなくてはならない物を、抑えてしまっていた様だ。

 

 

 

「………へっ………使い魔が主人に守られてちゃあ、格好も付かねぇな」

 

 

 

己は何者だ、何者でもない、自身の真明は……クランの猛犬……英霊、クー・フーリン。

 

槍兵であろうと魔術師であろうと、その事実に変わりはない。

その自分が自身の師が敵となり、前に立ちはだかったことに燻っていてどうするか、自身の主が果敢に挑んでいるのに、自分が持っていた熱き闘志を忘れてどうする。

今の自分の得物となっている杖を強く握りしめたクー・フーリンが立ち上がる。

 

「………さすがの目です、御子殿………」

 

体中を槍で穿たれ、血まみれになったディルムッドがそんな彼を見てそう呟いた。

それを聞いていたクー・フーリンはここ一番の笑みを浮かべた。

 

 

「よぉ、後輩……さっさとおっ死ぬんじゃねぇぞ……見ておけ……ケルトの戦士の生き様をよ」

 

 

クランの猛犬、その何は恥じぬ、闘志に満ちた笑みを……。

 

「………ご武運を」

 

その言葉を背に、クー・フーリンは走り出す。 地を駆け、氷壁を越え、主が激突している己の敵となった師に目がけて、秘めていたその牙を剥く。

ルーン魔術を展開し、狙いを定め、放つ。

向かっていく業火の弾がスカサハを飲み込まんと宙を飛んでいく。

 

いち早く気付いたスカサハはくらいついてくるホワイトハートを槍で薙ぎ払い、飛んできた火球を槍で斬り捨てていく。

地面に着地し、その火球を放った弟子に視線を向けるとクー・フーリンは薙ぎ払われた自分の主の前に立ち、こちらに不敵な笑みを浮かべていた。

 

「………気でも狂ったか?」

 

「ああ、そうでもねぇとあんたとはやり合えねぇだろ?」

 

「………フッ、小童が………粋がるのも大概にせよ」

 

「そうもいかねぇ、こちとらどうにも……負けるわけにはいかねぇみたいでな? 俺の主がそう言ってんだ」

 

杖を振り回し、構える。

口元に凶暴な笑みを浮かべ、猛犬と呼ばれた彼は……師に噛みつく。

 

「いちいち、生き残るなんて考えもしてられねぇのさ!!」

 

炎を灯した杖を構え、スカサハに挑む。

ランサーとしての自分もキャスターとしての自分も、結局は己だ。

逸話であれ、伝承であれ、それは変わらない己自身の存在証明、少しの違いがあろうとなかろうと……己の魂は変わりはしない。

 

「マスタぁー!! 見てな!! これがケルトの英雄と呼ばれた、俺の一世一代の大舞台だ!!」

 

休む暇など己にはない、己は戦士、止まることを知らない戦士、武器が槍であろうと魔術であろうと、止まるを知らない、ケルトの戦士。

 

「………馬鹿、勝手に一人で……盛り上がんじゃねぇ!! わたしも、混ぜやがれぇ!!」

 

そこに加わるかのように自分の主も乱入する。

戦斧と杖、二つの武器が二つの槍を持つスカサハを討たんと迫っていく。

先程まで攻めを弾くのに精一杯だった思考をすべて攻撃のためのセンスに回す、そうでもしないとやっていられない。

 

「………小賢しい」

 

責め続ける二人にスカサハが舌打ちをし、距離を取ったそしてその槍を大きく引いて構えたのをクー・フーリンは見逃さなかった。

あれは一撃必殺の槍、数多の敵を葬った自身も知っている魔槍の一撃。

 

 

 

「………刺し穿ち、突き穿つ………“貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)”!!」

 

 

 

己も扱っていた槍、それよりも古くできた二槍を連続で投げ放つ絶技、スカサハの宝具である。

まともに受ければあらゆる敵の心臓を穿つ、必殺の連続攻撃。

 

だが……。

 

「好都合だ!!」

 

前に躍り出る。

恐れもなく、対策をするでもなく、その槍の軌道上にクー・フーリンは立ちふさがる。

狙いを定めた師匠のすべてを射殺さんばかりの鋭い眼差しが己に向けられ、それを体現したかのように、槍が投擲された。

空気を切り、空間を貫き、すべてを穿つその一撃が迫ってくる、だが彼は恐れない、その一撃を不敵な笑みで迎え入れ……。

 

 

 

己の身体で受け止めた。

 

 

 

「っ!? キャスター!?」

 

驚くマスターの声を他所に、彼の身体から鮮血が滴り落ちる。

 

燃えるような痛み、だがこれがいい……こうでなくては、“勝つことはできない”。

 

彼は見逃さなかった。

何の気もなしに、その一撃をもろに受けた自分に対して僅かに違和感を感じて、動きを数秒遅らせた死の姿を……!

 

 

 

「………見せてやるよ、師匠………」

 

 

 

その数秒が、この一撃を放つのには十分すぎる時間だった。

 

 

 

「………焼き尽くせ………人事の厄を清めし社………木々の巨人………」

 

 

 

 

 

「―――“灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)”!!」

 

 

 

 

 

僅かに動きを遅らせたスカサハの足元に巨大な魔方陣が展開される。

自信を飲み込むほどの大きさ、底から無数の木々が枝を伸ばして彼女を包み込む、そしてそれに気づいた彼女がもう一本の槍を投擲した瞬間、スカサハを人型の木でできた巨大な人形が包み込み、その胴体の檻に彼女を閉じ込めた。

 

「くっ………セタンタ………!!」

 

その折の中で自分に向ける視線は、侮蔑か、それとも怨恨か……いや、それはないだろう。

どうせあの師匠の事だ、あの目は自分の本質が汚染されようとも変わらない。

単なる……“負けず嫌いの悔しさ”だ。

 

 

 

「………相打ちで済むなら、及第点だろうよ………」

 

 

 

次の瞬間、獲物を失い、また別の槍を取り出す前にスカサハを木の巨人が自分ごと炎に包むのと………彼女が閉じ込められる間際に放ったもう一本の槍がクー・フーリンを貫くのは、同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Arrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!

 

獣、まさにその言葉が相応しい……周囲を震わせるほどの雄叫び、それが何を意味するのか、何のための猛りなのか、彼女には理解しえなかった。

群がる影を次々となぎ倒し、何とか倒しきることはできたパープルハートとグリーンハートではあるが二人は最後に残った漆黒の狂戦士、ランスロットを前に苦戦を強いられていた。

 

ランスロットという名のバーサーカー、その名の通り戦いの中で狂気に陥った戦士。 その狂気が何のための物なのか、なにがこの騎士を此処まで狂わせたのか、知る由もしない。

ただそれでも、立ちはだかるというのなら……容赦をするつもりはなかった。

 

「ベール! 上空から仕掛けて! 続いて私が斬り込む!」

 

「今度はきちんと決まってくれることを願いますわ!!」

 

共にこの場に残ったグリーンハートに指示を飛ばすパープルハート、あの狂戦士は正面から正攻法で立ち向かってどうにかなる相手ではないのは数回の遭遇で理解している。

故に、何とか隙をついてあの狂戦士をねじ伏せる方法を彼女は戦いの中で模索していた。

 

上空に舞い上がったグリーンハートが槍を構え、それをランスロット目がけて投擲する。

常人を逸したスピードに乗って寸分の狂いなくランスロット目がけて向かっていく槍先、この攻撃を躱すか持っている黒い剣で弾いてくれればいいのだが……。

その願いを込めてパープルハートは地を蹴り、低空飛行をしながら迫る。

振りかぶった刀、腰だめに構えながらその間合いにランスロットを捉えるべく駆けていく。

 

そして、槍がランスロットに直撃しようとした……その時だった。

まるで予想外の行動をランスロットは起こしたのだ。

 

片手に握った剣、それ故に開いていたもう片方の手……それで何の迷いもなく、流れるような動作で投擲された槍をつかみ取り、体を捻りながら接近してくるこちらにその槍を真上から振り下ろして反撃してきた。

 

「く………こ、のぉ!!」

 

迫りくる槍先による一撃を腰だめに構えた刀を上に向けて跳ね上げることで防ぐ。

だが、もう片方の剣の一撃が向かってくる。

それに気づいたパープルハートは何とか離脱しようと自身も身を捻り、後退するべくプロセッサユニットのウィングの出力を上げ、間一髪あの黒い剣の間合いから離脱した。

 

「狂戦士の割に、器用なことですわね!」

 

そこに真上にいたグリーンハートが新たな槍をその手に持ってパープルハートと後退するように割り込んだ。

二つの得物を持つ狂戦士を自身の槍さばきで迎え撃つ。

なんとか後退した彼女もその援護に入るべく、次の一撃の準備に入る。

 

剣と槍、二つの得物を持つ狂戦士を相手に剣と槍それぞれを得物にする二人の女神が挑む。

旗から見たらある意味でロマンチックな激闘に映るだろうが、こちらは一瞬の油断も許されない極限状態なのだ。

何せ相手は女神を相手に二振りの剣を使って互角以上の戦いをしてみせるほどの手練れ、狂戦士という言葉が嘘のように感じる程の反射と技術を持っている。

 

これほどの相手を仕留めるには、まだ……何かが足りない。

 

「っ………先程から、なんなんですの……この勢いは!」

 

先程から武器を打ち合わせている二人、この数分でこの狂戦士がどういう訳か今まで以上の動きを見せる様になってきた。

 

 

 

―――Arrrrrrrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr----------!!

 

 

 

まるで何かを感じ取ったかのように勢いが増したのだ。

先程から叫んでいるのはただの雄叫びとは思えない、その猛る咆哮に込められた狂戦士たる怨恨の権化がここにきて現れたとでもいうのだろうか。

怒り狂うかのようにグリーンハートに両手の得物で襲い掛かるランスロット、槍で突き剣を振るい、縦横無尽の斬撃と刺突をまるで自身の手足のように扱いながら…。

その攻撃に押され、次第に彼女も防戦一方に陥る。

 

「ネプテューヌ……これ以上は……持ちませんわ……!」

 

「どうすれば……後一手……なにか、なにかあれば……あの勢いを崩せる何かが……!」

 

思考を巡らせ、考える。

異界の英雄と言えどこちらも国を守護する女神、土俵はほぼ同じ、それを崩せる何かを……決定的な一打に繋がる一手を……!

 

 

 

「………そろそろ出番か!」

 

 

 

声が聞こえた。

まるで静寂に包まれた静寂を切り裂く雷鳴のように、力強く響き渡る声。

そしてそれを合図にしたかのように体に僅かに駆けるピリピリとした微かな静電気のような感覚。

どこかで感じたことのあるこの感覚……そう、これは最初にランスロットと遭遇した時にも感じた……。

 

「助太刀するぜガールズ? ヒーローってのは遅れてやってくるってもんだ……さあ、決着つけようぜ、ブラックナイト」

 

天が猛る、僅かな光を纏いながら黒雲から稲妻が地に落ちた。

 

咄嗟に離れたグリーンハートとランスロット、地に落ちた稲妻の中に立つ筋骨隆々のその影……彼を、パープルハートは知っている。

あの時も自分たちを助けてくれた、黄金の英雄……雷鳴と共に現れた豪傑の戦士。

 

「他人の土俵で喧嘩をするならまだしも、女の子に手を出すのは……ゴールデンじゃねぇなぁ!!」

 

その名を、坂田金時。 己をゴールデンと名乗る強力無比な戦士。

あの時と同じ、雷鳴を共にしながら現れたその戦士はその剛腕に巨大な斧を持ち、軽々と肩に担ぎながら颯爽と現れた。

 

「あ、あなた……生きて……」

 

「オレっちがそんな簡単に死ぬわけねぇじゃん? なんせ、こっちはゴールデンだからな! こういう出番の問いのために一服してたのさ」

 

「そのゴールデンにいったいどのような理由があるのかはわかりませんが……」

 

「話しはとにかく後にしな、あんたらこのまま長期戦って訳にもいかねぇんだろ? 分かるぜ、だから手を貸しに来たんだ、遠慮なく使え、オレはとにかく喧嘩にゃあ強い……速攻で型をつけて、ゴールデンに終わらせてやろうじゃん!」

 

かなり型破りな援軍ではある、だが今の状況に苦戦を強いられていたパープルハートにとって彼はこの上ない援軍、待ちわびていた最後の一手に相応しい存在だった。

彼の力と自分たちの力が合わされば、この戦いに蹴りをつけることが出来る。

 

「……ええ、なら、頼りにさせて貰うわ、あなたの力その最大級の物をぶつけて、ベールと私がそれに続くわ」

 

「切り込み役か、任せろ、そういうの大得意じゃん!」

 

パープルハートの指示を受け、金時が……ゴールデンが早速とばかりにランスロットに向き直る。

肩に担いだ斧を振りかぶり、その屈強な肉体、およそ人間には到達できなさそうな力強いその体に力を溜めこんでいく。

それを見て、ランスロットもまた得物の剣を構える。

 

「……さあ、ゴールデンにクライマックスと行こうぜぇ!!」

 

地面を抉るほどの跳躍、まさに天まで届くとはこのことかあまりにも大きく跳躍した金時がその斧に雷鳴の力を溜めこむ。

その斧の刃は黄金に輝き、光る稲光を纏いながら黒雲の中で明るく光、その存在を知らしめる。

そして、次の瞬間、その斧の一撃は金時の雷もかくやという方向と共に地面に向かって振り下ろされた。

 

 

 

「吹き飛べ! 必殺!! “黄金衝撃(ゴールデンスパーク)”!!」

 

 

 

ランスロットが反撃に繰り出した剣に漆黒の魔力を込めた斬撃、その一撃とぶつかっても尚、それを飲み込まんばかりの衝撃と共に振り下ろされた一撃。

地面を揺らし、大地を揺らし、空間を揺らし、ゲイムギョウ界が震えた気がする。

稲妻と共に落ちたその衝撃を受け、苦戦を強いられていた狂戦士が……ランスロットが大きく怯んだ。

斬撃を繰り出して幾分かの防御には成功していた様だがそれでも今の一撃は防ぎきれるような代物ではなかったらしい。

 

チャンスは今しかない……!

 

「ベール!!」

 

「いい加減決めますわよ!!」

 

その一瞬を逃さない、紫と緑の一閃が空を駆け、まっすぐにランスロットに向かっていく。

怯んだこの狂戦士に打ち込む最大級の決め手、この隙を作ってくれた英雄……ゴールデンに負けない、自分たちの最大の一撃を此処に叩きこむ。

 

グリーンハートが自身の周囲に竜巻を纏った無数の槍を作り出し、パープルハートは刀に紫電のエネルギーを纏わせた。

 

雷の後に振る風と雨の如く、グリーンハートはランスロットに向けてその槍を打ち込みにかかった。

 

 

 

「インヴィトゥイーン・スピア!!」

 

 

 

シェアエネルギーによって作り出された旋風の槍、黄金の一撃を受けて反応が遅れたランスロットは数本を奪った槍で弾くものの、反応が追い付かずに数本をその体に受けた。

大きく揺れる漆黒の鎧、そこに間髪入れずに………。

 

 

 

「これで……終わりにするわ! デルタスラッシュ!!」

 

 

 

雨風を巻き起こす黒雲を切り裂き、そこに太陽の光を呼び込むかのように……紫電の斬撃がランスロットの体を斬り裂いた。

一瞬にして三連撃を叩きこむパープルハートの剣技、立て続けに受けた強力な攻撃にランスロットの被っていた兜にひびが入ると……まるでその狂気の役目を終えたというかのように砕け散った。

 

 

 

 

 

「………王……よ………どうか………お許しを………」

 

 

 

 

 

先程までの怒りが嘘かのように、まるで赦しを乞うように……虚空に手を伸ばしながら………漆黒の狂戦士は倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えろ、消えろ、消えろ。

邪魔な光を、目障りな光を掻き消そうと復讐者が腕の瞳を開いて破滅の閃光を放つ。

こちらに近づいてくる機械仕掛けの騎馬に乗って駆け抜けてきている二人の戦士に向けて、鮮血の光が降り注ぎ、それが地面に落ちると激しい爆音と煙を立てる。

 

だが、それを物ともせずに二人の戦士は止まることなくまっすぐ復讐者へと向かっていく、剣が幾つも突き立てられた大地を機械の蹄を鳴らしながら恐れることを知らずに……。

 

この機械馬にまたがるクロス・ヴィクトリーはこの馬がなぜ現れたのか、自身の中に宿った英霊とどのような関係にあるのかを姿を変えたことで理解することが出来た。

この騎馬は今の姿となった自分のもう一つの宝具として展開された物、自身を援護する強力な相棒ともいえる存在であること。

本来なら、この馬はセイバーとしてのかの騎士王ではなく、持っている武器の真価を最大限に発揮する“ランサーとしての騎士王”と共に現れるが、一刻も早く、目前の敵の所に辿り着くという意思に答えるかのように現れた。

 

この馬の名前を自分は知っている、本来よりも機械染みた姿になっているが自分の中にいる騎士王が教えてくれている。

 

「行くぞ……“勝利へ向かう騎士王の騎馬(ドゥン・スタリオン)”!!」

 

所謂“疑似宝具”というのか、本来の物とは違う英霊を宿した自分に与えられた力の一つ、頼れる相棒としてこの騎馬を信じ、彼は走る。

その背に共に戦う弓兵を乗せて。

 

「次が来るぞ! 先程より弾幕の数を増やすつもりのようだ、魔力が大きくなっている!」

 

「アーチャー先輩、迎え撃つのお願いできますか!」

 

「ふっ、応えて見せよう………!」

 

放たれた鮮血の閃光、先程よりも多いその閃光をエミヤは捉えると手を翳して周囲の空間にいくつもの剣を投影する。

そして迫りくる閃光に向けてその剣たちを放ち、ぶつけることで対抗、何とか直撃は避けようと自身の主を援護する。

 

「百発百中とは言わない、そのためマスター自信も努力してもらうぞ」

 

「重々承知!!」

 

閃光と剣の押収、ぶつかり、炸裂し、空間を震わせる。

果てのない剣の荒野に立つ復讐者と、それに挑む主と弓兵の距離はどんどんと縮まっていた。

苛立ちを感じざるを得ない復讐者は変化させた右腕を動かし、それをクロス・ヴィクトリー達に向けて振りかぶり、突きだした。

 

「お前達にわかるはずもない! 異界から来たお前達にこの世界に秘められた、歴史から消されたオレのような存在を! 黒歴史を!! ぬぐえない過去の汚れをなかったことにすることなど!!」

 

大蛇の様に向っていくその腕は途中、拡散する散弾のように分裂し四方八方から彼ら目がけて剣山の如く鋭く形を変えて襲い掛かる。

二人はそれを手に持った聖剣と夫婦剣を使い、弾き返しながら進み続ける。

 

「それ故に生まれた、世界の苦しみ声など!! 分かるはずもないさ!!」

 

「あぁ、わからないさ、今は確かにな……だが、それでも!!」

 

刀身に風が集まり、その一斉と共にまるで大砲の如く撃ちだされる。

向かってくる無数の攻撃を薙ぎ払うかのようなその一撃、針の壁のような目前の復讐者の攻撃に風穴を開けると、その子を騎馬を使って真っすぐに駆け抜けていく。

 

「この世界に生きる人を、その世界の黒歴史で塗りつぶす理由なんてない!!」

 

「のうのうと生きている人間に、見て見ぬふりをし続けろというのか!!」

 

「違う!! お前の勝手な恨みを押し付けるな!!」

 

復讐者が怒りに任せたかのように腕を振り下ろす、騎馬を操りその一撃を横に動くことで回避したクロス・ヴィクトリーはドゥン・スタリオンをより早く走らせ、その距離をその間に一気に縮める。

 

「その世界に生きる人は、未来を創る人達だ! そして過去の汚れから目を背けるんじゃない、その過程でいつか向き合っていくこともできる!!」

 

「何を根拠に!!」

 

「お前こそ! 自分が生きた世界の人々を、一度は受け入れてたんじゃないのか! 歴史を作ったから、黒歴史が出来たんじゃないのか!」

 

「っ!」

 

復讐者が僅かに動揺を見せた。

その隙を見逃さず、クロス・ヴィクトリーは騎馬の背から飛び出した。

黄金に光り輝く聖剣の柄を握り、復讐者へ向けてその一撃を振り下ろす。

 

―――ガキィン!

 

硬く、鋭く、甲高い金属質の衝突音がした。

復讐者が自分の腕を変質させ、鋭い刃のようにして迎え撃ったのだ。

だが、それでも彼は止まらず手に持った聖剣を構え、復讐者に挑むべくその刃を振るう。

 

「俺はお前がどんな黒歴史なのかは知らない! どうあってそれを拭えばいいのかわからない! ただ、それでも! 目を反らし続けようとは思わない!」

 

黄金の光と共に刃の軌跡が空を斬り、復讐者を捉える。

復讐者の腕もそれを弾かんと腕を振るい、反撃を繰り出す。

 

「だから俺はここで終わらせない、お前を倒していつかその黒歴史も……この世界のみんなと一緒に、拭って見せる!!」

 

ありったけの想いを聖剣に込めて、その思いに呼応するかのように聖剣の光が強くなる。

徐々に押され始めた復讐者、この短時間でここまで力を上げるのは英霊を宿したからなのか……いや、それだけではないはずだ。

この力は、まるで彼の気持ちにこたえるかのように徐々にその力を増していく。

 

(………こいつの勝利への想いに答えて、力を増すというのか!)

 

終わらせない、いつかの未来でその黒歴史を拭うためにも、ここで勝つ。

 

その思いを糧にこの姿はその能力をどんどん上昇させている。

かの騎士王が持つ聖剣、その名に恥じぬ勝利をつかみ取るという力になぞらえたものとでも言おうか…。

 

復讐者の腕を弾くように光を纏った聖剣が横薙ぎに繰り出される、重く、すべてを薙ぎ払う暴風の様な一撃に復讐者の身体が僅かに後退する。

こんなはずではない、その様な思いを持つ者に自分が破れるわけにはいかない。

 

もう己を止められない、この復讐は止まるわけにはいかない。

 

怒りと共に復讐者は大きく後ろに跳び退り、地面に着地するとその腕をクロス。ヴィクトリーに向け、その腕の先に全ての魔力を込め、大木のような太さへと変化させるとそれをまっすぐにクロス・ヴィクトリーへと向けて放つ。

受け止めればただでは済まない一撃、回避をしようにもよけきれそうな距離や大きさではない。

 

だが、クロス・ヴィクトリーは恐れず、怯むこともなかった。

 

 

信頼できる、仲間がいるから。

 

 

 

「マスター!!」

 

 

 

仲間の声が聞こえる、それに答えようとクロス・ヴィクトリーがそも手を強く握りしめて言い放った。

 

 

 

「令呪を持って命ずる!! 我が弓兵に、目前の敵を薙ぎ払う力を!!」

 

 

 

サーヴァントに無類の力と絶対的な命令権を与えることのできる令呪、それを使い、背後から向ってくるアーチャーに魔力を送り込む。

そして、それを糧にして彼は弓を持つと、そこに一振りの剣をつがえ一矢と変え、クロス・ヴィクトリーに向かってくる復讐者の一撃目がけて放った。

 

空間を貫くかのような勢いで飛んでいくその一矢、迫りくる巨木のような攻撃がクロス・ヴィクトリーにぶつかる直前、そこに風穴を開けるかのように巨大な穴を穿った。

本来の彼が放つ弓の一撃ではこうも行くことはないだろう、だがそれを可能にしたのは英霊をその身に宿したクロス・ヴィクトリーだからこそできたこと。

令呪に乗せられた強大な魔力、すべてを薙ぎ払う一矢となったその一撃は見事に主に迫る脅威を撃ち払って見せた。

 

「バカな……っ!?」

 

「切り札は、最後まで残しておくものだ………さて、勝負ありだ復讐者よ」

 

「………まぁだだ!!」

 

忠告するエミヤ、それを振り払うかのように復讐者は猛る。

もう片方の腕を天に掲げると、そこに見覚えのある青白い炎とどす黒い光が集まっていく。

あれは間違いない、青白い炎は復讐者が取り込んだエドモン・ダンテスの恩讐の炎だ。

 

 

「………消えろ………すべて! なにもかも!」

 

 

どうやらあの一撃を持ってすべてを薙ぎ払うつもりらしい、どんどん風船のように膨れ上がっていくその魔力の塊を前に並び立ったクロス・ヴィクトリーとエミヤは互いの武器を強く握る。

さすがにあの量の魔力が込められた一撃を先程のように薙ぎ払えるかというとそうはいかない……。

何とかしのぎ切ったとしても大ダメージは免れないだろう……。

 

「………行くぜ、先輩」

 

「………無茶を言う………だが、応えよう」

 

だが、諦めるつもりは二人には毛頭なかった。

 

クロス・ヴィクトリーが手に持った聖剣を構える。

そして令呪が刻印された手を強く握って隣に立つエミヤにもその力を送り込む。

 

 

 

「令呪を持って命ずる、守護者たる我が弓兵に栄光ある勝利の輝きを……」

 

 

 

令呪の魔力がエミヤに宿る、それを感じ取った彼は弓を魔力の粒へと戻すと……その手に一振りの剣を投影する。

それは刀身が黄金に光る、一振りの聖剣。

かつてこことは違う場所で彼が相対し、今まさに横に立つ主の中に宿る、一人の騎士の王が持っていた……聖剣……。

 

この局面でこれを選んだのはこの一撃を持って勝利を決めるならば、これが最適と判断したのかもしれない。

 

エミヤはふと口元にニヒルな微笑みを浮かべるとその剣に自身の両手を添えた。

 

そして、その隣に立つクロス・ヴィクトリーも最大の一撃を放つ準備に入る。

 

 

 

「重ねて令呪を持って、我が肉体に命ずる! 我に未来への希望を切り開く勝利の輝きを!!」

 

 

 

その魔力を、自分の中に宿る英霊……騎士王の力へと直結させる。

両手で握る聖剣がより一層の輝きを見せた。

まるで夜空を切り開く、一筋の流れ星のように……。

 

総ての絶望を切り開くその光が、目前で膨らむ絶望の塊を薙ぎ払わんとその力を増していく。

 

「これで、消え去れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」

 

放たれた漆黒の塊、青白い炎を纏ったそれがまっすぐに二人へと向かってくる。

 

 

 

「……束ねるは星の息吹……」

 

 

 

だが、恐れはしない……。

 

 

 

「輝ける……生命の本流……」

 

 

 

その手に宿した勝利の輝き、それがあれば………負ける気がしなかった。

 

 

 

「絶望を越えし、勝利へ……!!」

 

 

 

二人が振りかぶる、目前の絶望を……世界を飲み込む怨嗟を、薙ぎ払うために……。

 

 

 

「―――“確定された 勝利の剣(エクスカリバー・ヴィクトリー)”!!」

 

 

 

振り下ろされた黄金の輝き、隣に立つエミヤと同時に放ったその一撃が迫りくる黒い絶望に向かっていく。

やがてそれらはぶつかり合い、激しく互いを押し返さんと均衡を見せる。

絶望か、希望か、互いの秘められた思いを乗せて……。

 

 

 

「行っ………けぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

吠える、その願いを後押しするように、クロス・ヴィクトリーが吠える。

絶望に飲み込まれまいとするその心、その輝き、両手で握ったその聖剣の輝きに、自分のありったけの思いを込める。

 

 

 

そして、その直後……ふと、自身の背中に暖かな、それでいて力がみなぎるような何かを感じた。

 

 

 

 

 

「っ!? なんだと………っ! なぜ、“お前”が! お前はあいつが、消したはず……!? くっ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、希望を切り開く勝利の光が………絶望を、斬り裂いた。

 




如何でしたか?

これにて、決着!
次回はエピローグ、首を長くしてお待ちください…。

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