Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
プロローグ
十二月二十四日。今日は待ちに待ったクリスマス・イブ。
天使(あまつか)家の女の子にとってそれは――聖なる夜。
でも、今年は特別。なんてたって陽太郎(ようたろう)がウチに来てから初めて訪れるクリスマスなのだから。
今年最後の学校にやや名残惜しさを感じつつも、頭の中はクリスマスと陽太郎の事でいっぱいの、ヒカルはそう思った。
そうだあいつはまだ、ウチのクリスマスの大変さを知らないはずだ。
自然とヒカルの表情には、小悪魔の様な笑みが浮かび上がった。
だったら、仕方ないから私が教えてやるかっ!
いつの間にか、ヒカルの帰路につく足は速度を増していた。
それはいつも夜に行うジョギングとは違う、軽やかなステップ。
海晴姉(みはるねぇ)や春風(はるか)なら、スキップが似合うのかもしれない。でも、私には向いてない。
そう思っての、ヒカルなりのステップ。
普段は見せない――いや、ある事のないヒカルの女の子らしい部分。
こんな私を見たら、あいつはなんて言うかな――。
浮かべた笑みは、小悪魔から可愛らしい恋する乙女へと変わっていた。
家族で過ごすのがクリスマスなら――今日のクリスマス・イブをあいつは誰と一緒に過ごすんだろうか。
ヒカルの脳裏にふと過った疑問は、陽太郎の顔を思い出す事によって即座に解決した。
いや、あいつは優柔不断で――バカだから……多分、何にも考えてないんだろうな。
あいつらしいのが、微笑ましいのか、少し残念なのか……。
何とも、渾沌として気持ちをヒカルは抱いた。
それでも、今日がクリスマス・イブという事に変わりはない。
だから――ちょっとぐらいいつもと違う私でも、驚かないよな……?
明日は家族と過ごせばいい。だから――今日は。
あまり欲の無い、ヒカルはやはりなんだかおかしかった。
胸に刺さるつっかえ。けれど、苦しくはない。むしろどこか暖かくすら感じた。
羽織ったダウンコートのせいではない。ならば、急に走ったせいだろうか?
ヒカルは歩く速度を緩め、静止する。だけども、胸に――心にある暖かみは消える事はなかった。
立ち止まり、胸に手を当てる。
うん。別になんともない。
どこかが悪いわけでもなさそうであった。
落した視線を上げると、驚く事にヒカルはいつの間にか自宅の前にいた。
恋は盲目である。それは恋愛観に疎い、ヒカルでも知っている言葉だ。
でも、それを本人はまだ気が付いていない。
きっと、ぼーっとしていた、という表現で済ませてしまうに違いない。ヒカルとはそういう女の子だった。
だから、ヒカルは知らない。自分が脳筋だと思っているから、自分は恋愛に疎いと思っているから――知らない。心に秘めた想いの正体に。
しかしながら、幸か不幸か――それを知らせてくれるのは、
ヒカルの大好きな陽太郎を含めた――十九人の姉妹たちだった。