Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
それはまだヒカルが小学四年――十歳の頃の話だった。
中学生になったばかりの海晴が、霙、春風、ヒカルを連れて駅前のショッピングモールへと足を運んだ。
裕福な家庭ではあったが、彼女らの母はしつけに厳しくお小遣いは年相応と決めていたため、あまり高価なものは買えない。それに加え、中学生と小学生三人ともなれば、周りの空気からは、やや浮いた状態だった。
しかし、彼女らはまったくそれを気にしなかった。
何故かというと、別に彼女らは気取ってこの場所を訪れた訳ではない――からだった。
むしろ、年相応の行動目的である。
可愛らしい歩幅は、徐々に〝それ〟に近づこうとしている。
一歩。また一歩と着実に――。
そして――。
「うわぁ~!!」
感嘆の声を漏らすのはヒカルだった。
未だ幼いヒカルにとって、その時の〝クリスマスツリー〟はどの様に映ったのか――。
都会の――しかも、駅前のショッピングモールに顕在しているこれが彼女に何を与えたのか。
しかしそれは、幼さ故にすぐ露わとなる。
「はるか! みてこれ! すっごくおっきいよ!!」
無垢な笑顔を一つ上の姉、春風に向ける。
「そうだね、ヒカルちゃん」
春風はヒカルに落ち着いた言葉を返す。
それは彼女が普段から大人しいという訳でない。自分がお姉さんという立場が――無邪気にはしゃぐヒカルが――そうさせているのかもしれない。
そんな春風にフォローを入れたのは、
「春風、あれを見てみろ――」
一つ上の姉、霙だった。
そして、春風は霙が指さす方に目を向ける。すると――
「ひゃ~~でっかいわね! さっすが!! 妹たちを連れて来た甲斐があったってもんよ!」
この中で一番の年上、である海晴のヒカルにも劣らないはしゃぎっぷりだった。
「な? 長女があれ、なんだ――だからお前も気にするな――」
やさしく微笑む霙に春風は、
「ふふっ――ありがと、霙お姉ちゃん」
と、笑みを返した。
しばらくツリーを堪能した後、特に買う物も無く、次第に辺りが暗くなってきたため、彼女たちは帰路に着こうとしていた。
「さて、そろそろ帰るぞ、海晴姉」
「あぁ~~んっ! もう、ちょっとだけ~!」
「甘い声を出してもダメだ」
「ちぇっ――霙のケチ」
「何か言ったか?」
「別に~」
やりとりを傍観していた春風は、どちらが姉なのか少し分からないくなった。
「まぁ、そうね――そろそろ暗くなるし――って、あれ? ヒカルは?」
海晴の言葉に、
「いや、私は見てないが――」
「私も、ヒカルちゃんとさっきまで一緒にいたけど――」
霙、春風ともに曖昧な返事をする。
三人はとりあえず、ツリーの周辺を見て回った。
だが、ヒカルの姿はどこになく――、
「どうしよう――」
春風が不安な声を上げる。
時刻は七時を回り、クリスマスムード一色のこの場所は、次第に人の入りが激しさを増していった。
「海晴姉」
霙は名前だけを呼ぶと、目で合図をする。
それに海晴も応え、頷く。
「とりあえず、春風はここで待機していてくれ。もしかしたら、ヒカルがまたツリーの元へ来るかもしれない」
霙の冷静な言葉に春風は、目尻の涙を拭きとり、
「わ、分かった!」
強く返事をした。