Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
星花と夕凪の論争の決着を見届けた後、陽太郎は氷柱の姿を探していた。
理由は重い荷物を一人で持たせてしまった事への謝罪という――罪悪感からくるものだった。
多分、怒られる――か少なくとも、しばらくは小言を言われそう、だと陽太郎は嫌な予感がしてもなお、探す足を止めない。
もしかして俺ってマゾ?
これから待ち受けるであろう理不尽に立ち向かう自分を、そう思った。
リビングを抜け、廊下を渡る。
この家に来るにあたっての注意事項に、部屋で一対一では入らない事、と言われているため、とりあえずは氷柱が廊下を彷徨っている事を陽太郎は願った。
すると、正面から足音が聞こえる。
もしかして――氷柱?
電気の光がちょうど届かない場所なため、その姿を把握することが出来ない。
しかし、足音だけは着実にこちらへと近づいて来る。
そして、陽太郎を背後から照らす唯一の灯りが、その正面から来る人物の足元から徐々に照らす。
それに相まって暗がりに目が慣れた陽太郎は、やっと肉眼で姿を捉える事が出来た。
その人物とは――
「あれ? どうしたんですか、お兄ちゃん――」
五女の蛍だった。
「えっ――いやっ」
予期せぬ人物に、陽太郎は返答を詰まらせる。
素直に氷柱を探していた、と言えばいいものを、変に言葉を濁したため、蛍はそれを制する様に言葉を続ける。
「あっ! そうだった。お兄ちゃん――ちょっといいですか?」
上目遣いで、可愛らしく首を少し傾げる仕草に、陽太郎は思わず頬に熱が募る。
「あっ、う、うん――」
しどろもどろになりながら陽太郎は返事する。
ギィィ……。
やや古めかしい音が蛍の後方から鳴った。
扉が閉まる音だろうか? 陽太郎は蛍から視線を外し、奥の暗がりへと向ける。
「どうかしました、お兄ちゃん?」
しかし、蛍は気が付いていない様子だった。
「あぁ――いや、何でもないよ」
そのため、陽太郎も気にせず、視線をまた蛍へと戻した。
陽太郎が蛍に連れて来られたのは、姉妹たちの部屋ではなく、二階の物置き場であった。
しかし、そのほとんどが蛍が自作した洋服なので、衣裳部屋と言っても遜色はなかった。
「あのですね、ホタ――今年はお兄ちゃんにもコスプレして、ほしいなって……」
蛍は頬を染め上げると、視線を衣装と陽太郎交互に向けてそう言った。
「えっ!? 俺が?」
「ご、ごめんなさいっ! こんな急になんて困っちゃいますよね――」
「い、いや――そんな事は……」
「ほ、ホントですかっ!?」
大きく見開いた蛍の瞳はキラキラと星が輝いている、と陽太郎が勘違いするほどに眩く光っていた。
「まぁ、せっかくのイベントだし――」
その時、陽太郎は立夏がサンタに宛てた願いを思い出した。
すると、次の言葉はすっと述べる事が出来た。
「俺に出来る事があるなら――何でも協力するよ」
「ありがとうございますお兄ちゃん!」
「う、うわぁ――!!」
感極まって蛍は陽太郎に抱き着く。
二つの柔らかな感触が陽太郎を胸板を刺激する。
「あっ――ご、ごめんなさいっ! 私ったら、嬉しくてつい……」
抱き着いてきたのが唐突なら、離れるのも唐突。
蛍は乱れた髪を手で直し、話を改める為、一つ咳を入れる。
「実は、お兄ちゃんにはもう一つだけ――お願いがあります」
真面目な顔をする蛍を見て、陽太郎も気持ちを改める。
そして、蛍は言葉を続けた。
「そのぉ……お兄ちゃんから――――氷柱ちゃんにコスプレしてくれないか、って頼んでもらえませんか?」