Baby Princess ~クリスマス・イブの聖夜~ 作:明棲木親池
「――それで、結局蛍ちゃんからのお願いってなんだったの?」
落ち着きを取り戻した氷柱が、陽太郎に尋ねた。
「え、あ、いや――」
途端。陽太郎は氷柱から視線を逸らす。しかし、それは氷柱に見透かされ――
「……もしかして、いやらしい――お願い、とかじゃないわよ、ね?」
うぐっ……。
どうも自分はすぐに顔に出てしまう、と陽太郎は焦りを覚える。
しかし、これ以上隠してもより事態を悪化させてしまうと考え、意を決し、陽太郎は蛍から頼まれたお願いごとを包み隠さず話した。
「その、さ……蛍が、氷柱もクリスマスなんだから――一緒に、コスプレしないかって――」
「――っんな!?」
みるみるうちに氷柱の顔が真っ赤に染まるのが見て取れた。
ま、まずい――。
陽太郎は、それを氷柱が怒る前兆だと、思い謝ろうとした。
「ご、ごめ――」
「あ、貴方もそう思ってるの……?」
「へぇ?」
しかし陽太郎の言葉は氷柱に遮られてしまう。
虚を衝かれた陽太郎は氷柱の問いに反応するの事が出来なかった。
「だ、だから――」
頬を染め、上目遣いでこちらを見つめる氷柱。それだけで陽太郎は意味も分からず動揺していた。
「あ、貴方も――私にコスプレしてほしいって思ってるの?」
そう言うと、氷柱は俯く。その表情を陽太郎に見られない様に。
一方の陽太郎はというと……。
「お、俺――?」
未だ、戸惑いを見せていた。
しかし、次第に状況が読めてきた。
つまりは氷柱が自分にコスプレをした方が良いのかを訊いてきた。
という風に陽太郎は解釈し、笑みを浮かべる。
「もちろん、俺だって氷柱のコスプレ――見てみたいと思うよ」
「そ、そう……なんだ」
「うん。それに氷柱は綺麗だから衣装映えするんじゃないかな――」
この時ばかりは、陽太郎の口が滑らかに動く。
それは蛍に対しての責任感からきたものなのか、それともただそう思っての事なのか――。
それは多分、本人ですら分からない事だろう。
「ち、ちょっと――言い過ぎだって!」
そこでようやく氷柱が表を上げた。
真っ赤に染まった顔は恥ずかしさの証拠なのか、それが陽太郎にはいつもの氷柱とは違う意外な一面と思い、可愛らしかった。
「でさ、どうかな? 蛍のお願い」
陽太郎は一直線に氷柱の瞳を見つめる。
「ど、どうって……」
もじもじと仕草をする氷柱。
答えを決めかねているのだろうか?
陽太郎はそう思った。
そこで陽太郎はなんとか決めてもらおうと、追い打ちをかける。
「氷柱、頼む――もし蛍のお願いを聞いたら、俺も一つだけ何でもいうこと聞くから――」
ぴくり。陽太郎の言葉を聞いた瞬間、氷柱の耳が一瞬だけ、動いた。
「いま、言ったこと忘れないでよね――」
「え、あ……うん」
途端。、氷柱はいつもの鋭い表情へと戻る。
あ、しまった――。
陽太郎は、自分の発言の悔いが後を追った。
しかし、まぁ――。
「いいわね、約束よ。下僕。貴方のお願いを聞くんだから――私のお願いも聞きなさいよ!」
氷柱が納得したなら、これでもいいのか……な?
陽太郎に向けた氷柱の笑みは、果たして悪魔との取引だったのか、それとも聖なる天使の取引だったのか――。
それは神のみぞしるものであった。