Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
部屋に二人っきりだと言うのに、そこは静寂に包まれていた。
この時、陽太郎は妹と部屋で二人っきりでは、入るなという注意事項を破っている事にまだ気づいていなかった。
事態はそれどころではなかったのだ。
季節は冬。外は今にも雪が降りそうなくらい寒いというのに、陽太郎は額に、背中に、うっすらと汗をかいていた。
それもそのはず、目の前には今にもとって喰らうかのような、鬼の形相を浮かべた氷柱が立ち尽くしているのだから。陽太郎はその薄気味悪い静寂を破る。
「あ、あのぉ……」
「――――なに?」
名は体を表すかのように、氷柱の鋭く冷たい眼光が陽太郎に突き刺さる。
「どうせ、蛍ちゃんから何か頼まれたんでしょ?」
「――――え?」
どうしてそれを――と、陽太郎が口に出すのを氷柱が言葉で制した。
「どうしてって顔に出てるわよ――まったく情けない……」
はぁ、とため息をつく氷柱。
予め策を練っていた陽太郎でも、この事態は想定していなかった。
故に、策を弄することなく、万策尽きる状況であった。
「で、蛍ちゃんに何を頼まれたの?」
鋭い眼光のまま氷柱は陽太郎へぐっと身を乗り出す。
その勢いに陽太郎は半歩下がる。
が、その直後一歩前へ進む。
そうだ。確かに、蛍に頼まれた件があるのは事実。でも、俺はそれよりも最初に――。
陽太郎は意を決する。
「な、なによ――」
陽太郎の予期せぬ行動に氷柱はの表情は少し緩むの陽太郎は見逃さなかった。
そして、
「確かに、蛍に頼まれ事をされたのは氷柱の予想通りだ。でも、それよりも前に俺は氷柱に言いたい事があったんだ」
「……えっ?」
虚を衝かれた氷柱は一歩、後退した。
その表情は先ほどまでの鋭い目つきはなく、ほんのりと頬を染め、どこか熱を帯びている様子だった。
「あの時――買い物の帰り、一人で重い荷物を持たせてちゃった事を謝りたかったんだ」
一歩、また一歩と陽太郎は前へ出る。
そして、おもむろに伸ばした手で、氷柱の白く小さな手を握る。
「寒い中、辛かったろ? ごめんな――――」
「な、ななな――――っ」
ぱくぱくと口を開く氷柱だが、その口からは形容しきれていない声が漏れ出す。
「氷柱?」
そこで目が合う。
「ば、ばば――バッカじゃないの!!」
勢いよく叫んだ氷柱は、陽太郎に握られていた手をするりと解き、その手で陽太郎の胸元を叩いた。
しかし、そこは氷柱。今まで勉強に打ち込み、運動を苦手としてたため、その力は弱く、威力はなかった。
それがどこか氷柱らしからぬ所でもあり、氷柱らしい所でもあり――陽太郎の表情に笑みが生まれた。
「氷柱っていつも怒ってるよね――」
「それはあんたのせいでしょ――っが!!」
再度氷柱の手が陽太郎の胸元を襲う。が、それも大した威力は無く。
ポカポカとでも効果音が付くようなものだった。
そんな二人のやりとりはしばらくの間続くのであった。