超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ! 作:白宇宙
何気なくファイルの整理をしていたら昔書いていたシンシアと……その思い人である、ソルヒートさん事、白銀の嵐Mk.2さんの所の主人公である”メテオ・ソルヒート”くんとの何気ない、もしもの日常を描いたお話があったのでそれを少し手を加えてこちらで乗せてみることにしました(笑)
えっと、必要以上にイチャイチャしてます。
出来る限りの甘めな空間を書いたのですが、それをうまく表現できているか不安を感じつつ……それでもいいよという方は見て行ってください(汗
それでは…
「ん……あぁ、もう朝か………?」
朝も早く、柔らかなベッドの上に寝ている青年に目覚めの時を知らせる様に陽光がカーテンで遮られた窓の間から刺し、薄暗かった部屋を照らす。
その光を閉じていた瞼から察知した青年は寝ぼけ眼をこすりながら一度、身を起こす。
天然パーマがかかっている髪は寝癖でさらに飛び跳ねているが、青年は一度きっちり目を覚ますべく窓を遮っているカーテンを開けて太陽の光を全身に浴びる。
「……いい朝だ」
青年、メテオ・ソルヒートの朝は早い。
予定していた時刻に起きて、いつも通りの日常を過ごすべく、彼は覚醒した体を動かして手早く着替えを済ませるとすぐに洗面台の方に向かった。
住み慣れたこの部屋の廊下を歩き、使い慣れた洗面台のある部屋まで行くと蛇口をひねり出てきた水でまず顔を洗い、すぐに歯を磨く。
そして、朝の支度を済ませた彼はいつものように朝食を作るべく台所へと向かった。
「っと……その前に……」
その途中、彼はある一室の前で足を止めた。
可愛らしいネームプレートが掲げられたそのドア、彼はいつものようにそのドアを数回ノックする。
「おーい、朝だぞ~、起きてるか~?」
二回のノックの後に呼びかける。
しかし、返答はない。
「こいつはいつものパターンだな」
彼はそう判断すると、仕方ないとドアノブを回して部屋の中へと入る。
カーテンを完全に閉めきって太陽の光を完全にシャットアウトして薄暗いままのその部屋。
メテオは途惑うことなくその部屋に入ると、その部屋の主の姿をベッドではなくパソコンとデジタルのイラストを描くために使用するための機具、ペンタブと呼ばれるものが備え付けられた机の上で発見した。
「やっぱり、また寝落ちしてたか……イラストレーターの仕事は大変なのはわかるけど、もう少し効率よくしないとだめだって言ってるのに……」
ため息をつきながら、メテオはその机に突っ伏して眠っているこの部屋の主を、“同居している自分の恋人”を起こす。
「ほら、起きろシンシア、朝だぞ」
「ん………あうぅ……ぅ?」
両手で彼女の体を揺すりながら呼びかけて、その人物はようやく目を覚ました。
白く透き通るような肌と輝く白髪、そして淡い紫色の瞳がゆっくりと開けられた瞳の間から覗く。
「………あ、おはよう……メテオ」
「おはよう、シンシア、また夜通し仕事してたのか?」
「ぅ………締切、間に合ったよ」
「そうか、そりゃよかった、でもあんまりぎりぎりなのは感心しないぞ?」
「ひぅ……ごめん……なさい」
「分かればよろしい、ほら? 朝飯にしようぜ? 今日は二人とも仕事は休みなんだし、一日楽しもうぜ?」
「………うん♪」
メテオの言葉に、彼女は頷くと寝ぼけ眼をこすりながら笑顔を浮かべた。
そう、彼女こそがメテオの恋人。
メテオが住む、このマンションの一室に居候し、絵師、所謂イラストレーターとしての仕事をこなしている、“シンシア。
今、メテオとシンシアは一つ屋根の下、同棲しているのだ。
二人が付き合いだして、もう一年近くになる。
一流のスタントマンとして活躍する彼、メテオ・ソルヒートと絵師のシンシア、一見するととてつもなく正反対な職業についている二人が出会ったのはほんの些細なことだった。
出会い、知り合って、関係を重ねていくうちに次第に二人は惹かれ合っていった。
そして、メテオから切り出したことで二人は晴れて恋人同士となり、今はこうして二人一緒に共同生活を送っている。
もっとも、家事全般はメテオが持ち切りなのだが…。
しかし、それも苦にならない、なぜなら………
「どうだ? 今日の目玉焼き」
「………うん、おいしいよ…」
「そうか、ならよかったぜ♪」
こうして彼女の笑顔が見れるのが何よりの幸せなのだから。
今朝の朝食はシンシアの好みに合わせた半熟の目玉焼きと簡単なサラダにトースト、彼女がトーストに塗ってあるイチゴジャムも、彼女の好みに合わせてメテオが作り上げた思考の一品(自称)である。
こうして愛する彼女のために料理を作るのは恋人として誇らしく思うし、とても安らぐ時間だと自分で感じているメテオ。
普通なら逆だと思うのだろうが、愛の形は人それぞれ、別に男が尽くして悪いことではないのだ。
彼は立派な主夫となりえるだろう。
「ごちそうさま…」
すると、いつの間にか彼女が先に食べ終わっていたのに今気づいた。
小さな口でもくもくと子リスのように食べ物を食べる姿を見ていたらいつのまにか自分が食べるのを忘れていたようだった。
それに気づいたメテオはすぐさま自分の分の食事を済ませ、空になったシンシアの食器と一緒に自分の食器も手早く片づけ始める。
すると、そんな時……。
「……あ、シンシア、ちょっと」
「え?」
メテオに呼び止められたシンシアは席を立とうとした体を止めて、彼へと目を向ける。
すると、突然彼の手が自分の方へと伸ばされ………。
「……口元、ジャムついてんぞ……」
「………あ」
彼の親指が、自分の口元を撫でた。
その僅かに触れられた瞬間、それがたった一瞬なのはわかっている……だがその一瞬が彼女の胸の動機を高めるのには、十分すぎる物だった。
どきどきと胸が鳴り、顔が熱くなる……。
こんなにも彼が近い……だからこそ、意識してしまう……好きな人に触れられているということを……。
「……? どうかしたのか?」
「あ………な、なんでもない……」
いつの間にか呆けていたらしいシンシアはメテオに言われ再び思考を戻すと、赤くなった頬を隠すように背を向ける。
それがどうしてなのかを理解していないのか、メテオは首を傾げながらその後姿を見つめるばかりだった。
「あの…メテオ……」
「ん? どうかしたのか?」
朝食を済ませ、食器の片付けも済ませたメテオにシンシアが近寄ってきた。
どうかしたのかと首を傾げるメテオに、シンシアはどこか恥ずかしそうに眼を泳がせながらもじもじとし始めた。
「えと………その………今日、メテオもお仕事……お休み……わたしも……お仕事終わったから…」
そう言うとシンシアはメテオの服の裾をきゅっと握った。
そして、自分よりも背丈の高いメテオを上目づかいに見上げた。
「……ひ、ひさしぶりに……一緒……だから……」
うまく言葉にできないのか、若干口ごもりながらも何かを伝えようとしてくる。
それをメテオは反射的に感じ取ると、微笑みを浮かべながらそっと彼女の頭に手を乗せて優しく撫でた。
おそらく、彼女はこう言いたいのだろうと考えながら…。
「今日は、一緒になにかしたい……か?」
「……ぅ!」
どうやら当たりだったらしい、シンシアはメテオがそう言った瞬間に目を輝かせて強めに頷いた。
「そうだな、ここ最近俺もシンシアも仕事で忙しかったしなぁ、せっかくの休みなんだしそうしようか?」
メテオの言葉にシンシアはさらに頷いて返答する。
しかし、それはそれでどうしたものかとメテオはここである問題を見つけてしまった。
本来なら、せっかくの休みだし、彼女とデートがセオリーだろう。
遊園地、ショッピング、映画、考える分には内容はより取り見取りなのだが……シンシアの場合は気軽にそう提案するわけにはいかない。
何故なら……。
「………シンシア、何処かに出かけるのは」
「ひぅっ………」
「………無理そうだな」
そう、シンシアは極度の人見知りなのだ。
しかも、ここ最近はイラストレーターの仕事に専念して数週間ほど外出してなかったので急に外に出ようものなら確実にシンシアは耐えられないのは目に見えて明らかだ。
実際に、現在彼女はメテオの提案を聞いて体をびくつかせて涙目になってしまっている。
「うぅ……ごめん、なさい……」
「いや、気にするなよ、また近場に買出しに行くときとかに一緒に来るとかして少しづつ馴れて行けばいいんだからさ、いきなり張り切る必要もないぜ?」
「……うん」
「………とは言ったものの、どうしたものかなこりゃ」
せっかくの休日だがシンシアの負担になるようなことは避けたい、どうにかしてシンシアも楽しめるような方法はないかと考えるメテオ。
家にいて二人で出来ることと言えば何か……。
顎に手を当て考え始めるメテオ。
「家で二人……二人きりか……」
「ふたり……きり……」
「………」
「………」
二人きりという言葉を交わしながら互いを見つめあう二人。
そう、このマンションの一室では今メテオとシンシアは同居中、しかし、仕事の都合などで一日中一緒ということは最近なかったのでなかなか新鮮な響きに聞こえてくる。
突き合っている恋人と、家で二人きり……。
その単語が浮かんだ瞬間、メテオとシンシアはどちらからともなく、互いに顔を真っ赤にしてふいに視線を逸らした。
(な、なんだろう……なんか、いつも以上に意識してしまう……)
(め、メテオと………今日は、ずっと……一緒……)
改めて相手を意識してしまった二人、顔を赤く染めたまま二人は黙り込んでしまう。
何とか話題を変えようとメテオが部屋の中を見回してなにかないかと探し始める。
すると、彼の目にある物が飛び込んできた。
テレビのあるリビングのテーブルの上に無造作に置かれた小さな袋だ。
「あ、そうだ! シンシア、これ」
「………? それ、なに?」
「昨日、仕事から帰ってくる途中に絵美に呼ばれてな、お勧めだからって貸してくれたDVDなんだけど…」
昨夜の事、自分の妹である絵美に呼び出されたメテオは彼女にこのDVDを手渡されたのだ。
『これでも見て、もう少しメテ兄も勉強しときなよ、せっかく可愛い彼女と同棲中なんだからさ!』
というメッセージと共にこれを手渡した妹の真意が何なのか定かではないが、丁度いいタイミングだった、何とか話題を作ることには成功した。
しかし、彼女はこのDVDで何を勉強しろというのか?
それが何なのか気になりつつ、メテオはシンシアにそう提案するとシンシアはメテオが差し出したDVDの入った袋を手に取り、中身を確認した。
すると、そのDVDのラベルを見た瞬間、シンシアの頬が先程と比べるとまだましだが僅かに赤くなった。
そして、すぐ、彼女の表情が微笑みへと変わった。
「……わたし……これ、見たい……」
「お、そうか、じゃあ、とりあえず一緒に見るか?」
「………うん!」
頷くや否や、シンシアはそのDVDを持ってテレビの前にしゃがみ、テレビの電源を入れた後HDDのトレイを開き、その中に数枚入っていたと思われるDVDの内の最初の一枚を入れて、トレイを戻した。
DVDを読み込んでいるHDDの駆動音を聞きながら、二人はテレビの前に置かれているソファに座り映像が流れるのを待つ。
一体何が始まるのか、メテオが興味を持ちながらテレビ画面を見ていると、暗転していた画面が明るくなり、映像が流れ始めた。
「………あれ、もしかしてこれって?」
その内容を見た時、メテオはあるジャンルのドラマを脳内に思い浮かべた。
そして、流れ始めたドラマのタイトルを見た時、その予想は確信へと変わった。
それは所謂、“恋愛ドラマ”だったのだ。
(こ、この状況でこれかぁ……いいタイミングなのか……?)
ふいに隣に座るシンシアに目をやると当のシンシアはドラマが流れ始めたテレビを興味津々に見ている。
「……シンシア、これ見たかったのか?」
その様子を見たメテオが彼女に聞くと、シンシアは小さくこくこくと頷いた。
「うん……すごく……」
「へぇ、そうなのか…」
ある意味シンシアにとってはいいタイミングだったようだ。
しかし、二人きりで恋愛ドラマを見るとなるとどうにも落ち着かない、しかも相手は付き合っている恋人だ、嫌が応にも意識してしまう。
だが、だからと言ってシンシアも楽しみにしているこの機会を無下にするわけにもいかない。
メテオは一度、気を落ち着かせるために深く深呼吸をするとシンシアと同じように画面に目を向けた。
「まさか、記憶喪失だった主人公が小さいころに一緒だったヒロインの幼馴染だったなんてな………」
数時間かけていつの間にかメテオはシンシアと共にそのドラマを一巻分見終えた。
予想外の展開に驚きつつ、メテオがそう呟くと、シンシアはメテオを見てこくりと頷いた。
「メテオ……どうだった?」
「あぁ、面白かったよ、べたで甘々な奴じゃなくて所々に切なさとか熱さとかがあって、いつの間にか見入ってたくらいだ」
「………そう……よかった」
メテオの感想を聞いたシンシアは微笑みながらそう言うと、安心したように胸を撫で下ろした。
「……メテオが……つまらなかったらどうしようって思ってた……」
「え?」
メテオの感想に対するシンシアの返答に、メテオは首を傾げた。
確かに最初こそ大丈夫か不安に感じるところこそあったが、実際には自分も意外と楽しんで見れたのに…。
「だって……メテオ……あんまりこういうの、見なさそうだし……わたしのお願いにしかたなくつきあってるんじゃないかなって……」
どこか不安そうに呟くシンシア、ソファの上に両足を置いて所謂三角座りという体制を取るとそっと隣のメテオを上目づかいにちらりと見上げた。
どうやら、彼女はメテオがあまりドラマに興味を持っていなかったらどうしようかと思っていたらしい。
確かにメテオは自分から恋愛物のドラマを見に行くような趣味はしていないのだが…。
メテオはため息を一つ吐くと、ソファの上に縮こまる様にしているシンシアの頭に手を乗せた。
「……ぁっ」
優しく、彼女の新雪のように白い髪を撫でる。
シンシアは最初は驚きはしたものの、その感触が嫌じゃなかったのか、目を細めると口元に微笑みを浮かべる。
「あのなシンシア、別にそんなこと気にしなくていいんだぞ?」
「………?」
「俺にとってはシンシアと何かをして楽しかったか、そうじゃないかってことよりも、シンシアと一緒に過ごすことが出来た時間そのものが大切なんだ」
付き合い始めて数か月、同居と言う形で生活を共にしてはいるがこうして二人きりでいる時間はメテオやシンシアにとっては貴重なのだ。
まだまだ二人にはやらなくちゃいけないこともある、互いの仕事もあるし、それぞれの事情だってある。
だからこそ、メテオはこうして他の事を気にすることなくシンシアと二人で過ごせるこの時間の一つ一つの出来事を大切に過ごしていきたいと思っているのだ。
「だから、俺はシンシアと一緒にいれるなら、どんなことでも楽しいし、嬉しいよ」
「………メテオ」
「それに、ドラマも面白かったからな! はやく続き見ようぜ?」
「………うん!」
メテオの言葉に、シンシアは嬉しそうに笑顔を浮かべて頷いた。
シンシアが頷いたのを確認したメテオは早速続きを見ようとDVDを入れ替えようとする。
「あ……ちょっと……待って……」
だが、不意にシンシアが立ち上がったメテオの服の裾を掴んだ。
「っと……なんだ? どうかしたのか、シンシア?」
振り向きながらメテオが問いかけると、シンシアはどこか恥ずかしそうに視線を右往左往させながら頬を赤く染めていた。
「………その前に……お願い、しても……いい?」
「ん? なんだ? どうかしたのか?」
「うん………ちょっと、したいことが……あるの」
その要求が何なのか、メテオは疑問に感じるところもあったのだが、シンシアのお願いを無下に扱うつもりはないし、彼はそのお願いを甘んじて受け入れることにした。
「………で、これは……どういう?」
まさかこんな状態になるとは思わなかったが……。
「………いや、だった……?」
「いや、そう言うわけじゃないけどさ……なんというか、慣れないなぁって」
今メテオはシンシアがきちんと座り直した状態の太ももの部分に頭を乗せて横になっている状態、所謂“膝枕”をシンシアにしてもらっていたのだ。
彼女曰く、ドラマの中にもこんなシーンがあったし、やったことがなかったからやってみたかったということらしい。
「あぅ……ごめんなさい……わがまま言って……」
「べ、別に謝らなくていいって、ちょっと気恥ずかしいけど……悪い気分じゃないしさ」
「………ほんとう?」
「本当」
シンシアの問いに率直な答えを返すと、彼女は安心したのか顔に優し気な笑みを浮かべた。
シンシアのどこか華奢だが、柔らかく、温かい太腿の感触を後頭部で感じながら下から彼女の顔を見上げるメテオ、そんな彼の頭を今度はシンシアがさっきメテオが彼女にやったように優しく撫でた。
「………メテオの髪……もふもふしてる……なんだか、ぬいぐるみみたい……」
「そ、そうか? 俺はコンプレックスなんだけどな……この髪」
長いことコンプレックスにしていた自分の特徴の一つともいえる天然パーマに対して、初めてそのようなことを言われたメテオは驚きつつも、どこかまんざらでもなさそうな表情を浮かべた。
「わたしは………好きだよ? メテオは、いやなの……?」
「……正直、あんまり気に入ってはいないけど……でも、そう言ってくれるのはうれしい、かも……」
恥ずかしそうに視線を逸らしたメテオの反応を、シンシアは可笑しく感じたのかくすりと小さく笑った。
「………メテオ……ちょっと、かわいかった……」
「か、からかうなよ……言われたことないんだから」
シンシアの言葉に戸惑うメテオ、そんな彼を上からじっと見つめるシンシア。
いつの間にか、二人の視線が合わさり、互いに見つめあう二人。
「………でも、そんなメテオも、好き………」
頬を朱に染めながら呟くようにそう言った言葉を、メテオは聞き逃さなかった。
シンシアはメテオののこと見つめながらまたポツリポツリと言葉をつづける。
「………メテオと出会えて……よかった……わたしは、あなたのおかげで変われたから……あなたと一緒に過ごせる今が、嬉しいし……幸せ……」
「………そうか………俺もだよ、シンシア……お前と出会えて、良かった……」
互いの気持ちを打ち明け、熱い視線を交わす二人。
時計が時を刻む音が鳴り響くほどの静寂の中、その空間はどこか温かくそれでいてとても満ち足りた空間だった。
メテオが起き上がり、シンシアと向き合う。
やがて、二人の顔が近づいていき、その距離がどんどんと縮まっていく……。
二人の唇があと数センチにも満たないほどに近づいて………。
互いの唇が重なり合った感覚は、一瞬のような、それでいてとても長いような不思議な時間だった。
互いの体温を近くに感じる、すぐそばに自分の愛する人がいる……その感覚が自分の中にある相手を思う気持ちにほんのりとした暖かさをくれる。
互いの唇を放した二人は頬を赤く染めながら、しばらく互いの事を見つめあい……そしてどちらからともなく目を反らした。
((………まともに見れない………))
それ程までに想っているからこそ、どこか恥ずかしくもなってしまうのだ。
愛している、そう伝えたい……けど、伝えたら伝えたですごく恥ずかしい物なのだ。
顔から火が出るのではないかと思えるほどに顔が熱い、相手の顔しか見れないからわからないがたぶん自分も負けない程に顔を赤くしているんだろう……そう思ったら尚更目を合わせずらくなってしまった……赤くなった自分の顔を見られるのが、どことなく恥ずかしいから……。
「………続き、見よっか………」
「あぁ………」
その後、一通りのDVD鑑賞を終えたシンシアとメテオの二人はドラマに対する感想を交えた談笑を交わしながら、先程のキスの事を時折思い返してはどちらからともなく顔を赤くしていた。
昼間の時間をDVD鑑賞に使い、食事も二人一緒に食べたシンシアとメテオ……時間は夜になった。
空はすっかり暗くなり、残された今日という時間はあと僅かになってきた。
明日はどんな予定を組んでいたかとメテオは考えながら自室に戻る。
夕食、そして早めに風呂を済ませた彼はスマホに記録してあったメモを起動しそれに目を通していく。
一応彼はスタントマンとして仕事をしている、確か明日は特撮番組関連のスーツアクターの仕事があったはずだと、彼が考えていると………。
―――コン、コン…
不意に彼の部屋を小さくノックする音が聞こえてきた。
「ん? シンシアか?」
ここにはメテオとシンシアの二人しか住んでいないため、自然とそう考えたメテオは彼女を出迎えようとドアに向かい扉を開ける。
そして、ドアを開けると……。
「……メテオ……いい?」
そこにはピンクのもこもことしたパジャマを身に着け、両手にすっぽりと枕を抱きかかえた状態でドアの前に立っている、シンシアがいた。
どこか恥ずかしそうにもじもじとした様子で問いかけるシンシアの姿は、なにやら小動物めいた愛らしさのような物を感じる。
「お、おう……別にいいけど、どうした?」
その姿に少し心を揺らがせながらも、メテオはシンシアになぜここに来たのかを問いかける。
すると、シンシアは枕に顔をうずめるようにして俯きながら、彼にしか聞こえないような小さな声量で言った。
「………一緒に………寝ていい?」
「っ!?」
本来二人は互いの仕事とか、プライベートもあるからということを考慮して部屋はそれぞれ別にしていた。
シンシアにはイラストレーターという趣味兼職業を行うための環境も必要とされるため、彼女が集中できるようにという配慮もあるためだ。
それはメテオも同じである、彼にも一人で集中したい時などが十分にある、体を酷使する彼には自身の体をケアするためにも整った環境を必要とするからだ。
だが、二人は今は恋人同士………時折、互いの事を求めてしまうのは致し方ない事とは思っているが……。
(……やっぱり、慣れないな……)
今現在のように同じベッドの中で身を寄せ合って寝ているというこの状況、それはメテオにとってはやはり緊張せずにはいられない物だった。
恋愛に関しては疎い部分があるというのは妹や周りの人物からさんざん言われているため、自覚はしている彼だからこそ、こういう状況での対処法が分からないのだ。
「………えっと、寝苦しく………ないか?」
「………平気」
彼女に背を向けた状態で問いかけると、程なくしてシンシアの返事が聞こえてくる。
好きな相手とこういう状況に陥った時どうすればいのか、わからないメテオにとってはとりあえず声を掛けるのが精いっぱいだった……。
そんな時だった………不意に、メテオの背中にシンシアの小さな体が寄り添ってきたのは……。
「っ!」
温かい……背中越しに感じる彼女の体温が、メテオに伝わってくる。
その感覚だけで、メテオの思考はさらにどうすればいいのかわからず平然を装ってはいる者の内心ではパニックになりかけていた。
「………明日から、忙しくなりそう?」
そんな中、シンシアが彼に問いかけてきた。
ぐちゃぐちゃになりかけている思考をなんとか落ち着かせながらもメテオはその問いに対する返答を何とか返そうとする。
「あ、あぁ、まあ……スーアクの撮影とかがな……シンシアは一応仕事がひと段落したんだよな?」
「………うん………」
「なら、しばらくお前は休んどくといい、俺は俺で頑張るから」
彼女を気遣っての言葉……だがそう言った瞬間、シンシアは華奢な印象を感じさせる細く、白いその腕でメテオの体を抱きしめた。
「え、お、おい、シンシア?」
突然の事に戸惑うメテオ、しかしシンシアはメテオの事を放そうとはしない。
「………今日、楽しかったね」
「あぁ、楽しかった」
何気ない問いかけ、その答えはメテオにとっては嘘偽りのない物だった。
今日過ごした彼女との時間、それは嘘偽りなく彼にとっても掛け替えのない、楽しい時間だった。
それ故に答えるのに間を開ける必要もなかった、ただ一言、そう言えるには十分だった。
「………次、いつ一緒になれるかな?」
ただ、その楽しい時間がいつも来るとは分からなかったからこそ……尚更そう感じていたのだ。
「……さあな、しばらく撮影とか続きそうだしな」
どこか寂しそうにしているシンシアにメテオは申し訳なさを感じつつもそう告げる、すると心なしかシンシアが腕に込めている力を強めた気がした。
「………そっか………忙しいもんね………お仕事」
「……ごめんな」
「……いいよ、大丈夫……次の時を待ってるから……」
気を使ってくれている、メテオには今の彼女の思考が何となくわかった。
本当は自分の思っていることを伝えたい、でも相手を困らせたくないから我慢している……我慢することはシンシアの癖のような物だと自然とメテオは彼女と交際していく中で理解していた。
だから、今の言葉もその我慢の表れなのだろう……。
現に、今自分を抱きしめている彼女の腕に込められた僅かな力の変化が、それを物語っている。
本当はもっと一緒に居たい……そう伝わってくるかのようだった。
人を好きになるということがどういうことなのか、それは単純そうに見えて意外とわからない物だ。
ただ、その人と一緒に居たい……その人の事を思っているからこそ共に居たい……その人と幸せになりたい。
解釈の仕方は様々だし、おそらく人によってその価値観は異なってくるだろう。
だから恋愛は難しい……理解するのには最高難易度の課題だ……。
でも、その課題に全て答えることは出来なくても………今ある問題には答えることは、出来るかもしれない。
彼女の“想い”に対する必要最低限の答えを……。
「………無理するなよ………一緒に居たいなら、そう言え………少なくとも今は、傍にいるんだからよ」
そう言ってメテオは彼女の腕に手を添えて体から離すと、シンシアの方へと向き直った。
「え………で、でも………わたしの、わがままだし……」
「我儘でもいい……俺は、お前が喜んでくれるのが、何よりもうれしいんだ」
そう言ってメテオは窓から差し込む暗闇を照らすほんのりとした月明かりの中で微笑みを浮かべる、するとそれを見たシンシアは自分の中に隠してあった想いが溢れそうになほど膨らむのを抑えられずにはいられなかった。
「………一緒に居たい………せめて今だけでもいいから、すぐ傍にメテオを感じたいよ」
「……わかったよ……なら、これでいいか?」
彼女の漏らした想いに、メテオは頷いて答えた………彼女を優しく、胸元に抱き寄せるという形で……。
「ん………」
小柄な彼女の身体はメテオの体に抱きしめられ、彼の両腕の中にすっぽりと納まっていた。
それが彼女にほっとした安心感を与えてくれる……それが何よりも、嬉しかった……。
「………ありがとうメテオ………」
「………おう」
だから、今はこれで十分………彼と一緒に居る時間が、何よりも掛け替えのないシンシアにとっての宝物………それが僅かな時間でも、彼女にとっては大事な………大事な時間だから………。
(………愛してる………大好きだよ、メテオ………)
「………っ!?」
微睡みの中、机の上に突っ伏していた状態からまるで跳ね上がったばねの如く、シンシアは体を起こした。
目をぱちくりと瞬き察せながら、辺りを見回し自分が今何をしていたのかを改めて整理する。
たしか、さっきまで自分はどこかのマンションでメテオと二人で一緒にいたはず……。
しかし、今いるのは見慣れた自分の自室の風景だった。
呆然と虚空を見つめるシンシアの頭が状況を整理するべく回り始める。
そしてそれは、やがて一つの答えを導き出した。
「……夢?」
そうとわかった瞬間、シンシアは顔をイチゴ以上に真っ赤に染め上げて顔を両手で覆い声にならない声を上げて悶えた。
そんな悶えるシンシアの目の前の机、そこには一枚の紙に描かれたイラストがあった。
そのイラストは過激な18禁イラストを得意とする彼女にしては、珍しく過激ではない絵だった。
二人の男女が目を閉じてキスをしているイラストだった。
その男女と言うのは、ひそかに思いを寄せる彼からプレゼントされた“プリムラの花飾り”をつけているシンシアと、その花飾りをプレゼントしたメテオだった……。
いかがでしたか?
今現在リアルが多忙な中、昔書いたものを投稿しましたが……そろそろ最新話の方も書いていかないとなぁ、聖杯戦争編とかネプおば本編とか…
まあ、たまには息抜きも必要だよね!←おい
ということで、またお会いしましょう!