もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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ま、まにあったぁ。
二日連続投稿です。休みの日とはいいものですね。


もしクレマンティーヌがとある事実に気が付いたら

 門が開く。

 門の向こうからは太陽の光が差し込み、同時に多数の人の影も差し込んでいた。

 

 影の主はアンデッド、朝焼けの光と合わさり、その大群はとても不気味に見えた。

 

 

『二重最強化・(ツインマキシマイズマジック・)電撃球』(エレクトロスフィア)!!」

『火球』(ファイヤーボール)っ!!」

『魔法の矢』(マジック・アロー)!!」

『衝撃波』(ショック・ウェーブ)っ!!」

 

 魔力系魔法詠唱者達の魔法が、そんなアンデッド達に飛来する。

 

 数多の魔法は門の前にいたアンデッド達を吹き飛ばし、門の前に大きく開けた空間ができる。

 

「行くぞっ―――はぁっ!!」

 

 そこにアインズとミスリルの冒険者達が滑り込み、周りのアンデッド達を蹂躙して空間を大きくした。

 

「今だ、俺達も続くぞ!!」

 

 ―――おおおおおお!!!!!

 

 さらにその隙間に冒険者たちが入り込み、アインズ達に加勢する。

 

『魔法最強化・電撃』(マキシマイズマジック・ライトニング)

 

 ある程度冒険者達が戦えるだけの空間ができたところで、ナーベが第三位階魔法の『電撃』を放つ。

 電撃は門の前にいた集団を粉砕し、一本の道を作った。

 

 その道を、信仰系魔法詠唱者の集団が駆け抜ける。

 彼らはその道から門を円の中心としてアンデッド退散を行使しながら左右に広がると、とある魔法を通る道に仕掛けながら駆け抜けていった。

 これにより、門を中心に半円状の空白ができることになる。

 

 その空白に向かって、アンデッド達と戦っていた白金級以下の冒険者達が駆け出す。

 同時に、その空白の外側にいたアンデッド達も、その空白を自らで染め上げるかのように突撃する。

 冒険者は、再びアンデッド達とぶつかり合うこととなった。

 

「はぁ、はぁ、指定の魔法の設置を終えました。これで、大型のアンデッドが来たら感知できるはずです」

「ああ、ご苦労だった。後の動きは作戦通りに頼む」

「はぁ、わかり、ました」

 

 アンデッド退散という切り札があったとはいえ、アンデッドの大群の中を疾走したのは体力を激しく消耗したのだろう。彼等の多くは、ただ全力で走っただけにしてはあり得ないほどに体力をすり減らしていた。

 

 役目を済ませた神官たちは、門のすぐそばに置かれていた机の周りに集まる。

 机には、それぞれ『モモンとナーベ』、『虹』、『天狼』、『クラルグラ』と書かれた四つの石と、1~18までの数字が書かれた一枚の紙が置かれていた。

 

「例の『警報』(アラーム)の改造魔法は、ちゃんと予定されていた場所で使用したな」

「俺は大丈夫だ」

「私もです」

 

 一人の男が周りの魔法詠唱者達に確認する。

 彼らが行使した魔法は、予定された場所で使用することが重要だからだ。

 

「そうか、なら始めるぞ

 

 ……まあ、始めると言っても強めの敵が来るまでは俺たちの仕事は負傷者の治療だけだから、始めようとして始まる仕事じゃないんだがな」

「むしろ、私としては始まってほしくないですよ。治療も探知も、仕事がなければそれだけ安全な証拠なんですから」

「それは、みんなそう思っているでしょう。神に仕えるものであれば、人の不幸に喜ぶような考えはしていませんよ」

「そう、ですね。みんなもそう思って……仕事です。『伝言』(メッセージ)

 

 会話の途中で、女性の魔法詠唱者が『伝言』(メッセージ)の魔法を発動させる。

 同時に、机の上にあった『虹』と書かれた石を7の石の上に移動させた。

 

「モックナックさん、7番に移動してください」

 

 彼女は魔法により、前線で戦うミスリル級冒険者集団『虹』のリーダーであるモックナックに自らの言葉を飛ばす。

 そして、一度『伝言』(メッセージ)の魔法を解除すると再び彼女は『伝言』(メッセージ)を発動、同じ人物に同じ言葉を再度送る。

 さらにそれをもう一度、合計三回『伝言』(メッセージ)を発動させると、彼女は小さく息を吐いた。

 

「ふぅ、さっそく来ましたね」

「どっちが反応した? モモンさん達ではなく『虹』を送ったということは中型の方か?」

「はい、中型の方が反応しました」

 

 彼女の言葉を聞いて、周りの魔法詠唱者達は安堵の息をつく。

 

 彼らは、先ほど魔法を仕掛けた時三つの魔法を仕掛けていた。

 一つは、一般的な『警報』(アラーム)の魔法。

 二つ目は、人型よりも少し大きな対象を補足するように改造された『警報』(アラーム)

 三つ目は、骨の竜(スケリトルドラゴン)の様な大型のアンデッドに反応するように改造された『警報』(アラーム)

 

 彼らは、この三つを組み合わせることによって、前線の状況や出現したアンデッドの強さを判断していた。

 今回、彼女が捉えたのは二つ目のもの。中型のアンデッドが反応するであろう『警報』(アラーム)だ。

 彼女はそれからの警報を受けて、『虹』の面々をそのアンデッドが出現した7番、門を背に見て左から7番目の『警報』(アラーム)が展開されている地点に誘導していた。

 

 実はこの時、彼女がアインズに知らせなかったことには理由がある。

 『警報』(アラーム)の魔法には、本来敵と味方を識別する機能が備わっている。

 しかし、改造された『警報』(アラーム)の魔法には、突貫で改造された為かその機能が損なわれてしまっていた。

 そうなると身体の大きい彼は、必然的に中型のアンデッドに反応する『警報』(アラーム)に反応してしまう様になっている。

 だから彼が戦っている場所だけは、中型のアンデッドが来ていても魔法詠唱者達側にはそれを識別する手段が無かった。

 そのために、中型のアンデッドが来ているかもしれないその場所から、彼等はアインズを動かすことができないでいた。

 

「っ!! 10番、こっちも来ました、中型なので『クラルグラ』を借ります」

「13番こっちもです、『天狼』借ります」

「7番反応消えました。『虹』を動かしても大丈夫です」

「9番、モモンさんたちのところに大型の反応が……すみませんもう消えました」

「5番、中型です。『虹』さん借ります」

「11番、大型が出ました。モモンさんたちに連絡します」

 

 先ほどの彼女の言葉を皮切りに、一気にアンデッド達の反応が多発する。

 彼らは、慌ただしく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 6月30日 04:37 エ・ランテル内周部と外周部の境界付近

 

「―――ふんっ!!」

 

 アインズの右手の剣が薙ぎ払われる。

 剣は、周囲のアンデッドたちを挽肉のような姿に変え、剣の間合いの外にいたアンデッドたちを剣が起こした風で吹き飛ばした。

 

「はっ!!」

 

 そこから大きく一歩踏み込むと、続けて左手の剣を振るう。

 アンデッドたちは、挽肉となるか空を舞うかの二択を選ばされることになった。

 

『下級筋力増大』(レッサー・ストレングス)『二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()電撃球』(エレクトロスフィア)

 

 戦っているのは、アインズだけではない。

 ナーベラルは筋力を強化する魔法でアインズを強化し、最強化を施した2つの雷の塊をアンデッドの大群の中で炸裂させる。

 

 炸裂した雷の近くにいたアンデッドは消し飛び、跡形もなく消滅した。

 

『モモンさん、11番に大型アンデッドが出ました。移動をお願いします』

 

 そんな時、どこかからか『通信』(メッセージ)が彼に届く。

 大型アンデッド、おそらく骨の竜(スケリトルドラゴン)が出現したのだろう。

 

「ナーベ、連絡がきた。11番地点に移動するぞ」

「はっ!! 畏まりました。『二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()電撃』(ライトニング)

 

 ナーベラルが二筋の光を放ち、指定された場所までの道を作る。

 アインズとナーベラルは、周囲のアンデッドを蹴散らしながらその道を走った。

 蹴散らされたアンデッド達は、辺り一面に吹き飛びその偽りの命を消してゆく。

 

 

 駆け抜けた先には、3体の骨の竜(スケリトルドラゴン)の姿があった。

 

「ナーベ、左の2体の足止めを」

「畏まりました。『魔法の矢』(マジック・アロー)

 

 アインズは右の骨の竜(スケリトルドラゴン)に走り、ナーベラルは左二体の骨の竜(スケリトルドラゴン)『魔法の矢』(マジック・アロー)をぶつける。

 第一位階魔法でしかない『魔法の矢』(マジック・アロー)では、第六位階以下の魔法無効化する骨の竜(スケリトルドラゴン)を傷つけることはできないが、注意を引き付ける(ヘイトを稼ぐ)には十分だった。

 

「はああっ!!」

 

 アインズは一番右側の骨の竜(スケリトルドラゴン)に駆け寄り、右手の剣をその骨の竜(スケリトルドラゴン)に振り下ろす。

 アインズの一刀により、骨の竜(スケリトルドラゴン)は頭部から尻尾にかけて真っ二つにされることになった。

 

 同時に、アインズの左から轟音が鳴る。

 アインズが振り向けば、ナーベラルが引きつけていたはずの骨の竜(スケリトルドラゴン)の一体の頭部が、大きくひび割れているのが見えた。

 

「やっほー、随分と大変なことになってるわね。……ほんとに何があったのよこれ」

 

 その骨の竜(スケリトルドラゴン)の頭部には、黒いローブを羽織り、手に黒い西洋甲冑の籠手をつけたクレマンティーヌの姿があった。

 

「クレマンティーヌか!!」

「そうだよーって、きゃ!!」

 

 頭部を破壊された骨の竜(スケリトルドラゴン)が、その身体を崩壊させる。

 頭部に乗っていたクレマンティーヌは、その崩壊に巻き込まれて骨の山に埋もれることになった。

 

「……えー」

 

 思わず、『冒険者モモン』らしくない言葉が口から出る。

 

 とりあえず救出は後回しにし、アインズは骨の竜(スケリトルドラゴン)を切り捨てることにした。

 

 全力で大地を蹴り、空中で回転しつつその勢いを剣越しに骨の竜(スケリトルドラゴン)に叩きつける。

 その剣の一撃により、骨の竜(スケリトルドラゴン)はただの骨の塊と化すことになった。 

 

 

 崩れた骨の竜(スケリトルドラゴン)の周りにいたアンデッド達をナーベラルと協力して掃討し、骨の竜(スケリトルドラゴン)だった大量の骨を払いのける。

 

「ぷはー、窒息するかと思ったー」

 

 掘り起こされたクレマンティーヌは、瓦礫の中から立ち上がるとローブや服に付いた骨粉をはたいて払う。

 

「大丈夫だったか」

「あー、大丈夫大丈夫。怪我とかは無いから。

 で、今エ・ランテルで何が起きてんの? 街の中にこんなにアンデッドがいるって、普通じゃないでしょ」

 

 クレマンティーヌは辺りを見回して、アインズに問いかけた。

 

「詳しい話は、門の近くにアインザック組合長がいるからそちらに聞きに行ってほしい。見てわかると思うが、あまり説明している時間はないんだ」

「りょーかい。ならそっちに聞きに行くわ」

 

 クレマンティーヌはアインズに背を向けると、門の方に疾走していく。

 それを見届けたアインズは、アンデッドの大群に向き直るとそこに突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月30日 04:52 エ・ランテル内周部と外周部の境界

 

「ザックちゃん!!」

「その呼び方はやめろ!! ……と、クレマンティーヌか。丁度いいところに来たな」

 

 クレマンティーヌは、門の近くで指示を出していたアインザックに声をかけた。

 

「今街に来たばかりなんだけど、これって何があったの」

「細かい経緯は不明だが、昨夜にアンデッドの大群が街に攻めてきた」

 

 アインザックは懐から地図を出す。

 そこには、昨夜に侵入してきたアンデッドの種類と数が大まかに書き込まれていた。

 

「昨夜街に侵入して来たレイス系のモンスターの侵入場所はこのあたり。そして、最初にアンデッドが入ってきた門がこの場所だ。おそらくアンデッド達は墓地からきているのだろう」

「ふーん」

 

 クレマンティーヌはその地図を眺める。

 その様子を見て、アインザックは話を続けた。

 

「今冒険者達である程度アンデッドを削っている。ある程度数を減らしたら、アンデッド達の一番の発生源である墓地を制圧する予定だ」

「街の防御と、制圧した墓地に留まるはずの人達に対する補給はどうするつもり」

 

 アインザックからの話を聞きながら地図を見つつ、クレマンティーヌは彼に問いかける。

 

「街は門を閉めていれば問題ない。補給については、アンデッド退散の使用回数に余裕がある信仰系魔法詠唱者か、飛行の魔法が使用できる魔力系魔法詠唱者に任せることになっている」

「なるほどね……ん?」

 

 急にクレマンティーヌが動きを止める。

 地図のとある場所を見つめた彼女は、しばらくその動きを止めた後、真剣な表情でアインザックの方に顔を向けた。

 

「ザックちゃん。こんな緊急時に悪いんだけど、退治された動死体(ゾンビ)の死体を見せてもらえる」

「悪いが、疫病対策のためにゾンビ系のモンスターの死体はすべて処分されている。少し前に話し合ってそう決めたからな」

「話し合ったって誰とよ」

「冒険者の中でも、ある程度知識を持った連中全員とだ。この街にいる一般人以外のある程度知識のある人間を集めて話し合いを行ったんだよ、街の門をすべて閉めた後にな」

 

 その言葉を聞いたクレマンティーヌは、悔しそうな様子で奥歯を強く噛み締めた。

 

「―――悪いけどザックちゃん。この街滅ぶかもしれない」

 

 ―――武技、『疾風走破』

 ―――『能力超向上』

 

 クレマンティーヌはアインザックにそう告げると、その場から前線に駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 『中村あいか』、という少女がいる。

 日本にある小さな田舎町の、小さな中華料理屋の看板娘を務める少女だ。

 

 シャルティアを倒した後、クレマンティーヌはエ・ランテルの門に付くまでに僅かな時間だが仮眠を行っていた。

 その際、シャルティアという強大な敵を倒したためか、彼女の生まれながらの異能(タ レ ン ト)は新たな力を覚醒させていた。

 それが、その『中村あいか』という少女の力である。

 

 力と言っても、超能力的な何かではない。何かのカテゴリに分類するならば、という前置きを付ける必要があるが、その能力は洞察力や推理能力と呼ばれるものである。

 彼女は、客から出前の連絡が入った際、本人の声や電話の後ろの雑音、注文された時間帯などの限られた情報から客の居場所を特定するという人並み外れた洞察力を有していた。

 

 クレマンティーヌが苦い顔をしたのは、その能力からとある事実に気が付いたためである。

 

 彼女が注目したのは、出現したアンデッドの種類だった。

 

 出現したアンデッドの中に、たった一体だけであるが、この辺りには存在しない吸血蝙蝠(ヴァンパイア・バット)というモンスターをアンデッド化したものが含まれていたのだ。

 昨日のクレマンティーヌであれば見逃していたそれ、彼女はそこからとある推測をしていた。

 

「クソッ!! やっぱりだ!!」

 

 クレマンティーヌは、前線にいた動死体(ゾンビ)達の服装を見る。

 その内の一体は、ここエ・ランテルの貧民街ではない、明らかに王都の貧民街の様な極貧の場所に住む人々が着るような服装をしていた。

 

 クレマンティーヌはその場にいたアンデッド達を『四光連斬』で切り捨て、アインズがいた場所へと移動する。

 

 アインズの姿が見えたところで、彼女は大声でアインズにとある問いかけをした。

 

「モモンさん!! 組合で話し合いをしたときの人間の中に、幻術で姿を偽ってた奴いなかった!!」

「どうしたんだ、クレマンティーヌ」

 

 アインズは、目の前の内臓の卵(オーガン・エッグ)を引き潰すとクレマンティーヌの方を向いた。

 

「いいから答えて。いたの、いなかったの、どっち!!」

「あ、ああ。いたが……それがどうかしたのか」

 

 アインズの言葉に、クレマンティーヌは自身の表情を何かを確信したような表情に変える。

 

 

 

 

 

「―――今すぐ内周部に戻って。私たちはハメられたわ」

 

 

 雲が、少しずつ太陽を覆い始めた。


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