Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
霙の言葉を聞いた陽太郎は、一瞬だけ自分の頭が思考停止するのを感じた。
しかし、我に返る時間は、そう長くはなかった。
脳裏に浮かぶ、不吉で嫌な予感。刹那に自分の顔が青ざめたと気づく。
霙が次の言葉を発するまでの僅かな時間がもどかしい――。
次に来るのは、何なのか……。
もしかしたら、自分は次の言葉を聞きたくないのかもしれない。とまで陽太郎は思った。
だが、時間は待ってはくれなかった。
それを察した時、陽太郎はぐっと身に力が入る。
そして、遂に――――、
「ここでヒカルは消えたんだ――」
二度目の追撃、だが、今度はこれで終わりはしないだろう。
陽太郎は次に備え、心構えをする。
「そう――――」
乾いた空気が喉を枯らし、静寂を生む。
周囲には、ちゃんと人影もある。しかし、陽太郎の中には異常なまでの静けさが形成されていく。
それは多分、物理的ではなく、精神的に、だった。
途端、霙は口角を少し上げる。
しかしながら、一瞬の事に、陽太郎は気に止めなかった。
気になるのは、次の言葉――だたそれだけ。
固唾を飲む陽太郎の静寂を霙の言葉が破る。
「そう――ヒカルは幼い頃、ここで――――迷子になったんだ」
「――――――は」
簡素な返事が陽太郎の口から漏れだす。
力んでいた身は、緊張の糸が切れ、プチンと緩む。
思わず、膝を着いてしまうかも、というほどに。
しかし、一方の霙とヒカルは――――、
笑っていた。霙とヒカルにしては珍しく満面の笑みを浮かべていた。
つまり――これは……。
「もしかして俺――騙されてた?」
目尻の涙を拭きながら、ヒカルが答える。
「まさか――お前がこんなに――――」
言葉の途中でこらえきれず、思わず笑うヒカル。すると、その後を霙が続けた。
「いやな、本当は騙すつもりはなかった。ヒカルがここに来るなんて、この私でも予想外だ」
でも――、と霙は続ける。
「君がこんな即興の話に、ここまで食いついてくるという事も、予想外だった」
今一度、笑みをこぼす霙。
陽太郎はほっとしたような気持ちと騙された怒りの二つの感情が入り混じり、何とも表現しがたいものが自分の中で渾沌としていた。
ヒカルが消えた、という言葉を最初聞いた時は肝が冷えるいきおいだった。
けれど、それはただヒカルが小さい頃にここで迷子になっただけだと知り、良かったと思えた。
安心した後、事の事実、状況を冷静に分析する事が出来た。
だから、怒りの感情もある。
でも、それでも陽太郎はその話を聞いて――色んな意味で良かったと思えたのだった。
*
二人の笑いが終えると、霙はそそくさと行ってしまった。
邪魔者はすぐに撤退するさ、という言葉を残して。
陽太郎にはその意味、意図がまるで分からず、きっとヒカルに宛ててのメッセージと思い、思考を放棄した。
その後、二人の会話は決まって、ヒカルの幼い頃の話になっていった。