Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~   作:明棲木親池

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第2話

「ただいま」

乾いた空気に、ヒカルの声が響く。けれど、家の中から反応は無かった。

しかし、一方のヒカルもそれを気にする様子もなく、靴を脱ぐ。

なんら、いつもと変わらない動作だが。今日だけは、視線がどこか泳いでいた。

……アイツはもう帰って来ているのか。

泳いだ視線が捉えたのは、綺麗に並べられた学生靴の中で一番サイズの大きな靴。つまりはこの家唯一の男性である陽太郎のものだった。

ヒカルと陽太郎は同じ学校だが、わけあって学校内では兄弟という事を隠していた。

ヒカルはそんなに気にしなくてもいい、といつも言っているのに、陽太郎は――「ヒカルに迷惑はかけられない」と言ってすぐに帰ってしまう。

一緒に帰りたいけど、止める理由も特にない。ましてや恋に疎いヒカルが気の利いた返しも出来る訳なく――いつも逃げられていた。もどかしい乙女心であった。

それでも今日は――今日こそは……。

綺麗に並べられた靴の脇にそっと自分の靴を添える。ついでに散らかった妹たちのちっちゃな靴も揃える。

と、同時に心の緩みを今一度締め直す。

どうせいつもの陽太郎の事だ、妹たちに遊ばれているに違いない。

それに麗(うらら)と氷柱(つらら)は男嫌いだから置いといて――やっぱり一番の注意人物は、春風か……。

未だ玄関にいるヒカルは、姉妹の顔を浮かべては、次に陽太郎の顔を浮かべる。

あぁ――ダメだ。考えれば考えるほど、私はどうしたらいいのか分からない。

元々、脳筋なヒカルが綿密な計画を立てられる訳もなく、今日の――クリスマス・イブに陽太郎を奪われない様にする方法を断念した。

そうだ! いざとなったら、陽太郎を抱えて外に出よう。春風は運動が苦手だから追っては来れないだろうし、走る事だけが得意な霙姉(みぞれねぇ)も……って、元々、霙姉の心配はいいか――。

こうしてヒカルの作戦は終了した。

 

長女の海晴は、明日のクリスマスに時間を割くために、今日は少し遅くまでアナウンスの仕事を頑張り、次女の霙はそもそもクリスマス・イブにそもそも興味がない。

五女の蛍(ほたる)はお菓子作りとサンタの衣装製作に夢中だし、六女の氷柱と九女の麗は男嫌いな事で姉妹間では有名。

その他は、七女の立夏(りっか)を筆頭に、八女の小雨(こさめ)、十女の星花(せいか)、十一女の夕凪(ゆうな)、は明日のサンタクロースのお願いごとを考えるのに必死。

それ以下の、十二女の吹雪(ふぶき)、十三女の綿雪(わたゆき)、十四女の真璃、十五女の観月(みづき)、十六女のさくら、十七女の虹子(にじこ)、十八女の青空(そら)、十九女のあさひは、夜の九時になると就寝時間となる。となると――ヒカルは消去法的に考え、一番、注意しなければならない相手は三女の春風であった。

 

可愛い妹たちのお兄ちゃんを奪うのはとても忍びないし、心苦しい。

けれど、それもこれもアイツとクリスマス・イブのせいだ。

ヒカルは秘めた胸の内で愚痴をこぼす。

すると、はくしょん! と扉越しから野太いくしゃみが聞こえた。

――ふふっ。

ヒカルの顔に笑みが零れる。

それは誰かさんがくしゃみをしたからなのか――はたまた誰かさんがこの扉の向こう側にいると分かったからだろうか。それはヒカル自身もよく分からない。

 

だから――――ヒカルは、その扉を勢いよく開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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