Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~   作:明棲木親池

1 / 27
第1話

プロローグ

 

十二月二十四日。今日は待ちに待ったクリスマス・イブ。

天使(あまつか)家の女の子にとってそれは――聖なる夜。

でも、今年は特別。なんてたって陽太郎(ようたろう)がウチに来てから初めて訪れるクリスマスなのだから。

 

今年最後の学校にやや名残惜しさを感じつつも、頭の中はクリスマスと陽太郎の事でいっぱいの、ヒカルはそう思った。

そうだあいつはまだ、ウチのクリスマスの大変さを知らないはずだ。

自然とヒカルの表情には、小悪魔の様な笑みが浮かび上がった。

だったら、仕方ないから私が教えてやるかっ!

いつの間にか、ヒカルの帰路につく足は速度を増していた。

それはいつも夜に行うジョギングとは違う、軽やかなステップ。

海晴姉(みはるねぇ)や春風(はるか)なら、スキップが似合うのかもしれない。でも、私には向いてない。

そう思っての、ヒカルなりのステップ。

普段は見せない――いや、ある事のないヒカルの女の子らしい部分。

こんな私を見たら、あいつはなんて言うかな――。

浮かべた笑みは、小悪魔から可愛らしい恋する乙女へと変わっていた。

 

家族で過ごすのがクリスマスなら――今日のクリスマス・イブをあいつは誰と一緒に過ごすんだろうか。

ヒカルの脳裏にふと過った疑問は、陽太郎の顔を思い出す事によって即座に解決した。

いや、あいつは優柔不断で――バカだから……多分、何にも考えてないんだろうな。

あいつらしいのが、微笑ましいのか、少し残念なのか……。

何とも、渾沌として気持ちをヒカルは抱いた。

それでも、今日がクリスマス・イブという事に変わりはない。

だから――ちょっとぐらいいつもと違う私でも、驚かないよな……?

明日は家族と過ごせばいい。だから――今日は。

あまり欲の無い、ヒカルはやはりなんだかおかしかった。

胸に刺さるつっかえ。けれど、苦しくはない。むしろどこか暖かくすら感じた。

羽織ったダウンコートのせいではない。ならば、急に走ったせいだろうか?

ヒカルは歩く速度を緩め、静止する。だけども、胸に――心にある暖かみは消える事はなかった。

立ち止まり、胸に手を当てる。

うん。別になんともない。

どこかが悪いわけでもなさそうであった。

落した視線を上げると、驚く事にヒカルはいつの間にか自宅の前にいた。

恋は盲目である。それは恋愛観に疎い、ヒカルでも知っている言葉だ。

でも、それを本人はまだ気が付いていない。

きっと、ぼーっとしていた、という表現で済ませてしまうに違いない。ヒカルとはそういう女の子だった。

だから、ヒカルは知らない。自分が脳筋だと思っているから、自分は恋愛に疎いと思っているから――知らない。心に秘めた想いの正体に。

しかしながら、幸か不幸か――それを知らせてくれるのは、

ヒカルの大好きな陽太郎を含めた――十九人の姉妹たちだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。