超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ! 作:白宇宙
今回のお話のテーマは“雨宿り”!
ネプギアとの何気ない日常の一ページ、ほんわかとしてどこか暖かいお話をどうぞお楽しみください!
それでは、どうぞ!
ネプギアと雨宿り
雨、それは冷たく、世の中を潤す恵みの水。
しかし、それは時としてあまり好ましくない物になる。
洗濯物は乾かないし、外に出るのは億劫になるし、何より傘を忘れてる状況で降られたらもう最悪だ。
遮るものがない故に上から降ってくる水滴は容赦無く降り注いでくる。
そして、その時の雨粒は一際に冷たく感じるものだ。
そんな時、人はどうするか…。
誰しも降り注いでくる雨粒を避けるために屋根のあるところに避難するだろう。
そう、“雨宿り”である。
これは、ゲイムギョウ界に雨が降って来た日のとある一日の出来事である。
「もう、なんで急に降ってくるの~!?」
突然プラネテューヌの街に淀んだ灰色の雲が現れ、雲はそのまま雨粒を街へと落とし始めた。
ざー、という音とともにあたりが水浸しになって行く。
その中を一人の少女が慌てた様子で走り抜けていった。
「急に雨が降ってくるなんて……ちゃんと今朝の天気予報見ておけばよかった~!」
ピンクに近いパープルの長髪が特徴的な少女、この国、プラネテューヌの女神候補生の“ネプギア”は不運なことに傘を持っていない時に突然雨に降られてしまった。
今朝から曇り空だったのはわかっていたが、その時は雨は降ってなかったので荷物になるし傘はいらないか、と判断し出かけたのが痛手となってしまった。
急に降って来た雨に、ネプギアは慌てて雨宿りできそうな場所を探しながらプラネテューヌの街を走り抜ける。
「教会はまだ遠いし、何処かに雨宿りしないと……あっ」
雨が止むまでなんとか凌げる場所がないか、ネプギアが走りながら辺りを見渡していると、少し先に公園があるのが見えた。
そして、その公園の中には幸いに屋根付きのベンチがあった。
「よかった! ひとまずあそこで雨宿りしよう」
見つけるや否や、ネプギアはすぐさま公園の中に飛び込むように入り、屋根付きベンチの下へと直行した。
まだ真新しさが残る作りのベンチは屋根があるおかげで雨に濡れてはいなかった。
ネプギアは屋根の下で雨のせいで濡れてしまった衣服を気にする。
「早くに見つけられてよかった、そこまでびしょびしょになってないや」
幸いにも降ってきてからそれほど時間が経過していなかったのもあり、彼女が来ていたセーラー服とワンピースを足したような服はそれほど濡れてはいなかった。
もしこの公園を見つけなければ全身びしょ濡れになって教会に戻っていたことだろう。
しかし、雨宿りできても問題が残っている。
「……この調子だとすぐに止みそうにないよね……どうしよう」
安全地帯に避難出来たとはいえ、今だに問題の雨はその勢いを抑えることなく水の粒を休めることなく降らし続けている。
またこの中に飛び込んで行くつもりは流石に起こらないネプギアはこれからどうしたものかと考えを巡らせる。
すると、しばらくして。
「あ、そうだ! こういう時こそNギアの出番!」
彼女の頭にぴこん、と電球が閃いた。
“Nギア”というのは主にプラネテューヌで使われている通信端末のことである。
彼女はNギアで教会に連絡して誰かに傘を持って来てもらおうと考えたのだ。
そうと決まればとネプギアは右足に巻いているNギア用のレッグホルダーへと手を伸ばす。
「とりあえずお姉ちゃんか宗谷さんに電話を……あれ?」
しかし、ホルダーの中に手を入れても、目的の物が掴めなかった。
「な、ない! Nギアがない!」
ホルダーの中には何も入っていなかった。
一体どういうして…。
ネプギアが必死に思考を巡らせる。
ここに来る道中で落としたのか? いや、ホルダーはきっちり閉じていたし入っていたとして落とすことはまずない、このホルダーはネプギアがそれを懸念して選んだ特注品なのだから。
では、誰かに盗まれた?
いや、それも考えにくい、ホルダーはネプギアの右足の太ももに巻かれているためスリで盗むとしてもまず邪魔なスカートをなんとかしなければいけない、そうなればまず盗む前に否が応でも気づくし、盗みで捕まえるよりも先に痴漢で捕まえることができる。
ということはつまり……。
「もしかして……教会において来ちゃった?」
なんというタイミングの悪さ、こういう時に限ってNギアを忘れるとは……。
「うぅ……なんだか今日はついてない」
天気予報を見忘れて雨に振られた上に、Nギアを教会に置いてきて誰にも助けを求められない。
タイミングの悪さを呪うようにネプギアはため息をついた。
「どうしよう……心なしかどんどん勢いが増していってる気がするし」
公園、街、果てはプラネテューヌ全体に降っているであろう雨を眺めながら悩ましげに呟く。
しかし、だからと言って雨が収まってくれるわけではない。
彼女の呟きのとおり、雨足は先程よりも強くなっているようだ。
「……もし止まなかったらどうしよう」
耳を打つ雨音を聞いているとそんなことを考えてしまう。
まるで世界から孤立したように身動きが取れない状態のネプギア。
通信手段は絶たれ、この雨の中を移動する手段を持ち合わせていない彼女は、心なしか寂しさを感じてしまっていた。
「お姉ちゃん……アイエフさん……コンパさん……いーすんさん………宗谷さん……」
そんな寂しさを紛らわせようとしてか、無意識にネプギアが教会にいるであろう家族同然の仲間たちの名を呟いていると……。
「………?」
ふとネプギアはあることに気づいた。
降りしきる雨の中を誰かがこっちに向かって走ってきているのだ。
どうやら自分と同じで傘を忘れたのであろうその人物は両手で頭をガードするような体制のまま雨が降っている中を必死になって走ってきている。
その様子を見てネプギアは…。
(あの人も傘を忘れちゃったのかな? ……私と一緒だなって思ったら、なんだか安心しちゃうのはなんでだろう?)
妙なシンパシーを感じたことを不思議に感じながらその人物のことを見つめていた。
それにしても自分と同じでこの雨で傘を忘れて雨宿りをしようとしてるあの人物はどんな人なのだろうか?
ふとネプギアがこちらに向かってきている誰かに興味を感じて目を凝らす。
その人物は黒髪で上半身に白のシャツを着て黒のジャケットを羽織り、下半身にはジーパンを履いていた。
「あれ? どこかでみたような…」
その服装にどこか見覚えを感じたネプギアは首を傾げる。
「おいおい勘弁してくれよ…なんで傘忘れた時に限って降ってくるかな」
降りしきる雨粒の中で愚痴をこぼしながら走ってきた人物の姿を見た時ネプギアは見覚えのあるその人物が自分にとって馴染みの人物であるということに気づいた。
「え、宗谷さん?」
「あれ、ネプギアか?」
雨の中を走って来ていたのは、現在教会に住み込みで教祖補佐として働いている、宗谷だった。
彼と合流したことに驚くネプギアだが、宗谷も咄嗟に飛び込んだ雨宿り先にネプギアがいたことに驚いているようだった。
「どうしたんだよネプギア、どうしてこんな公園にいるんだ?」
「雨が降って来て雨宿りを……そういう宗谷さんも、なんでこんなところに?」
「雨が降って来て傘忘れたから雨宿りに……」
雨に濡れたジャケットを気にしながらそう答えた宗谷。
どうやら、というよりやはり目的はネプギアと一緒だったらしい。
「なんだ、宗谷さんも傘忘れてたんですね」
「ああ、まったく油断したぜ、まさかいきなり降ってくるなんて思ってもみなかったからな」
宗谷は先程のネプギアと同じように屋根の外で降りしきる雨を見てうんざりしたような表情を浮かべる。
どうやら今日は二人ともついていなかったようだ。
「ネプギアはクエストの帰りか?」
「はい、そんなところです。 そういう宗谷さんは今日はお仕事お休みだったんじゃ?」
「ん? あー、プライベートってやつだよ……ただの買い物だ」
そう言うと宗谷はネプギアに右手に持っていた濃い色のビニール袋を見せる。
彼は買い物の帰りだったらしい。
彼が買ったのであろう何かが入ったビニール袋をベンチの上に置いて宗谷はため息をつきながらビニール袋の隣に座った。
「天気予報、ちゃんと見とけばよかったな」
「ですね…」
さっき、自分も似たような愚痴をこぼしていたなと思いながらネプギアは宗谷と共に雨が降るプラネテューヌの街を眺める。
だが、その表情は先程まで浮かべていた憂鬱そうなものではなく、どこか安心したような安らかな表情を浮かべていた。
この時、ネプギアが先程まで感じていた心細さは不思議なことにいつの間にかなくなっていた。
いっこうに止む様子を見せない雨、勢いを保ったまま降り続く雨を宗谷とネプギアは屋根付きベンチの屋根の下で眺めていた。
「……どうしたもんかな」
「……傘、ありませんから帰るに帰れませんしね」
困った表情を浮かべる二人。
互いに傘を忘れてしまったので無い物ねだりをするかのように先程からこんなことを呟いている。
「せめて、誰かが傘を持ってここに迎えに来てくれたらいいんだけどな」
あまりにも都合のいい解決法を宗谷がなんとなしに言った。
「確かにこの状況だと、それが一番なんですけど、そんな都合のいいことそんな簡単には起きないですよ」
傘を忘れたうえに通信手段のNギアを家に忘れてきたネプギアが苦笑いを浮かべながら宗谷の言葉に返答を返した。
確かにこの状況だと、誰かに迎えに来てもらうのが最善のことなのだが世の中そう簡単にはいかないのである。
Nギア以外の通信手段があればもうとっくに使ってるはずなのだから。
「………あ」
その時、ネプギアの脳裏に閃きが走った。
「……Nギア以外の通信手段……そうだ、ある…ありますよ!」
「ど、どうしたネプギア? そんなにテンション上げて何かあったのか?」
自身の閃きに気分を高揚させるネプギアに宗谷が首を傾げる。
それに対してネプギアは意気揚々と宗谷に向き直った。
「“ブイホ”ですよブイホ! 宗谷さんのブイホがあるじゃないですか!」
「……おぉ!」
ネプギアの提案に宗谷もなるほどと手をぽんと叩いた。
“ブイホ”とは宗谷が持つある特殊な力を秘めたスマホ型の特殊デバイス、“V.phone”のことである。
宗谷の持つV.phoneなら、教会と連絡することができる。
これで教会にいる誰かに連絡すれば場所を教えて迎えに来てもらうことができる、とネプギアは考えたのだ。
まさに天の助け、宗谷と合流出来て良かったとネプギアは胸を撫で下ろした。
「そうかその手があった、なんで早く気づかなかったんだろ! よっしゃ、さっそくいつでもいーすんでいーすんに連絡を……」
これで一件落着する。
宗谷がネプギアの提案に従い、ポケットから赤い装飾が目立つスマートフォン型のデバイスV.phoneを取り出して起動スイッチを押す。
どうやら彼はネプギアのように本体を忘れて来ることはなかったようだ。
そして宗谷は意気揚々とタッチパネルを操作しようと指を出す。
「………あ」
しかし、ここで宗谷がなぜか嫌な声を上げた。
心なしか表情もさっきまでの意気揚々としたものとは違った表情になっている。
「え? 宗谷さん、どうかしたんですか?」
「………忘れてた」
「忘れてたって……ちゃんとブイホは宗谷さんが持ってるじゃないですか」
宗谷の発言にネプギアが彼の手元を指差して返答する。
だが宗谷は違う違うと言いたげに首を左右に振る。
「いや、そうじゃなくて………忘れてた……充電」
「………え?」
「……昨日の夜、充電するの忘れてたことを忘れててさ、そんで起動したら………まさに今、充電が切れた」
「………え~………」
予想してなかったまさかの自体にネプギアはなんとも言い難い表情を浮かべる。
というか、V.phoneが充電式だと初めて知った。
こうして、結局通信手段は絶たれたままとなってしまった。
「………止まないな」
「………そうですね」
どうしてこうもタイミングが悪いのか、ネプギアはそんなことを考えながら宗谷と共に再び雨が降るプラネテューヌの街へと目を向けるのだった。
「………暇だな」
億劫とした雰囲気で宗谷がふと呟く。
雨宿りをしている以上、この屋根の外に行くわけにもいかずかと言って時間を潰せるような物は持っていない。
正直に言うとなにもせずにこの場で雨が止むのを待ち続けるのはひどく退屈と言えるものだった。
「確かにこの時間持て余しちゃいますよね」
「あー、せめてラノベの一冊くらい持っておけばよかったかなー…」
「雨に濡れてぐしょぐしょになっちゃいますよ?」
「それは何気に嫌だな」
苦笑いで宗谷に返答を返すネプギアに宗谷がそれもそうかと同意する。
しかし、退屈なのはネプギアも一緒だ。
時間を潰せるようなものはないし、かと言ってこの時間をどうにかできるような手段も持ち合わせていない。
どうしたものかと、ネプギアが考えていると……。
___ケロケロ…ケロケロ…
どこからともなくそんな声が聞こえて来た。
どうやら近くでカエルが鳴いているらしい。
自分達にとって憂鬱でしかない雨も彼らのような水を好む生き物にとってはこれ以上にない恵みの雨なようだ。
一定のペースで奏でられる鳴き声は何処と無く楽しそうな雰囲気を感じる。
「………ケロケロ~、ケロケロ~♪」
そんな雰囲気に誘われてか、ふとネプギアがカエルの鳴き真似をなんとなしに口ずさんだ。
「………カエルの鳴き真似か?」
「ハッ!?」
あまりにもボーとしていた上になんとなしに口ずさんだものだから宗谷に聞かれることを考慮していなかった。
彼に聞かれたことに気付いたネプギアは休息に顔を真っ赤にするとあわあわと両手を右往左往させ始める。
「ち、違うんです! これはその、あまりにも退屈でなんとなく…」
「あははっ、別に悪いことじゃないじゃねぇか、可愛かったぜ?」
「えっ……そんな……か、可愛いだなんて……!」
宗谷にとっては何気ないフォローのつもりだったのだろうが唐突に言われたその言葉にネプギアは湯気が出てもおかしくないほどに顔をさらに真っ赤にさせる。
「……急に、そんなこと言われても……反則ですよ……宗谷さんにはいーすんさんがいるのに……」
「ん? いーすんがどうかしたのか?」
「な、なんでもありません!」
不意にこぼしてしまった発言を慌てて訂正したネプギアに宗谷は首を傾げる。
まだこの二人はそういう関係でないのに、自分の失言で二人の中をややこしくさせるのは忍びない。
せっかく姉が彼らの仲を持とうと奮闘しているのに邪魔をする訳にはいかない。
ネプギアがふぅと胸を撫で下ろしたのを宗谷が不思議そうに見つめていると…。
「……ふやっ!?」
不意にネプギアが声を上げた。
何事かと宗谷がネプギアの方を向くと…。
___ケロケロ、ケロケロ
「あ、頭にカエルがぁ……!」
どこから来たのか一匹のカエルがネプギアの頭に乗っかっていた。
「や、や、や、やぁ~!?」
突然のカエルの襲撃に軽くパニックを起こすネプギア、さすがにネプギアだって女の子、カエルが直に頭に乗るのは嫌らしい。
「おいおい、さっきは鳴き真似してたのにそんなに慌てるか?」
「それとこれとは違います! イラストのカエルは大丈夫でもリアル調のカエルはダメなんです!」
「どんな基準!? ていうかリアルとイラストって大抵のカエルってリアル調だろ!?」
パニックになり不可思議な発言をするネプギア。
頭に乗ったカエルをなんとか振り払おうとしているようだが手で触れるのに若干の躊躇があるのかわたわたとせわしなく手が動くだけだ。
「う~……宗谷さん~……」
「……しゃあないな」
最終的にネプギアは宗谷に助けを求める。
宗谷はやれやれとベンチから立ち上がるとネプギアに近づいてネプギアの頭に乗っかっているカエルを手で追い払った。
「……あ」
その際に差し伸ばした宗谷の手が僅かな間だがネプギアの頭に乗り、まるでネプギアは頭を撫でられたような感覚を感じた。
「ほい、追っ払ったぞ」
「………」
「……ネプギア?」
「へっ!? あ、はい……ありがとうございます……」
不意打ち気味に頭に置かれた宗谷の手の感触に無意識のうちにぼーっと惚けるネプギア。
その様子に宗谷は首を傾げるが、ネプギアはなんでもないと両手を振って誤魔化す。
(宗谷さんの手……大きくて、なんだか暖かかったな……)
僅かに残る感覚にネプギアはふとそんなことを感じたという。
ふと足元を見ると宗谷によってネプギアの頭から追い払われたカエルは地面をぴょんぴょん飛びながら何処かへと去って行った。
それを確認したネプギアはほっと胸を撫で下ろす。
「もう……びっくりした」
「まったく…カエルでそこまでパニクるなんてな、ネプギアの意外な一面ってやつだな?」
「大抵の女の子はカエルが苦手なんですよ」
「まあ、例外もあると思うけど」
カエルが苦手な人もいればそうでない人だっている。
まあ、世の中にどれだけカエルが苦手でない女の子がいるかなんて数える気なんて起きはしないが…。
なにはともあれ突然のカエルの襲撃にあったネプギアだった。
さらに数十分、雨は一向に止む気配を見せない。
勢いを衰えさせる様子も見せず、雨足を強くして行く一方だ。
「こんなに降るとはな……どっかにウサギのパペットを持った精霊でもいるのか?」
「精霊? なんですかそれ?」
「あー、ただのネタだから、気にしないでくれ」
宗谷がふと自分の世界で読んでいた精霊をデレさせて救うという内容のラノベの登場人物の一人を思い浮かべる。
その登場人物を彷彿とさせる程に降り続ける雨、もうこのベンチで雨宿りを始めてどのくらい経過しただろうか…。
「……ところで宗谷さん」
ふとネプギアがベンチで呑気に欠伸をしていた宗谷に声をかけた。
「ん? どうした?」
「あの、ちょっと気になってたんですけど……宗谷さん、何を買って来たんですか?」
ネプギアはベンチに座る宗谷の隣に置いてある彼がプライベートで買って来たというビニール袋に入れられた何かを指差した。
「えっ!? あ、いや…べ、別にたいしたもんじゃないぞ? うん、ネプギアには関係ないものだ」
「……そう、ですか」
ネプギアが質問したのに対して妙にぎこちない返答を返した宗谷、なぜかその視線はあちこちに忙しなく動き回っている。
___……怪しい。
その一言に限る宗谷の態度にネプギアが目を細める。
しかし、これはあくまで宗谷のプライベートだ。
自分が詮索するのはお門違いではないだろうか…。
ネプギアがそんなことを考えていると…。
突然、辺りの景色が眩い光に包まれた。
____ゴロゴロゴロゴロ!!
そして、遅れて聞こえてきた激しい音、雷だ。
「ひゃぁあっ!?」
突然の雷に驚いたネプギアは咄嗟に頭を押さえてその場にしゃがみ込む。
「おぉ、今の結構近かったな…ネプギア、大丈夫か?」
「うぅ……カエルの次は雷なんて……もうやだ……」
両耳を塞いで怯えるネプギア、その姿に宗谷の脳裏にある考えが浮かんだ。
「………もしかしてネプギア、雷も苦手か?」
「………得意とは言えません」
「苦手なんだな」
ネプギアの返答に苦笑を浮かべる宗谷、意外にもしっかりものの女神候補生のネプギアには苦手な物が多いのだと彼は始めて知った。
しかし、ネプギアの様に雷が怖いをけではないが、雨が強くなっている上に雷までなり始めたら状況はさらに酷くなるのが目に見えている。
このまま帰られるのか宗谷は何気に心配になって来た。
「どうしたもんかな……」
困り果てる宗谷、すると景色が再び光に包まれる。
「ひっ!」
光が辺りを包んだことでネプギアが短い悲鳴を上げる。
そして、遅れて二回目の轟音。
「ふやぁぁぁぁぁああ!?」
「え、ちょっ! ね、ネプギア!?」
驚いたネプギアはその場で飛び上がりなぜかそのまま宗谷の方に飛び込んでくる。
突然のネプギアの行動に対応が遅れた宗谷はそのまま飛び込んできたネプギアを真正面から受け止め……。
「ぐえっ!?」
そのまま後ろ倒しにベンチから落下、したたかに背中を地面に打ち、さらにその上にネプギアが乗っかって腹部が圧迫される。
ネプギアがそれほど重くなかったからそれほどダメージにはならなかったが地味に痛い。
「ぁー……痛ぇ……おいネプギア、急に飛び込んで来る…」
自分の上に乗ったネプギアに向けて、宗谷がそう言いかけた途中、彼はネプギアの姿を見てその言葉を途中で止めた。
ふと自身の胸辺りに感じた柔らかい二つの感触…。
(な、なんか……柔らかいのが当たってる……これってもしかしなくても……!)
服越しでもしっかりと伝わるマシュマロの様なふんわりとした感覚。
間違いない、これはネプギアの程よい大きさの……。
(ネプギア……やっぱり、意外と……って、いかんいかんいかん!!)
それを理解した宗谷は一瞬夢中になりかけた己の思考を頭を左右に振って振り払う。
「お、おいネプギア? そろそろ降りてくれないか? そうでないと不健全的な意味合いでやばいことになりそうなんだけ……」
そこまで言いかけたところで宗谷がまた言葉を途中で止めた。
視線を下に向けたことで気づいたが、ネプギアから自身の体に僅かな振動が小刻みに伝わって来ている。
震えているのだ。
まるで怯える子猫の様にプルプルと震えている。
「………」
ネプテューヌと違って普段からしっかり者で姉を支えている妹のネプギア。
そんな彼女が小刻みに震えている。
そんな彼女の姿を見た宗谷は……。
「……大丈夫か?」
震えているネプギアの頭に手を置いて、優しく撫で始めた。
彼女が落ち着けるように優しく、柔らかに、静かな声音で彼女に話しかけながら数回彼女を撫でる。
すると、撫でられているネプギアがふと顔を上げて宗谷を上目遣いに見上げた。
「宗谷さん……」
「大丈夫、大丈夫だ、俺がついてるから、な?」
涙目になり不安そうな表情を浮かべるネプギアに宗谷は優しげな微笑みを向ける。
暖かな陽だまりの様な安心感のある宗谷の手の感触、そして自分を包み込む優しい感覚にネプギアは最初こそ不安を感じていたが……
「………すみません、ちょっとだけ……こうさせてもらっても、いいですか……?」
「………おう」
徐々に安らぎを感じ始め、少しの間寄り添う様に彼の胸に顔を埋めるのだった。
「あの、ごめんなさい……なんだか甘えちゃって……」
「気にするなよ、苦手なものがあるのは仕方ないことだって、カエル然り、雷然り、幽霊然り」
しばらくして、雷が落ち着き始めたころネプギアは、もう大丈夫、と宗谷から離れて少し気まずそうに開口一番、彼にそういった。
「それに、なんか懐かしい感じがしたからな」
「え?」
唐突に言った宗谷の一言にネプギアは首を傾げる。
すると、宗谷はどこか懐かしむ様な表情を浮かべた。
「俺が元の世界で、まだ施設にいた頃な、ネプギアと一緒で雷が苦手な奴がいたんだ」
施設、それはネプギアも彼自身の口から聞いたことのある彼の過去の話だ。
彼、天条 宗谷は生まれた頃から天涯孤独……捨て子だったのだ。
そのため彼は施設で育った。
彼の過去についてはネプギアも以前に聞いたことがある。
彼はどうやらその時のことを話している様だ。
「そいつもまだ小学生ってのもあってか雷が鳴ってた日はこうして俺か………俺と同い年の恵美の側に引っ付いてたんだ……なんか、そいつのこと思い出してな」
かつてのことを思い出して、そんなことを言う宗谷。
おそらく、その経験があったから彼女を落ち着かせることが出来たのではないだろうか。
ネプギアはふとそんなことを思った。
「……やっぱり、宗谷さんは優しいです」
「……?」
そして、ふとそう言うと彼女は穏やかな笑みを浮かべて宗谷に向き直る。
「やっぱり、宗谷さんは……優しい、お兄ちゃんですね……」
彼を兄という表現で呼ぶのは彼の誕生日パーティー以来だ、故にどこか小恥ずかしさを感じながらもネプギアは宗谷にそう告げた。
「………そうだったのかな?」
「そうですよ、だってさっきの宗谷さん……すごく……その、なんていうか……暖かくて、安心しましたから…」
「ははっ……なんだよそれ?」
なんて言ったらいいのかわからないが、端的に言うとそれが一番しっくり来る。
側にいると、安心して近くに居たくなってしまう。
不安な気持ちも柔らかく消して行ってしまう様な不思議な感覚はどこか姉のネプテューヌと一緒にいるときと似たような感覚だった。
いや、少し違う気もするのだが……今はこう表現した方が説明しやすい。
「きっと、それがお兄ちゃんってものなのかな………“宗谷お兄ちゃん”」
「………え? ネプギア、今なんて?」
「別に、なんでもありません」
安らかな微笑みで宗谷にそう言ったネプギアはそっと立ち上がりベンチの近くへと歩いて行った。
当の宗谷は呆然とその場に座ったまま、彼女のことをじっと見ている。
聞き間違いでなければ、彼女は今確かに……。
そんなことを頭の中で反復させて考える宗谷は、それに釣られてか口元に笑みを浮かべる。
「………お兄ちゃん、か………悪くないかもな……あの時みたいで」
かつて生活していた施設のことを思い浮かべながらそう呟く宗谷。
ネプギアは今の彼にとって、“妹”に近しい存在なのかもしれない…。
「あ、宗谷さん、これ落ちてますよ?」
不意にネプギアがそう言ってベンチの前でしゃがみ込んだ。
彼女の言葉に懐かしさを感じていた宗谷は彼女の足元へと視線を伸ばす。
「………あ!」
そこにあったのは、宗谷が先程買って来たという、ビニール袋で包まれた“プライベート”な何か…。
どうやら先程ネプギアが飛び込んで来た時に宗谷と一緒に地面に落ちていたようだ。
「…? なんだろうこれ」
しかも、ベンチから落ちた際にビニール袋からほんの少し顔を覗かせてしまっている。
それに気づいたネプギアは興味本位で中身へと手を伸ばす。
「ま、待てネプギア!」
宗谷が慌ててその手を止めようとするが………時既に遅し………。
ネプギアは地面に落ちていたそれを拾い上げ中身を見てしまったのだ。
可愛らしいイラストで描かれた女の子達がパッケージに“18禁"マークがあしらわれた大人なゲームを……。
そう、今日、宗谷はプライベートを利用して密かにエロゲーを購入しに行っていたのだ。
「………あ、あの、宗谷さん……このマークって」
「………」
「も、もしかしなくても……あれですよね? お、女の子と仲良くなって、あ、あんなこととかこんなことしちゃう……」
「………ネプギア」
すべてバレてしまったことに宗谷は真剣な顔つきになると、素早くその場に正座した。
「頼むからいーすんには言わないで! バレるといろいろとあれだから!」
そのまま宗谷は、ネプギアに見事な土下座をしてみせた。
さっきまでの優しいお兄ちゃん的な雰囲気は何処へやら、ネプギアはあまりのことに苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あははは……そ、そうは言われても………あ」
困惑するネプギアだったが、ここで彼女はふとあることに気づいた。
「宗谷さん、いつの間にか雨、止んでますよ」
「………あ、本当だ」
いつの間にか降っていた雨が止んでいた。
どうやら、雨は何処かへ行ってしまったらしい。
「………帰りましょうか、いーすんさんが心配しています」
「あ、あぁ……でもネプギア、そのゲームの事は……」
「………そうですねぇ」
帰った際にイストワールにバラされないか心配になった宗谷がネプギアに聞くとネプギアは珍しく、何処か悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「……今度、何処かへ遊びに連れて行ってくれたら、秘密にしてあげますよ? 宗谷お兄ちゃん?」
「え……? ていうか、ネプギア、お前また…」
「ほら、宗谷さん、早く帰りましょう?」
「あ、ちょっ、待てよネプギア!」
屋根付きベンチから飛び出したネプギアの後を宗谷が追いかける。
その姿はさながら兄妹のようにも見える気がする…。
そんな二人の頭上には……鮮やかな虹が青い空にかかっていた。
いかがでしたか?
何気ない日常のお話を書くのは以外と難しいです(汗
でも、書きたかったんです(笑)
それでは次回の短編もお楽しみに!