もしクレマンティーヌが装者で絶剣で女神だったら   作:更新停止

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 今回の話を書いて、私は実感しました。
 ―――私には、食事の描写は書けないと。

 そんなわけで、今回は食事の描写分文量が少ないです。申し訳ない。

 また、前もって言いますが、今回出てくる女性はオリキャラではありません。







 ところで、漆黒聖典のあの人だけでなく、こっちの人も隊長でしたよね。


とある隊長の話

 

 ニグン・グリッド・ルーインは、陽光聖典の隊長である。

 

 その彼は、神都にて部下たちと鍛錬を行っていた。

 

「―――それまで!!」

「「はっ!!」」

 

 ニグンの声に、陽光聖典の隊員たちは魔法の発動を止め、召喚していた天使達を伴い集合した。

 

「各員、身体を落ち着けた後に休息をとるように」

 

 ニグンの声を聞いた隊員たちは、了承の意を示すと各々で身体をほぐし始めた。

 

 ニグンは、そんな彼らの様子を見つつ、力強く歯を噛み締めた。

 

 

 

 ―――カルネ村での出来事から、およそ一ヶ月が過ぎた。

 

 

 意外にも、任務に失敗して帰還したニグンに対する罰則などはなかった。

 

 また、ニグンや彼の部下である陽光聖典の隊員達が、他の六色聖典の人員からも陰口をたたかれることなども一切無かった。

 むしろ、任務中に元漆黒聖典の隊員であるクレマンティーヌに遭遇したことに、同情する声を多く聞いたほどだ。

 誰もが皆、ニグンに対し暖かい声をかけた。

 

 

 

 

 ―――だが、彼にはそれが一番堪えたのだ。

 

 

 陽光聖典に下される任務、それは神々が身を捧げた人類守護という大いなる目的のための神聖なものである。

 ニグンは、それに失敗したのだ。責められ、罰せられて当然の行いをしたのだ。

 そうであるにも関わらず、一切の叱咤も何もない。何故だ。責められて当然の罪を犯したのに何故責められない。

 

 一切、責任を追及されない。それは、信仰心熱い彼にとって責められるよりもなお非常に堪えるものだった。

 

 

 

 部下たちが休息を取り始める様子を見たのち、ニグンはその場を後にする。

 向かう先は神官長達の待つ教会、そこに昼過ぎに訪れる様に神官長達から告げられていた。

 

 彼が腕に巻かれていた鋼鉄製のバンドを確認すれば、鋼鉄製のバンドはもうしばらくすれば昼の時間を迎えることをニグンに教えてくる。

 

 つまり、予定の時間まではまだ時間があるということだ。

 

 余り早く行くのも迷惑になると考えたニグンは、予定を変更し、先に昼食を取ることにした。

 

 

 

 

 彼が向かった先は、行きつけの酒場である。

 この酒場の主は、六色聖典の事情にある程度理解があり、隊員たちにも便宜を図ってくれることもあるありがたい存在だった。

 

 勿論、服装は、任務の際にいつも着ている物々しい服装ではなく、ありがちな私服である。

 六色聖典という存在は、公にはされていない存在なのだ。ニグンだけではなく、各聖典の隊員達は、このような場に訪れる際は基本的に私服で訪れることを義務付けられていた。

 

「へい、いらっしゃい!!

 ―――って、ニグンさんじゃねえか。お昼には少し早いが何かあったのか?」

「いや、昼過ぎに呼び出しがかかっていてな。大規模な仕事の話だろうから、その前に腹ごしらえをしようと考えたところだ」

 

 ニグンは、店主にそう告げながら空いている席に着く。

 店主の彼は、そんなニグンの前に一杯の水を出した。

 

「なるほどな、だったら昼は軽めの方がいいかい?」

「いや、多めに頼む。

 仕事の内容は、おそらく遠出だ。野宿で旨い飯は食えないからな。その前に旨い飯をたらふく食べておきたい」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。なら、あまり脂っこくない物で多く食えるものを選んでやるよ」

「助かる」

 

 店主はニグンに笑いかけると、店の調理場の方に歩いて行った。

 

「……任務、か」

 

 彼は、己の手のひらを見つめる。

 そこには、過酷な鍛錬により生じたいくつものタコや傷跡があった。

 

 彼が日々こなす鍛錬は、確かに実になっている。

 生まれながらの異能(タ レ ン ト)という他者にはない才能はあれど、陽光聖典の隊長であるという事実が、魔法上昇を使用せずに第四位階の召喚系魔法を発動できるのはニグンしかいないという事実が、彼の能力を証明している。

 

 ―――だが、それでも彼は英雄になることはできない。

 どれほど努力しても、英雄に勝つことができないのだ。

 

「たしか……『二軍』だったか」

 

 あの裏切者がかつて漆黒聖典に所属していた頃、ニグンに言った言葉だ。

 

「英雄未満、一般人以上。奴曰く、中途半端に力を持った人間を指す言葉。

 ……認めたくはないが、間違ってはいなかったな」

 

 どれほど頑張っても、ニグンの実力では英雄の領域には至れない。

 それはわかっている。わかっているが、認めたくない事実だった。

 

 

 自嘲しながら落ち込むニグンの前に、瑞々しいサラダが置かれる。

 

「ニグンさん、あんまし暗い顔してんじゃねえよ。旨い飯も不味くなるぞ?」

「―――ああ、すまない。食事時に考えることではなかったか」

 

 店主の言葉に、ニグンは自らの脳にはびこっていた思考を追い出す。

 そして気分を一転させると、目の前のサラダに目を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その後しばらくして、

 

「……随分食ったな」

「ああ、最近悩みが多くて食が進まなかったからな。その反動かもしれん」

 

 ニグンの前には、肩ほどの高さにまで詰まれた大量の皿があった。

 此処が居酒屋であるために、一皿に盛られる料理の量があまり多くないことを考慮しても、その皿数から想像される量はかなりの物だ。

 

「美味かった。代金はいくらになる?」

「あ、ああ、代金は銀貨一枚だ」

「わかった……これでいいな」

 

 店主の言葉に従い、ニグンは懐から銀貨を一枚差し出す。

 

「おう、ばっちりだ。まいどあり」

 

 店主が、ニグンの前にあった皿を調理場に下げる。

 それを見た彼は、その間に店を後にした。

 

 店を出たニグンは、その脇の路地裏に身を隠す。

 

「さて、もうそろそろ時間か?」

 

 ニグンは、路地裏で袖に隠したバンドを確認する。

 時間は丁度昼。今から教会の方へと向かえば、ちょうどいい時間に着くであろう時刻だった。

 

「ふむ、ちょうどいい時間だな」

 

 彼は、大通りに出ると、神都の中心部に足を進め始めた。

 

 

 

 

 

 

「ニグン・グリッド・ルーイン。貴殿に新たなる使命を下す」

「―――はっ!!」

 

 ニグンは、目の前の神官長に傅いた。

 

 ここは神都の中央にある、とある建物の中。

 彼は、そこで神官長から新たな任務を受けるところだった。

 

「彼女を連れて竜王国へと赴け。

 竜王国に着いてからの使命については、この場で言うことは憚られる。現地で彼女から聞くように」

 

 そう言って、神官長は建物の陰を指さす。

 ニグンがその先に視線を向けると、そこには黒いローブを羽織り、深くフードを被った存在がいた。

 

 それを見たニグンは、顔を険しくする。

 

 ローブ越しに見えるその存在のプロポーションからして、おそらくそのローブの存在は女性だろう。

 

 問題はそこではない。

 フードから山羊を思わせる角がこぼれ、さらにフードの頂点にイヌの耳が隠されているかのような凹凸が見られたからだ。

 

 ―――明らかに人間ではない

 

 人間の守護を目的とする法国、その中心部たる神都に人外が存在している。

 ニグンの胸の中に、もやもやとした感覚が走った。

 

「……畏まりました」

 

 だが、これも任務だ。任務である以上、果たさねばならない。

 内心に溢れる感情を押し殺し、ニグンは神官長に頭を下げた。

 

「よろしい。

 出発は明日の早朝である。神への信仰の下、その任務を果たせ」

「はっ!!」

 

 ニグンは、神官長へと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 二日後、ニグンとその部下達の姿はカッツェ平野の中にあった。

 

 カッツェ平野とは、法国と竜王国、そして王国と帝国の間に跨る様に存在する霧で覆われた大地だ。

 ここは、毎年帝国と王国の戦場となるためか、アンデッドの多発地帯となっている。

 

 陽光聖典の隊員たちは、この霧に紛れるようにして移動し、野営の拠点となるテントを張っていた。

 周囲を取り巻くはずのアンデッド達は、隊員たちが『アンデッド退散』を行うことで殲滅している。信仰系魔法詠唱者で構成された陽光聖典の面々にとって、この地での安全を得ることは、森での野営よりも簡単なことであった。

 

 野営のために張られたテントの内の一つ、張られたテントの中でも最も大きなテントの中に、ニグンの姿があった。

 

 テントの中には、ニグン、その部下が二名、そしてローブの女性の四人がいる。

 このテントは、他のテントとは異なり、宿泊ではなく作戦立案や会議のために使われるテントだ。その中にいるということは、そういう話をするということである。

 

「―――さて、予定では明日にも竜王国に到着することになる。

 神官長からの命令内容、それを開示していただくことはできませんか?」

 

 ニグンは、正面にいる女性に問いかける。

 女性は、少し考え込むとニグンの方を向いて話し始めた。

 

「……まあ、もういいかしら。

 そこの二人は出てもらえる? 今回の任務には守秘義務があるのよ。残念だけど、そこの隊長以外に聞かせることはできないわ」

 

 女性のその言葉に、彼の部下の隊員たちが少し怒気を強める。

 どうやら、人間ではない彼女に命令されるのは嫌だったらしい。

 だが、神官長からの命令では仕方がない。二人は、しぶしぶといった様子でテントから退出した。

 

「さて、じゃあ―――」

 

 二人が出て行った直後、女性の右手に蒼い光がともる。

 魔法とは異なる、何か人工的な雰囲気漂う光。

 

 ―――その瞬間、ニグンの身体は硬直した

 

 これ……は……

 

 声を出そうとしても、身体を揺すろうとしても、頭の天辺から爪先まで全く動かない。

 まるで、身体を動かす権利を奪われたかのようだった。

 

「―――成功ね」

 

 視線すら動かせない。瞬きすらできない。

 ニグンは、この一瞬で完全に無力化されていた。

 

 いくら身体に力を入れようと、魂と肉体が繫がっていないかのように動かない。力が入る様子すらない。

 

 ―――なんだ、何が起きているっ!?

 

 思考が駆け巡り、打開策を懸命に模索し始める。

 

 そんなニグンの頬に、後ろから妖艶な手つきで手が添えられた。

 

「そんなに慌てなくても良いわ。すぐにその必要もなくなるのだから」

 

 娼婦のような妖しげな声が、ニグンの耳元で囁かれる。

 

 その声に、ニグンは鳥肌が隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、ニグンはテントの外に陽光聖典の部下たちを集めた。

 

「各員傾聴」

 

 ニグンの声に、彼の目の前にいる彼らは意識を向ける。

 

「汝らの信仰を神に捧げよ」

 

 彼らにニグンがそう告げると、略式で神への祈りをささげ始めた。

 

 ニグンは部下たちのその様子を眺め、全員が祈りを終えたことを確認すると、口を開く。

 

「神官長より、任務の開示が許可された。

 

 ―――竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルスを拉致せよ」

 

 

 

 彼らのすぐ傍にあるテントの中で、一人の女性が小さく笑った。




 

 ラスボスが働き始めたようです。
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