Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
あともう少し――。
小さな手のひらをかざし、何かを取ろうと懸命にもがく。
狭く暗い中、少女の目には一番星しか見えていなかった。
ん~、あと少しなのに――!
少女は自分のまだ未熟な体つきのせいで、思い通りにならないことに腹を立てる。
次こそは――。
意を決し、先ほどよりも力む。
ぐっと伸びた指先でついに一番星に触る事が出来た。
もぉ~ちょっとぉ~~。
伸ばす腕、指に神経を集中させる。
その時、ボキッ――。と嫌な音が少女の耳に入る。
すると、瞬く間に少女の視界から一番星が遠ざかっていくのを感じた。
あ――れ?
辺りは暗く、寒い。次第に一番星すらも見えなくなってしまった。
その時、少女が唯一感じたのは、自分が落下している事だけだった。
*
「春風!」
胸に手をかざしている春風の名前を呼ぶのは、駅前の捜索に出ていた霙だった。
自分の名前を呼ばれた春風は、慌てて声のする方を見る。だが、そこには霙しかいなかった。
互いに、状況の把握をするも、おおかた予想はついていた。
そんな時、ざわざわ――とクリスマスツリーの周りに、人の群れができ始めた。
「霙お姉ちゃん……」
「あぁ、分かっている。もうすぐ八時になる。ここら辺も時機に人の群れに飲み込まれるだろう――」
振るえる春風の肩に手を添えながら、霙は言った。
海晴姉の方はどうなっているんだろうか――。
とりあえず、一旦、合流を――と考えた霙は辺りをきょろきょろと見渡す。
すると、クリスマスツリーの最前列に海晴はいた。
霙は海晴に声を掛けようと、思った瞬間、その異様な光景に気が付いた。
海晴姉――だけじゃ、ない?
海晴は確かに、そこに――クリスマスツリーの前に佇んでいた。
それ自体はおかしい事ではない。付け加えるなら、クリスマスツリーの周りには、多くの人々の姿もあった。
今日がクリスマス・イブで、それにこれだけ目につくクリスマスツリーだ、人が集まるもの、と霙は考えていた。
なら、霙はどこを異様かと、思ったのか――。
それは、自分と春風を除く、ほとんどの人達が、皆一斉にクリスマスツリーを見上げていたからだった。
海晴の名を呼ぶ前に、霙もそれに釣られ、クリスマスツリーを見上げる。
すると、何やらぐわんぐわんとツリーが揺れていた。
一見したら、なにかの催し物かと、思わなくもない。
だが、それは明らかに――、
歪で不規則な動きをしていた。
「まさか――――」
霙は呟いた。
春風は霙の言葉を聞き、クリスマスツリーを見上げるが、いまいちピンと来てはいなかった。
もし海晴姉がそれを分かって、あそこにいるのなら――。
霙の脳裏に、嫌な予感が過る。
だが、霙はその予感を振り払うように――地を駆けた。
*
「まさか――」
陽太郎はまるでその光景を自分が体験しかのように、青ざめた顔で呟いた。
「あぁ――あの時は、なにがなんだか分からなくてな――気が付いたら海晴姉と霙姉の腕の中にいたんだ。
そしたら、春風のやつ――後から大泣きして私の所に来てな――」
陽太郎とは対象に、ヒカルは明るく振る舞う。
もうヒカルの中では、笑い話になっているのか……?
と、陽太郎は思った。
「でも、無事でよかったよ」
「あぁ、そうだな。姉さんたちには感謝している」
あ、いつのもヒカルの顔だ。
キリッとしたヒカルの顔つきに、陽太郎はどこか安心を覚えた。
「それに――この状況をつくってくれたしな……」
ボソッと呟くヒカル。
白い息は陽太郎が認識するよりも早く、その身を隠してしまう。
「ん? どうかした?」
一変して、どこか嬉しそうな表情を浮かべるヒカルに陽太郎は訊ねた。
「――いーや、なんでも、ないっ!」
「ちょ、ちょっと――」
ヒカルは陽太郎の手をぐっと握りしめ、先行する。
心に秘めていた気持ち。
それは彼の手を握る事で真実となる。
流石のヒカルでもそれがなんなのかぐらい、もう気が付いていた。
胸の中にある暖かさと同じ、彼の手の温もり。
同調する様に、それはヒカルの頑固な心を溶かしていった。
そっか――。
振り返り、陽太郎を見つめる自分の顔はいま、どんな風になっているんだろうか――。
なんて、らしくない事を考えてしまう。
でも、やっぱり少しくらいいいよね。
だって、今日は――クリスマス・イブなんだから。