もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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【言い訳】

 投稿が遅れてすみませんでした。
 今回の話が遅れたのは、パンドラのせいです。
 某旅の話のパンドラがあまりにもかっこよかったので、彼のシーンをなかなか上手く書くことができませんでした。


もしクレマンティーヌが戦いを終えたなら

 魔法少女というシステムは、非常に夢が無いものだ。

 

 『なんでも願い事を一つだけ叶える代わりに、魔女と呼ばれる化け物と戦う運命を負う』という悲劇のヒロインの様な表向きの話で覆い隠されているが、実態は地球を農場、人間を家畜とした『畜産業』でしかない。

 

 そもそも、なんでも願いをかなえてくれるという点からして嘘だ。かなえられる願いは本人の持つ『因果』、わかりやすく言えば『未来の可能性』に依存する。全ての魔法少女が、魔法少女となる際の契約で語った願いを叶えられるわけではない。叶えられないからと、契約を断られることもある。もっとも、叶えられないから契約はできないと言ってくれるだけ、『牧場主』たるキュウべぇは良心的とも言えるかもしれない。

 

 また、魔女と呼ばれる化け物、というのも嘘……ではないが、嘘に近い。

 魔女は、決して化け物ではない。外見、表面的な思考こそ化け物であるが、本質的には人間だ。何故そうなのかは、『魔法少女』という名前をよく考えればわかるだろう。

 

 そして、魔法少女となる契約をキュウべぇと交わすと、魔法少女の力の源ともいえる『ソウルジェム』を手に入れることができるわけであるが、このソウルジェムも問題だ。

 このソウルジェム、これは文字通り『魂の宝石』なのだ。魔法少女の魂そのものなのだ。

 『ただの変身アイテムだと思ったら、実際は自分の命そのものだった』 これが魔法少女達にどれほどの衝撃を与えるのかは、簡単に予想できるだろう。

 しかも、これはキュウべぇに魔法少女側から細かく質問しなければ、決して答えてくれない。『ソウルジェムって何?』などの大雑把な質問では、ただの変身アイテムだとしか答えてくれないのだ。

 

 ここまで言えば、魔法少女がどれほど酷な存在かはわかるだろう。

 

 

 そんな魔法少女ではあるが、感情的な考えを一切排除すれば、かなりのメリットを得られる。

 なにせ、契約の際は願い事をかなえることができ、魔法少女となった後は魂が外付けになっているためにどの様な大怪我をしても決して死なないのだ。

 また、魔法という超常現象を操ることもできる。それも、位階魔法の様な制限のあるものではない。限界がないわけではないが、平和な日常を生きるうえで考えうる思い付きの全てを実行できる。

 

 

 さて、ではクレマンティーヌに話を移そう。

 彼女は、この魔法少女としての特性を生かした何かをできないかと考えた。

 ソウルジェムから肉体を操作する際に使用する魔法を応用した身体の金属化は、魔法少女としての特性の一つ、魔法少女の魔法を利用したものだ。

 

 そして、もう一つの特性、肉体的な不死を利用した何かも彼女は用意していた。

 

 そう言ったものの、彼女が考えたことはそう難しいことではない。

 肉体的に不死であるといううことは、あらゆる負傷をポーションや回復魔法で何とかできるということだ。

 それは、普通の人間であれば確実に死ぬような攻撃をくらっても、蘇生魔法を必要とせず、ポーションや回復魔法さえあれば何でも回復することができるということを指している。

 

 

 

 そう、たとえ頭部を消し飛ばされようとも、それは例外ではない。

 

 ―――解放、『ファースト・エイド』

 ―――解放、『ファースト・エイド』

 ―――解放、『ファースト・エイド』

 

 クレマンティーヌの顔面に隊長が振るった槍がめり込むのとほぼ同時、彼女の身体の金属部分に付与された魔法蓄積よりALOの回復魔法、『ファースト・エイド』が解放される。

 それにより、吹き飛ばされた頭部は、吹き飛ばされた直後に再生した。

 

「何だと!?」

「―――攻め方を間違えたねー、たいちょー」

 

 クレマンティーヌの頭部を粉砕するために防御を緩めた隊長の視界に、その拳が映る。

 攻撃的なその形状、一目で高い攻撃力を持っているとわかるアーマー。

 

 それが、隊長の顔面へと突き進んでいた。

 

 完全に不意を突かれた形だった。

 当たり前だ。頭を消し飛ばした直後には、もう頭が再生しているとは誰も思わないだろう。

 

 隊長には、迫る拳を避ける術は何もない。

 

 ―――そして隊長は、クレマンティーヌの拳によって吹き飛ばされた。

 

 

 隊長の身体は女子トイレの壁を突き破り、その隣の部屋の壁をも突き抜けて、土煙の向こうに消える。

 

 クレマンティーヌは、彼を追撃。脚部のパワージャッキで突撃し、彼がいるであろう場所に拳を振るう。

 彼女のそれは、ソードスキルがあったとはいえシャルティアの鎧を破壊した拳だ。隊長の鎧を破壊するには申し分ない威力がある。

 

 クレマンティーヌの拳は、土煙の中何かを捉え、クレマンティーヌに肉を貫いた手ごたえを与えた。

 

「ん?」

 

 そこで、彼女はおかしなことに気が付いた。

 

 隊長を殴ったのであれば、彼女にはまず鎧を叩いた感触が伝わったはずなのだ。

 だが、彼女の手にはそんなものは無い。あるのは肉を貫いた手ごたえだけだ。

 

「……まさか」

 

 彼女の脳裏に、とある木彫りの人形が浮かぶ。

 

 土煙が晴れると、彼女の腕には隊長ではなく全く知らない人物がぶら下がっていた。

 

「あー、逃げられた。あと一歩だったんだけどなぁ」

 

 クレマンティーヌはため息をつき、八つ当たりとして宿舎に『アビス・ディメンション』をしこたま撃ち込んだ後、内周部の門の方に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、エ・ランテルの外周部は解放されることになった。

 

 死者は、冒険者と衛兵、市民を合わせて200人ほど。これほどの大事件が起こった割には、ありえないほどの少ない被害だった。

 

 アンデッドを街中にばらまいた犯人は、『六腕』のデイバーノックと『ズーラーノーン』のカジットという二人のリッチだったそうだ。

 デイバーノックはアインズが単独で、カジットはナーベさんが近くにいた『クラルグラ』の冒険者と協力して倒したらしい。

 

 アンデッド大群は、とある魔法詠唱者が雲操作や数多くの生活魔法を使用して作り出した太陽光のレーザーで、クレマンティーヌが隊長と屋内で戦っている隙に殲滅したと、彼女はアインザック組合長から聞いた。

 その痕跡は外周部に大きく残っており、いくつもの建物や道路が溶断されていた。

 

 今回の功績により、クレマンティーヌはオリハルコンに復帰、アインズとナーベのペアはアダマンタイトのプレートを手にすることになる。

 また、先ほどの魔法詠唱者は、魔術師組合から支援を受けられることになったそうだ。

 

 

 

 

 

「やっほー、モモンさんいるー?」

 

 事件の次の日の朝。

 クレマンティーヌは、モモンが宿泊しているはずの宿屋がある酒場を訪れていた。

 

「む、お前はクレマンティーヌか。あの人なら、昨夜遅くに出て行ったぞ」

「え? 何かあったのかな……」

 

 クレマンティーヌの声に答えたのは、宿屋の主である男だった。

 彼は、カウンター席に着くように彼女を誘導すると、彼女の前に水の入ったグラスを置いた。

 

「お酒はー?」

「こんな時間から飲まれたら、他の客に迷惑だ。

 それに、お前の方がここにある酒よりも良いもん持ってんだろ」

「まぁねー。伊達にオリハルコンしてないし、此処にあるのよりはいいものは、確かにあるよ。

 たださー、酒場の主がそれを言うのはどうなのよ」

 

 クレマンティーヌは、何とも言えない表情でグラスの水を飲む。

 

「事実だろう。だから、お前はこんなとこに来るなっつってんだ。オリハルコンのお前がここにいると、気の弱い新人とかは此処を使いづらく感じるんだよ」

「うぐっ、それを言われると辛いかなー。

 じゃあ、しばらくはここに来ないよ。ちょうど、王都の方にも行こうと思ってたしね」

 

 彼女はそう言って、懐から銅貨を取り出しテーブルに置く。

 そして、グラスの水を勢いよく飲み干した。

 

「うん、じゃあ、邪魔ものはさっさと退散するかなー」

「おう、帰れ帰れ。顔を出しにくる程度なら嬉しいが、二度と泊まりに来るなよ。新人の分の部屋が減る」

「わかってるってー、飲みにくる程度にしとくよ」

 

 店長と軽口を叩き合いつつ、クレマンティーヌは外に出る。

 

 

「……ここにもいないかー。

 アインズさん達、一体どこに行ったんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルべド、お前がそう報告した理由がこれか」

 

 アインズは、ひどく冷たい声で目の前の女性、アルべドに言った。

 

 ナザリック地下大墳墓、その玉座の間。

 

 彼はそこで、玉座に着きながらナザリックの管理システムを眺めていた。

 その管理システムの画面には、NPCたちの名前がレベルの高い順に表示されている。

 

「はい、消えている名前はシャルティアの物で間違いありません。

 昨夜遅く、シャルティアの反逆が確認された為、こちらを監視していました」

「反逆……反逆か。

 確認するぞ、アルべド。昨夜遅くにシャルティアの名前が黒くなり、その後一時間も経たない内に名前が空欄になった。それで合っているな」

「はっ」

 

 アルべドは、コンソールを眺めるアインズに傅く。

 

「ふむ……」

 

 アインズは、一つのアイテムを思い浮かべた。

 

 名前の変色と言うのは、ゲーム通りであれば第三者による精神支配が発生した場合に起こる事象だ。

 だが、シャルティアは精神作用を無効化するアンデッド。精神支配という物からは、ほど遠い存在である。

 

 しかし、アインズはそれを時間限定で無効化するアイテムを知っていた。

 

 『完全なる狂騒』、一時間だけアンデッドやスライムの持つ精神作用無効化を無効化するアイテムだ。

 これを使えば、一時間だけであればアンデッドを洗脳することが可能となる。

 

 その後に起こった彼女の死亡も、時間制限があるゆえに自決させたと考えれば説明がつく。

 

「いや、生まれながらの異能(タ レ ン ト)というものがあるこの世界で、一つのアイテムに考え方を縛られることは危険か。

 ―――アルべド、現在ナザリックにいる守護者たちを集めろ。そうだな……一時間後に此処に集合させるのだ」

「畏まりました」

「それと、至急ユリとシズを呼んできてくれ。シャルティアを蘇生するために必要な金貨を、宝物庫から取ってくる」

「はっ!!」

 

 アルべドはアインズに大きく頭を下げると、玉座の間を後にする。

 

 

 しばらくして玉座の間に現れたユリ・アルファとCZ2128・Δの二人を伴い、アインズは宝物庫に転移した。

 そこで色々と見たくない者を目にしつつ、五億枚の金貨を回収。それら全てを、玉座の間に運び出す。

 

 

 それからきっかり一時間後、玉座の間に集まったデミウルゴスとアウラ以外の守護者とセバスとソリュシャン以外のプレアデス、そして黒歴史(パンドラズ・アクター)を前に、アインズは杖を掲げた。

 

「復活せよ、シャルティア・ブラッド・フォールン」

 

 玉座の間に置かれた大量の金貨、その全てが溶解し、一つの人型を成す。

 

 人型の名前は、シャルティア・ブラッド・フォールン。昨夜死亡した守護者だ。

 復活したシャルティアに守護者たちが武器を構える。守護者最強と謳われるシャルティアが、反逆を行った可能性があるのだ。

 

 彼らの様子を見たアインズは、管理システムのコンソールに書かれたシャルティアの名前の色を確認する。

 

 結果は白、シャルティアの名前は、ナザリックに反乱をしたことを示す黒ではなく、いつものように白色に輝いていた。

 

「―――守護者たちよ、武器を納めよ」

 

 アインズのその言葉に、彼らは安堵の表情と共に武器を下す。

 

「アインズ様?」

 

 彼らがそうすると同時に、シャルティアは目を覚ました。

 寝ぼけたような口調の彼女に、アインズは黒色のマントを羽織るように被せた。

 

「……」

 

 ―――良かった。本当に良かった。

 

 部下の手前その様な情けない言葉を発することはなかったが、彼は心の中で安堵していた。

 その強い感情にアンデッド特有の精神沈静化が働くが、すぐにアインズの心は安堵で満たされる。

 

「あの……アインズ様、わたくしは何故玉座の間でこのような格好でいるのでありんしょう。

 アルべドやコキュートスたちまで集まって……いったい何があったでありんすか?」

「何があったか覚えていないのか?」

「は、はい」

「そうだな……それに答える前に、まずシャルティアの最後の記憶を教えてほしい」

 

 残った問題はそれだった。

 シャルティアが蘇生した時点で名前が黒く変色していないということは、すなわち何者かによる洗脳が施されたことを示している。

 シャルティアを洗脳できる程の存在となると、アインズとしては用心せねばならない存在だった。

 

「えっと、たしか―――」

 

 シャルティア曰く、セバスたちと別れてからの記憶が途絶えているとのこと。

 

(記憶の消去が行われたのか?)

 

 〈記憶操作〉(コントロール・アムネジア)の魔法を使えば、意図的に記憶を欠落させることは可能だ。膨大な量のMPを消費することになるが、セバスたちと別れてそう時間の経たない内に洗脳されたのであれば、記憶を消去されている可能性は十分にある。

 

「いや、決めつけるのは良くないな」

 

 なにせ、今のナザリックは現実だ。ナザリックの機能の全てが、ゲーム通りの仕様とは限らない。

 まして、NPCの記憶などユグドラシルには本来存在しなかった事象なのだ。死亡によって記憶が欠落するなどの仕様があってもおかしくない。

 

 とりあえず、今彼にわかったのは、シャルティアの記憶から犯人を特定することはできないということだけだった。

 

 そうなると、探る手段はそう多くはない。

 

「シャルティアは、アルべドから何があったのか聞くように。

 私は、二グレドの方に行ってこよう」

 

 そう言って、彼はその場を発つ。

 

 行き先は第五階層にいるアルベドの姉、ニグレドのところだ。

 二グレドは、索敵などの情報収集特化型の魔法詠唱者である。彼女の力でシャルティアの装備を探せば、もしかしたら犯人がわかるかもしれない。

 

 二グレドがいるのは、第五階層にある氷結牢獄という館だ。

 アインズは、そこにいるレイスから赤子の人形を受け取ると、二グレドのいる部屋に入る。

 

 彼はそこでいつものようにホラーな展開を迎えた後、二グレドにシャルティアの武装である『スポイトランス』を探すように命じた。

 

 二グレドは、その命令に従い『偽りの情報』(フェイクカバー)『探知対策』(カウンター・ディテクト)などの情報欺瞞系の魔法をいくつも発動させたのち、『物体発見』(ロケート・オブジェクト)の魔法を発動させる。

 本来であれば、『物体発見』(ロケート・オブジェクト)の魔法によりシャルティアの武装がどこに行ったのか探知することができるはずだった。

 

 だが―――

 

「アインズ様」

「ん? 何だ」

 

 探知魔法を発動していたはずの二グレドが急に動きを止め、アインズの方に振りかえる。

 

「施設規模の防壁が確認されました。強度的に突破は可能ですが、探知を察知される危険性があります」

「なんだと?」

 

 いや、当たり前と言うべきか。

 この世界の人間のレベルを考えると、シャルティアと単独で戦闘を行ったとは考えにくい。集団で戦ったと考えるのが普通だろう。

 そして集団で戦ったということは、敵が組織であるという可能性が高い。

 

 流石の二グレドも、個人規模の防壁ならともかくギルド施設などの防壁をすり抜けることは簡単ではないようだ。

 

「ふむ……二グレド、防壁を突破しない場合はどの程度まで場所を絞れる」

「方位と大まかな距離……その程度でしょうか。

 その場所の情景やシャルティア様の武器の状態を探ることは、非常に難しいと言わざるを得ません」

「なるほどな。では、それで構わない。探知を再開してくれ」

「畏まりました」

 

 二グレドが、一旦停止していた探知を再開する。

 そして、五秒も経たない内に彼女は魔法を停止させる。

 

「お待たせいたしました。アインズ様。

 シャルティア様のスポイトランスは、どうやらナザリックより南に―――進んだところにあるようです」

「南……なるほどな。ご苦労だった二グレド」

「はっ」

 

 アインズの言葉に感極まる二グレドをよそに、アインズはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「南に―――か、ははは。なるほど。

 

 

 ―――スレイン法国だな」

 

 アインズの精神が、精神沈静化により一時的に沈静させられる。

 

 しかし、彼の心がそんなもので納まるはずがなかった。




 パンドラをかっこよく書けなかったので、彼の場面は全面カットされました(笑)

 エ・ランテル編は、今回の話で終了です。
 しばらく幕間の話をした後、王都編に入ります。

追記

 幕間について、活動報告の方でアンケート取ります。

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