超絶短編!ネプテューヌ おーばーえくすとらどらいぶ! 作:白宇宙
今回は聖杯戦争編第二話、前回召喚の儀式でサーヴァント、エミヤを召喚した宗谷。
この事態に若干の迷いを感じながらも、宗谷はやがてある事態を知り……。
そしてさらに、今回は新たなサーヴァントが登場!
それではお楽しみください!どうぞ…
………教会に新たなるメンバーがもう一人加わった………。
この事実だけを聞くなら、特に何の変哲もなく、更なるメンバーが加わったという事実の元に一体どんな人なのだろうという疑問が湧いてくるくらいだろう。
一体どんな性格で、どんな見た目で、どんなことが得意で、なにをしているのか、興味本位を持つ者がどんな好奇心を抱くのは人それぞれだろう。
………しかし、その好奇心は今まさにそれと関わりを持っている人物にとっては、“あまり知らない方がいい”という判断をさせざるを得なくなっている。
なにせ、今彼がここ、プラネテューヌ教会のリビングで共に時間を過ごしているのは………。
「……これ、美味しい……この紅茶、すごく美味しいです! アーチャーさん!」
「それはよかった、あまり見たことのない茶葉が置かれていたから自分なりにブレンドしてみたのだがね……口にあったのなら光栄だ」
「あれ~、いつの間にか破れてたぬいぐるみさんの耳、治ってる~」
「あぁ、それか? 時間を持て余していた時に目についたものでついでに治させて貰った、不満があるならまたやり直すが?」
「あのアーチャーさん、私の部屋の電圧気の調子がおかしくなっちゃったんですけど……見てもらえませんか?」
「修理が必要か? 了解した、一度見てみよう」
一見すると人当たりの良く、口元に人のよさそうな微笑みを浮かべる長身でどこか凛とした雰囲気を纏った男性………という、至極一般的な判断をするならそう感じるだろう。
だが、この男に至ってはそれは“表面的なその人物の在り方”を見ているに過ぎない。
この男の本質、それを知っている者からしたら……この男は“普通とは遠くかけ離れた存在”なのだ。
そして、その本質を知っている人物の一人である彼、天条 宗谷はその男性の事を見つめながら思う……。
(どういう性格してるのかは知ってたけど……本当はこの人、“英霊”なんだよな……)
本質と表面、それぞれの見方は大きく違ったものであるということを……。
そして………。
(………そんで、俺がその英霊のマスター、か………)
その本質を知る者からしたら、その存在が周りが思うよりもあまりにも大きすぎるという認識を持ってしまうということを……この時、アーチャーのサーヴァントのマスターとなった宗谷は、自分の右手の甲に浮かび上がった令呪を見つめて常々実感したのだった。
偶然アイエフが見つけた謎の古文書とその内容を知ったネプテューヌの唐突な提案から実際にその本の中に記されていたものの、宗谷にとっては物語の中でしか行われていない、“英霊召喚の儀式”を実際に行ってから既に3日が経過しようとしていた。
召喚の儀式によって呼び出された、アーチャーのサーヴァント、その真名は……エミヤ。
彼が召喚されたことでこの世界に、本物の聖杯戦争が行われていることを知った宗谷はどこか愕然としながらも、この事実に様々な思惑を巡らせる他なかった。
聖杯戦争の監視役もいないこの世界でアニメで見たあの戦いを本当に行うのか……自分はその戦いに参加して、どうすればいいのか……聖杯を手に入れるために戦うと言ってもこれと言った願いも決めていないし、別に望んでもいない……。
こんなことになってしまってから考えるのも何だとは思うが………この時宗谷は、本当にこれからどうするべきかを迷っていた。
「どうしたマスター、物思いにふけっている様だが?」
「……あぁ、これからどうしようかって予定とかに迷っててな……」
そんな彼が頬杖を突きながら呆けているところに、エミヤが先程イストワールに入れていた紅茶をティーカップに入れて持ってきた。
ちなみに、教会の仲間たちには宗谷がひょんなことで知り合い、紆余曲折あってちょっとしたトラブルを解決したためにその恩返しとしてしばらくここで手伝いをさせてほしいという理由で身を置かせてもらっている宗谷の知り合い、ということになっている。
最初こそ馴れない様子だったイストワールやネプギア達だったが、今では彼の性格と家事の実力の高さなどで一目を置く存在となっている。
そんな設定を急造ろいで仕上げて傍に置けるようになった宗谷は自身のサーヴァントが入れた紅茶を受け取りながら、小さくため息をついた。
「………正直なところ、今だに迷っていてさ………」
「……なんだ? 仕事などの予定については既に組み上がっているはずだろう? ……あと入れるとしたら君の恋人との時間、と言った所だろうか?」
「いや、そっちじゃなくて! ………あんたも関係してる、あれだよ………聖杯戦争」
少し違う観点で指摘された内容にはしっかりとツッコミを入れた後、宗谷は部屋にいる他のメンバーには聞こえないように小声でエミヤにそう言った。
すると、エミヤは納得したのか、なんだそんなことか、とでも言いたげな表情を浮かべると彼の隣に移動し、屈強な印象を受ける太い腕を組んだ。
「別にこの先で何をするかは君次第だ、と言いたいところだが生憎今回の聖杯戦争に関しては辞退することもできないのは確か……参加した以上、君は自分から無関係な道を選ぶことはできないだろう」
「それはわかってる、監督役もいない以上今更下りますなんて通用しないのは3日前にあんたが説明しただろ……問題は、関係してる以上、俺はどうすればいいのかってことだよ……」
聖杯戦争において、自分を除く他の6人のマスターを打ち破ることで唯一勝ち残ったマスターにのみ与えられる万能の願望機……聖杯。
だが、はっきり言って、宗谷にはその聖杯戦争に参加する“動悸”が存在しないのだ。
別に願いを叶えたいということもないし、そもそも隣のサーヴァントを召喚したことも本来考えてすらなかった異例の事態なのだ。
そんな状況で関わってしまった自分が、この先行われるのかもしれない聖杯戦争に何を想い、何を見出すのか、彼は今だに見当もついていないのである。
「………やれやれ、目標も決まっていないマスターに呼び出されることになるとはな………少しくらい気の強い性格ならこうやって迷うマスターの指示を待つ間の時間を利用して自主的に家事に打ち込むこともないのだが……」
「悪かったな! だって仕方ないだろこんなことになるなんて思ってもみなかったんだから!」
エミヤのどこか嫌味染みた言葉を聞いて宗谷が若干やけくそ気味に反論する、しかしエミヤはその言葉に対して眉ひとつ曲げずに聞くとその浅黒い肌に浮かぶ鋭さを残しながらも、どこか雄大な何かを感じさせる瞳を宗谷へと向けた。
「まあまあ、そう言わずにさ~、アーチャーが来てくれたおかげでうちの家事事情がかなり助かってるんだよ~? コンパとシンシアも参考になるって喜んでたし!」
「………お前楽観的に考えてるけど、これ結構重要な問題だからな! 確かにいろいろ助かってるのは認めるけども!?」
そんな二人の様子を見兼ねてか、事の発端を招いてしまったこの教会の女神、ネプテューヌが二人の間に割って入るとどこかお気楽な表情を浮かべて宗谷の隣に立つエミヤの背中をぽんぽんと叩きながら言った。
「いや~、でもびっくりしたよ~、本当に何もないところからドカーンって出て来るんだもん! あれすごかったな~…私またやりたいな~」
「残念だがネプテューヌ、マスターが召喚できるサーヴァントは基本的に一人だけだ、まあ、君がマスターとなってここの優柔不断なマスターの代わりに引っ張っていくというやり方もあるが」
「おいおいおい、これ以上厄介ごと増やすなよ!?」
これ以上この教会に見知らぬ誰かを置いてまた新しい言い訳を考えるのも苦しいのに、その上身近な人物であるネプテューヌまでもが聖杯戦争に参加するとなっては溜まったものじゃない。
最悪、もしも彼女がマスターとなって聖杯戦争を勝ち抜き、聖杯を手にしてしまったらその聖杯をどんなふうに使うかわかったものではない……彼女の性格から考えるに、怠けるために使うか、いっそ妙な考えの元使うのが目に見えている……。
これ以上、この教会をちゃんと保つために、そしてイストワールに余計なストレスを溜めさせないためにもネプテューヌをこの事態に参加させるのは極力避けたいというのが宗谷の考えであった。
しかし、それに対してエミヤは目線を再び宗谷へと向けるとどこか真剣な表情を浮かべた。
「だがこうして手を拱いていてもいいわけではないのは事実だ……あまりこうしてのんびりしていると、他のマスターに先を越されてしまうぞ」
「………先って言われても、俺以外のマスターが存在しているかどうか………」
「いや、いる……聖杯が実際に君をマスターとして選び、私を英霊としてあの時召喚させたということは……既に聖杯戦争の準備が着々と進んでいるということの証でもあるのだろう」
宗谷の疑問を真っ向から斬り捨てる様に言い放ったエミヤ、やはり聖杯から齎された本物のサーヴァントということなのか、実際にこの世界においての聖杯戦争が近いうちに起きようとしているのを感じ取っているようである。
「………それに何よりもだ、私自身が“本来あるべき召喚とは違う形”で召喚されたためだろう………こうして時間を潰しているだけでは、どちらにしても君達のためにはならないぞ?」
「え? それって……どういうことだよ?」
唐突に言ったエミヤの言葉に、宗谷が首を傾げる。
「君も気づいているだろう? 英霊である私がなぜ今こうしてここに立っているのか……なぜ、出来るはずの“霊退化”をしないのかを」
「………あ」
それを言われた宗谷はその時初めて理解した、今の今まで馴染んでいたためというのもあったが今日にいたるまでの間に目の前の英霊、サーヴァントである彼の姿を“見なかった時がない”ということを……。
英霊であるサーヴァントは本来実態を持たない存在であり、召喚を成功させることで得られる肉体を必要としない場合、または魔力を節約したりする場合、そして物理的な干渉を受けない場合はその姿を消すことができるのだ。
これを“霊退化”と呼んでおり、サーヴァントは現界した世界との繋がりを薄くした状態でもあるのだ。
しかし、彼が召喚されてからという物宗谷は一度も彼が霊退化した所を見たことがないのだ。
一体どうしてなのか、その疑問が宗谷の脳裏を横切った時………。
突然部屋の外からものすごい勢いの足音が聞こえて来たかと思うと思い切り部屋のドアが開け放たれた。
「ちょ、ちょっと宗谷! ネプ子! あ、あとアーチャー! あんた達ちょっと来て!!」
何処か焦っているような表情を浮かべながらものすごい勢いでドアを開けたのは宗谷とネプテューヌ以外で、この教会に身を置いているアーチャーことエミヤについて知っている3人目の人物、アイエフだった。
「お、おい、どうしたんだよアイエフ!? そんなに焦って……」
「そうだよ、いつも使ってるスマホ落として画面バキバキにしちゃった? 大丈夫だよ、バキホでも使えないこともないし」
「スマホじゃないわよ! ていうか、早く来なさい! 一大事なんだから!!」
なにやらただ事ではないアイエフの様子に、宗谷とネプテューヌの二人は戸惑いながらその後をついていく。
その後ろでエミヤはやれやれと首を振ると、何事かと彼らの方へと視線を向けていたイストワール達の方に向いて微笑みを向けた。
「ああ、気にしないでくれ、どうやらアイエフ嬢は宗谷とネプテューヌ嬢に少々急用ができたらしい」
「は……はあ、そうですか……」
あまり周りを巻き込みたくはない、というマスターである宗谷の意志をくみ取った彼は彼女たちに向けてフォローを入れておいたのだった……。
「シェアが別口で消費されている?」
何やらただ事ではない雰囲気で部屋を訪れたアイエフ、彼女に連れられてプラネテューヌ教会に用意されている宗谷の部屋へと連れられた一行は宗谷とネプテューヌの二人を連れ出したアイエフから知らされた内容を聞いて宗谷とネプテューヌの二人は首を傾げた。
それに対してアイエフは深刻そうな表情を浮かべてこくりと頷いた。
「ええ、ネプ子が変身したりとかで使用したり、いつもの如く緩やかに減ってきているこの国のシェアとは別口で何らかの影響によってシェアが減っているのよ……」
「……えっと、ネプテューヌがぐうたらのせいでこの国のシェアが減って行ってるのは前から分かっていることだからいいとして……それってつまり、どういうことなんだ?」
「………この前、イストワール様に頼まれてシェアクリスタルのシェアがどのくらい減っているのかを調べてみたの、そしたら……本来女神の力として使われているシェアが別口で減っていることが分かったのよ」
そう言うとアイエフは懐に入れていた一枚の紙を取り出すとそれを広げて宗谷とネプテューヌに見えやすいように広げて見せた。
そこにはシェアがどのような形で使用されたのかを現したグラフが描かれており、主にシェアが減少している割合と照らしあわされたデータがまとめられていた。
国民の信仰心の減退、ネプテューヌの女神化及び戦闘によるパワーの消費など、事細かに分けられているデータで、これを纏めるのにアイエフ自身がかなり苦労したのが窺える。
だが、どういう訳かそのデータの中に“不明”と割り振られたデータが記載されていたのだ。
「………アイエフ、この不明ってのは?」
「見たまんまの事よ、なんで減ってるのか不明な部分……信仰心が離れたとかとは違った形で減ってるけど、なんで減ってるのかわからない、そう言う割り振りの部分ね」
「え~、でもアイちゃん、私よくわかりもしないのにシェアを使ったことなんて身に覚えがないんだけど……ていうか、それって私が原因なの?」
「いや、たぶん違うと思うんだけど……とにかく言えることとしたら、知らないうちにこの国のシェアが何らかの形で減っているという本来あるはずのない出来事が起きたってことなのよ」
そう言うとアイエフはデータが記された紙を丸めて懐に戻した。
しかし、その事態を聞いて宗谷は何やら違和感を感じた……一体、なぜ原因不明のシェアの現象が起きたのか……。
いくらなんでもシェアが勝手に減少するなんてことはまずないはずだ、現になんでシェアが減っているのか理解することが出来たからアイエフが用意したあのデータも仕上がったはず……それなのになぜ?
疑問を浮かべる宗谷、頭の中の疑問符を消そうと自問自答を繰り返していると……。
「……おちおちこうして手を拱いているわけにはいかない理由、それが何なのかはそれだということだ」
不意に宗谷の部屋のドアが開き、そこからエミヤがドアの端に寄りかかり宗谷達の方へと視線を向けながら、何やら意味深なことを呟いた。
エミヤの存在に気付いた宗谷とネプテューヌ、そしてアイエフの三人はそれぞれの視線を一斉にエミヤの方へと向ける。
「アーチャー……それって、あなた何か知っているの?」
その言葉に違和感を感じたのか、アイエフがすぐさまエミヤに問いかける。
するとエミヤはちらりと宗谷の方を見てから、再びアイエフへと視線を戻すと彼女にわかりやすいように右手で指を三本立てて見せた。
「私が召喚されたのが今から三日前だ、そしてそれを提示したうえでアイエフ嬢、この事態を突き止めた君に問いかけよう……その謎のシェアエネルギーの消費減少はいつから起きた?」
「え? ………あ!」
それを言われたアイエフが再び懐に仕舞っていたデータを広げて再確認すると何かに気付いたのか目を見開いた。
「このシェアの消費があったのも……“三日前”からじゃない!」
「ねぷっ!? そ、それってつまり………偶然の一致?」
「そんなわけないだろ!? ……つまり、この謎のシェア減少にはお前が……アーチャーが関連してるってことだ」
宗谷が出した答えにエミヤはどこかニヒルな笑みを浮かべると、こくりと頷いて三人へと向き直った。
「そうだ、その通りさマスター、そのシェアエネルギーの現象を引き起こしているのはこの私……君のサーヴァントである、この私だ」
三人が突き止めた事実をあっさりと肯定したエミヤ、しかし、なぜエミヤがこの事態を引き起こしているのかと新たな疑問が浮かび上がるが、その疑問はその後すぐに彼が説明したことによって解消されることとなった。
「マスター、君が私を召喚する際に選んだ場所……そして、正当な魔術師ではない君が召喚に使うためとして使ったのは、なんだったかな?」
「え? それは………霊脈の代わりに選んだのはシェアクリスタルの傍で、使った……のかどうかはわからないけど、ネプテューヌのシェアエネルギーを借りて………あ!!」
そこまで答えた瞬間、宗谷の中で何かが合致し、彼の中に新たな答えを導き出した。
そうだ、なぜ今まで気付かなかったのだろう……本来魔術師ではない宗谷自身がなぜサーヴァントを召喚できたのか?
魔力があるのかどうかすらも怪しい自分自身がそれを成しえることが出来た理由と、その根源、それを理解した宗谷はその場で頭を抱えた。
「……そうか、そう言うことだったんだ……」
「え? な、なになに、どうしたのソウヤ?」
その様子に何やらついていけてない様子のネプテューヌは宗谷に問いかける、すると宗谷はちらりとネプテューヌの方を向いてから小さく一つ、ため息をついた。
「………ネプテューヌ、あの時召喚するためにってお前は手伝ってくれたよな?」
「え? う、うん、ないよりはマシかなーって思って……え? それがどうかしたの?」
「……その手伝いが、アイエフが教えてくれた謎のシェア減少を引き起こしたんだよ……なんせ、アーチャーを召喚した時に使ったシェアエネルギーが今もアーチャーを現界させている力の源になってるんだからな」
考えてみればそうとしか言いようがなかった。
実際に自分に魔力があるかないかを自覚していない宗谷がこうしてサーヴァントを召喚できたのはなぜなのか、それは魔力の代わりとなりえる“別の力”が働いていたからだ。
その別の力とは何か……状況と、あの時の流れを考えるにもっとも有力な物……それが、“シェアエネルギー”そのものなのだ。
「ねぷっ!? そ、それって私の国のシェアがアーチャーに横取りされてるってこと!?」
「それは多少の語弊があるな……まあ、詳しく説明するなら私がこうしてこの場に厳戒するために必要となったエネルギーのタンクをネプテューヌ嬢とする、そしてそのエネルギーを私に提供するチューブの役割をマスターである彼が勤めているのさ……本来魔力があるのかわからない彼が私を呼び出せたのも、ネプテューヌ嬢という力の本流の協力を得て成しえることが出来たというわけだ」
あの時、宗谷が召喚の詠唱を読み上げた際に、景気づけのような物でネプテューヌは彼の肩に手を置いていた。
どうやらその行為が偶然なのか、あるいは正式にそう言う方法もあったのか、要するに今現在アーチャーは魔力の代わりとしてネプテューヌのシェアを使い、そのシェアはマスター権限のある宗谷を経由して彼へと伝わっているのだ。
「故に今現在私の身体はネプテューヌ嬢や、その妹のネプギア嬢が変身した姿と変わりない……二人ほど消費は激しくはないがな? 本来なら魔力……いや、この場合はシェアエネルギーの消費を抑えるために霊退化をするのが筋なのだが、魔力とシェアエネルギーは似ているようで違うらしくてな……戦闘の際には問題がないが、どうにも自身の肉体を霊体化させると言った細かなコントロールがうまくいかなくてね」
「……本来使うべきものと違うから、英霊であるアーチャー自身でも、持て余して使いこなせないってことなのか……」
「なるほど……だから不明なシェアの消費があったのね……」
「いやいやいや!? アイちゃん普通に分析してる場合じゃないって!? それってつまり、ただでさえ減ってきてるうちのシェアがさらにどんどん減ってくって事じゃん!? それってつまり………」
この時、ネプテューヌの中ではシェアが減少することで今後起こりうる問題が連鎖するような形で浮かび上がっていた。
プラネテューヌのシェアは緩やかな下降傾向にある → アーチャーの体の維持のためにシェアを使う → 下降傾向がさらに深刻に…… → いーすんにばれる…… → いーすんのお説教&お仕事量が倍増……。
「(遊ぶ時間が少なくなって)大変じゃん!! 一大事だよぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
「……珍しく事の重大さを自覚したみたいだけど、なんか余計な邪念が混じってないか?」
宗谷の部屋で叫ぶを上げるネプテューヌ、まあ、それがどのような理由でさえこの事態が一大事だと知った彼女は、察しのいい宗谷を押しのけてドアの近くの壁に寄りかかっていたエミヤに問い詰める。
「アーチャー! なんとかならないの!? このままだと私いろいろやばいよ! 四面楚歌だよ!?」
いろいろな意味……というより、主にいつも説教を喰らっている人物からの恐怖の感情が強いのかもしれないが、とにかく必死にエミヤに何とかならないかと問いかけるネプテューヌ、するとそれに対してエミヤはやれやれと肩を上げると、ちらりと宗谷の方を見た。
「………これでわかっただろう、マスター、君はこのままうかうかしているわけにもいかない………まだ迷いはあるようだが、マスターとして必要な心構えは私がレクチャーするとしよう………さあ、腹を括った方がいいぞ?」
「………結局、そうなるのかよ………まあ、うすうす予感はしてたんだけどな………こうなることが………」
その日の夜、プラネテューヌの街は既に静かな様相を持ち、同時にどこかミステリアスな雰囲気に満ち溢れていた。
いつもと変わらないはずの夜空がやけにしんと静まり返っていて、夜空から降り注ぐ淡い月光と星の光がやけに神秘的なようにも感じた。
ここは、プラネテューヌの中心街から遠く離れた位置にある工業地帯の一角、今は使われておらず無人となっていて辺りを薄く霧が覆うこの場所に、宗谷とネプテューヌ、そしてアイエフの三人と……宗谷のサーヴァントであるエミヤがいた。
あれから宗谷は、このまま行動しないでいるわけにはいかないと腹を括り、こうして聖杯戦争が今現在開かれているかもしれないゲイムギョウ界へと足を踏み出したのだ。
……長い間この場に身を置いたために、いつも慣れ親しんでいたはずの街の空気がこの時ばかりはいつもと違うように感じる。
なにせ、聖杯戦争はマスターとサーヴァントによるサバイバル、用は殺し合いだ……そんな場所に自分が立つことになるなんて予想もつかなかったし、なによりも緊張や不安を通り越して言葉に言い表せない何かが心中を満たしている。
………だが、何もしないでいるわけにはいかない。
こうして参加することで、自分が聖杯戦争で何を見出し、何を思うのかはまだわからない。
聖杯に何を願うのかなんて、まだわからない……。
だが、それでも宗谷は意を決してこの戦いに身を投じることを決意したのだ。
なぜこの世界………このゲイムギョウ界に聖杯戦争が起きてしまったのか………その謎と、向き合うために………。
「……教会の中で迷っていた時とは違い、少しはマシな顔になったようだな」
「………まあな、現段階での第一目標は決まったからな………その後どうするかは、まだ決まってないけど」
隣に並び立つ自身のサーヴァントに言われて宗谷はそう返すと、右手の甲に記された自身の令呪へと目を落とす。
「それに、無関係じゃなく……俺も関係しちまったなら、それなりにやってみるさ」
「………戦いに挑む信念としては未熟だな………曖昧な目的を持って動くのは、あまり褒められたものではないが………まあ、一応今後に期待するとしよう」
マスターである宗谷の今現在での心境を聞いたエミヤはそう言うと、ちらりと後ろの方にいるアイエフとネプテューヌの二人へと視線を向ける。
「うー……アイちゃ~ん……この時間帯は良い子にはさすがにきついよ~……」
「だから無理せずに教会で寝ておけばいいって言ったのに……ほら、ネプビタン シャキッと一発味、眠気覚ましに飲んどきなさい」
「………あの二人もこうして付いていることだし、早く終わらせるようにしなければな」
「………だな」
こっそり教会を抜け出してきたとはいえ、あまりこうして夜中に外であまり長い時間をかけるわけにはいかない。
何かの拍子で抜け出したのがばれたら元も子もないからだ。
出来るだけ早い時間で少しでも聖杯戦争の謎に迫り、出来ることなら終息に向かわせる、現段階の自分の行動目標を改めて再確認した宗谷は改めて周囲に警戒を向ける。
「それにしても、本当にただこうして突っ立っているだけで、他のサーヴァントが来るのかしら? まるっきり罠だって怪しまれない?」
眠気覚ましにと手渡されたネプビタンを飲むネプテューヌの横で辺りを見回していたアイエフが唐突にそう呟いた。
すると、それに対してエミヤは真正面を向いた状態でその問いかけに対しての質問を返した。
「今回の聖杯戦争のルールは私にもよくわかっていない、監督役となる存在がいない故にルールが明確化されていない以上、確実に果たすべき行動は他のサーヴァントを見つけ、倒すことだ……なら、こうして矢面に立てば嫌が応にも他のサーヴァントが食いついてくるということさ」
「……まあ、それは他のサーヴァントが召喚されてたらの話でもあるんだけどな?」
「……だとしても、出て来るのかしら……そこまで濃くないけど、このあたり霧が出てきてるし、今は夜よ? さすがに動きづらいんじゃ……」
当たりの様子を確認して、そう分析したアイエフ。
するとそれに対して宗谷は首を左右に振ってからアイエフのいる方へと振り返った。
「違うぜ、アイエフ……聖杯戦争におけるサーヴァント同士の戦い、それはどちらかというと夜に行うのがセオリー……人目に付かない分、気兼ねなく戦えるし、なにより闇に紛れるのを得意とする奴もいる……そういう奴からしたら、この時間帯は絶好のチャンスでもあるんだよ」
敵はいつどこから攻めて来るのかわからない、聖杯戦争では多くのマスターが知略を尽くし、あらゆる思考を巡らせて自身が勝てる策を練ってきた。
それもすべて聖杯を手に入れるための手段として……だからこそ、仕える物は存分に使うのがこの戦いでのセオリーなのだ。
闇に紛れられるなら闇に………場所を求めるのなら、場所を求め………
そして………。
「………どうやら、こちら側の誘いに乗ってきた勇敢な戦士がいた様だ」
戦士はその場に集う……。
エミヤの言葉を聞いた瞬間、その場にいた三人は咄嗟に彼が見ていた方向へと視線を向けた。
霧が薄く立ち込める中、じっくりと目を凝らす宗谷達、するとその霧の奥から人影が一つ、ゆっくりとこちらに向いて近づいてくるのが分かった。
「その遠くの者をも見抜き、貫かんとする鷹の目が如き鋭き眼………三大騎士が一つ、アーチャーのサーヴァントとお見受けする」
「……武器を見ていないのに見抜くとは、そちらはどうやらかなりの観察眼を兼ね備えている様だな……」
霧の奥から近付いてくる人影と会話をするエミヤ、やがて霧の奥に見えた人影がこちらに近づいてくるにつれて、宗谷達もまたその人物がどのような容姿をしているのかを確認することが出来た。
流れるような黒髪に、整った端正な顔立ち、深い緑の皮の鎧という身軽そうな軽装を身に纏ったその男性は鋭さの中にも憂いに満ちた瞳を自分たちへと向けながら両手に握る武器を構えた。
そして、その両手の武器の形状はその人物が一体、どのような人物なのかを物語っているなによりの証明ともなっていた。
「………“ランサー”」
そう、その男が握っていたのは二本の“槍”。
一つは長く、もう一つは短い、それぞれに長さの違う槍を二本携えたその戦士は槍の柄を何やら薄い布のような物で巻いている。
恐らくはその武器が一体どのような物なのかを悟らせないようにするための配慮なのだろうが………。
この時、目の前に現れたランサーのサーヴァントを前にして、宗谷はそのサーヴァントの正体を見破っていた。
彼にとっては知らないはずもない……なにせ、そのサーヴァントはエミヤと同じく、見たことがあるからだ。
「あれは………“ディルムッド・オディナ”………!」
右目の下にある泣き黒子、それがそのサーヴァントの二つ名にも由来するものとなったのを宗谷もまた知っている。
二振りの槍を備え、今目の前に立つこの槍使いの真名、それは“ケルト神話”の英雄が一人、“フィオナ騎士団”が一人にして一番槍、“輝く顔のディルムッド”の二つ名を持つ戦士………宗谷が見たシリーズの中では“Fate/zero”に登場したサーヴァントだ。
「うわっ! なんかすっごいイケメンだよ! 私自身あんまりはっきり言うことはないけど…あの人、マジでイケメンだよ!」
「……あ、あの人も英霊って奴なの? ……なんていうか、その……優しそうだけど」
「あ、そうだ! 二人とも気をしっかりもて! あいつには女性を魅了する能力があるんだ、体制のない人間だと惚れちまうぞ!」
魔貌の力、とでもいうのだろうか……宗谷は知っていた。
あの英霊の右目の下にある泣き黒子には女性を魅了する力が備わっているということに……それで味方である二人が変な気を起こさないように彼は事前に二人に注意する。
「………そこの青年、見た所お前がアーチャーのサーヴァントのマスターのようだが………なぜ我が真名を一目見ただけで見抜いた? しかも、我が魔貌の呪いをも知りえているとは……」
「え? あ、いや、それは………手の内を晒すような真似はしないのが定石じゃないのか?」
宗谷によって自身の本当の名前を見破られたことに疑問を抱いたランサー、ディルムッドはすぐさま宗谷に向けて警戒の眼差しを向けるが、まさか一度あなたの事をテレビで見たことがあります……なんて言って早々に信じてもらえる気がしなかった宗谷はとりあえずその場は誤魔化すことにした。
自身の問いかけに対して宗谷が出した返答に、ディルムッドは両手の槍を構えるとその誰もが見惚れるかのような美貌にあふれた顔に秘められた強く、鋭い闘志を宗谷達へと向けてきた。
「……こちらとしては納得のいく答えとはいかないが、まあ、この際細かなことは後回しとさせてもらおう……こうして聖杯によって選ばれた英霊同士が会い見えたこと、これはすなわち……言わなくてもわかることだろう、弓兵よ?」
「………元より理解はしているさ、こちらも最初からそれを覚悟のうえでここに立っているのだからな」
ディルムッドの言葉に対してエミヤはそう返答すると両手を左右に広げて静かに意識を集中させるように目を閉じる……そして……。
「……
その声と共にエミヤの両手に二振りの曲刀がどこからともなく現れ、エミヤはそれをしっかりと握るとディルムッドが持つ二槍を迎え撃たんとするかのようにその場でその二振りの刃を構えた。
片方は黒く、片方は白く、峰の部分には陰陽を現す印が刻まれたこの独特の剣はエミヤの魔術によって呼び出された彼の武器、“干将・莫耶”だ。
「さて、マスター……君はいったん下がっていろ、ここはサーヴァントである私の領分だ、未熟な君に前に出られてはこちらも気が気でない物でね」
「なっ…あのさ、前から思ってたけどあんた俺の事若干嫌ってないか?」
嫌味にも聞こえるようなエミヤの言葉に反論しながらも、宗谷はその言葉に従い渋々と後ろに下がる。
だが、この判断は宗谷は割かし正しい判断だと自身の中で理解はしていた……。
毒を持って毒を制すという言葉がある様に、サーヴァントと戦うことにおいては同じサーヴァントを使うことがよっぽど効果的な方法なのだ。
自身はマスター、そのマスターが前に出て相手のサーヴァントに命を奪われればその瞬間、サーヴァントとの繋がりは消える。
アーチャーであるエミヤには単独で行動できるスキルが備わっているとはいえ、それは出来るだけ避けたいのはエミヤ自身も感じているのかもしれない……そう判断した宗谷は念のためにと自身の愛剣である赤剣を呼び出し、ネプテューヌとアイエフを庇うように下がった宗谷は目前に立つ二人の英霊の姿をじっくりと見つめる。
「弓兵でありながら剣を取り、前に出るか………余程の自身があるのか、単なる自惚れか………随分と変わっているな?」
「なに、手癖が悪い物でね……これもその一つに過ぎない……だがこれだけは言わせてもらおう」
互いの間合いを測りながらじりじりと足場を踏みしめる二本の槍使いと刃を握った弓兵、するとエミヤはその手に握る刃の如き、切れ味のある視線をディルムッドへと向けながら……。
「……手加減はしない、こちらは全霊でお相手しよう……」
「……元よりそのつもりだろうに……ならば、いざ参る!!」
そうやり取りを交わした瞬間、遂に聖杯戦争の始まりを告げる英霊同士の戦いが幕を開けた。
先に仕掛けたのはディルムッドだった。
両手の槍を構え、走り出した彼は素早い動きでエミヤへと距離を詰めると右の赤い刃の槍をエミヤに向けて突き出す!
しかし、エミヤはその動きをしっかりと見据えると体の体制を傾けてその一撃を回避し、片手に持つ曲刀でその槍を押し返し、もう片方の刃で斬りかかる。
だがディルムッドは彼の反撃の左の黄槍で受け止めると身を捻りながら横薙ぎにもう一本の槍を振るう。
その攻撃をエミヤは咄嗟に後ろに跳ぶことで回避するが、ディルムッドはまだ食い下がる。
「っ!!」
追い縋ったディルムッドはリーチの長い赤い槍でエミヤを追撃する。
彼の持つ槍に対してリーチの短い曲刀を持つエミヤはその刃が自身の体を抉らない最新の注意を払いながら両手の剣を巧みに使い撃ち払っていく。
「撃たれるばかりは性に合わない……こちらも反撃させてもらう!」
さらにエミヤは隙を見計らってはディルムッドの懐に飛び込み、果敢に切りかかっていくがさすがは神話に名を馳せた英雄ということはディルムッドはその反撃をも両手の槍を使って捌き、更なる反撃へと転じていく。
互いに一歩も譲らない、サーヴァント同士の激しい戦い……。
その様子を見ていた宗谷は反射的に二人の隙のない戦いぶりを見て息を飲んでいた。
「……これが、本物のサーヴァント同士の戦い……」
今までヒーローメモリーの修業に向き合い、彼が知る多くの主人公たちと出会い、そこで実際に手合せをしてきた宗谷だが、この戦いは彼にとってはまさに未知の領域だった。
ヒーローメモリーで出会った主人公たちもその名に恥じないとてつもない力を秘めていた……だが、彼らサーヴァントの戦いはそれと比べてもまた大きく違う……。
闘いの中で染み出て来るような言い知れぬ迫力と、緊迫感、それがこの戦いにおける二人の英霊の力がぶつかり合うすさまじさを宗谷にこれでもかと知らしめて来る……。
「……あの二人、強いわね……しかも、相当……」
「あ、あそこまでのバトルは私も未経験かな……女神化してその戦いに割り込むような勇気、ないかも……」
さすがの気迫にアイエフとネプテューヌもまた押されているのか、宗谷と一緒にその場に留まって見守るばかりだ…。
鳴り響く剣撃と矛先がぶつかり合う音、巻き起こる風圧とその場にいた物を押し黙らせる気迫…。
その根源となっている二人の戦いは、ますます過激さを増していく。
空間を切り裂く四本の刃、衝突し火花を上げるたびに二人の周囲を取り巻く霧がふわりとかき消されるように消えていく。
「弓兵と思い、その剣技はたかが知れていると思っていたが……それを撤回しよう……貴殿とのやり取り、面白くなってきた!」
「……なに、単なる真似事だ……そこまで大層な剣技でも……ない!」
真上から振り下ろしたエミヤの二本の斬撃、それをディルムッドは両手の槍で真正面から受け止めると、それを押し返し赤い槍でエミヤを牽制し、黄槍で更なる追撃を打つ。
それをエミヤは両手の剣を交差させて下から上へと打ち上げるようにして払うと、再び距離を詰めてディルムッドに切りかかる。
そして、両者の両手の武器、計四本の刃が同時にぶつかり合い甲高い金属音を轟かせ、両社は鍔迫り合いを始める。
初戦からいきなり苛烈を極めるこの聖杯戦争、周囲を霧が包み込む中で宗谷は今まさに自分が身を置いているこの戦いのすさまじさをその身で改めて実感していた。
「………これが、聖杯戦争………」
そして、その凄まじさを実感するあまり………彼は気づかなかった………。
周囲の“霧”が先程よりもさらに濃くなり始めていることに………。
「………うん、わかったよ………“おかあさん”………」
そして、その中に身を隠す………“暗殺者”の影がすぐそこまで迫っていることに………。
「………解体の時間だね………?」
霧の中で揺らめく小柄な影、そしてその手に握られた刃が……一瞬、怪しげな煌めきを放った………。
いかがでしたか?
次回は遂に始まったサーヴァント同士の戦い、激化するアーチャーとランサーの戦い、その最中に一石を投じるのは……!
それでは次回でお会いしましょう!