Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~   作:明棲木親池

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第14話

あともう少し――。

小さな手のひらをかざし、何かを取ろうと懸命にもがく。

狭く暗い中、少女の目には一番星しか見えていなかった。

ん~、あと少しなのに――!

少女は自分のまだ未熟な体つきのせいで、思い通りにならないことに腹を立てる。

次こそは――。

意を決し、先ほどよりも力む。

ぐっと伸びた指先でついに一番星に触る事が出来た。

もぉ~ちょっとぉ~~。

伸ばす腕、指に神経を集中させる。

その時、ボキッ――。と嫌な音が少女の耳に入る。

すると、瞬く間に少女の視界から一番星が遠ざかっていくのを感じた。

あ――れ?

辺りは暗く、寒い。次第に一番星すらも見えなくなってしまった。

その時、少女が唯一感じたのは、自分が落下している事だけだった。

 

      *

 

「春風!」

胸に手をかざしている春風の名前を呼ぶのは、駅前の捜索に出ていた霙だった。

自分の名前を呼ばれた春風は、慌てて声のする方を見る。だが、そこには霙しかいなかった。

互いに、状況の把握をするも、おおかた予想はついていた。

そんな時、ざわざわ――とクリスマスツリーの周りに、人の群れができ始めた。

「霙お姉ちゃん……」

「あぁ、分かっている。もうすぐ八時になる。ここら辺も時機に人の群れに飲み込まれるだろう――」

振るえる春風の肩に手を添えながら、霙は言った。

海晴姉の方はどうなっているんだろうか――。

とりあえず、一旦、合流を――と考えた霙は辺りをきょろきょろと見渡す。

すると、クリスマスツリーの最前列に海晴はいた。

霙は海晴に声を掛けようと、思った瞬間、その異様な光景に気が付いた。

海晴姉――だけじゃ、ない?

海晴は確かに、そこに――クリスマスツリーの前に佇んでいた。

それ自体はおかしい事ではない。付け加えるなら、クリスマスツリーの周りには、多くの人々の姿もあった。

今日がクリスマス・イブで、それにこれだけ目につくクリスマスツリーだ、人が集まるもの、と霙は考えていた。

なら、霙はどこを異様かと、思ったのか――。

 

それは、自分と春風を除く、ほとんどの人達が、皆一斉にクリスマスツリーを見上げていたからだった。

 

海晴の名を呼ぶ前に、霙もそれに釣られ、クリスマスツリーを見上げる。

すると、何やらぐわんぐわんとツリーが揺れていた。

一見したら、なにかの催し物かと、思わなくもない。

だが、それは明らかに――、

 

歪で不規則な動きをしていた。

 

「まさか――――」

霙は呟いた。

春風は霙の言葉を聞き、クリスマスツリーを見上げるが、いまいちピンと来てはいなかった。

もし海晴姉がそれを分かって、あそこにいるのなら――。

霙の脳裏に、嫌な予感が過る。

だが、霙はその予感を振り払うように――地を駆けた。

 

      *

 

「まさか――」

陽太郎はまるでその光景を自分が体験しかのように、青ざめた顔で呟いた。

「あぁ――あの時は、なにがなんだか分からなくてな――気が付いたら海晴姉と霙姉の腕の中にいたんだ。

そしたら、春風のやつ――後から大泣きして私の所に来てな――」

陽太郎とは対象に、ヒカルは明るく振る舞う。

もうヒカルの中では、笑い話になっているのか……?

と、陽太郎は思った。

「でも、無事でよかったよ」

「あぁ、そうだな。姉さんたちには感謝している」

あ、いつのもヒカルの顔だ。

キリッとしたヒカルの顔つきに、陽太郎はどこか安心を覚えた。

 

「それに――この状況をつくってくれたしな……」

 

ボソッと呟くヒカル。

白い息は陽太郎が認識するよりも早く、その身を隠してしまう。

「ん? どうかした?」

一変して、どこか嬉しそうな表情を浮かべるヒカルに陽太郎は訊ねた。

「――いーや、なんでも、ないっ!」

「ちょ、ちょっと――」

ヒカルは陽太郎の手をぐっと握りしめ、先行する。

 

心に秘めていた気持ち。

それは彼の手を握る事で真実となる。

流石のヒカルでもそれがなんなのかぐらい、もう気が付いていた。

 

胸の中にある暖かさと同じ、彼の手の温もり。

同調する様に、それはヒカルの頑固な心を溶かしていった。

 

そっか――。

振り返り、陽太郎を見つめる自分の顔はいま、どんな風になっているんだろうか――。

なんて、らしくない事を考えてしまう。

 

でも、やっぱり少しくらいいいよね。

 

だって、今日は――クリスマス・イブなんだから。

 

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